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交易クエスト④



「――ぐっ」



(な、何なんだよ……驚かせやがって)



動揺したのも束の間、商人は二本の斧をまともに食らう。

三割を切り――海賊と同じ、二割までHPを減らしていた。


ただ――商人も何もせず食らった訳ではない。

インベントリから、隠す様に後ろの地面へ『武器』を大量に取り出していた。



(なんだ……?いや大丈夫、大丈夫だ。これを繰り返せば俺の勝ちだ)


(アイツが何をやろうが関係ねえ――今までずっと、俺はこの手で勝って来ただろ!)


(なのに、どうしてこんなに体が震えてやがる……?)



「『ウォーターアックス』――ッ!?」



もう一度、彼の詠唱。

そして投擲への移行。


右腕を曲げ――肘を伸ばし、投げようする直前の動作の最中。


その斧の持ち手を握った指へ、『小さな刃』が超高速で襲い掛かる。



(な、ナイフだと……!?つか速すぎ――ッ )



精密機械の様なコントロール。

水の斧は発射されるものの――もう一方の右手の斧は、衝撃で落としてしまった。



「――っ」



そして――



「――え?」



目の前。

迫るのは――さっき発射したはずの、水の斧。



「があッ!!く、くそ……何だってんだよォ!!」



『反射』。

商人は迫る一本の水の斧をはね返し、海賊へ返した。

そのスキルには『詠唱』なんてものは無い。つまり『詠唱不可』は関与しない。


そして……二つ同時は無理でも、一つだけなら狙えると。

スピードは速いが本人の持つ『斧』だった為、一度しっかり見ればタイミングを掴むのは余裕だったのだ。



(どうする、もう一度やるか……?それとも接近――)



「――ぐッ!!く、くっそ……」



考える間もなく襲う高速の『ナイフ』。

どうして商人がそんなモノを……なんて考える余裕も無い。


確かなのは、このままでは自分の投擲を同じ様に無効化され死に至るという事。



(二つ同時じゃなきゃ、アイツは絶対に『反射』してくる――でも、俺の技術じゃ二本同時の投擲は無理だ)


(その為の魔法だってのに、その詠唱中にもう一方の手を狙われちゃあ……)


(……ああクソッタレ!考えんなって――)



「――ぐッ!?ああ、くそ……」



動揺、そして息を吐かせぬ高速の投擲。

今度は片手斧。

間もなく一割を切る海賊のHP。



(『ここまで』やって、負けるのかよ……!?)



「クソ、おらッ!!――『ウォーターアックス』!」


「っ――」


「ぐあッ……!――はあ、はあ……」



『順番』を変えても同じだった。

タイミングが異なってしまう二本の斧は、商人によって二つとも『反射』される。


海賊はなんとか一つは避けられたが、もう一つは被弾。


次。何かを食らえば即終了のHP。



(クソ……もう――)



「――これで、終わりなのか?」



まるで心の中を読んだように、商人は海賊へ告げる。

逆上を煽る……様には思えなかった。


『単純な疑問』。

そんな風に。



「なんだと?」


「ごめん、単純に気になったんだ。君のそれは――面白い職業だな」


「……はァ?何言ってんだ?」


「近接職かと思いきや、魔法を絡めたトリッキーな闘い方……加えて、『大海原の畏敬』だったか」


「そうだけどよォ……」


「礼を言うよ、楽しい戦闘だった――」


「――ッ」



(ああ、コイツは本当にそう思ってるんだ……心から戦闘を楽しんでんだな)


(対して俺は――相手を蹂躙する事だけしか考えてなかった)


(だから、『手』が少ないんだ)



海賊がその商人の顔を見れば、良く分かった。

自分の弱さの原因が何であるかを。何時からか、このパターンだけに甘えていた事を。


そして無情にも……その言葉が終わると同時に、彼は『構える』。



「……来るなら来い。来ないなら――それでも良いが」



(――も、もう、訳分からねえ!商人が居合の体勢になってやがる)


(どうする?突っ込むか?あの中に?いやでも遠距離攻撃は通じねえし――)


(だああ!今迷ってもしょうがねえ、もう俺に残されたのはコレだけ……発動するのなんて何時振りだ?)



「――ッ、お望み通り出し切ってやるよ!!」


「……ああ、来い」




(このオレが、商人に情けを掛けられるとはな……)


(でも――それに甘えてやるしかねぇ)


(クソッ、この勝ちパターンに甘えずに、もっと色んな手を試行錯誤していれば――)



「……ッ、おらあああああああ!!」


「――っ!」



走り出し、迷いを掻き消す様な海賊の叫び。


対照的に――商人は無言のまま、下を向いて構えている。



(ああ、クソクソクソ何だよコレ!!怖え怖え怖え!)



言葉も無い。

視線も無い。


なのに――目の前の商人が、怖くて堪らない。

美しい構えとは裏腹に……まるで、『飢えた獣』のような殺意が海賊を覆っている。



『死』。

これまで感じる事の無かったその感覚が、これまでにない程没入している彼に生まれていた。



「――はッ、はあッ、食らえよおらァ!!」


「――」



無情にも、時間は過ぎて。

商人と海賊の距離はもう――すぐ近くに。



「――『大海(オーシャン)の一撃(・クリティカル)』!!」




海賊がそう唱えると同時に地面の水が波となり、海賊の『斧』に集っていく。

そのスキルは、対象に掛かった『大海原の畏敬』の効果時間を終わらせる代わりに――高威力の一撃を与えるスキル。



……商人は今なら動ける。

だがそのまま、居合の体勢のままで。

海賊に応える様に――そのスキルを発動した。




「――『黄金の一撃』」




もう一方。黄金色に輝く『片手剣』。


振り解かれる、その構え。




「――っ」


「らあああああッ――!!」




『深い青』と、『煌めく金色』。


やがて――交錯。


金色のそれは、まるで大波を食らうかのように。




(……ハハッ、初めてだぜ。負けると分かって突っ込むとは――)




スローで動く景色の中。

彼には、何となく勝負の行方は分かっていた。


海賊目掛けて迫る、超高速の居合。

スピードも、威力も、美しさも……全てを上回っているであろう商人の一撃。




(久しぶりだな、敗北なんて)




「――ぐあッ!!」


「っ、決まったか――」



呆気なく海賊の身体は斬られ、衝撃で倒れる。



「ッ、ハハ……」



その勢いのまま、笑いながら彼は地面へと仰向けへ寝そべった。

ゼロに向かっていくHPと共に――




「……GG(グッドゲーム)だ、商人さんよ――」




笑って海賊はサムズアップを掲げる。

何かが吹っ切れたような、そんな表情で。



《貴方は死亡しました》


《PK失敗ペナルティとして、1000000Gを失いました》


《デスペナルティが追加されます》



いつも応援、誤字脱字報告ありがとうございます。

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罠士の大罪人~不人気職、『落とし穴』で最前線を駆け巡る~



小説家になろう 勝手にランキング

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です。 何話目か、忘れてしまったけども。 PKがミッション失敗?を見逃してくれみたいな シーンがあった気がする。ペナルティが重いんだね… ニシキの覇気に応えてくれる、アニキいいや…
[良い点] 敵をも熱くしてしまうニシキさんに感動です やはり敬意のこもった態度は人を動かしますね [一言] クラスアップで片手剣を使えるようになり、より本物の居合に近づいていきますね!
[良い点] うーん。気持ちの良い試合だ!
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