49.怒れるマリー
目が覚めたら体も頭も淀んだものが全くなく、ものすごくスッキリしていた。
バーゲンセールで戦利品を買い集め、達成感が出た感じ?
嫌味な上司をコテンパンに言い負かせて、ざまぁした感じかな?
まあ、何はともあれスッキリしたことはいいことだ。
あのままグダグダ考えていたって、何の解決にもならなかった。
やっぱり行動あるのみだね!
心なしか家の中もいつも以上に、清々しい空気になっている気もするし。
ストレスは溜めたらダメだということだ。
うん。
納得できたところで、ベッドから下りた。
あれ?精霊たちの魔力が固まっている場所がある。
何が起こっているの?
「マリー、外のことは大丈夫だよ。精霊が気合入れているだけだから」
「え、でも・・・。もの凄いエネルギーの塊」
「マリーは自分のことを心配して?洞窟も精霊とフェンリルがホセたちと協力して、探しているから」
「グンミ?」
「精霊が起こした罪は、精霊が補うよ。見守って?」
精霊が犯した罪って何?
あたしに迷惑をかけた困った奴は、黒助だけだよ?
でも、黒助は契約獣・・・だ、よ、ね?
違うの?
―――ああ、もう!わかんない。
だけど、グンミがケジメを付けているというのなら、あとでちゃんと話してくれるはず。
信じて待つのも、あたしの役目だよね?
「わかったよ。グンミに任せる」
「うん。ありがとう。マリー」
「だからね、あたしは隣村に行ってくる。卵の管理お願い」
「え、え、ちょっとマリー。どうしてそんな結論になるの?」
「だって、洞窟は父さんたちが頑張ってくれてるのでしょ?」
「そうだね」
「黒助のお仕置きは水の精がやってくれてるみたいだし、あたしはあたしが出来ることをしたい」
「だからって、マリーが行く必要は」
「あるよ。きっと病の後遺症に苦しんでいる人がいる。だから浄化が出来る人が居たほうがいい。それにあんな村長がいたら、弱い立場の人にご飯が行き渡らないかもしれない。出来る力があるのに、使わないなんて勿体ない」
「それに、洞窟が見つかったならともかく、ここで卵だけ眺めてみんなが戻ってくるのを待つのは、性に合わないよ」
「マリー・・・」
「迷惑かけてごめんね。だけど、実りがある山に近い隣村がそんな状態ならば、町に近いほど酷い状態になってる気がするの。確かめないと」
これは多分確定に近い。何故口にするまでそのことに気づかなかったのだろうかと思う。
だって物資がない為に高い換金率で買っていたあたしたちの村を、隣村の人たちが一番に頼ったとは思えない。
普通物資を手に入れようとしたならば、町に近い物資が揃っているところへ頼ろうとするはず。それを態々好んで、魔の森と未だ恐れている森に近いこの村に来ない。きっと藁にも縋る思いで来たのだろう。
まさか村がこんなに様変わりしていたとは思ってもみなかっただろうけどね。
「僕も手伝うよ。だけど、一人ではだめだよ?」
「もちろん!浄化が出来る人が近くにいるし!ね?母さん」
「あんたって子は」
「えへへへへ」
「マリーをここに置いておくよりも、連れて行ったほうが安心だしね」
「じゃあ、やっぱり」
「マリーが言うように、男手だけだと色々と不便なこともあるだろうから、女手も必要だろうという話は元々出ていたんだよ。母さんには水の精のルコがいるしね」
「決まりだね!」
そうと決まれば果実水を持っていかないと。
ただシャンスがいないから収納がない分、荷物が嵩張らないようにしないとね。
となると、樽にいれて行くのが一番いいのかな?
「マリー?あれこれ考えてやらかす前に、ちゃんと言葉にしなさい」
そうでした。
「ごめんなさい。持っていく物が嵩張らないように、どうしたらいいかなって」
「・・・そうね。ちょっとどれぐらいの荷物になるのか確認してくるわ。マリーは自分の持っていく荷物を先に詰めておきなさい」
「はーい」
いけない、いけない。脳内完結はダメだ。
向こうで二日ほどは活動することになると考えて、行き帰りで一週間ぐらい見てたらいいかな?
あ、でも荷車押しながら歩いていくことになるから、もっと時間かかるかな?
流石に車はつかえないし、荷車を改造していたとしても引くのは人だしね。
馬が何頭か居たら良かったのだけど、色々とシャンスがいたから必要なかったんだよね。
ウム。
念じてみよう。
あの怪しげなツルっとした斑模様の青い卵、あなたからは馬が生まれる!
馬、馬が生まれる。
―――なんてね。
そんなことで生まれるなら、一番始めは・・・・・・。
パリッ。
え、もう生まれるの?
本当に?
「生まれて飛び出てジャジャジャジャーン」
あぁ?
喧嘩売ってるの、この子。
怪しさ満点の仔馬が卵から飛び出してきて、床に立っている。
「神の御使い天馬とは、僕のことさ。さあ、マリー神託をするよ」
ああ、これダメな奴だ。
馬が欲しいといったけれど、こんな馬は要らない。
今頃現れるとか、しかもあのフレーズを弄り、言いながら生まれて来るとか、絶対にあたしをコケにしてるよね?
あたし、怒ってもいいと思うんだ。
この神の御使いと名乗っているのはこの馬だけだしね?
「そこの馬!そこに直れ!」
「どうして、神の御使いたる僕が・・・」
「うだうだうだ、煩い!!直れったら、直れ!」
文句を言いながらも足を折って座る様子に、あたしは満足した。
さあ、説明をしてもらうわよ。
このご都合主義の世界、誰にとって都合がいいのか。
ことと次第によっては、馬車馬のように働いてもらうからね。
次回「馬が言うには」
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