レッド
「――『苦の反撃』」
「……ッ!?」
「……ガベージ、落ち着いて!」
それは、一方的な闘いだった。
『痛み分け』によりHPをお互い半分にした後、何故か更にガベージとトラッシュのHPが減ったのだ。
更に『苦の反撃』は追加効果があるようで、食らったガベージが硬直している。
そのせいで戦闘のテンポを狂わされ、終始マコトが優勢だ。
《――『ちなみに貴方がPK職であれば私が勝っていました、PKK職はPK職には更に強くなれますので』――》
思い出す、彼女のメール。
どうやら本当にPK職にはめっぽう強くなれる様だ。
「『パワーブレード』……うふふ、バフデバフ両方徹底して掛けてこないって事は私達のこと『ちょっと』は知ってますね?」
「ぐッ――クソがッ、黙れ!」
「……『ウィークショット』」
「――っと! うふ、駄目ですよこっそりニシキさんを狙っても」
俺へと迫る矢を、盾で防ぐ彼女。
……味方にしてここまで強力な奴もいないな。
「んー? もしかして惚れちゃいました?」
「惚れた惚れた」
「ふふっ! それじゃあ折角なので、『とっておき』のヤツをお披露目しましょう――っと」
そう言って、マコトは取り出した紫色の液体が入った瓶をグイっと飲む。
……あれは間違いなく毒瓶だ。減少量からしても確実に。
「終わりです――『侵される者の苦痛』」
そう、唱えた瞬間。
「クソ戦法使いやがって……!」
「……ッ、くッ……」
ガベージ、トラッシュ両方のHPが、途轍もない勢いで減っていく。
あの減少量は――間違いなく『猛毒』。
毒瓶を飲むだけではただの『毒』のはずだが――状態異常を、更に深刻化させてばら撒くってのか?
「強すぎだろ……」
「ふふ、勿論デメリットはありますが強力でしょう――っと」
笑うマコト。
対して二人は――
「――もう良い、これ以上醜態を晒すな。『情報収集』すら満足出来ないのならさっさと死んだほうがマシだ」
「レッド! アタシはまだ――」
「……が、ガベージ――」
「――殺れ、トラッシュ」
「! 分かった……『ウィークショット』」
「――ッ!?」
飛来した矢は、ガベージの首を後ろから射抜く。
『フレンドリーファイア』。そしてそれは意図されたもの。
「……」
「……勝負を諦めたって感じですね。これだからPK職は嫌いなんです、ねえニシキさ――ニシキさん?」
俺達を睨みつけるトラッシュ。だがそれは睨みつける『だけ』だ。
彼の言葉が無ければ、まだ俺達に向かっていたはずだった。
そりゃ、状況で見れば圧倒的にこちらが有利なのは明らかだ。
でも――彼女達はまだ諦めていなかった。
それをレッドが止めたのだ。
「ちょっとニシキさん!」
「大丈夫だマコト、ありがとう」
トラッシュに向けて歩み寄る。
構えていない弓なんて怖くもない。
もっと言えば――この戦闘はもう終わる。
《決闘に勝利しました!》
彼女は猛毒によりHPがゼロになり終わった。
今からやるのは、ただの俺の自己満足だ。
「ッ――おらァ!!」
「ガベージ!」
決闘に負けても死にはしない。状態異常も回復するんだ。
ダストの時に知った事。だから今、大剣を持つ少女は俺へと血眼で向かっている。
「……っ」
「クソが――!」
「どうして攻撃が当たらないか分かるか? 君は動きが分かりやすいんだ」
「ああ!?」
一撃を軽く避けて彼女へ言う。
兄弟かと思う程にダストとガベージは似ている。
だが違う点が一つ……それはスピードだ。
AGI特化の彼と比べるのは仕方ないんだけどな。
ダストはスピードがあったから単純な動きでも厄介だったが、彼女は違う。
「その力を活かすのなら、ブラフやフェイントが有効だ。 想像する威力が大きければ大きい程ソレは効く。軽いジャブより高威力のストレートの方が怖くて避けたくなるだろ?」
「……後ろに居た奴がッ、偉そうにホざいてんじゃ――」
マコトに守ってもらって得た勝利。
それに反論する余地は無いし、する気も無い。
ただ、俺が伝えたいのは助言。
二人の弟子を見てきたからか――どうしても、彼女にそれを言いたくて。
そしてガベージ自身の行動を、否定したくなかったのだ。
「――最後の君の行動は間違ってない。敵が勝ちを確信した時こそ剣を振るうべきだ」
「でも……窮地に追い詰められた時、ただただ突っ張っても受け流されるだけ」
「そういう時こそ、ブラフやフェイントを混ぜる。良いか?」
彼女の目を見て、俺は話した。
そしてガベージも……攻撃するなんて事はしなかった。
「ッ……う、うるせぇんだよ、そんなの分かってるッ!」
「はは、そうか」
「何がオカしい!!」
ハッとするガベージ。どうやら聞く気はあったらしい。そしてだからこそ――その上に立つ彼が気に入らないんだよ。
今この瞬間にも、彼女を殺そうとしているレッドが。
「――っ、今話してるんだけどな」
「――!?」
「……フフ、全く君は私を苛つかせる事が得意だね」
「彼女が最後までやりたいと言うのなら、そうしてやれば良いだろ?」
トラッシュが射った矢を斧で弾いて無効化し、指示した彼に言う。
「所詮、彼女達は私の『捨て駒』でしかない。ただ指示通り動いていれば良い」
「……なんだよそれ」
「? 何を怒ってる? 何を勘違いしてる? これはゲームなんだよニシキ。人のプレイスタイルに口を出す気か?」
「……いいや」
「ハハハ! その割には――」
「――ただ」
前に出て、嘲笑する彼を遮った。
「俺なら……俺なら彼女をもっと強く出来る、そう思っただけだ」
「ッ、テメェ何を――!?」
どうして、敵にこんな事を言っているのか。冷静に考えれば可笑しい話だが、彼にはこう言ってやりたかった。
後ろで反応するガベージ。だがそれと同時に、目の前の男から途轍もない殺気が溢れ出す。
「……そうか――」
「ッ!?……」
それは一瞬だった。
彼が振るった片手剣は、横にいたトラッシュのHPをゼロにして――
「――『スピードスロー』」
「――ッ、がッ……」
投擲された片手剣は、ガベージのHPも空にした。
無効化の隙も無い高速のそれ。
「本当に君は面白い。ああ……情報はまだまだ足りないが、私はもう我慢出来ないよ!」
「――ニシキさん、あの陰湿キモ野郎ヤル気ですよ」
「ああ」
「フフ、そういえば居たねPKK君。虐めるのは嫌いなんだがそれでも来るか? 『弱者』のなり損ないには難しいだろうが」
「っ、減らず口を――!」
「マコト!」
彼を見る彼女の目は怒りに満ちたモノになっていたのは分かっていた。
だからこそ、そんな心情で飛び出していくのはまずい。
「それでは始めよう――『鎮魂歌』」
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