デバガメ根性1000%
「お嬢様、ノクト様を監視している者からの緊急連絡です」
「なにがあったの!?」
早朝、優雅に朝のティータイムを楽しんでいた私に、メイドから知らせが入る。
それは、転生者である可能性がほぼ百パーセントと個人的には考えているノクトを監視するために付けさせた密偵からの連絡だった。
以前にはリユールによって誘拐され殺害されかけたこともあるのだ。監視はそのための保険としての意味もある。
けど彼女から、これまで緊急の連絡なんてものは来たことがなかった。そんな中での緊急連絡だ。ノクトの身に何かあったのだろうかと慌てる。
「ノクト様がデートを始めたようです」
「なんでそれが緊急なのよ!?」
「お嬢様の恋が……」
「だから私は恋してないって行ってんでしょうが! 下手な泣きマネするんじゃないわよ! けど気になるから見に行くわよ!!」
「やはりそうなると思いまして、すでに馬車の準備は整えてあります」
知人のデートとか気になるでしょうが! たぶんデート相手はエーリアよね。婚約者って話だし、デートするのは当然としてもやっぱりどんな子なのかは気になるわ。
情報だと確か、孤児院の畑を一人で拡大してきたやり手よね。あ、作る野菜が美味しいとは密偵からの連絡であったわ。
平民地区へのお出かけ用の服に着替え、用意してあった馬車へと飛び乗る。
「ノクトはどこに向かったか分かる?」
「自由の広場方面へ向かったとの話です」
「午前中の演劇を見るつもりね。時間的にはまだ早いし、周辺のお店でウィンドウショッピングも含めてる感じかしら。ならとりあえず広場方面に向かうわよ。出してちょうだい」
馬車が屋敷を出て平民区画へと続く門に向かっていると、対向車が道の向こうからやってくるのが見えた。その紋章はハシュマ家のものだ。
すれ違いざまに中を覗くと、ビーレスト君とその妹のルクリアちゃんがいる。他にはいないようだし、二人で買い物かな? ならちょうどいいわね。ちょっと声かけてみましょう。
「ルーテ、伝令お願い。あなたの家族がデートしてるみたいだけど見に行かないかって」
「承知しました」
ルーテが颯爽と馬車から飛び降り、すれ違ったハシュマの馬車へと走っていく。そしてしばらくして戻ってきた。
「どうだった?」
「一緒に行きたいとのご希望です。ルクリア様が強く希望されました」
「やっぱりね。何台も馬車があると怪しまれるし、こっちの馬車で一緒に行きましょうか」
「そうお伝えしてまいります」
女の子だもの、色恋には興味あるよね。特に、大好きなお兄さんの家族のような相手だし。
馬車から降りて待っていると、向こうから二人が走ってきた。
「お待たせしました。カトレアさん。突然伝令なんて来てびっくりしましたよ」
「けどビーレスト君的にも気になるんじゃない? ノクトとエーリアさんのデートだなんて」
「まあ、気にならないと言えば嘘になりますけど……いいのかな、そんなことして」
「ルクリアちゃんとは初めてよね。カトレア・フォン・レヴァリエよ。二人のお買い物邪魔しちゃって悪かったわね」
「初めまして。ルクリア・フォン・ハシュマです。私もお兄様のご家族の方たちのことは気になりますから! 誘っていただいて光栄ですわ!」
うーん、ルクリアちゃん想像以上にノリノリだなぁ。
「それならよかったわ。じゃあ行きましょう」
「ハイ!」
二人をプラスして馬車は進む。平民区画へと入り、広場に近づいたところで監視していたメイドの一人が待っていた。さすがに密偵役なので平民服でカモフラージュしているけど。
そこで馬車を止めて、徒歩で対象へと近づいていく。今は演劇会場の中にいるらしい。
ここまでの行動を軽く聞いてみると、いくつもの商店を回ってエーリアちゃんが服を選んでいたのだとか。ノクトはそれを褒めたり、どっちがよかったなどと感想を述べていたらしい。
結局買ったのは、服が数着とリボン。
服を選ぶのには女性として当然の時間を要したようだが、リボンだけはノクトがべた褒めしたので即決したとのこと。
甘ずっぺぇなぁ! 畜生! 私のお色気作戦ほんと何だったのよ!?
