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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#2 鬼哭啾々
38/41

その12

 風呂から上がるとすぐ宴会という流れになった。あまり期待していなかったにもかかわらず、料理はそこそこ豪華だった。

 え、何泊する予定かしらないけど、この旅館ってけっこういいお値段するんじゃないの?

 過去のオレに、いったいいくら払ったのか聞いてみたい。おぼえてないのだ。


 いま、この床の間で酒と料理を囲んで、4人の男女が向かい合っている。男ふたりに女ふたりだ。コンパか。

 男性陣がオレとオレンジハイタワーさん。女性陣が坂本サカエさん、そして謎の女性である。

「それじゃあ、若輩の自分が乾杯の音頭を執らせていただきます。みなさんお疲れさまでした。かんぱーい」

 オレンジハイタワーさんが先陣を切った。

 かんぱーい、と呼応こたえたのはオレだけだった。ともかく4人でビールグラスを合わせた。謎の女性だけはオレンジジュースだった。


 くぅー、うまい! 殺人的な美味さだ。旅の疲れ、ってゆうか、これまでのモヤモヤも1発で吹き飛ぶ。

「今日はたのしい1日でした。途中、ちょっとしたハプニングもありましたけど」

 オレンジハイタワーさんの言葉に、オレはビールを吹きそうになった。

「……いやいや、ちょっとどころじゃない気がするんですけど。オレと坂本さんは今回の旅のこと、ぜんぜん、おぼえていないんですよ?」


「じゃあ、あらためて自己紹介しましょうか。先陣切らしていただければ。ボクはオレンジハイタワーと申します。本名は非公開です。いちおう、今回のなろうオフ会の主催者です」

 うっわ、このイケメンくんが主催者だったのか。オフ会の目的など聞きたいことは山ほどあったが、とりあえず流れをぶったぎらないようにした。

「つぎは……時計回りでいきましょうか」

 オレンジハイタワーさんはオレの左どなりに座っている。つまり、順番的にオレが最後だった。


「坂本サカエと申します。ペンネームは、言わなくてもいいですか?」

 2番手の坂本さんが聞いた。

「ええ、かまいません。ちなみに、あなたは前回もペンネームはおっしゃいませんでした。いちおう参考までに」

 オレンジハイタワーさんはフェアプレイの人だった。記憶を失うまえの坂本さんの言動を、きちんと皆に提示した。


「青唐辛子です。本名は非公開です。よろしくお願いします」


 ええええええーーーっ!! マジで!?

 謎の女性がついに名乗ったと思ったら、まさかの青唐辛子さんですよ。オレのお気に入り作家ユーザさんだ。

 いや、もしかしたらべつの青唐辛子さんかもしれない。そもそもペンネームなんて、いくらでも適当に言うことができる。

 落ち着け、心を乱すな。ひとつ深呼吸し、オレは口をひらいた。


蛍田ほとだです。ペンネームは非公開です。よろ……」

「えっ」

 オレンジハイタワーさんがかぶってきた。なんだよ、いったい。

「なにか?」

「蛍田さん、前回ペンネームを、おっしゃいましたよ」


 ……ウソでしょ? オレが「ほっとケーキ」なんて恥ずかしいペンネームを晒すとは、とても思えない。

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