二人の弟子(候補)②
今日はもう一話投稿します。
《決闘を開始します》
「……っ」
「やるしかないです、レンちゃん」
今の状況。
俺一人対、彼女達。
とりあえずは、レンとドクの現時点の強さを把握しておかないといけないからな。
実際レベル40までいって、上位職までたどり着いているんだ。
弱い訳ではないと思うが……どうだろうか。
装備で言えばレンが大きな両手杖。
ドクが片手盾と片手槌。
バランスで言えばかなり良いパーティ……なんだけど。
「――『アースクリエイト』……『サンドプロテクト』!」
「――『気功術』!」
二人が詠唱を発動。
レンの杖からドクへと砂の様なオーラが纏われ、ドクの片手槌からは自身へと白いオーラが纏われた。
そして――
「『アースクリエイト』――『アイアンボール』……!」
「――やぁっ!」
レンは二つに分けて詠唱。現れてくる『鉄』の球体。
同時にドクがこちらへ突っ込んでくる。
「っ――」
「うっ!『クラッシュ』!!」
「……よっ」
一撃を軽く避ける。
そして更に襲い掛かる、ハンマーの武技からも。
迫りくる鉄球は、避ける必要も無く横を素通りしていった。
「もう終わりか?」
「!ま、まだまだですぅ――『ヘビィスウィング』!」
「……『ストーンランス』!」
「っ――」
至近距離。
斧で言う所のパワースウィングの鈍器版だろうか。
当然、見え見えのその一撃は食らわない。
後ろからの石の槍も、また当たる気が……。
というか――その二つの攻撃とも、出来れば『当てたくない』、そんな意思を感じる程に殺意を感じなかった。
「……君達は、俺を倒す気があるのか?」
「!」
「……そ、それは……」
動じているレンとドク。
どうやら図星だった様で。
……最初から、二人の手が震えている時点で分かっていたけどさ。
「て、抵抗しない方を攻撃するのはぁ――」
「――じゃ、もしPK職パーティで一人何もしてこない奴が居たら放置するのか?」
「そ、それは……」
「今はとにかく、目の前の『敵』を殺してみせろ。どれだけ不格好でも良いから、俺のHPをゼロにするんだ」
油断、情け、容赦。
せっかくのスキルも装備も、意志が弱ければ格下にも負ける。
優しい二人には厳しい事を言っているかもしれないが、まずはそこからだな。
☆
《決闘の制限時間に到達》
《HP残量判断にて、レン様、ドク様との決闘に敗北しました》
「……ふう」
「あ、あの……」
「ごめんなさい……」
あれから。
三十分程、彼女達の葛藤に付き合ってあげて……タイムアップ。
結局俺のHPをゼロにすることはかなわなかった。
『対人戦闘』。
それは、当たり前だが人と人との闘いだ。
ゲームとはいえフルダイブVRMMO。『ほぼ現実』。
彼女達は明らかにそれが苦手に見えるし、躊躇している様に感じる。
でも……あのメールとこの必死な表情からして、対人戦闘をモノにしたいとは確かに思っているんだよな。
「『次』、それでこれからの事を決めようか」
「!」
「わ、分かりました」
とにかく、今俺が出来る事はあまりない。
彼女達が――今日のこの結果からどう成長するかだろう。
それはプレイヤースキルというよりも、二人の意思の問題だ。
ゲームとはいえきっと苦悩するだろう。
幸運にも俺は対人戦に抵抗がなかったが、ある者からすればそれは大変な事。
「PK職との闘いなら特に『容赦の無さ』が大事なんだ。モンスター相手以上に、人が弱っている時は狙い所だからな」
「はいぃ」
「……はい」
俺はこれまで『不遇職』という油断からの一撃から、相手が動揺し弱ったからこそスムーズにPKK出来た。
隠密からの一撃も、毒による麻痺も同じ。
正々堂々なんて言葉はもっともだが、それは俺のやり方とは全く異なる。
「俺が教えられるのは『綺麗』な勝ち方じゃない。弱っている……何も出来ない所を叩くのは当たり前。毒も使うし、騙し討ちも物陰からの不意打ちも常套手段だ」
「傍から見れば人としてどうか問われるような……そんな汚い勝ち方で良いのなら、明日また俺を呼んでくれ」
そう言って、俺はレンとドクに背を向ける。
もしかしたら、彼女達の『理想』は違うのかもしれない。
でも――俺にはこの方法が合ってるし、きっと勝ち続けられてきた理由なんだ。
「わ、分かりましたぁ……」
「……はい」
「ああ。それじゃ、また」
そう言って俺は、二人から去った。
☆
《――「『新先生!また明日もよろしくお願いします」――』》
《――「いえいえ。それじゃまた明日」――》
《――「……ん?ははは、何見てるんだよ錦。こっちにおいで」――》
子供の頃。
兄さんは小学生の頃から、早くも教える立場に立っていた。
弟子の存在も勿論居て――俺は少なくとも、それに憧れていたのかもしれない。
……でも。
「……はぁ……」
深いため息をつく。
正直、何からしていいか探り探りだ。
それこそ――人に教えるなんてこと、ほとんどやった事が無い訳で。
「……ほんと、兄さんは凄いよな」
こんな事、ランドセルを背負っている頃からやってるんだから。
《――「僕さ、思うんだけどね錦」――》
《――「人に教えるのって難しいんだけど、やっぱり楽しいんだ」――》
《――「弟子は年上の人ばっかりだから失礼かもしれないけど、成長が見れるのは嬉しいよ」――》
「楽しい……か」
呟く。
そんな風に思えるのは何時になるか分からないが。
「……重ねてるのかもな、あの時の自分と」
必死なそれに――何も思わない訳がない。
彼女達にも捨てがたい理由があるのだろう。
その目は、俺が初めて非力ながら『PKK』を行おうとした時の自分を見ているようで。
もし――あの時。
誰かが俺に手を差し伸べてくれていたら、どれだけありがたい事だったか。
《ログアウトします》
「さて……『復習』の時間だな」
そのボタンを押して。
俺は――机にあるノートを開いた。
いつも応援ありがとうございます。





