嵐は過ぎ去って②
「……兄さんの闘ってる所、久しぶりに見たな……」
マコトと別れ、俺はラロシアアイスを歩いていた。
戦闘フィールド。思えば久しぶりだな。
「……あの時の俺は……」
《――「じゃあ、『左腕』を無くしたらどうなるのかな?」――》
思い出すあの時の台詞。
そして思い出せない過去の記憶。
まるで蓋がされたかの様だった。
「……」
左腕を右手で摩る。
なんともない。
……何を怯えていたんだよ、俺。
というか右腕で元々闘ってたじゃないか。
それよりも――俺は、レッドに全く歯が立たなかったのが悔しかった。
例えレベルが高く格上だったとしても……アイツに負けると考えると嫌なんだ。
《――「可愛い弟子みたいじゃないか。女の子なら尚更、格好いい師匠で居ないとね」――》
「……はは」
あの時――兄さんがいなかったら、俺はどうなっていただろう。
レンやドクに、力無い顔を見せていたかもしれないな。
『ニシキさーん! 遅いですよぉ!』
『ごめんごめん、ちょっとPK集団に会っててな』
『ええ……大丈夫ですか?』
『ああ、大丈夫だ』
とか考えていたらドクからのメッセージ。
時間を見れば確かに九時を回っている――もうこんな時間かよ!
「じゃ、行くか」
今日は濃い一日になりそうだ。
俺は――自分を待つ弟子達の元へ向かっていったのだった。
☆
☆
「……アレ、舞月のアラタ様じゃない?」
「ちょっと握手お願いしてこようかな」
聞こえてくる声。
僕は、その声の方向に顔を向けた。
こっちに来て良いよ――そんな意思表示だった。
「……!」
「あ……」
固まってしまう彼女達。
……こっちに来ないなら良いか。
「ココは相変わらず、綺麗だね……」
僕はこのマップが好きだ。
雪が好きだし、景色が綺麗だし。
錦とこのゲームで、初めて会った所だから。
切れてしまった兄弟の縁が戻ったこの場所には、本当に感謝している。
《――「じゃあ、『左腕』を無くしたらどうなるのかな?」――》
雪降る街を、歩きながら思い出す。
レッドの言葉。
今思い出しても――腹立たしい。
錦の過去は壮絶なモノだ。
残虐非道な両親に、彼はずっと耐えてきた。
それでも――『あの日』――彼はそれに屈してしまった。
以降自分を塞ぎ込んだ錦に、僕達は何も出来なかった。
思い出したくない、そんな記憶を。
彼の心が死んだ、そんな瞬間を。
レッドは――何も知らずあの言葉を言ったとしても、僕には許せなかったのだ。
「……っ、駄目だな僕は……」
《――「見に行くだけだ。僕は彼の前には姿を出さない」――》
《――「へー、まあ良いけどさあ……」――》
そうキッドには言ってあの場所に行ったはずだったのに。
到着して弱っている錦を見た瞬間、レッドの前に出てしまった。
《――「……会えてよかったよ、『錦』――じゃあね」――》
前、このラロシアアイスで錦と会った時は……それは酷い別れ方だった。
それでも彼は、僕に会えて嬉しそうだった。
弟子の事も話そうとしてくれたのに――
「……子供なのはどっちなんだか」
ため息。
説教じみた事を言う気はなかったんだけどな。
「――あの! アラタ様ですよね、写真撮って良いですか!」
「! えっと……」
なんて事を考えていたら、女の子が話し掛けてきた。
……こんな気分で一緒に写真を取っても彼女には悪いし――
《――「慕ってくれる者が居るのなら、己に自信を持たなきゃならない」――》
……帰ってくる僕の言葉。
「構わないよ。刀でも構えようか?」
「良いんですかぁ!?」
「はは、別にいいとも」
「やったー! それじゃ――」
「――あ、あの! 私もお願いします!」
「わたしも!」
「オレも――」
「はは、一人ずつで頼むよ」
そうしていると、周りから人が現れてくる。
ちょっと困ってしまうけれど嬉しい事には変わらない。
「……楽しいな」
囲まれる中小声で呟く。
こんな事は、彼に会うまでなかったことだった。
この世界でそう思えるなんて――昔の自分に言っても信じてもらえないだろう。
そうだね、今度は僕から君に会いに行くよ。
可愛い二人の弟子とやらも気になるしね。
舞も一緒に連れて行ってあげようか。
その日が来る事を、楽しみにしているよ。
いつか。
僕にもう少し勇気が湧いた時には……本当の事を話そうか。
「――また会おう、錦」
いつも応援感謝です。次回は少し時間を巻き戻して、アバロン視点の回になります。





