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嵐は過ぎ去って②


「……兄さんの闘ってる所、久しぶりに見たな……」



マコトと別れ、俺はラロシアアイスを歩いていた。

戦闘フィールド。思えば久しぶりだな。


「……あの時の俺は……」



《――「じゃあ、『左腕』を無くしたらどうなるのかな?」――》



思い出すあの時の台詞。

そして思い出せない過去の記憶。

まるで蓋がされたかの様だった。


「……」


左腕を右手で摩る。

なんともない。

……何を怯えていたんだよ、俺。

というか右腕で元々闘ってたじゃないか。


それよりも――俺は、レッドに全く歯が立たなかったのが悔しかった。

例えレベルが高く格上だったとしても……アイツに負けると考えると嫌なんだ。



《――「可愛い弟子みたいじゃないか。女の子なら尚更、格好いい師匠で居ないとね」――》


「……はは」


あの時――兄さんがいなかったら、俺はどうなっていただろう。


レンやドクに、力無い顔を見せていたかもしれないな。



『ニシキさーん! 遅いですよぉ!』

『ごめんごめん、ちょっとPK集団に会っててな』

『ええ……大丈夫ですか?』

『ああ、大丈夫だ』


とか考えていたらドクからのメッセージ。

時間を見れば確かに九時を回っている――もうこんな時間かよ!



「じゃ、行くか」


今日は濃い一日になりそうだ。

俺は――自分を待つ弟子達の元へ向かっていったのだった。







「……アレ、舞月のアラタ様じゃない?」

「ちょっと握手お願いしてこようかな」



聞こえてくる声。

僕は、その声の方向に顔を向けた。


こっちに来て良いよ――そんな意思表示だった。


「……!」

「あ……」


固まってしまう彼女達。

……こっちに来ないなら良いか。



「ココは相変わらず、綺麗だね……」



僕はこのマップが好きだ。

雪が好きだし、景色が綺麗だし。

錦とこのゲームで、初めて会った所だから。


切れてしまった兄弟の縁が戻ったこの場所には、本当に感謝している。



《――「じゃあ、『左腕』を無くしたらどうなるのかな?」――》



雪降る街を、歩きながら思い出す。

レッドの言葉。

今思い出しても――腹立たしい。


錦の過去は壮絶なモノだ。

残虐非道な両親に、彼はずっと耐えてきた。

それでも――『あの日』――彼はそれに屈してしまった。

以降自分を塞ぎ込んだ錦に、僕達は何も出来なかった。

思い出したくない、そんな記憶を。

彼の心が死んだ、そんな瞬間を。


レッドは――何も知らずあの言葉を言ったとしても、僕には許せなかったのだ。



「……っ、駄目だな僕は……」



《――「見に行くだけだ。僕は彼の前には姿を出さない」――》

《――「へー、まあ良いけどさあ……」――》



そうキッドには言ってあの場所に行ったはずだったのに。

到着して弱っている錦を見た瞬間、レッドの前に出てしまった。



《――「……会えてよかったよ、『錦』――じゃあね」――》



前、このラロシアアイスで錦と会った時は……それは酷い別れ方だった。

それでも彼は、僕に会えて嬉しそうだった。

弟子の事も話そうとしてくれたのに――


「……子供なのはどっちなんだか」


ため息。

説教じみた事を言う気はなかったんだけどな。



「――あの! アラタ様ですよね、写真撮って良いですか!」

「! えっと……」



なんて事を考えていたら、女の子が話し掛けてきた。

……こんな気分で一緒に写真を取っても彼女には悪いし――



《――「慕ってくれる者が居るのなら、己に自信を持たなきゃならない」――》



……帰ってくる僕の言葉。


「構わないよ。刀でも構えようか?」

「良いんですかぁ!?」

「はは、別にいいとも」

「やったー! それじゃ――」


「――あ、あの! 私もお願いします!」

「わたしも!」

「オレも――」


「はは、一人ずつで頼むよ」


そうしていると、周りから人が現れてくる。

ちょっと困ってしまうけれど嬉しい事には変わらない。


「……楽しいな」


囲まれる中小声で呟く。

こんな事は、彼に会うまでなかったことだった。

この世界でそう思えるなんて――昔の自分に言っても信じてもらえないだろう。


そうだね、今度は僕から君に会いに行くよ。

可愛い二人の弟子とやらも気になるしね。

舞も一緒に連れて行ってあげようか。


その日が来る事を、楽しみにしているよ。

いつか。

僕にもう少し勇気が湧いた時には……本当の事を話そうか。




「――また会おう、錦」


いつも応援感謝です。次回は少し時間を巻き戻して、アバロン視点の回になります。

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