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118.町に到着と願いが込められた反物

魔物だけでなく盗賊などからも守るために、日が暮れると門が閉まるというボルテモンテの町。なんとか駆け込むようにして入場待ちの列の最後尾に並んだ。

ホッとしたのもつかの間、列に並んだ瞬間みんなが叫びながら門へと走り去った。


「あ、しまった」

マーティンさんの声に、護衛のゴーランさんもそうだった・・・。と頭を抱えた。

何があったのかわからない俺たちは、突然起きた騒動に戸惑うばかりだ。

「あの・・・?」

「ああ、すまない。すっかり快適な旅路だったから忘れていたんだ。コッコはBランクの魔物だ。テイムしている者などこの辺りにはいない。突然現れた魔物にみんな逃げ出したんだ」

「こんなに可愛いのにね、ひこちゃん」

(当たり前だ。マリーに仕えるのに、もふもふで可愛いは正義だからな)

「門番に説明を先にしてくるから、待っていてくれ」


遠巻きに俺たちのことを観察するように兵士たちに見られていた。少し難航しているようにみえたので、最悪今日も野宿を覚悟かと思い始めた時、日が暮れ始めていることもあり手続きに入ってくれた。

どうやらカーヤがひこちゃんを撫でまわしていたのが良かったようで、害がないとやっと思ってもらえたようだった。


入る時に身分証がいると言われたが当然ない。手続きの仕方をマーティンさんから教えてもらい、出身地と目的を書いて提出した。

本当なら身分証がなければ保証金として、小金貨が必要なのだが、身元保証人にマーティンさんがなってくれたので、一人大銀貨5枚だと言われた。


「滞在中問題を起こさなければ、大銀貨3枚が返金される。この証明書を無くすと返金はないので気を付けるように」といわれて渡された書類に、ヨハンはその場で目を通した。商人になりたいと言った時に、くどいほど言われたのが契約書や何かの書類など、説明されてない内容もあるから、必ず読むようにと言われてたのだ。

内容を確認した後、「これか」と思わずつぶやいた。相手は知っているつもりで説明を省いている時と、わざと言わない時がある。どちらかをその場で見極めるのは難しいが、すぐにそれを確認すること。その時の反応で悪意があるなしを見極めろと。


「先ほど滞在中、と言われましたけど、日数があるんですよね?」

小さく舌打ちをしているのが聞こえた。どうやらワザと言わなかったらしい。もしかしたらこの書類を提出しても、期間が過ぎたと言って返金するつもりがなかったんじゃないだろうか?その場合、着服するつもりだったのか?


「言い忘れてたか?一週間だ」

「では、この空白にされている日時と返金金額を書き込んでください」

ひったくるようにして役人は証明書をとった。返ってきた書類を全部確認してから、しっかりと服の内側にあるポケットにしまい込む。


「すごいじゃないヨハン!」

「まあな。かなり口酸っぱく書類は確認しろ。隅々まで読めって、言われてきたからな」

「それにしても、初っ端からこれかよ。俺一人で冒険者する自信ねえな。頭で考えること苦手だ」

「それは知ってるわよ。ビアス計算も苦手だもんね」

「とりあえず、字が読めるだけましだろ?さあ、行こうぜ」


三人のやり取りを見ていたマーティンは、ヨハンの評価を少し上げた。どうやら計算、文字だけでなく、商人としての知識もそれなりにあるようだと。

これなら問題なくと露店で商売はできそうだ。

「今日は遅いから一先ずこの町にある私の店に招待しよう。この時間だと、コッコが泊まれるような宿は埋っているだろう。明日の朝宿を決めればいい」

「ありがとうございます。では、マーティンさんにこのハーブ塩を差し上げます」

「え、いいのかい?」

「はい、もしもお世話になることがあれば、こういうことは大事だと・・・教えられたから」


あの村にはかなりやり手の商人か、名のある冒険者がいるのかもしれない。

こんなにも価値があるものを戸惑いもなく差し出せるのだから。ただ、ちょっと馬鹿正直すぎると思わないでもない。だけどだからこそ、裏がなく真っ直ぐなこの子たちに協力しようと思える。

ますますあの村に興味が出てきた。あれだけの設備を整えることが出来る技術に、品質、品揃え。そして村全体が明るく豊かで、人好きのする人たちばかりだった。

あの村に辿り着いたことは奇跡でしかない。この子たちとしっかりと縁を結ぶことでブレイロットの街が救われるならば、この町での保証人として頑張ろう。

これ以上街が機能しなくなれば、間違いなく大きな問題が起きる。それは権力を持つ側からの締め付けか、貧困からくる略奪という名の暴動か。

明日から、忙しくなるぞ!


