0263 追わるる夢とは大地を穿つ螺子(1)[視点:夢追]
【エイリアン使い】オーマが迷宮の戦力強化のため、眠りにつきながら、眷属たる種々のエイリアン達の進化・強化を促進していた一月の間、彼の従徒や配下達は、あらかじめの戦略通りに分担して都市ナーレフに入り込み、市政の掌握に向けて動いていた。
この工作活動の帰結の一つが『長女国』頭顱侯家マルドジェイミ家の走狗組織【罪花】のナーレフ支店を壊滅させると同時に、彼らがこの都市で築き上げようとしていた成果を手に入れたことであったが――こうした「ナーレフ組」とは別動していた配下達のチームがいくつかある。
その一つが「夢追いコンビ」として知られるようになった、ゼイモント=ジェミニとメルドット=ヤヌスの両名と、彼らが率いることとなった『遺跡調査班』となったエイリアン達であった。
元は『末子国』との国境沿い鉱山地帯にあった【幽玄教団】(イセンネッシャ家の走狗組織)の『ハンベルス鉱山支部』の支部長と副支部長であった”元老人”たる両名。
彼らは、類稀なる【空間】魔法による転移事故によって人と走狗蟲が融合して出来上がった融化走狗蟲の”名付き”であるジェミニとヤヌスに接ぎ木された折、そのまま共生化することで、再誕的に生まれ変わった存在である。
元の辣腕を振るった老支部長・副支部長の記憶も人格も受け継いではいる。
しかし、ジェミニとヤヌスとの融合と共生化前の更なる”接ぎ木”を通して肉体が若返り、さらにジェミニとヤヌスのエイリアンとしての意識と感覚とにゆっくりと融け合った結果、【エイリアン使い】オーマへの溢れんばかりの忠誠心と、元の「廃墟探索の夢を追う少年」時代の好奇心と探究心が強く強く露出して意識の前面に浮上。
とてもとても「元老人」であるなどとは、肉体的外見は元よりその精神面においても疑義の残る存在へと変貌した。
オーマの【人世】への進出の足がかりとして、ヘレンセル村や都市ナーレフにて活動する【ウルシルラ商会】(及びその前身としての”珍獣売り”)の「導入」のための顔(二重の意味で)を担った二人ではあったが――その役割を引き渡せる適任者としてのマクハードが登用されるや。
念願叶って、主オーマが遺跡調査の「い」の字を思考に念じた瞬間に眷属心話ネットワークでそれを感じ取るや、颯爽と、快活に、立場も人の姿も脱ぎ捨てて(融化走狗蟲的な意味で)まっしぐらにかつての古巣でもある旧『ハンベルス鉱山支部』の跡地に飛んでいってしまったわけであった。
「おいおい、メルドットよ! 見てみろ! 俺の昔の見立ては間違ってなかったじゃないか、やっぱりここは見れば見るほど『排水設備』じゃないか! 砕けてはいるが……この金属の管と渠の痕跡に、わけのわからない魔法陣……いや、これは符文か? 『流水技術士』や『治水魔道士』どもに頼らず、ここでは、魔法と、そして魔法に頼らぬ絡繰――旦那様は”機械”と言っていたが、これはそういうものなのではないのか!? おい、おい、おお、おおお!」
「この馬鹿もの、このやたら近い距離で【おぞましき咆哮】で人の耳をぶち抜こうとするとは頭がイカれているのか!? 見ろ、おかげで走狗蟲も触肢茸達も一瞬だが臨戦態勢になっているではないか――あぁ、まったくだがお前のいう通りだよゼイモント! ここは……調べれば調べるほど奇妙と奇天烈と奇異に満ちているなぁ!」
元鉱山支部を切り盛りし、教団内における新興勢力として他の大支部に対抗できるまでに育てた二人であるからこそ、その『区画』を『排水設備』であると考えた。そして、そんな冷徹な計算のできる二人でかつてはあったから、その存在は一時は主家にも教団本部や他支部からも封印・秘匿し、余計な詮索をされることがないよう、また自分達も余計な調査人員を派遣するような欲を出さぬように自制してきたのである。
だが、今やそうした意味での制約も、そして身体能力的な意味での制約もまた、無い。
