その14
鬼婆の墓……が有名な観光スポットだって? なんだそりゃ。にわかには信じられなかった。
だが、オレンジハイタワーさんがウソを言っているとは1ミリも思えない。
「ちょっと待ってください、それじゃあ、ここに集まっている4人は鬼婆とかそういうのが好きな人たちってことですか?」
「まあ、そうですね」
彼、オレンジハイタワーさんは、さらっと言ってのけた。
オイオイ……まったく身におぼえがないぞ? まあオレに関していえば、何かべつの動機でこのオフ会に参加したという線もありうる。
たとえば女性作家との出会いを求めてとか、そういう不純な動機だ。けしからんぞ、オレ。
まあいい。オレのことは、まあいい。だが坂本さんはどうだ。彼女はぜったい鬼婆なんか好きじゃない。
彼女はシャレが通用しないタイプだ。この宴会の席でもひと言も発さず、黙々と料理を口に運んでいる。
そして、ついに。
「あのう……私、体調がすぐれないので、さきに休ませていただいて、いいですか」
坂本さんが言った。やっと口を開いたかと思えば、これかい。
「あ、どうぞどうぞ。ボクらのことは気にせず、ゆっくりお休みになってください」
さすがオレンジハイタワーさん、紳士的な対応だった。加えて彼はイケメンでもある。
宴会はここ男性部屋でやっていたので、坂本さんは女性部屋に帰って行った。青唐辛子さんも付き添いでひとまず出て行った。
「やはり、そうとうショッキングだったみたいですね、彼女」
言ってオレンジハイタワーさんはビールグラスを呷った。
「そりゃそうですよ」とオレ。「言っておきますけど、オレもですからね?」
「ハハハ……そうですね」
ハハハて。漫画以外ではじめて聞いたわ。
青唐辛子さんが戻ってきて3人で宴会続行となった。が、さっきの話題に立ち返ることはなかった。
過去のことを振り返っても仕方がないし、実際オレと坂本さんの身に何が起きたかなど、誰にもわかりはしないのだ。
それと、もうひとつ。
オレンジハイタワーさんと青唐辛子さんの、遭難しなかったコンビ。彼らもまた、意図的に「黒塚」の話題を避けているようだった。
気持ちはわからんでもない。だって彼らの目のまえで、ほんとうに神隠し的なことが起きてしまったのだから……。
口は災いのもと、触らぬ神に祟りなし、である。遭難したオレが言うのも説得力ないですけど。
それから小1時間ほど、当たり障りのない話題で盛り上がった。当たり障りのない、ってゆうか、おもに創作論などを交わした。
そうですよ、これは本来なろうオフ会なのだ。執筆活動の話をしないとね!
……絶妙のタイミングで青唐辛子さんが欠伸をした。アルコールをまったく摂っていない彼女が、もうだいぶ眠そうだった。
「そろそろ、お開きにしますか」
オレンジハイタワーさんが提案した。さすが幹事、さすが隊長!
「フロントに電話して後片づけはやってもらいますので、青唐辛子さんは部屋へお戻りください」