「有難く頂こう」

「はい。夕食も台所をお借りできるなら、スープを作ります」

「それは嬉しいな。出来れば家内や子供にも食べさせてやりたかったのだ」

「え、こちらに来られているのですか?」

「ああ、ブレイロットはかなり緊迫しててね」

「そうですか。なら、作りますね。といっても、カーヤがメインで作るんですけど」

「確かにな!楽しみにしているよ」


みんなで囲む食事は楽しく、美味しかった。初めての味わいに皆感動だ。そしてやっぱり調味料が欲しいと言っていた。

「やっぱりそうなんですね。一番に岩塩やこのハーブ塩は持っていこうかという話が出たんですが、古くから商売をしている人の恨みを私たちが買ってはいけないからと、心配されて持ってきてないのです。その関係で他になさそうな調味料も」

「ああ、だからあのラインナップなのか。あの反物はある程度どこにもあるが、生地やデザインは村独自のもので、他にはないから」

「そうみたいです」


それを聞いて是非反物が見てみたいと家内が言い出した。確かにあれは欲しいだろう。正直全部買い取りたいぐらいいいものだった。

「いいですよ。この後見られますか?」


並べられたものを少し広げてみるが、本当に触り心地も、光沢も、色合いも、織り目も全て素晴らしい。

「本当に、素晴らしいわね。貴族に人気が出てきそうね」

「そうですか」

少し考え込んでいるようにみえたヨハン君から、思いもよらぬ提案があった。

「マーティンさん、これらをこちらの商会で購入されませんか?」

「え、いいのかい!」


思わず食いつき気味に返事をしてしまった。商人としてあるまじき行為だ。

だが、上に手っ取り早く取り次ごうと思ったら、こういう誰も持っていない物が武器になる。これ以上食料政策に対して役人の身勝手で、返事を伸ばすだけ伸ばして放置されるわけにはいかない。それぐらいブレイロットの街は緊迫している。


「はい。露店で売れるような状況でない場合は、商店や商会に卸すのもいいと言われています」

「君にその教えを説いた人と、一度会って話してみたいものだな。君たちの安全が優先でよく考えられている」

「・・・はい。こうやって実際に旅をすることで、教えが少しだけ理解できた気がします。では、交渉させて頂いてもいいですか?」

「勿論だとも」


それからどう金額を提示してくるのかと思っていたが、先にこちらの出方を見るとは思っても見なかった。確かにそこから入れば、この町での反物の価値が分かりやすい。もっともやり手の商人なら低く見積もって言うだろうが、ここで欲しいのはお互いの信頼。だから素直に答えた。

一反を色やデザイン性で大金貨5~15で販売しようとしていると。


「では、その値段をこれらにつけて頂けませんか?」

「いいでしょう。では」とある程度広げ、その中でも群を抜いて素晴らしい反物に15大金貨をつけ、それを基準に値段をつけていった。

結果全部で30反あったものに値段が付いた。


「やっぱりあれが最高級なんだ」

ついた値段を見てカーヤが憧れとも畏怖ともとれる表情をしながら息を吐いた。

「作った人が言ってたのかい?」

「いえ、これを提案した子が言ってたんです。いずれこれが女性の夢になると」

「女性の夢?」

「女の人なら結婚式を素敵なものにしたいと思うでしょ?結婚式は一生に一度しかない。その式を、『最高の時と想い』を飾ることが出来るドレスになる、と。」


それを聞いてなんて発想なんだと思った。結婚式に夢を見れる女性はほんの一部。その式に、『最高の時と想い』を飾ることが出来るドレスとは。

大体の結婚とは家と家の結びつきを強くする、政略結婚がほとんどだ。中には式の途中で不幸なものだと嘆く女性もいて、心痛な面持ちで臨む人もいるくらいだ。そういう人にも、ひと時の安らぎになるのだろうか。


「この布に触れるとよくわかります。精霊様の祝福が織り込まれている」

「な、なんだって!!」

震える手でその反物にゆっくりと触れた。

先ほどまで何も感じなかったが、目を瞑り意識して見れば、あの村に居た時のような気を感じ取ることが出来た。ああ、なんて清々しい。心が洗われる気分だ。

「こういう反物を買われる人は、お貴族様が殆どでしょ?もしも結婚が望んだものでなかったものでも、祝福されるはずのその時だけは幸福であって欲しい、とも」


そうか。

願いが込められた反物。

これは絶対に持ち帰り、あの方に納めに行こう。

少しでも慰めになるといい。

この町からもう少し先にある、ブレイロットの街に。


読んで頂きありがとうございました。

ブックマークが増えてきたのは嬉しいですね。


これからも、よろしくお願いします。

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