68.空の精「シン」
声を掛けられてどうしていいかわからないのか、しきりに首を傾げるようにしている。
空の精の見た目は、キンメフクロウのような容姿で、小さく目が金色なのが特徴。手のひらに乗せて撫でたい。
でも、ここでは我慢我慢。折角ここに来たのに、モフられて嫌だった。って言われたら、立ち上がれない。長みたいにモフらないから下りておいで、なんてね。
興味は持って貰えたみたいだから、お肉が焼けたころにまた声を掛けてみよう。
もし長が食べたいだけで、お肉が好みじゃなければ、果物もあるからね!
「長、お肉焼くのはいいけど解体はどうするの?」
「我に死角はない」
おお!長がカッコいいことを言っている。
長が出してきたのは、ブロックにされたお肉。ごつく切って焼いたらタレを乗せろってことかな?
本当は網で焼いたほうがいいのかもしれないけれど、今日は一気にやってみたい気分なのだ。だから!
いつも持っているナイフを石で研磨して、浄化を掛けるとあら不思議。ブロック肉がこんなにスパスパと切れちゃうよ。
そして鉄板を錬金したらそこにお肉を並べて置いて、ファイアだ!
お肉を裏返して、おじさんたちがいつも飲んでいるお酒を取り出しまして、振りかける!
ジョワーといい感じで水蒸気が上がったら、塩コショウだけかけて、更にファイア!
少し蓋をしてムラしたら、ステーキの出来上がりだ!
正しいお肉の焼き方?そんなの知るわけがない。だからイメージで焼いてみた。
だけど、今日はこんな気分だったのだから、これでいいのだ!
タレをお皿に入れたら、セット完了!
「長、どうぞ!」
「なんとも面白い魔法の使い方をする。それに旨そうだ」
匂いにつられて空の精もフラフラと下りてきた。
お肉が食べたいというのはどうやら本当だったようだ。
ごめんね、長。ちょっと疑ってたよ。
タレの好みがわからないので、とりあえず塩コショウで焼いただけのお肉と、あたしがよくつけて食べるタレと用意してみた。
どちらもクンクンと匂いを嗅いで、両方一つまみずつ食べた。さあ、どっちが好みだ?
塩コショウのみを勢いよく食べた。
シンプルなほうが好みだったのか。そう思った時、空の精はタレ付きの大きなお肉を器用に足で掴み、そのままサクレに飛び上がった。
誰も盗らないよ?
暫くすると、どこからか仲間と思われる空の精?らしき鳥たちが、サクレに次々とやってきた。
まさにサクレの枝に一族集結!
そう思うほど枝がしなっていた。
別に他の枝もあるのだから、そこに集まらなくてもいいと思うよ?
何故かムクドリを連想してしまった。
一体何が起こるのだろうかとずっと上を眺めていたが、首が痛い。
サクレに持って行ったお肉は何を意味しているのだろう。
さっぱりわからない。
「マリー、お肉が無くなった」
長は早く次を焼いてくれとばかりに、あたしの弱点である尻尾で攻めてくる。
尻尾で体を包まれて頼まれたら、断れるわけがない。
「ただいま!」とばかりに焼き始めた。
2回目の肉を堪能している長を、仲間が襲来!
「長だけずるいぞ!」
あっという間にもふもふに囲まれ、もう少しでもふもふで窒息死しそうなぐらい埋もれた。
幸せだけど、あかんやつだった。
どうやら集会場にいる子供たちの毛布となっていたらしく、少しばかりストレスが溜まったところに、この肉に匂いで本能が爆発したらしい。
アニマルセラピー、ありがとう!
「わかった、わかったからマリーを離してやれ。埋もれてる」
息が整うまで、長の背中で一休み。
こうなったら一気に使えるものは使うよ。
「そこのあなた!」
始めにここでお肉を食べて、タレ付き肉をサクレに持って上がったあんた!
え、俺?みたいな顔して、キョロキョロしない。
「あたしが呼ぶのは、お肉握りしめているあなたしかいないでしょ」
えーなんで俺?なんていうのがものわかりな顔。空の精ってこんな面倒くさい奴なの?どちからといえば、人間を恨んでいる頑固者というイメージだったよね?気分屋だったなんて落ちだったら、教育してやる。
「あなたの名前はシン。仲間のお肉も焼いてあげるから、協力しなさい」
我が意を得たり。
そんな顔をしている。単に天邪鬼なの?
キンメフクロウみたいな可愛い容姿でも、ニヒルに笑えるのね。本当に変わった子だ。
仲間たちは肉が食べられると大はしゃぎしている。
そんなに飢えてたの?食べなくても精霊は生きていけるよね?
深く考えるのは後にして、さっさとお肉を焼いてしまおう。正直上からジッとみられるのも落ち着かない。
この際一気に焼けるように、3mぐらいの鉄板を錬成。
一度火で温めて、「ファイア」
ブロック肉を切り分けて並べる。
空の精が仲間に加わったのだ、使わなければ!
風で塩コショウをお肉に振り分けて、「そこの子、近く寄ったらくしゃみでるよー」匂いを嗅ぎに来たフェンリルを整理し、肉を裏返す。
裏返したらお酒を振りまき、最後の仕上げ「ファイア」
出来たお肉からお皿に盛っていく。
タレを掛けることも忘れない。
「フェンリルさんたち、この皿からお肉を取って目の前のお皿に入れてから食べてね」
言えばすごい勢いでなくなっていく。
あたしはこれから肉焼きマシーンとなるのだ!
次々に焼いてフェンリルたちが食べるスピードが落ち着いてきたら、空の精たちのために焼く。
食べる必要のない空の精が食事を欲しているということは、多分魔力不足ということ。そのために魔力がこもった食材を食べたいということだろう。
それにもともと嗜好品として食べていた肉は馴染みがいいのかもしれない。折角なのでタレはあたしが良く食べる甘めの果実が入った魔力たっぷりタレを掛けておいた。
「どうぞ」
待ってましたとばかりに下りて来た時には、ちょっと引いてしまった。
精霊の泉に流れている、水の精に匹敵するぐらいいるよ。
間違ってついばまれてはいけない。お肉から離れたところで、見守った。
「限界だったようじゃな」
「長、知ってたの?」
「まあ、森の奥深くにおるのだ、事情は分かる。我みたいに強いものはこうやって、肉を食らうことで魔力を補充できるが、精霊は違う。魔のものを食べるわけにはいかない。だから力を行使できる精霊の数が減っていった。そこにスタンピードだ。無理もない」
「そっか。洞窟を探索するうえでも、本当は空の精が居たほうがいいのでしょ?あたしの場合はリュックが貰えたから、どうにかなるけど」
「そうだ。マリーは気づいておるのだろう?エリクサーと言われるものが、何で出来ているのか」
「――予測はついてるよ。火の精の額の宝石、しかも大精霊のだよね。・・・だから火の精が狩られた」
次回「4番目・5番目の卵の正体!」
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