【騙し絵】のイセンネッシャ家が「皮膚に刻む魔法陣」という形で【空間】魔法の限定的な操作能力を得た教団は【人攫い教団】という異名を持つようになったが、それは鉱山採掘における労働力の柔軟な配置と転換を可能にはしたものの――使役し、されているのはいずれも魔法の適性も知識も持たぬ”枯れ井戸”に過ぎなかった。
それでも『墨法師』として魔導の一端には触れていた二人は、かつて『ハンベルス鉱山支部』が立ち上げられ、【転移】魔法を駆使した”坑道探し”を実行していた時期に、この遺構を探し当てる。そして、この区画に残る【水】属性などの魔力の残滓をわずかに感じ取っていたのだ。
加えて、鉱山経営・坑道管理とは、地中から湧き出す水分や、時には噴き出す有毒ガスとの戦いである――などというのは熟知している。
【幽玄教団】が既存の鉱山商や採掘者達を駆逐、あるいは取り込んでいく過程で、こうした坑道に噴出する汚泥や有毒ガスを処理する際に、【水】や【風】等の魔法技術を専門的に習得した職業魔道士達の働きも見てきたし、同時に、そのような専門家達に頼らず、絡繰によって坑道に溜まった地下水や汚泥を汲み出すことを試みる機構をなんとか作り上げようとしてきた”枯れ井戸”の商人達の努力も見てきた。
……そしてそもそも、王都ブロン=エーベルハイスの広大な貧民窟は、他の都市や頭顱侯達の侯都と比較しても非常に巨大な『地下排水網』にまで及び、かつての【幽玄教団】の信者達は、迫害から逃れ最終的にはそこに棲み着いていたのである。
故に、ジェミニとヤヌスの姿(つまり走狗蟲形態)を取って、暗所・高湿度・閉所で這い回ることを前提に亜種化された走狗蟲や隠身蛇といった「追跡」担当、潜水労役蟲や潜水触肢茸や一部『運搬班』からの応援などの「土木」担当、そして超覚腫を中心とする「調査」担当のエイリアン達からなる『遺跡調査班』を率いてきた夢追いコンビは、そこを、自らの体験的な知識から『排水設備』であると考え、【エイリアン使い】オーマにもそのように伝えられていたわけであった。
地理的な話をすれば、旧ワルセィレ地域を含め『長女国』が『次兄国』や『末子国』と南で接する国境山岳地帯(赫陽山脈や礎廟山脈を含む)は非常に水はけが悪いことが知られている。
【農場漁師】という職業に裏打ちされた農法が存在するのもその影響の一つだが、この小さな村が1つはすっぽり収まってしまうのではと思えるほどの巨大な『排水』のための機構と設備(瓦礫が激しくて全容そのものは、かつての二人には調査不能であった)が、あった、ということがかつての古代の大帝国の環境に対しても強大な力と技術力を誇っていたことを雄弁に物語っていると言えるのである。
そんな二人の眼前で。
破断してはいるが、あまりにも高度な冶金技術を想像させる金属製の渠や。
砕けた管や筒の一部のような機構、長年の地下水の侵漏によって形成された沈泥層。
集められた流水が弁などによって逆流を抑制されながらも一方向に集められ、そして『排水』されていくことが読み取れる構造の数々が『調査班』のエイリアン達が汚泥と土砂と瓦礫を押し固めながら、速やかに汲み出していく中で、徐々に、そしてありありと露わとなっていくのであった。
無論、二人は忘れてはいない。
そも本来の任務は、調査もあるにはあるが、その主たるものは、デェイールとツェリマの姉弟率いる【異星窟】の襲撃部隊を迎撃する際、ハンベルス鉱山の坑道を迷宮に見立てて誘い込んで、逆に彼らを【空間】魔法で一挙に【異星窟】へと”拉致”する際に――取り逃がした2名の魔法使いデウフォンとトリィシーの追撃だったのだ。
当初は、デウフォンがその【魔剣】の実力でもって【人攫い教団】特有の”隔離”坑道から、地上まで文字通り大地を貫いて出現するか、あるいは他の坑道までの道を文字通りに切り開いてくることが想定され、そのための迎撃点が坑道各地に配されていた。
だが、予想外なことにデウフォン一行は「上」ではなく「下」へ。
遺跡と遺構の内部にまで遁走したため、当時の戦力と体制ではそれ以上の追跡が難しく、改めて、その逃走ルートの探索とその先の捜索、そして並行してそれを含めた遺構の全体構造の解明が『遺跡調査班』に下された指示だったわけである。
