90.ダンジョンコア『ココア』
粗方方向性が決まったので、皆で村へと戻った。
あれ?ここ、家だよね?回りを見渡して確認したけれど、見慣れた物ばかりなので家なのは間違いない。
だけどこれはどういう状況?
何故か家の中に所狭しと、村の人が正座している。
正座ってこの世界にもあったの?
なんて、呑気に突っ込むのはそこじゃない。どういうこと?
「マリー、無事帰ったか」
「あ、うん」
父さんとエディが玄関のドアから現れた。
「ダンジョンはどうなった?」
「ダンジョンは維持できそうにないから、破棄してきたよ」
「そ、そんなぁ・・・」
あ、エディに頭を小突かれた。
張り切ってたもんね、リリー・・・。
「あの辺りはもう魔力の吹き溜まりもないし、ただの洞窟にしても問題ないと思う。だよね?長」
「ああ、じきに普通の森へと変わるでだろう」
だからね。資源は失われるけれど、脅威もなくなるからね。悪いことではないんだよ。コア君が手に入って自由に弄れる場所が手に入ったのだから、あたしとしてはかなりのプラス。
「そうか。それならいい。あれは危険なダンジョンだ」
「確かに、怖かったよ(母さんたちが)」
「確かに、怖かった(女は怖い)」
父さん、あたし、エディの気持ちは一つになっていた。
「取り敢えず、色々と危険は去ったから、お説教終わったのなら解放したら?」
村の見知っている人が、正座でここにいることが落ち着かないし。
「そうだな。皆が狩ってきた物を確認して、分配したほうがいいだろう」
「「えっ?!」」
「当たり前だろう!お前たちが暴走したせいで他の者は行けなくなったのだ。お詫びもかねて村の皆で享受していくべきものだ」
おお!父さんがカッコいいぞ!
流石、うちの常識人。破天荒な者たちが多いと大変だね・・・。
そこでなんで皆、あたしを見るの?
やれやれと首を振る長とシエロ。
ふーん。
二人はおやつは要らないんだね。
慌てる二人を無視して、テーレと話をする。
「ねえ、テーレ。あそこまで濃厚な蜂蜜はダメでも、樹からとれるメイプルシロップなら作れると思うの。果実園の奥に作って」
「いいわよ。チョコの実はどうするの?」
「うーん。欲しいんだけど、表には作らない。地下を作ったら、そこに作る。表は作るとしたら、カカオの実かな。ソルにカカオの実の粉砕機作ってもらったら、作るのが楽になるし自分の好みで味付けしたらいいと思う」
「マリーのその線引きが良くわからないけれど、いいわ」
あはははっ。
だよねー。
正直自分でも線引きがよくわからない。なんとなく勘みたいなもので、表には出さない方がいいと思ったんだよね。今ですら、貴族以上に品質のいい食材を使って食べてると思うし。まあ、料理の仕方は所詮庶民の舌だから、複雑な料理は知らない。だから複雑な味付けは負けていると思うけどね。
後はね、欲を言えば海の物が欲しい。海藻類や鰹節のような出汁が取れないのが残念だ。魚を手に入れても、鰹節の作り方なんて知らないから、この世界で似たのがあれば嬉しいな。
色んなことを考えている内に、家の中にはあたしたち以外には居なくなった。どうやら父さんがみんなを連れて集会場に向かったようだ。
皆がどれだけとったのか見たい気もするけれど、関わらない方がいい気がするので父さんに任せることにした。
さて、誰もいなくなったので地下にダンジョンを作ろうと思う。
サクレの真下から始めるのがセオリーな気もするけれど、誰もが目につくところにあるのは落ち着かない。だから、あたしの部屋の下に入口を作ろうと思う。
何故なら、サクレの根がしっかりこの地に根付いているから、この家の下は完全にサクレの力が及んでいる安全地帯。暴走しようものなら力づくでも止められる環境だから、安心安全設計になると思う。闇に落ちる可能性は万が一にもない。
それに、誰にも邪魔されないというのが一番大きいよね!
さあ、やるよ!3階まで一気に作って安定したら、世界樹を植えて一気に魔力をつぎ込む。そうすればリュックから煩い声が聞こえなくなる。ほんと、あの卵ウザい。
可愛くない卵なんて初めてだよ。
「クロ?どうしたの?」
こっちに一緒に戻って来てからも始終黙り込んでいるクロ。怒っているのでもなく、悲しんでいるのでもなく、どうしていいのかわからなくて、戸惑っている感じ。例えるなら小さな子供がデパートの中を冒険して迷い、途方に暮れたと言えばいいだろうか。
「マリー、我は、ここにいていいのか?」
「は?」
「ここに居なくてどこに行くの?」
「・・・、我のダンジョンはなくなった」
「―――確かに。だけど、クロはクロでしょ。魔の感知が出来るのだから、精霊王の警備も兼ねて、地下ダンジョンにいた方がいいんじゃないの?だから性質上コアの主はあたしになるけれど、クロが管理してくれると嬉しい」
「・・・そうか」
「そうだよ」
――ということで!
コアの命名しよう。
黒助が居なくなったから助とか微妙だし、コアは芯だけどもういるし、可愛いからコを付けて『ココア』でもいいかな。安易すぎる気もするけれど、それでいい気がする。
リュックからコアを出す。
性質を真反対にしたからか、深い眠りについているようだ。
名を口にしようとすると、言葉が勝手に滑り出る。
「聖女マリーの眷属たるダンジョンコアよ。君の名前はココア。世界樹を守りし礎に。サクレ・精霊と共に精霊王を守る要になりなさい」
な、なにを言ってるんだ、あたし!
そして、ちょっと待って!
魔力吸われすぎでしょ!
このコアにどれだけあたしは吸い取られるの?!
属性変換にそこまで魔力使わなかったというのに、なんで今・・・。
「クロ、よろー」
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