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紫の死闘②

本日二回目の投稿です。ご注意ください。


「……っ、『ウィンドアロー』!」



ニシキ君の後衛との牽制合戦。

相手は魔術士か魔操士――魔弓士よりも遠距離攻撃は難しいはずなのに、さっきから狙いを外すことなく私の位置に攻撃を放ってきている。


内藤さんの支援なんて本当にする暇もない――だから、私はその決着を知らなかった。


《ドラゴン内藤さんが死亡しました》


『ないとうさーーーーん!!!』

『カッコ良かったぞおおお!!!』

『惜しかったな……居合い崩すなんて思わなかったし、刀捨てるのも考えられんわ』


「……え?」


たった今、このアナウンスが聞こえるまで。


……嘘でしょ?


『ヤバいヤバい』

『修羅が近づいてくるぞ』

『降参もあり』


「――」


声無く近付いてくるニシキ君。


敵にして――こんなにも恐ろしい人は居ない。威圧感を漂わせながら、私の隠れている廃墟に到達。


どうする、どうすれば良い?


『降参ありだよ』

『ニシキ+後衛とか無理ゲー』


「っ……」



常識的に考えて、リスナーの言う通りだ。

こんな状況――きっと闘うだけ無駄。


でも。

やっぱり、諦めたくない。

リスナー達に無様な姿を見せる事になったとしても――『彼』に諦める私の姿を見せたくないの。


「――はあ、はあ」


廃墟の中に居たら追い詰められて終わり。

それならいっそ、目の前に出てやるわ。



「……ハル」


「ど、どうも☆」



距離にして10メートル。

こんなのすぐに間合いを詰められる――そして、後ろには杖を構えた魔操士も見えた。



「攻撃、しないんですか」

「ああ――分かった、終わらせよう」


変質が終わった黒い斧を構える彼。

……めちゃくちゃ怖い、けど。



「――『アローチャージ』」


「――」



溜め。

そしてニシキ君は走ってくる。



「『ウィンドアロー』!!」


「っ――」



できる限り動きを読んで、狙いを定めたその一矢は――本当に簡単に避けられた。



「――『パワースウィング』」

「きゃっ――!」


「っ……」



三割削れる私のHP。

苦虫を潰したかのような彼。

それでもさらに追撃のモーションに入る。


……うん、これこそニシキ君の良いところね。

手加減されていたら逆に怒るところだわ。



「――『スラッシュ』」


「『ウィンドアロー』――ううっ!」



それでも、やはり気後れしたか攻撃が遅れる彼。

なんとか後ろに思いっきり跳び、追撃を避け――そのまま背中と地面が衝突しながらも一矢を放つ。



「っ……」



でもその一撃も屈んで避けられて。

今眼前には、倒れた私へ斧を振り下ろそうとするニシキ君の姿。



怖い。でも私は、目を背けなかった。

悔いの無いように。最後まで私は――









「――GURAAAAAAAAA!!!!」


「ぐっ――!?」

「え」





敗北を確信した、その瞬間だった。

目の前には――主を失ったはずの竜が、ニシキ君に突進を食らわせていたのだ。



「……ば、バイオレットちゃん?」



《まだ終わってないぜ、ハルちゃん》



入る内藤さんのメッセージでハッとする。

そうだ、終わってない。

私が今するべき選択は――



「――『ウィンドアロー』!!」


「っ――」

「GURAAAA!」


「――『ストーンランス』!」

「! GURA……」



私の一矢を避けるものの、迫り来る突進を擦らせるニシキ君。


ただ後衛も黙っておらず一撃をバイオレットに浴びせた。

怯む巨体――無駄にはさせない。



「『ウィンドアロー』!」』

「ぐっ――」



《黙っててごめん。ただこうでもしなきゃニシキは騙せそうに無かったんだ。タイムリミットは三十秒――決めてくれハルちゃん!》


《――はい!》



建物の陰に逃げながら私は答える。

後衛は出来る限り無視――バイオレットちゃんが頑張ってくれている間に決めなきゃ終わりだ。



「GURAAA!」

「っ――」


「『ライトニングアロー』!」

「――『スラッシュ』!」


「GURA!?」

「やっ――!?」


巨体の突進を避けた彼の隙を狙ったつもりだった。

しかしニシキ君は武技により私の一矢を反射し、そのまま迫るバイオレットちゃんへ武技の軌道を僅かに修正して追撃したのだ。


完璧なタイミング、一度の武技で反射とカウンターの二つを行った。

もう人間業じゃない。

でも、反射した矢はなんとか避けられた。まだ首の皮一枚繋がってる!



「――『ウィンドアロー』!」

『GURARAAA!!』


「っ――」



近距離ではドラゴンを、遠距離では私の狙撃を。

最小限のダメージで、ギリギリで躱し続けるニシキ君。


HP、残り10%ぐらい。

三十秒なんて数える余裕なんて無い。

それでも絶対に、私とバイオレットちゃんで彼を追い詰めかけて――



『ハルちゃん!! なんかニシキ二つ瓶持ってる!!』

『一毒瓶だ! 逃げてバイオレットちゃん!!!』

『投げつけてくるぞ!』



視界の隅。

流れたコメントで反射的に影へ隠れたが。



『……ん?』

『あれ、飲んでない?』

『なにやってだコイツ』


「――何、あれ……!?」



『俺の目、おかしくなった?』

『金色に光ってんだけど』


影から弓を構え――そこを覗いた時。

地面に立っていたのは、ギリギリのHPと、『黄金』に輝く彼の姿で。



「――『ライトニングアロー』!」

「GURAAA!」



それでも、見とれている場合でも立っている時間でも無い。

その輝くニシキ君へと放った雷の矢。



「『黄金の一撃』」


「GURA!?」

「――うっ!?」



振るわれたその黄金の一閃は、先程同様バイオレットちゃんの一撃と矢の反射を同時に行う。


でもさっきと違うのはその威力。

ドラゴンの巨体は軽く衝撃で飛び、反射された矢は凄まじいスピードにて、私の肩へと返された。

地面へと倒れる身体。見れば体力もごっそり減って……30%を切っていた。



『いやおかしいって』

『多分ステータスめちゃ上がってる』

『動きがもう』

『黄金の一撃って何回もいけんの!?!?!』

『いや一発限りだろ……なんだってんだ』




「GURA……」


「……」





――そこには、静寂があった。




怯み、倒れ、消えゆくドラゴンを背に彼は私へ向く。

そして。

ゆっくりと――彼はこちらへ近付いてくる。


『いつでも反射出来る様に』。

黄金のオーラと、ただならぬ殺気を背負って。

いつも応援ありがとうございます。次回決着。

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罠士の大罪人~不人気職、『落とし穴』で最前線を駆け巡る~



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― 新着の感想 ―
[一言] ラスボスの風格
[一言] スーパーサイヤ……ゲフン。スーパーニシキ君!! いやこれだとスーパーひと○君みたいだけども。 ニシキ相手には反射出来ないように手数と物量で攻めるしかないのかなぁ
感想一覧
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