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57.マリーの安堵とシエロは容赦ない

あたしとその夜ぐっすりと寝ているエディ以外は皆、シエロの神気に充てられたせいで心身共に疲労が溜まり、動ける状態ではなかった。それでも事件があったばかりなので、村の人は見張りはすると言うが、それは逆に危険になるので止めてもらった。

人間睡眠は大事である。


それに結界石のことが明るみに出た以上、存在を隠す必要がない。

しかもシエロがその結界石で安全が確保できる、と言い切ったことで納得した。

一番はシエロの「僕もいるし」という一言が、ダメ押しとなった気がする。

そんなにシエロを怖がらなくてもいいのに。


隣村のテントの周りにも信頼できそうなおじさんに、1つ渡す。

この結界石1つで範囲5mは確保できるから、この人数なら大丈夫なはず。


それから捕まえたおじさんとそれを指示した村長一派は、そのまま放置するわけにもいかず、気絶しているのをいいことに、簡単な小屋を作って出口を無くし、小さな空気孔だけ作って閉じ込めた。

これが一番安心である。


さあ、寝ましょう! といったところで、みんなが眠れたかどうかわからない。だけど、起こってしまった事については、なかったことに出来ないのだから仕方ない。

――と思っている。


眠れない。


隣村の人たち、怯えてた。


やっぱり得体のしれない力を持っている人が居るって、怖いよね。

だからといって、どうしようもない。余りにもみんなが怯えて無理そうなら水と付近を浄化だけして、シエロと一緒に戻ればいい。


「マリー、寝た?」

「アマンダ?」

「マリーありがとう。結界石貸してもらえてなかったら、あたしどうなっていたか」

「アマンダはあたしのせいだと、怒らないの?」

「どうして、マリーを怒るの? マリーが色々してくれるお陰で、あたしたちは飢えることも、病気になることもない。良いことずくめでしょ?」

「・・・だけど」

「子供が何を心配してるの。あたしがマリーぐらいの時なんて、いつもお腹空いていたから、小動物捕まえることしか頭になかったわよ。マリーはもふもふさんと転がりまわっているのが、一番幸せそうよ? そのもふもふさんが、凄いメンバーだけどね」


アマンダは笑う。そこに媚びるものも、怯えも、戸惑いもなかった。

強張っていた体の力が抜ける。


「もう一度言うわ。マリー、守ってくれてありがとう」

「うん!村でも何かあったら言ってね。やっつけちゃうから」

「心配しないで、マリーあたしの短剣術ちょっとしたものよ。相性のいい火の魔石組み込んでもらってるから、消し炭にするぐらい楽勝だから」


忘れてた。アマンダが選ばれた理由の一つにそれがあったんだ。

自衛が出来ること。

規格外の精霊や神獣など見てきたせいで、ちょっと普通がわからなくなってきたよ。

「さあ、寝ましょう。明日には隣村に着くから、体力温存よ!」


すぐに寝息が聞こえだした。

アマンダ、ありがとう。

心の中で背中にお礼を言った後、目を瞑った。

心の中が軽くなったせいか、ゆっくりと眠気がやってきた。

頭を優しくなでられる。

母さん?

「私のかわいい子、ゆっくり寝なさい」



ゆっくりと意識を覚醒させると、部屋の中がぼんやり明るい。どうやら何事もなく、夜明けを迎えたようだ。

体を起こすと壁の向こうでは既に火が熾されているようで、木の燻ぶった匂いがしている。

横を見ると母さんもアマンダも既にいない。働き者の二人はもう朝食を作りに行ったらしい。

ご飯を意識するととてもお腹が空いていた。


「シエロ、グンミおはよう」

「「マリー、おはよう」」


みんなが起きだして集まっているようなので、そのまま朝食づくりを手伝うことにした。

朝食を作っているところまで行くと、閉じ込めていたおじさんたちが起きたようで、朝からここを出せと騒いでいる。

昨日気を失ったまま閉じ込めたから、早く出してあげないと色々と大変だろうと入り口を壊そうとすると・・・、シエロが前足で蹴った。

そんなことしたら瓦礫でケガをするかも、と声を掛けることもなかった。

砂のようにサラサラと壁が無くなっていく様子は、圧巻。


「出してあげたよ」


シエロ、シエロが黒い。

普通のトーンの声なのに、わかるよね?!という無言の圧を感じる。

これってどう考えても、あたしよりシエロを怖がってるよね?

あ、もしかして、シエロ。あたしが怯えたことを知って・・・?

――ちょっと、感動した。


「チッ、塵にならなかったか」

シエロさんや、そんな言葉どこで覚えましたかね?

それでは神の御使いではなく、ヤクザだよ。


まあ、静かになったといえばいいのか、また意識を失った者が邪魔になったといえばいいのか。

「朝食にしましょう」


母さんの声でみんな何事もなかったかのように、配られるスープを嬉しそうに受け取っていく。

村長一派でない隣村の人たちも普通に食べ始める様子を見て、あたしは何が普通なのかがわからなくなった。

これ、放置でいいの?


「「いいの、いいの」」

心の声に精霊たちが応える。


まあ、暴れられるよりは荷台で運んだほうが楽なのかな?

スープを食べ終わった後、みんなにセレサを配っていった。昨日の疲れが取れて、隣村まで頑張っての応援を込めて。

セレサはとても美味しくて、パワーが漲った。


後片付けが終わり次第、出発だ!



次回「58.茶番と魔獣退治」


読んで頂き、ありがとうございました。


番号だけよりもサブタイトルあった方がいいって思うのだけど、文章書くより悩むときがある。

突然数字だけになったら、考え付かなったと思ってくださいw


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