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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#1 安達ヶ原
26/41

その15

 黒塚さんだった。

 あの黒塚さんがどうしてウチのアパートの玄関に……。それにあまりにもタイミングが良すぎる。

「黒塚さん……どうして、ここに」

 オレは聞いた。ほかに言葉が思いつかない。

「説明はあとで。とりあえず上がらせていただいて、いいかしら」

 彼女はオレの返事を待たずに部屋へ入ってきた。そのとき強烈な違和感をおぼえた。


「あのう……貴女、黒塚さんですよね?」

 おかしな質問だという自覚はある。たったいま彼女の名を呼んだばかりだしね。しかし。

「ええ。なにか」

「……オレの目の錯覚かもしれませんが、その、黒塚さんの背が若干伸びているような」

 若干どころではない。このまえ会ったときから15センチ以上は伸びている。ありえるか、こんなこと。


「そう?」

 彼女は素呆すっとぼけた感じで言った。そして、おそろしい行動に出た。テーブルの上の湯飲みを持って、飲みさしのお茶を口に含んだのだ。

 坂本・・さんの飲みさしたお茶を!

「え、ちょっと……」

「なにか。さっき私がいただいたお茶だけど」


 いやいやいや、おかしいだろ。そのお茶は坂本さんが飲んだやつだ。あんた、坂本さんだっていうのか。

 もうね、おかしなことがありすぎて、わけわかんねーよ。さっきのPC爆発事件でいっぱいいっぱいだってのに……。

 オレはオガに視線を送った。助けてくれ、心の友よ!



 ……ウソでしょ?



 そこに、さっきまで友人が座っていた場所に、ぜんぜんちがうヤツがいた。しかもその男には見おぼえがあった。

 安達ガハラ氏だった。1度会ってあいさつしただけの仲だが、そのイケメンっぷりは忘れようがない。

 彼もまた、まるで最初からここにいたかのように湯飲みに口をつけている。オガの飲みさしたお茶を。

 どうなっているんだ、いったい。こいつらアタマおかしいのか……。

 それとも。

 そうだ、おかしいのはオレかもしれない。思えば最初に「鬼婆になろう」のサイトを見たときからずっと、おかしかった。


「ごめんなさい。とてもショッキングなやり方だったかもしれないけど、こうするよりほか、なかったの」

 無言でヘンな汗をかいたまま、オレはどれくらい立ちつくしていただろう。不意に黒塚さんの声が耳に入ってきた。

「……どういうことですか、これ」

 言ってオレはへたり込んだ。


「たいへん申し訳ありませんが、すべてボクたちの仕業です。たったひとつのことを除いて」

 安達氏の言葉にオレは首を振った。

「よくわかりませんが。たったひとつ、とは?」

「さっきの爆発です。あれはボクたちにも予測がつかなかった。なるべく穏便にお祓いを済ませたかったんですがねー」


 信じられないことだったが、オレはある結論に至った。それをたしかめるべく黒塚さんに聞いた。

「あなたがたは、オレの記憶をいじったんですか?」


「ええ」

 と彼女は小さく答えた。

「友人の尾上也さんも、お祓い業者の坂本さんもこの世に存在しない。私がこさえて、あなたの脳に送り込んだイメージにすぎないわ」

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