その13
宴会の最中、おいしいお酒とお料理をいただいているにもかかわらず、ヘンな汗が出てきた。
「オレがペンネームを……。なんて名乗ったんですか?」
「たしか……『れふとすたっふ』、と」
オレンジハイタワーさんが言い、青唐辛子さんに同意を求めるような目線を送った。青唐辛子さんも、うなずいた。
はい、パニック・タイムがはじまりましたよ。だが、しかし。オレは動じなかった。いい加減、この流れにも慣れてきた。
オレのペンネームは「れふとすたっふ」じゃない。ほっとケーキだ。
れふとすたっふって、たしかオレにヘンなメッセを送ってきた一見さんのユーザだ。そいつの名をまさか、ここで聞くとは……。
「あー、そうだったんですか。なんかオレだけ本名とペンネームの両方さらして、独りノリノリだったみたいっすね」
オレはわざとお道化て言った。ほかの3人はオレの調子はずれのテンションにどう対処していいか、わからない感じだった。
まあいいさ、とりあえず、ほっとケーキという寒いペンネームを暴露せずに済んだ。こうなりゃ「れふとすたっふ」で通してやる。
そうか……ということは、青唐辛子さんはオレがほっとケーキだと気づいていないわけだ。いつも、なろうでやり取りしている。
ちょっとした優越感だった。彼女が青唐辛子さんであると、オレいっぽうが気づいている。まあ彼女が本物の、ってゆうか、オレのしっている青唐辛子さんであればの話だが。
なんか、かるく仮面舞踏会みたいな感じだ。ある者は本名を隠し、またある者はペンネームを隠す……。
両方さらしているオレは、ヘンタイみたいやないか!
さて。メンバー4人の自己紹介は終わった、問題はここからだ。
「まず、全部言ってください。オレと坂本さんの記憶が抜けている部分のイベントを、全部」
「え、ちょっ……」
さすがに鼻白むオレンジハイタワーさん。だがオレは遠慮しない。遠慮している場合じゃない。
「朝、何時に集合して何時の新幹線に乗って、車内でどんな話をし何を食べたか、克明に」
「それって、どうでもよくないですか?」
意外にも反論したのは青唐辛子さんだった。その刺すような口調にオレはちょっとビビった。
「私たちはこの土地へきて『黒塚』を観ました。そのあと蛍田さんと坂本さんのすがたが見えなくなり、戻ってきたのはよかったんですが、あなたがたは今日1日の記憶をなくしていました。それで全部です」
青唐辛子さんの説明はびっくりするくらい簡潔だった。まあ、シンプルでわかりやすい。
ただひとつだけ、どうしても彼女に聞かなくてはいけないことがある。
「……あの、ひとつだけいいですか? 黒塚って、なんですか」
「えっ、そこから?」
青唐辛子さんは半ば呆れたようすだった。するとオレンジハイタワーさんが空気を読んで話に割って入った。
「黒塚は鬼婆を祀った墓です。有名な観光スポットでもありますし、そこを観て回ろうというのが今回のオフ会の目的でした」