斯くして、超覚腫が感知した【魔剣】術による魔素の乱れなどの痕跡を元に、調査班(主に最前への突撃をやめないゼイモント=ジェミニ)によって、掘り出されつつあって遺構の一角に破断・破壊されてぶち抜かれた瓦礫の先に「通路」を発見。
ほぼ、そこがデウフォンらが通り抜けたのは確定的であろう、として踏み込むも、調査班を待っていたのは、しばらく進んだ後に、おそらくは【魔剣】術と職業【殲滅魔道士】だか【殲滅魔剣士】だかの実力を遺憾なく見せつけたかのような、徹底的な破壊により、崩落して途絶させられた有り様だったのであった。
「フィーズケール家は……ううむ、噂でしか聞いていなかったが、ここまで無茶苦茶なことをする連中なのか? ――【魔剣】術の痕跡が残っていて、それが自律攻撃してくるなどというのは、おい、メルドット、いくらなんでも反則じゃないのか?」
「元気も元気に逃亡したんだろうというのはわかるがなぁ……あまり旦那様や副脳様達の手を煩わせたくはないんだが……だが、ゼイモントよ、ちょっと話は変わるんだがな。ちょっと気になることがある」
この時、メルドットは新たに与えられた職業【遺跡探索士】により、彼の中に世界法則側から知識導入された――最低限のものではあっても――知見と感知系の諸技能により、気付いたことを述べていた。
「この遺跡が『排水設備』だとして、だ。デウフォンやトリィシーが逃げていったこの……アルファ殿やデルタ殿が並んで通れそうなほどの”鉄”の通路は、一体何なんだろうな? そもそもの話」
「うん? かつての『排水設備』なのだから、集めた地下水だかをまとめて流すためのバカでかい渠だったのではないのか?」
「ちょっとデカすぎるんじゃないのか? いくらなんでも……いや、まぁそれは我々の思い込みか。だが、流すといってどこに流していたというのだ?」
「――あぁ、そうか。お前これが『排水設備』じゃなかった、とでも思っているのか? その可能性は、まぁあるんじゃないか? 古代の大帝国だしな、それも……何かこう我らには予想もつかない何か巨大な絡繰や事業に、そうだな、大量の『水』を集めていたとかじゃないのか? どうも『地下班』の協力で軽い偵察をしてもらったが、この下は、かなりでかい帯水層になっているようだからな。さらに掘り進めていくのはかなり骨が折れるぞ」
ゼイモントとの問答の中で、しかし、メルドットは半人間形態に戻りながら、納得がいかないように首を振り、思案気に周囲の鉄製トンネルの壁や床や天井を指し示す。
そして、目を細め、神妙かつ奇妙なものを見たという怪しむような口調で呟いた。
「気になるのはだな、ゼイモント。この辺りだとか、焼けたような痕に見えないか?」
「ふむ……追撃対象のデウフォン坊やの【魔剣】術で、【火】属性とかで焼けたっていう可能性はないのか?」
超覚腫の調べる限りは、デウフォンは様々な属性を駆使した様子ではある。その中には鉄を焼き切る意図も込めての【火】属性があったことも痕跡から確認されたが、しかし、メルドットが指摘するのはその焼け方の違いであった。
短時間で焼けたのではない、そのような変色が観察される、というのである。
言われてみれば、と改めて観察するゼイモントもまた、確かに【魔剣】の火力で強引に焼き切った箇所とは別に、まるで長い時間をかけて少しずつ変色して”色が”焼けたような、ぼろぼろに劣化したような箇所という2つの焼け方があることに気づく。
「それだけじゃない。見ろよ、土質が変わっている。もしここが『排水』に使われていたというのなら……ちょっと乾燥しすぎていやしないか」
この『鉄の通路』の用途について興味を掻き立てられた二人は、ほぼ生業の半分でもあった坑道管理の観点から、かつての『小道具』を労役蟲らに作成させるか、またはほぼ労役蟲自体を代用して即興で用意していく。
具体的には――簡易的ではあるが水準器と勾配の計測を行うことができるような器具を用立てたのだ。
「見ろよ、勾配が上がっているぞ? これは――『排水路』ではないよなぁ、やはり」
