迅雷と邪血眼①
「『邪眼術・能奪』!」
「……ッ!? クソッ、こんな厨二野郎に――」
「――だから違うって言ってんだろうがぁ! 『スティング』!!」
《経験値を取得しました!》
《100000Gを取得しました!》
《対人数ボーナスにより、700000Gを取得しました!》
「……勝ったーー!」
『お疲れさまんさ!』
『カッコ良かったよ〜♡』
『アバロンちゃん動きよくなったね♡』
「へへ、ありがとう皆! ……もう大丈夫だぞ」
「――あ、ありがとうございました!」
「どういたしまして、あんたも教えてくれてありがとな!」
いつものように、おれは配信にてPK集団を倒していた。
最大手の配信サービス、『リアル』ではなく月額制の会員制の『アンリアル』で。
こっちの方が良いって言ってたからな、ブラウンさんも師匠も。
『私もあば君に助けてもらいたいなぁ〜♪』
『あたしも!』
『良いなぁ……』
「は、はは……まあ何かあったら言ってくれよ!配信中なら何時でも行けると思うし」
届くそのコメント達。
……何でおれ、こんな女性リスナーが多いんだ?
どっちかっていうとこういう配信って男が見るモノだと思ってた。別に性別関係なく配信に来てくれるのは嬉しいんだけど。
「……あ、あのっ! アバロンくんのフレンド、残したままでも良いですか?」
「え? いやそれは――」
「私、アバロンくんのフレンドじゃ駄目……?」
どこか上目遣いで見てくる彼女。
ツインテールで、可愛いアバターにそうされると何もいえなくなる。
……このゲームでは、フレンドになるとフレンドと同じチャンネルに変えられるんだ。
救援要請で、メールを飛ばしてくれたらフレンドになって同じチャンネルに飛び助けに行く――これが本来の流れ。
ただ助けた後はフレンドを解除するのがこの配信の『ルール』。おれじゃなくリスナー達が決めたんだけど……。
『おい ぶっ○すぞ』
『上目遣いすんな』
『ルール違反なんですけど』
『✕✕✕』
『アバロンちゃん、断固拒否ね』
コメントで目が覚めた。
ちょっと怖いんだよな、おれのリスナー。
「あー、ごめんな。一応ルールだからさ」
「……チッ! リスナー共が……」
「な、何か言ったか? 聞こえなかったけど」
「別になんでもないよぉ♪」
「? それじゃ――」
『今日はこれぐらいに』、そう言おうとした時だった。
「――っ!?」
「? あ、アバロンさ――」
「――ごめん、声出さないで」
《??? LEVEL57》
《ガベージ LEVEL47》
《トラッシュ LEVEL49》
《ダスト LEVEL48》
木々の隙間。
遠くに見えたのは、燃えるような真っ赤の長い髪の男。
そして他三人――間違いなく、『蛆の王』だった。
ゲームとは思えないほどの『圧』。
こちらの方角へ向かってくるその集団。
師匠が言っていた――『危険人物』の一人、『レッド』。取り巻きの名前は俺とレベルが同じぐらいだから表示されているんだ。だから分かった。
「……!」
「大丈夫」
彼女の口を手で抑えておれは小声で伝えた。
……出来るだけ優しく。その先に居る『奴ら』の存在に、出来る限り勘づかない様に。
「……いる、んだよね」
「……うん――!?」
だが彼女には勘づかれてしまった。
隣、足の震え。
そしておれは――
目線の先、『レッド』がこちらを向いているのに気付いた。
――逃げなくては。
今すぐに。
「……急いでここから離れよう」
「……あ、足、震えちゃって……」
「! そっか……大丈夫だぞ」
ゲームといえども、PKが怖い人達は多い。
ガクガクと手足が震えるのは仕方がないこと。
「……『邪眼術・蛇睨』」
「っ!?」
「……大丈夫、おれに任せて」
両足に向けて蛇睨を放つと、麻痺によって震えは止まり……倒れこむ彼女。
おれは素早く後ろを向いて、おんぶする形で彼女を受け止めた。
そのまま走りだす。蛆の王に出来る限り距離を取りながら、非戦闘フィールド方面へ。
後は――『師匠』に連絡しなきゃ。
ちらっと見るメニュー、フレンド一覧。
そこには……『ブラウン』、『キッド』も『オフライン』のままだった。
☆
□
師匠、レッドが、ラロシアアイスに居ました。
おれ嫌な予感がして、また誰かに決闘申請でもするのかもしれません
あとで折り返します
□
「――はぁっ、はぁ……」
ある程度離れたら、師匠――キッドさん宛てにメールを打ちながら全力疾走。
文字を打ちながら女の子一人抱えて走るのは……ゲームといえどもしんどかった。
こんな時に限って、頼れる人は居ない。
でも嘆いていてもしょうがない!
「あ、アバロンくん、大丈夫? 私のせいで……」
「だいじょーぶ! もう自分で帰れる?」
「……は、はい!」
「よしよし――皆もごめんな、今日はここまで」
コメントを見る余裕も無い。
おれは息を整えて、彼らが歩いていた方向へ踵を返す。
「あ、アバロンくん――気を付けてね?」
「ああ! よゆーだぜ、余裕……じゃあな!」
……正直、怖い。
途轍もなく嫌な予感がする。
思い出すのは、先ほど見えた『オンライン』の『ニシキ』の名前。
《――「そういえば、師匠はどこでニシキさんを知ったんですか?」――》
《――「ん? ああレッドっつーキモい奴がいてな、ソイツの配信中にアイツが絡まれてたのよ』――》
《――「でもどうやってニシキさんにレッドは会ったんですか?」――》
《――「このクソゲーは色々抜け穴があってな……ただ確か、ニシキはその時『辺境』……アイスの人が全く居ない所でクエストしてたんだ。そこを狙われたのかもな」――》
《――「な、なるほど……」――》
ニシキさん。
ブラウンさんのライバル。
でも彼はレベル的に王都――
《ニシキ 商人 LEVEL47 》
《状態……『特殊クエスト中』・『ラロシアアイス・辺境』》
《ニシキ様と同じチャンネルに移動しますか?》
《ニシキ様は既に同じチャンネルです》
「……やっぱり!!」
フレンド一覧、彼の名前をタップし情報を見て選択……鳴るアナウンス。
ドンピシャだった。
《――「正直言うとな、オレはレッドにニシキを会わせたくない」――》
《――「え?」――》
《――「まず相性が悪いし、性格も真反対。 レッドは確実にキレてニシキをぶっ殺す」――》
《――「ニシキさんが負けるんですか?」――》
《――「おいおいレベル考えろ、それにアイツのスキルは条件が揃うとヤバい」――》
《――「……」――》
《――「あー、勿論『まだ早い』ってだけ。レベルが上がれば分からねえよ……ただ、オレが知らねえとこでアイツがレッドに倒されたらマジでムカつく」――》
《――「それは……おれもです」――》
《――「だろ? だから万が一、そういう事態になりそうだったらオレに連絡してくれ」――》
《――「分かりました! でも師匠が居ないときは……」――》
《――「ハハハまあその時はその時だ!」――》
《――「ええ……」――》
……で、その時が来てしまったんだよ!
どうする、ニシキさんにメッセージ――
《ニシキ様は現在特殊クエスト中の為、メッセージを受け付けません》
「あーもう!!」
駄目だ。
もう、間に合うか分からないけど――
――息を吐く。
覚悟を決める。
「――おれが、行かないと」
いつも応援ありがとうございます。





