餓鬼王からの挑戦状③
本日投稿二回目です。
☆
「『スラッシュ』――らあ!」
襲い掛かる一匹へ武技を。
背後から鉄斧を振ろうとする一匹へ蹴りを入れる。
「――っ、がっ……『スラッシュ』!!」
足に掴みかかって来るハイゴブリンを払おうとすれば、右からまた違う一匹が突進。
避け切れず食らう――が、怯んでいる暇は無い。
左から攻撃しようとするハイゴブリンへ武技を入れる。
《経験値を取得しました》
『「『ギャギャア!!』」』
「まだまだ――」
いっこうに減らない奴ら。
それに対し、俺のHPは徐々に減少していく。
当然制限時間も。ポーションを飲む暇何て無い。
……このままじゃ駄目だ。
もっと『効率的』に。もっともっと集中しろ!
『ギャ――』『――ギャギャ!!』
「『パワースウィング』」
前から迫る二匹。遅れて左右から二匹。
前方のゴブリンの攻撃タイミングは同時。
二匹へと高威力のカウンターをお見舞いし――吹っ飛んでいくハイゴブリン達。
そして。
「――っ、食らえ! 」
武技を終えた魂斧を地面へと放り、右から来ていたゴブリンの首元を掴む。
そのまま、左から鉄斧を振りかぶったゴブリンへそれを押し付けた。
『ギャ!?』『ギャギャ――』
その餓鬼の盾は、鉄斧を身を以て防いでくれる。
尋常ではない減りのHP。どうやらかなり効くらしく――
《経験値を取得しました》
『ギャギャ……!』『ギャギャギャ!!』『ギャギャ』
「――はは、怒ってるのが良く分かるよ」
ゴブリンでも、怒りは湧くものらしい。
同士討ちをさせたからか、単純にゲームシステム的にそうなっているのかは分からない。
だが――そんな事はどうでも良い。
今、奴らが何かをやろうとしている。
『「『ギャ……!』」』
静かに鳴くと共に、俺を取り囲む様並んでいく。
全方位、逃げられない。
ハイゴブリンの包囲網。
……武技で攻撃するか?いや――
『「『ギャ――!』」』
迷う間もなく、周囲360度からのゴブリンの突撃。
攻撃タイミングはほぼ同じ。
でも――武技を同時に当てられるのは精々三匹か。
俺のHP残量は約半分。
ゴブリンの残りは十匹。
十から三匹引いても――七匹の攻撃を食らえば間違いなく『死』。
……なら、避けるか?
いや。
今。
試したい事がある。
成功すれば――これで終わりの。
「――『高速戦闘』」
スローの世界。
ゴブリンが迫る中、魂斧を地面に刺して二つの毒を取り出す。
一つは『攻勢の毒薬』。
二つは『増幅毒』。
……増幅毒。
浴びるか口にしてしまうと、次に食らう特定の『状態異常』をより深刻なモノにするという特殊な毒。
取引掲示板で攻勢の毒薬を買おうとした時、偶然目に映ったそれ。
本来の用途とはかけ離れているが――構わない。
「――っ」
まずは右手の増幅毒を身体にかけながら。
遅れて左手の攻勢の毒薬を、可能な限り早く口にした。
《状態異常:猛毒となりました》
聞こえるアナウンス。
尋常ではない減りのHP。
紫色のオーラも気のせいか大きくなっていた。
……これなら、『間に合う』。
ドクドクと鼓動が早まる。
それを押さえつける様に、俺は『居合』の精神統一を。
同時に魂斧を左手で取りだし、構えた。
「――『瞑想』」
《瞑想状態となりました》
重心を下に。左の膝を地面に。
魂斧を、右の腰に付ける。
そして俺は――目を閉じた。
暗闇の世界に身を落とす。
思い出す、『瞑想VR』。
兄の姿。
《黒の変質が発動します》
脳内に響くアナウンス。
そして周囲全方位の殺意が――近付いてくるのが分かった。
そんな状況とは裏腹に、俺の脳が過去を掘り起こす。
時間が、止まった様にゆっくりとなって。
《――「あはは、またボクの真似をしているのかい?」――》
《――「うん!でもオレのは兄さんのとはちょっと違うんだ!分かるだろ?」――》
《――「ああ、そうだね。間違いなくそれはボクとは違う。それがもし完成したら」――》
幼少の頃。
俺が、まだ『左』を使えていた頃の事。
ずっとずっと昔の……商人なんていう職業を知らない頃。
半ば『お遊び』で。
半ば『本気』で。
必死に練習していた大昔。
瞑想VRのおかげで、その記憶が蘇っていた。
あの時の兄の言葉が――そっくりそのまま頭に響く。
《――「君だけの、たった一つの『構え』だよ」――》
暗闇の中、映し出した兄の姿。
憧れのそれを、少し変えた『左』のそれ。
叶う事の無かった――昔の『夢』。
これはゲームだ。
だからこそ、それを補助してくれる。
現実じゃ到底不可能でも――この世界なら。
「――――――」
変質した魂斧。
刀身を右手で握り込み、無理矢理に『鞘』を創った。
――そして。
命令する。
己の身体、全てへと。
――構えを振り解く。
――先ず動くのは左手。ほぼ同時に足。
――右手を切り裂く微かな感覚。風が鳴る音。
――目標は、奴ら全て。
――『憧れ』と、同じ様に――
――切り裂け。
この、者共を。
「――『黄金の一撃』――」
殺気がすぐ傍に達した時、刀を抜く。
周囲全方位、360度。
それは刹那。円を描く様に。
ゆっくり、ゆっくり動く世界の中。
左が放つ黄金の一閃を――迫るハイゴブリン全てへと振るったのだった。
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《経験値を取得しました》
《第10ウェーブをクリア》
《失ったHPとMPを回復します》
《状態異常:猛毒が回復しました》
《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》
《餓鬼王からの挑戦状をクリアしました!》
《報酬として経験値を取得しました》
《レベルが上がりました。任意のステータスにポイントを振ってください》
《餓鬼王の印を取得しました》
《不屈スキルを取得しました》
《逆境スキルを取得しました》
《称号:大富豪と不屈スキル・逆境スキルを取得した事で、黄金の意思スキルを取得しました》
《称号:餓鬼王から認められし者を取得しました》
《クリア後退出を選択しない場合次ウェーブが開始されます》
《なお、次ウェーブからは報酬が得られません》
《続けますか?》
いつも応援、誤字脱字報告ありがとうございます。