伊達に元「鉱山支部」の責任者であった二人ではない。
二人が気づき、労役蟲と骨刃茸らによってその周辺が軽く試掘される限り――言うなれば『排水設備』側と、デウフォンが切り開いた『鉄の通路』側で、地質・土質・地層の明確な変化を観察することができたのである。
「……げに恐ろしきはフィーズケール家の破壊魔法ということか。強引にぶち抜かれた、と。そうすると元々ここは繋がっていなかった――と見るべきなのか?」
「そこがよくわからんところなのよな。埋まっている位置といい、このどこに継ぎ目があるかもわからん鉄の壁といい、あの『排水設備』部屋に散らばっていた細かな金属の”管”の破片どもといい、冶金の技に長けすぎているじゃないか……少なくとも同じ時代のものだったとは思うんだがなぁ」
「リュグルソゥム家の坊主どもが言うには『丘の民』の技術、という話だったか」
「噂でしか聞かない【スィルラーナ】の民の技だったとしても俺は驚かないがなぁ!」
結論として、二人は、やはりその通路は『通路』として利用されたものだろう(何を運ぶ通路かは不明だが)と判断する。
だが、その場合であれば――『排水設備』が配置された区画と『通路』が配置された区画が、同じ水平面の地中に並んでいることは違和感の極みとも言うべきものである。
端的に、万が一の場合にはこの通路側に排水が流れ込んでしまうではないか。
坑道掘りにおいても、通常、このような危険は避けられるべきものなのである。どうしてもこの勾配にする必要があったとして、ならば、たとえば水の逆流を防ぐような弁等の仕組みが観察されないのはどうしてなのか。
――そのような問答の最中のことである。
『排水設備』部屋では瓦礫の撤去と清掃、古代帝国時代のものと思われる痕跡は残骸から破片から魔導的な符文と思われるものまでが丹念に『調査班』のエイリアン達によって回収と整頓が進められていたが、さらに地下に続く、螺旋状の金属の階段と経路が見つかったのであった。
そしてその「先」で、ゼイモントとメルドットは、彼らの知識からは想像することが困難な、更なる奇妙な壊れた機構や痕跡を見出すこととなる。
「旦那様から与えられた【神秘探求士】の力で……うーん、駄目だこれは、読み取れんぞ!?」
「ほう? 確か【翻訳適性】とかいう技能だったよな。それで駄目だ、というのは、これは魔法や魔導の関連じゃないということか?」
「いや、違うんだ。部分的にはな……そうだな、例えるなら単語だとか用語みたいなものは読み取れるんだ。だが、どうにもそうではない仕組みの方なのか? そちらを表しているような――あれだ、宝石職人が宝石を切る時に職人連中にしか通じないような専門的な言い回しをすることがあるだろう? ――あんな感じだな」
しかし、その新たな区画の調査は思うようには進まなかった。
古代帝国が栄えたのは軽く千年は以前のことであり、どれほど驚異的な技術によって作られた構造物ではあったとしても、それは人工物である。
長い時の中での地中における破壊と破断・劣化が起きており、上部の『排水設備』区画以上に荒れ果てていたことと――微かではあるが、地中から、何重もの蛇が鳴くかのように薄くとも鋭い音が漏れ聞こえてきていたのである。
鉱山経営者や坑道の管理者として、二人は、それが危険なる鉱山ガスの兆候であることを熟知していた。
つまり相手が『排水設備』であって、浸水していたり汚泥が沈殿していたりすることに備えた『調査班』であったため、そうした有毒ガスへの備え(例えば特化させた【亜種化】など)ができていない。微量だが、周囲の地層に比べてやや高い温度の気流が感じられたことを含め、強引な掘削と調査と瓦礫清掃には危険が伴うと思われたのである。
このため、まずは応援に呼び寄せた地泳蚯蚓ら『地中班』数体による、遺構の”外周”の大まかな規模と形状の探査が行われる。
【土】属性の技能と魔法適応能力により、ゆっくりと周囲の土壌を融解させつつ――しかし融かし過ぎないように注意しつつ、地泳蚯蚓達は、金属と思われる壁までゆっくりと接近しながら、土中におけるそうした”断絶”をゆっくりと走査する形で。
