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48.洞窟探し ホセ視点

誤字報告、ありがとうございます。

マリーが魔力枯渇で眠っているころフェンリルの長と2匹は、心当たりのあるスタンピードを起こしたダンジョン化した洞窟を確認しに行った。

確認だけなら長だけでも良いのだが、もしも残党がいた場合のことを考えて念のためだそうだ。


シャンスたち残りのフェンリル・ドライアドのテーレ、ソル・リュビを始めとする地・火・森の精霊たちは、洞窟の捜索に当たることになった。

ホセやリセ、その他の精霊の契約者たちも二人ほどここについていくことになる。


ただ人間がいた場合機動力がさがるので、長からフェンリルに乗って捜索をすればいいと了承も得ている。

始めは恐れ多いと固辞しようとしたが、夢の状態であるならば放置しておくと更なるダンジョンが出来るという言葉で、効率を優先させることにした。


さて洞窟探しの前に、問題を片づけていくか。

当初決めていた予定と大幅に違いが出た。色々と確認をしておく必要がある。


「では、始めに決めたとおりに『干し肉10袋と野菜の詰め合わせ20箱』を持っていく。引き換えにトットを10羽でいいのだな?」

「ああ、それでいいだろう。野菜もお肉ももっと渡そうと思えば渡せるが、欲深い隣村にはこれぐらいだろう」

「まったくだ。昨日も肉の臭いで腹が減ったのだと思うが、肉はないのかと催促されたらしい。だが丁度その時長が遠吠えをしてな、狼の存在を思い出して黙ったと、よ」


ホセはあの時かと頷いた。

確かにあれは迫力だった。小動物などすぐに逃げ出し、ネズミ1ッ匹たりとも周りにいなかっただろう。

見る人が見れば狼ではなくフェンリルだとわかるが、隣村の者ぐらいでは区別はつかないないだろうし、ついたところで狼もフェンリルも同等に恐れる存在なのだから、問題ない。

ただ、シャンスが洞窟を探す方に行くとなると。


「皆が荷台を引いていくとなると、かなり時間がかかるが大丈夫か?」

「大丈夫だろう。土の精がタイヤを強化してくれている。ぬかるみとかにタイヤがとられても大丈夫なように、こっそりと魔道具もつけてくれたようだ」

「まあ、車じゃないだけいいのか?」

「そうだな。他の土の精はあれに触発されたようで、同じようなものを作りたがっていたらしいが、落ち着いてから、な?と言い聞かせた」


確かにあれば面白いものだったし、画期的なものだ。世界観が変わりすぎるために、出しどころを気をつけなければならないが、昔の俺なら間違いなくどこまでも旅をしていただろう。

 

「では、隣村の件は任せた。俺らは急ぐので今から出る」

「ああ、問題ない。気を付けていってこい」

「そちらもな」




リセは契約精霊が水なので、ここに残ることになっている。見送りに来ていたリセに、マリーのことを聞いてみた。

「マリーは、グンミを抱き枕に良く寝ているわ」

「そうか。起きたら色々心配しそうだが、頼んだ」

「大丈夫よ。今はきっと夢の中でも卵のことで一杯なはずだから」

「そうだな」


そうだと、いい。そう意味を込めて大きく頷いた。

それが通じたのか、リセも苦笑しながら大きく頷く。

物理的に大人しくさせる、という意味も含まれているのだろう。精霊たちは皆出払っているし、マリーだけで何かが出来るはずもなく、きっと大人しくしているはず。


一抹の不安を残しながらも、洞窟を探すことにする。ダンジョン化した洞窟の場所は予想が付いていても、マリー言う洞窟がどこにあるかなど全く見当がつかない。精霊たちの感覚に頼るしかない現状で、今日一日で見つかるとは思えない。


さて、気合入れて探すとしよう。



隣村の者たちの目につかないように、村の外で皆で待ち合わせをして出発だ。

「シャンス、頼んだ」

「もちろんだよ。マリーに沢山ほめてもらうんだ」


一緒に行く村の者たちも恐る恐るフェンリルに乗り、そして感動している。

俺も昔は馬に乗って冒険もした。当然鞍がなければ到底長い時間乗るのは厳しく、おしりも腰もきつかった。

フェンリルに乗るなんてことはこれから先二度とないと思うが、貴重な体験をしているといっても過言ではない。


昔呼ばれた貴族の家のソファよりもふかふかで弾力があり、座り心地がいいだけでなく吸いつくような乗り心地。少し歩いただけでも抜群の安定感に、ただただ感嘆するしかない。

これならば長時間乗っていられそうな気がする。

マリーが車に必要だというクッションがいらないぐらいに。


「さあ、出発しよう」

隣村の者たちが門から出てきて面倒なことにならないうちに、ここを出た。


「拠点となりそうな場所が見つかったら教えてくれ」

毎日村に戻ると機動性が失われるので、何泊かして戻る予定だ。有難いことにシャンスの収納の中には肉や野菜、パンなどの食料だけでなく、鍋やフライパンなのどの調理道具もばっちり入っている。


しかも車のような身を守るものがなくとも、森の獣王フェンリルたちという最高の護衛がいるのだから、活かさないのは勿体ない。


「わかりました。異常がない森までは一気に進みましょう」

テーレが森の気配を探ってくれているので、問題ない場所まで一気に駆けていく。

風の影響を受けないように走ってくれるとシャンスが言ってくれたので、周りの景色を確認出来たら、と考えていたのが甘かった。


全くそんな余裕がない。

動体視力が追い付かず目を開けておくのが精一杯で、目を動かしすぎると脳が揺れるような感覚に陥り、酔いそうである。

体感時間で一時間ぐらい経っただろうか、乗っている俺たちが疲れているのを感じたのかフェンリル達が止まった。


助かった。

車で問題なかったから、大丈夫だと高を括っていたのが間違いだった。体感速度はあれの比じゃない。森の獣王と呼ばれる所以が、よくわかった。戦闘能力だけじゃなく、機動力もこれほどとは・・・。

フェンリルの長が乗って行けというわけだ。人間が身体強化をしたところで一緒に探せるわけがない。


「大丈夫?」

下りた途端に寝転がった俺たちを心配して、シャンスたちが覗き込む。

「ああ、大丈夫だ」


頭を撫でてやるとシャンスは嬉しそうに尻尾を振る。

本当にこの甘えん坊なシャンスの凄さを知ったよ。

フェンリルが1匹でも国を亡ぼせるという言い伝えは、間違っていなかったということだ。



次回「49.怒れるマリー」


読んで頂き、ありがとうございました。

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