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嘘つきはだれ?  作者: 金原 紅
本編
69/100

青空にかかる暗雲2

痛い表現がありますので、苦手な方は注意してください。

「ぅがぁぁぁぁあああ!」

「っぐ……」


 青空の下、血飛沫ちしぶきと共に毒の塗られたナイフが舞う。


 無駄な動き無しにオルスロットの首筋を狙う右のナイフと、体の陰に隠す位置にある左手。

 右のナイフを長剣で受ければ、その隙に左の毒が塗られたナイフで何処かしらを斬りつけられるだろう。かといって、下手に避ければレイティーシアを人質に取られかねないし、この件の情報を得たいため命を奪うわけにはいかない。

 だからオルスロットが選択したのは、あえてコルジットの懐へ踏み込むことだった。


 踏み込むことで間合いのズレたナイフは空を裂き、下段から振り抜いたオルスロットの長剣はコルジットの左腕を大きく切り裂いた。

 斬った手応えから、恐らく左腕の骨近くまで刃は到達していただろう。その証拠に握ることができなくなったナイフが宙を舞っているのを視界の隅で確認する。


 しかしそんな深手を負った状況であっても、コルジットは獣のような雄叫びと共に右手のナイフを振るっていた。

 宙を舞うナイフの方へ一瞬気が取られていたオルスロットは、ほんの僅かに反応が遅れる。咄嗟に左へと飛んだが、肩口をザックリと斬られていた。

 そしてさらに、コルジットは自身の怪我など意に介さず、執拗にオルスロットへと追いすがる。


「っりゃぁああ! だぁぁっ‼︎」

「っく」


 ボタボタと血が飛び散り、痛みと自由の利かない左手のせいで雑な軌道となっているにも関わらず、コルジットは必死の形相でナイフを振るい続ける。

 このままでは、出血多量で死にかねない。

 任務失敗は即ち死を意味するであろうから、最早捨て身の攻撃なのだろう。だが、オルスロットとしては、コルジットに死なれる訳にはいかない。

 攻撃をかわしながら、冷静にタイミングを見計らう。そして。


「はぁっ!」

「ぐぁぁあ‼︎」


 コルジットが右手のナイフを振り下ろした瞬間に大きく踏み込み、右の肩へと長剣を刺し貫いた。


「大人しく投降しなさい」

「ぅぁ……。誰が、っ大人しくして、やるかってんだよ!」

「っ⁉︎」


 右肩を刺し貫いたために間近に居たオルスロットを目掛け、コルジットが蹴りを繰り出す。しかしすぐさま反応したオルスロットがあっさり片手でその蹴りを防ぐと、忌々しげな表情をしながらも、ニヤリと口角を上げた。


「ぐぅぅぁあああああああ!」

「なっ⁉︎」


 無理やり体を捻り、長剣を肩に刺さった状態のままオルスロットから奪い、距離を取る。

 蹴りを防ぐために剣を片手、それも先程肩口を大きく斬られていた左手のみで支えていたことが災いした。怪我を顧みない無茶なコルジットの動きに対応が出来なかった。

 しかし長剣を奪ったコルジットは、両手ともに満足に動かせる状態ではなく、肩から剣を抜けないままだ。

 こんな状況でどうするつもりなのか。


 慎重に距離を取りながらコルジットを見据えていると、あざけるようなわらいを浮かべ、口を開く。


「っは、情報なんて、渡してやんねぇ」

「っ! やめろ‼︎」


 慌ててあけていた距離を詰めるが、それよりも早く。





 コルジットは、落ちていた毒ナイフの刃を握り締めた。


「がはっ……」

「コルジット……!」


 すぐにコルジットは血を吐き、地へ倒れ伏す。一体、どれ程強力な毒なのだろうか。

 あまりにも早すぎる毒の進行に、なす術もない。


 そしてコルジットの息は、ほんの僅かなうちに弱くなり、そして止まったのだった。

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