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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#2 鬼哭啾々
30/41

その4

 それから「ひじ」での飲み会がどうやって引けたか、まったく憶えていない。べつに飲みすぎたわけじゃない。ついにオレも記憶をやられたか……。

 友人オガは味覚につづき記憶もやられていると言った。どうやら、オレもおなじ途をたどっているらしい。

 そして友人はオレの目のまえから、すがたを消した。すがたってゆうか、彼の存在を証明するいっさいのものがなくなっていた。


 オレのスマホに登録していた彼の番号、メアド、いままでやりとりしたメール、そして多くはないがSDカードに保存していた彼の写真。

 SNSでやりとりした履歴のいっさいも消えていた。

 彼の正確な住所を、もともとオレはしらない。ふたつ隣りの駅に住んでいるということくらいしか、しらない。


 思えばオレが友人についてしっている情報なんて、ごくわずかだ。吹けば飛ぶようなものだ。

 オガは、まさしく煙のように消えてしまった。なんて儚い。

 だがしかし。

 問題はそこじゃないという気がオレはいま、めちゃめちゃしている。はたしてこれは現実なのだろうか。ぜんぶ夢じゃなかろうか。

 だったら好きなように、やったらい!


 オレには切り札がある。黒塚さんからもらった名刺だ。ここに彼女の連絡先が書いてある。もう、彼女に頼るほかない。

 むろん彼女にはいろいろと、おかしな点がある。

 オレのアパートを教えてもいないのにしっていたり、ちょっと会わないうちに背が15センチも伸びていたり、オガを架空の人物と言ったり……。

 だが、このひと月ばかりのうちに、おかしくないことが逆にあっただろうか。もう限界だった。あの陰陽師に会って、すべて終わらせるのだ。

 ……陰陽師じゃなかった。鬼婆研究家だ。


 ぼんやりと街灯が照らす夜道を歩いた。

 さながら映画のワンシーンのようだと思った。映画版のドラ○もんなら、ここで武田鉄矢さんによる主題歌が流れるところだ。

 そのとき。

 前方の薄闇から人影が不意にあらわれた。それがあまりに小さかったので、逆におどろいた。子どもかと思った。

 その、子どものような女性ひとをオレはしっていた。


「黒塚さん……」

 以心伝心か。それともストーカーか。どちらにせよ彼女に連絡をとる手間が省けた。えっ、それでいいの?

「あら、奇遇ですね。蛍田さん」

「最近よくお会いしますね。……あれっ、黒塚さん、ちょっと背が縮んだんじゃないですか」

 オレは失礼覚悟でバシバシいった。遠慮している場合じゃない。


「縮んでませんけど。ってゆうか、これ以上縮んだら、たいへんですけど」

 彼女はリアルにムッとして言った。だがオレは退かない。

「そうですか? このまえオレの部屋で会ったときより、だいぶ縮んでますけど」

「蛍田さんのお部屋に伺ったことはありません。完全に人違いですね」

「またまたー」


 白化しらばっくれようたってムダだ。

「オレはそのとき、貴女の顔と名前をたしかめましたよ。黒塚さんですかとオレが聞いたら、あなたはハイと言ったんだ」

「もし」

「えっ」


「もし、私によく似た双子の姉がいたらどうします。苗字はおなじ黒塚ですよ?」

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