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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
88/100

いつまでも

本日2話投稿です。

前話からお読みください。

 日は巡り、王都では色とりどりの花が咲き誇る季節を迎えていた。


 このところ、レイティーシアは窓の外を度々見つめ、そわそわと落ち着きのない様子で屋敷の中を歩き回る日々を送っていた。もうすぐ、オルスロットたち国境地帯に残っていた部隊が戻ってくるというのだ。

 行き合う屋敷の使用人たちは皆何も言わず、微笑ましそうにそんなレイティーシアを見ていた。

 バルザックが預かってきた手紙でオルスロットが無事であることは知っていた。それでも長く会うことができず、手紙の遣り取りすらままならない状況だったのだ。落ち着かない気持ちを察し、いつも厳しいクセラヴィーラですら、一度も何も言わなかった。


 そしてそんなある日の昼下がり。どことなく王都中が騒がしくなっていた。

 今回、大雪の対応などで帰還が大幅に遅くなることもあり、大々的な凱旋パレードなどは無いと聞いていたのだ。だから、もしかして、という思いでレイティーシアが屋敷の外へと駆けつけたとき。


「ただいま戻りました」

「オルスロットさま……!」


 待ち望んだその人が、愛馬を連れて屋敷の門をくぐったところだった。

 考えるよりも先に、駆け寄り、オルスロットへと抱き着く。


「レイティーシア?」

「ご無事で、よかったです! 本当に……」


 無意識のうちに涙が溢れていた。

 レイティーシアの頬を流れてる涙を優しく拭いながら、オルスロットが困ったように微笑む。


「心配をお掛けしました。レイティーシア、貴女に助けられました」


 そう言って見せられたのは、壊れたカフスだった。

 先に戻っていたソルドウィンからも聞いていた。この魔道具が、不意の一撃を防いでオルスロットを守ったのだ。


「オルスロットさまを守れて、よかった。魔道具、作ってよかった……」

「本当に、ありがとうございます。それなのに俺は約束を守れず……。俺は、嘘をついてばかりですね」

「そんなことっ……。無事に、帰ってきて頂けたのなら、それで十分です!」


 握っていた右手を強く握りしめ、まだ涙の残る目でオルスロットを見上げた。自嘲するように笑っていたオルスロットは、どうしたのかと小さく首を傾げつつレイティーシアを覗き込む。


「それに、新年祭は来年も、再来年もあります。だから……」


 手を引いてオルスロットの身を少しかがませながら、目一杯背伸びをする。そして唇に触れるだけのキスを贈り、微笑む。


「約束です。この先、ずっと一緒に、新年祭を過ごしましょう」

「っ……、ええ。必ず」


 一瞬、驚いたように目を見開いたオルスロットは、次の瞬間には蕩けるような微笑みを浮かべていた。そして強くレイティーシアを抱き寄せると、再び唇を重ねる。

 暖かく穏やかな光の中、二人は幸せそうに笑い合っていた。


   § § § § §


 さらに季節は巡り、その年の終わり。間も無く日付も変わろうという時。

 寒空の下、王都の人々は眠ることなく賑わっていた。

 古き年から新しい年に生まれ変わるその瞬間こそ、新年祭のメインイベントなのだ。刻々と時間が迫る中、オルスロットとレイティーシアは街中までは行かず、屋敷の庭でその時を待っていた。


「レイティーシア、冷えてないですか? 大丈夫ですか。無理せず、中にいた方が……」

「大丈夫です。オルスロットさま、心配しすぎですよ」


 やたらと厚着をさせられ、さらに毛布までも被った状態であるにも関わらず、未だに心配そうなオルスロットに苦笑を返す。そして彼の腕を引き、王城の方向の空を指差す。


「それより、もう間も無くですよ」

「……そう、ですね」


 チラチラと不安そうにレイティーシアを見ながらも、オルスロットも夜空を見上げる。

 そしてちょうどその時。

 星が瞬く夜空に、闇を切り裂くように光の花が咲いた。

 一つ、二つと咲いては消え、また新たに咲いていくその花は、宮廷魔術師たちが打ち上げる魔法の花だ。白や赤、黄色などといった様々な色で、キラキラと煌めくそれは王都の新年祭の名物であった。


「綺麗……」

「ええ……。本当ですね」


 しばらく無言で夜空の花を見つめていた。街のあちこちから賑やかな歓声が聞こえてくる中、2人の間には静かだが穏やかな空気が流れる。


「レイティーシア、どうか今年も一年、共に居てください」


 背後からゆったりとレイティーシアを抱きしめながら、オルスロットは囁く。真摯なその言葉に、レイティーシアは微笑みながら振り向く。


「はい、勿論です。それに」


 そこで一旦言葉を切り、オルスロットの右手を握って自身のお腹へと導く。


「来年からは、3人ですね」

「ええ」


 レイティーシアの大きくなったお腹を二人で撫で、微笑み合う。

 もう間も無く生まれる新しい命とともに歩んでいく日々を思い、いつまでも共にあることを、改めて約束するのだった。


 -終-

これにて本編は終了です。長い間、お付き合い頂きまして、ありがとうございます。

この後少し番外編を書きたいな、と思ってますので、宜しければもう少しお付き合い頂ければ幸いです。

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