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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#2 鬼哭啾々
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その3

 さっぱり味のしない厚揚げを箸でつつきながら、オレはオガに聞いた。

「で、麗しの貴婦人おにばばに拝謁したおまえは、どうなったんだ。まさか食べられちゃったとか?」

「いや、そのまえに目が覚めた」

「……夢オチか。オレと一緒だな」

 アラフォーのおっさんふたりが、おなじ夢を見る。そんなキショいことがあっていいのだろうか。

 しかも、結末が微妙にちがっている……。


「どうしたの? 箸がすすんでいないけど」

 オレの手元を見てオガが言った。

「……あ、ああ。なんか今日の厚揚げ、美味くないんだ。味がしないってゆうか」

「ちょっと、なんでそんな大事なこと、はやく言わないの!」

「はあ?」


 びっくりしたのはオレのほうだ。なんで怒られているのかが、わからない。

「そうか、前回とおなじセリフ……。そうかあ」

「おいオガ、独りでうなずいてないで、わかるように説明してくれよ」

 すると友人は醤油差しを指で弾いて言った。

「さっき、きみはこう言ったね。『厚揚げはしょうが醤油にかぎる』、と」

「ああ……前回そう言ったから、今回も言わなきゃと思って。あ、」


 オガの思考が読めた。

 彼はオレの言葉を額面どおりに受け取ったのだ。厚揚げはしょうが醤油にかぎる……それを聞いて味がしないなんて、誰も思いもしなかったろう。

「ってことは、まさかその情報、重要?」

「重要さ。だってボクは、前回・・から味がしなかったんだからね」


 う、なんだこのモヤモヤ感……よくわからない。よくわからないが、非常に不吉な感じだということはわかる。

「味覚の喪失。それをひとつの目安と考えると、どうやらボクのほうが進行が速いらしい」

「進行って、なんだよ……」

「この悪夢だかデジャヴだかよくわからない、呪いめいた連鎖の具合だよ。症状が進めば、あるいは、きみも鬼婆に会うかもしれない」


「おいおい……怖ぇーこと言うなよ」

 もしあの可憐な黒塚さんが鬼婆に変身とかしたら、オレ泣いちゃうよ?

 それにしてもだ。オレは友人を見る。

「おまえのほうが症状が進行しているってことは……つまり、その」

「ボクきっかけ、ってこと?」

「いや、こういうのは、誰がわるいって問題でもないんだが……」

 オレは慌てて手を振った。オガを責めているわけじゃない、そのことを彼にしってもらいたくて。


「ボクきっかけなら、それは謝ろう。でもね、問題はそう簡単じゃない気がする。なにせこれは、まさしく悪夢のような話だ。時間的空間的な縛りが通用しない。どっちが先も後も、ないんだよ」

「……どうしたらいい」

 オレは自問するように言った。オガが正解を提示してくれるなんて、思ってない。


 沈黙がおちた。さきに口をひらいたのは友人だった。

「もうすこし、わるいニュースをつづけても、いいかい?」

「どうぞ」

 本当は聞きたくない。けど、聞かずにはいられなかった。

「ボクの症状だけどね。味覚のつぎは、どうやら記憶がやられているらしい」


 それがオガの最後の言葉で、オレが見た彼の最後のすがただった。

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