その11
なろうのオフ会で、ボクたちはいまF県にきています、と安達氏は簡単に状況を説明した。
オレと坂本さんがその辺のことをぜんぜんおぼえていないと言ったら、じゃあつづきは旅館で、じきに陽が暮れますのでと彼は言った。
安達氏を先頭にオレ、坂本さん、そしてまだ紹介されていない高身長の謎の女性の4人でとぼとぼと歩いた。
謎の女性にしてみたら、いまの状況のほうがむしろ謎だろう。
オフ会で男女4人でF県へきた。たがいに自己紹介もしただろうし、すでにいくつかのイベントも共にしたかもしれない。
だが、そのうちの2名(オレと坂本さん)は突然すがたを消し、もどってきたときには記憶をいくらか失っていた……。
ミステリですよ、いや、むしろホラーですよ。それにしても謎の女性、まったく動じている様子がない。
怖いのとか平気な人なのだろうか。ま、そういう人じゃなければ、こんなけったいなオフ会には参加しないんだろうけど。
「あれがアダTラ山、そしてこれがアブQマ川です」
安達氏がまるでガイドさんのように説明した。正直どうでもよかったが、まあ道中無言よりかはマシだった。
そういう気遣いもあったのかもしれない。
まあしかし田舎だった。自然あふれる場所を抜けようやく街らしきところまでたどり着くと、オレらは宿にありつくことができた。
いまさらだが自分の所持品のことに思いいたった。財布、スマホはズボンのポッケに入っていた。
旅にくるには、いくらなんでも軽装すぎるだろう。
だが心配は無用だった。旅館へのチェックインをオレらはすでに済ませており、旅の荷物は部屋に保管されていた。
なんというご都合主義! 坂本さんもきっとオレとおなじ状況なのだろう。彼女は自宅からいきなりこちらへ転移したと言っていたが、そういうの関係なしで、すっかり旅にきた体になっている。
さあ、毎度おなじみのワケワカ・タイムがはじまりましたよ。
いつも中途半端な状況に放り込まれる。あるいは中途半端なところで、べつのステージに投げ出される。
それでまた、もどってくると、まったく経験してない過去がすっかりでき上がっていたりする。
いい加減にしてくれ。いい加減楽しくなってきた、ぞい。
その後はひとっ風呂浴びて浴衣着て、宴会という流れになった。ふつうか。ふつうの旅モードか。
浴場の鏡に映った自分の額を見て、おかしいと思った。
ごく小っさかったが、赤い梵字みたいなものが書かれていた。誰だ、こんなイタズラしたのは。ガキのころ、ラーメンマンとか言ってよくクラスメイトのデコに落書きしたっけ……。
うっわ、マジか。洗っても落ちなかった。洗い場でオレがテンパっている様子を見て、オレンジハイタワーさんが声をかけてきた。
「どうしました?」
「いや、しらないうちに額に赤いマークが付いていて、洗っても落ちないんすよ」
「べつに目立たないし、気にしなくていいんじゃないですか」
完全に他人事みたいな感じだった。
「のぼせそうなのでボクはさきに上がります」
そう言ってオレンジハイタワーさんは浴場を出て行った。