「す、すごいです。これがデートなんですね!」
「まあ二人ならそんな感じなのかなぁ」
ルクリアちゃんはデートの内容を聞いて目を輝かせているし、ビーレスト君はその隣で苦笑している。完全に立ち位置お兄さんね。もともと孤児院でもお兄さん的な立場ではあったけど、上にノクトなんて化け物がいたせいで弟分でもあったわけだけど、ルクリアちゃんに頼られるようになって完全に兄となったわけね。
けどちょーっとルクリアちゃんがビーレスト君を見る目は怪しいわよ。
確かビーレスト君はお姉さん好きなんだっけ? これはルクリアちゃん苦労するかもなぁ。
「あ! お兄様、もしかしてあのお二人ですか?」
公演が終わったのか、人だかりの中に若い二人組をルクリアちゃんが見つける。
視線を向けると、ノクトとエーリアちゃんの姿が見えた。当たり前のように腕組んでる!! ずるい! 私もあんな恋がしてみたい!
「エーリア積極的だなぁ。ノクトも受け入れてる辺り、ちゃんと自覚したんだ。けっこう時間かかったなぁ」
「お兄様、エーリアさんという方は、もともとノクトさんのことを?」
「うん、六歳ぐらいにはもう好きだったんじゃない?」
「お兄様たちは今十四歳ですよね!? 八年間も片思いを続けていたのですか!?」
「まあノクトが誰かと付き合うとかそういうことはなかったし、みんなと協力して外堀をひたすら埋めてたから」
「計画的です!?」
「まあ、女の子はしたたかだからね」
目を反らしたってことは、なにか手伝わされていたのね。
まあ二人の関係をちょっと知れたところで、私たちも後を追って移動を開始する。
時間的に二人は昼食のようだ。人気店らしき店へと入っていく。そしてテラス席へと誘導される。しかも私たちが隠れている位置からしっかり見える位置に座ってくれた。
「仕込みは完璧です」
「さすがうちのメイドね」
「ちょっと怖いレベルだね」
「さすがはカトレア様です」
どうやら事前に密偵が、ここの店員に金を握らせていたらしい。さすがうちの密偵ね。
にしても、ご飯を食べているのを見ているだけってのはお腹が減るわね。特にあーんとかしてる様子もないし、普通にランチを楽しんでいるだけ。私たちも何か食べたいわ。
「お嬢様、あちらを」
「なに?」
ルーテがなにやら向こうの茂みを見ろと言ってきた。そちらを向くと、怪しい人影がある。二人組で隠れているようだ。
私たちのほうを見ているわけじゃないみたいだし、それならメイドたちが即座に処理するはず。となると、あのお店の誰かを狙ってる?
「犯罪の匂いがするわね」
「カトレアさんって意外と抜けてるところあるよね」
「そうなのですか? あ、それより私も少しお腹がすきました!」
「カトレアさんだけじゃないみたいだね」
失礼ね。なにが抜けてるのよ。
「お嬢様、彼らと私たちの今の姿に変わりはありません」
「あら?」
あ、確かにそうね。私たちも茂みに隠れてのぞき見しているものね。
え、じゃああそこの二人組も誰かのデートをのぞき見してるってことかしら?
そんなことを考えていると、ビーレスト君が立ち上がり徐に二人組へと近づいていく。もしかして知り合い?
「ディアス、イーレン、二人してなにしてるの?」
「げ、ビーレスト、なんでここに」
「久しぶり。元気だった?」
「まあ元気だけど……というか二人もノクトたちののぞき見?」
「気になるからね」
「もっ、てことはビーレストもか?」
あらら、まさか孤児院の子たちがこんなに集まるなんて。
まあ、知り合いのデートって気になるものね。それがこれまで色気関連がなにも無かったノクトと一途だったエーリアちゃんのデートだもんね。余計に気になるわよね。
ということで、そっちの二人とも合流。簡単な挨拶をしているところでノクト達が移動を始めてしまった。
「次はどこに行くのかしら?」
「郊外の牧場。乳しぼりの体験するって話してた」
イーレン先輩――年下なんだけど先輩が行き先を教えてくれる。色々とデートコースの相談を受けていたみたいだ。
目的地が分かればなら先回りは容易ね!
「じゃあみんな馬車に乗って! 先回りするわよ!」
「行きましょうお兄様、皆さん!」
「うん、しっかりと監視する。間違いが起きないように」
「ビーレスト、お前もか」
「ディアスもなんだ……」
何通じ合ってるのか知らないけれど、男どうしで見つめあってもときめかないわよ! 私にそっちの属性はないわ!
そして馬車は動き始め、町の外へと向かうのだった。
あ、お腹すいたからルーテはそこらへんで何か買ってきて!
前回書きました通り、今月から毎週日曜日の更新とさせていただきます。
仕事で折れないためにも、評価お願いします。




