その4
それから「ひじ」での飲み会がどうやって引けたか、まったく憶えていない。べつに飲みすぎたわけじゃない。ついにオレも記憶をやられたか……。
友人オガは味覚につづき記憶もやられていると言った。どうやら、オレもおなじ途をたどっているらしい。
そして友人はオレの目のまえから、すがたを消した。すがたってゆうか、彼の存在を証明するいっさいのものがなくなっていた。
オレのスマホに登録していた彼の番号、メアド、いままでやりとりしたメール、そして多くはないがSDカードに保存していた彼の写真。
SNSでやりとりした履歴のいっさいも消えていた。
彼の正確な住所を、もともとオレはしらない。ふたつ隣りの駅に住んでいるということくらいしか、しらない。
思えばオレが友人についてしっている情報なんて、ごくわずかだ。吹けば飛ぶようなものだ。
オガは、まさしく煙のように消えてしまった。なんて儚い。
だがしかし。
問題はそこじゃないという気がオレはいま、めちゃめちゃしている。はたしてこれは現実なのだろうか。ぜんぶ夢じゃなかろうか。
だったら好きなように、やったらい!
オレには切り札がある。黒塚さんからもらった名刺だ。ここに彼女の連絡先が書いてある。もう、彼女に頼るほかない。
むろん彼女にはいろいろと、おかしな点がある。
オレのアパートを教えてもいないのにしっていたり、ちょっと会わないうちに背が15センチも伸びていたり、オガを架空の人物と言ったり……。
だが、このひと月ばかりのうちに、おかしくないことが逆にあっただろうか。もう限界だった。あの陰陽師に会って、すべて終わらせるのだ。
……陰陽師じゃなかった。鬼婆研究家だ。
ぼんやりと街灯が照らす夜道を歩いた。
さながら映画のワンシーンのようだと思った。映画版のドラ○もんなら、ここで武田鉄矢さんによる主題歌が流れるところだ。
そのとき。
前方の薄闇から人影が不意にあらわれた。それがあまりに小さかったので、逆におどろいた。子どもかと思った。
その、子どものような女性をオレはしっていた。
「黒塚さん……」
以心伝心か。それともストーカーか。どちらにせよ彼女に連絡をとる手間が省けた。えっ、それでいいの?
「あら、奇遇ですね。蛍田さん」
「最近よくお会いしますね。……あれっ、黒塚さん、ちょっと背が縮んだんじゃないですか」
オレは失礼覚悟でバシバシいった。遠慮している場合じゃない。
「縮んでませんけど。ってゆうか、これ以上縮んだら、たいへんですけど」
彼女はリアルにムッとして言った。だがオレは退かない。
「そうですか? このまえオレの部屋で会ったときより、だいぶ縮んでますけど」
「蛍田さんのお部屋に伺ったことはありません。完全に人違いですね」
「またまたー」
白化くれようたってムダだ。
「オレはそのとき、貴女の顔と名前をたしかめましたよ。黒塚さんですかとオレが聞いたら、あなたはハイと言ったんだ」
「もし」
「えっ」
「もし、私によく似た双子の姉がいたらどうします。苗字はおなじ黒塚ですよ?」