それがエイリアン=ネットワークに共有されることで、上部『排水設備』とその下の『部屋』の大まかな形状を副脳蟲達がオーマの技能【精密計測】を代理行使して生み出す「3次元地図」の中に、徐々に落とし込まれたのであった。
そして、その側面図が次のものとなる。
エイリアン=ネットワークを通して感覚と眷属心話を地泳蚯蚓と通じさせたゼイモントとメルドットによる、有毒ガスや帯水層を注意深く避けながらの走査・描画作業ではあった。だが、数日がかりのその作業の果てに『排水設備』区画の下から、浮かび上がってきたのは、ひしゃげと破断が激しいが――鉄とも思われぬ(微かな魔導痕跡があったため)金属製の”円筒”と呼ぶべき区画であった。
――そして、明らかなガスの増加と顕著な温度の上昇が観測されたため、さらに下に更なる区画が、縦列に連なっている(やや斜めに傾いているか、曲がってはいるが)ことが大まかに窺えつつも、この地泳蚯蚓達による触診的な地下遺構の外側構造の探査は一旦完了。
暫定的に『円筒区画』と命名された箇所の、相対的にはまだ危険ではないと思われる浅層域において、追加の探索が行われる。
そこで明らかとなったのは、土砂と汚泥とそれらに染み込んだガス溜まりや、行き場を失ったかのような『魔力溜まり』(危険であったため属性障壁茸により一部除去済み)に埋め立てられてはいたが――どうも、この『円筒』構造の側面つまり金属壁側はほとんど吹き抜けた空洞だったのではないか、ということ(ほとんど機構の残骸などの人工物が見つからなかった)。
そして、打って変わって『円筒』のちょうど中心点、中央部分において――大都市の塔が丸ごと埋まっていたかのような金属塊が、鉄塔とでも呼ぶべき代物の”先端”が掘り出されたのであった。
それは位置的には、円筒内部においてまるで”背骨”の箇所に配置されており、周囲の”筒”が大地と共にひしゃげているのに対して、内部の構造であったからであろう、腐食が激しくとも、ほとんど歪まずに残っていたのである。
さらにこの”鉄塔”の側面には――螺旋状の溝が、一定の間隔で、ぐるっと上から下まで刻み削り込まれているのが窺えるのであった。
……その余りの大きさに、それを見たゼイモントとメルドットは、当初は”そう”であると連想できなかったが、いつもの問答を互いに続けているうちに、はたと気づく。
これは「螺子」なのではないか? と。
――稀に西方の最前線から鹵獲されたり、『次兄国』を経由して一部が出回ってくることのある丘の民製の道具や魔道具などに使用されていることのある、少なくとも『四兄弟国』側の技術者達には再現することができない、非常に複雑かつ繊細な金属加工技術の結晶とも言える”留め具”の一種である。
だが、それだけではない。
目覚めたオーマ一行が【罪花】ナーレフ支店の攻略のために『地下班』がそちらに召集され、『調査班』も人員を一時的に半減された後、すっかり連携した骨刃茸達から種々の「工具」を作り出して鉱夫労役蟲らとこの『塔螺子』の発掘に専念していた二人。(デウフォンらの逃走した「通路」側の打通作業も別班により継続中)
数メートルほど『塔螺子』の周辺を掘り進め、掘り起こし、掘り出したところで、二人は更なる機構を見つけるのである。
それは、ちょうどこの塔の如き螺子の途中に、嵌め込まれ、組まれたような金属の機構が出現。
まるで花弁のように、塔を中心として、独特な、しかしなめらかな曲線・曲率を描きながら、正確に6つの方向に放射状に伸びる新たな金属の塊の一部なのであった。
――事ここに至って、ゼイモント=ジェミニとメルドット=ヤヌスは、予期していたことではあったが自身らの知識と想像力を遥かに超えた、何のためのものであるのかもわからぬ機構への理解を一旦放棄。
それらの情報を、まとめて、彼らが「旦那様」と呼ぶ【異星窟】の主こと【エイリアン使い】オーマに報告すべく、地道な掘り出し作業だけを現地で数体の労役蟲とその亜種達に委ねながら、一時、報告のための帰還を決断するのであった。





