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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#1 安達ヶ原
25/41

その14

「あのう、蛍田さん」

「……はい」

 オレは雑巾を使いながら坂本さんのほうを見ずに返事をした。

「いまのは、いったい、何だったんでしょうか……」

「ご覧のとおりです」

 いちど彼女のほうを向いてから、あらためて粉々に砕け散ったノートPCを指し示した。

「原因は何でしょう」問う彼女の声は震えていた。

「さあ……木の精霊が怒ったんじゃないでしょうか」

「木の精霊なんているわけ、ないじゃないですか!」

「えっ」

 オレは思わず絶句した。さっきと話がちげーじゃねーかよ、オイ。


「教えてください、いまのはトリックですか? それともゴルゴ13に狙撃でもされたんですか」

「いや、それはないかと。窓ガラスに弾痕もないですし」

 まじめに答えている自分が情けなくなってきた。だが坂本さんの狼狽うろたえかたは尋常ではなかった。

「こんな……おそろしい」言って彼女は立ち上がった。「私、失礼します」

 そのまま坂本さんは玄関でクツをはき出て行ってしまった。


 目が点ですよ。とりあえずオレはオガを見た。さあて、この友人はどんな弁解をするのだろうか……。

「まあ、お金(5千円)を払うまえで、よかったじゃない」

「よかねーよ」

 友人のあっけらかんとした物言いに、オレは若干イラッとした。

「なんだよ、あれ。サギじゃねーか」

「サギじゃないよ」

 オガはわりと真剣な顔つきで言った。

「木の精霊の話は途中まで上手くいっていたんだ。きみも納得していただろう」

「それって、ようするに、オレを騙そうとしていたってことじゃん」


 すると友人は、ちょっと悲しそうな目をした。

「騙すなんて人聞きのわるい……。お祓いはサービス業だよ。坂本さんはお客であるきみの心のりをほぐそうとつとめた。ぜんぜんサギじゃない」

「しかしなあ。木の精霊とかウソつかれても」

「ウソのほうがまだマシだ。どうするの、これ。木の精霊が本当・・になっちゃったよ」


 たしかに彼の言うとおりかもしれなかった。ウソでもなんでも、オレが納得して心が晴れれば、それでよかったのだ。

 だが事態はシャレにならない方向へとすすんだ。マジで、どうするよこれ……。PCがいきなり爆発するとか、ありえないだろう。

「オガ。いちおう聞くけど、これ(爆発)って何なんだ?」

「……わからない。きみの自作自演じゃないとすれば、ボクにはもう、どうしていいか」


 オレは半ば放心する。そうなのだ、この状況は、ふつうに考えればオレが仕組んだイタズラと思われて仕方ない。

 坂本さんがあんなに取り乱したのも、オレに対する不審感が勝っていたからだろう。

 最悪だった。なぜ被害者のオレが、あんなサギまがいのお祓い業者を弁護しなくちゃならんのだ。

 まあ5千円払うまえで、よかったけどね! ……ぜんぜん、よくない。むしろ状況はフリダシより悪化している。


「オガ、しばらくおまえのウチに泊めてくれよ。こんなんじゃ、こわくて寝られねーよ」

「それは、かまわないけど。……でもこの状況をどうにかしないとね」

「だっておまえも、お手上げなんだろう?」

「待てーい!」


 そのとき玄関から女性の声がした。待てーい、と言った彼女に見おぼえがあった。ちなみに坂本サカエさんではない。

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