その13
「原因はいろいろ、あります。けれどパソコンにかけられた呪いは、いわゆるコンピュータ・ウィルスの感染やハッキングが原因ではないことが多いです」
坂本さんの返答を聞いて、オレはしばし固まってしまった。
ウィルスやハッキングが原因ではない。まあ、そうだろうとは思いましたよ。この問題はハード的ソフト的のどちらにも属さない。
得体がしれないのだ。そういうものをオレらは呪いと呼んでいる。
ふとオガの顔を見ると、あいかわらず目は死んでいるけど若干ドヤ顔をしているふうに思えた。な? みたいな感じだ。腹立つわー。
彼がお祓い業者の坂本さんに、事前にどれだけの情報をあたえているのかオレはしらない。
「木だよ」
いきなりオガが口をひらいたのでオレは慌てた。
「木ぃ?」
なんのことか、さっぱりわからない。
だが友人のこうした物言いは常だった。そしてタチのわるいことに、彼が口をひらくときには、すでにいろいろなお膳立てができ上がっていることをオレは経験的にしっている。
「尾上也さんから事前にお話をうかがいました。蛍田さんはよく、胃の頭公園を通られるらしいですね」
坂本さんがつぎの話題を振ってきた。どんどん話が進んでゆく。ワケワカンネ。
「ええ、それが? ……あっ、」
オレは乗りツッコミみたいな、おかしな挙動になった。ふたつの単語が頭のなかで結びついた。
「そうか、胃の頭公園といえば木ですね」
オレの言葉に彼女は満足そうにうなずいた。
「はい、あの公園には杉や松の巨木がわんさとあります。それも指定文化財クラスの立派なものです」
「つまり……」
言いかけて思わずゾッとした。先をつづけることのできないオレを坂本さんがフォローする。
「そうです、巨木に宿る霊的なもの。それが蛍田さんを介してご自宅のパソコンへと移り住み、災いを為したのではないかと。それが呪いの正体と私は考えます」
いや、まさか……あはは。
そのときボンッ、と背後で爆発音がした。
……ウソでしょ? PCが、オレのノートPCが粉々に吹き飛んでいた。
いあっ、と坂本さんが小さく悲鳴を上げた。オガもいつにない真剣な表情で爆発のあったほうを見つめている。
オレはどうしていいか、わからずに、爆発箇所と彼らとを交互に見ていた。が、PCの残骸から煙が出ているのを見つけると身体が勝手に動いた。
とりあえずシンクでラーメン丼ぶりに半分くらい水を汲み、それを部屋に運んで煙を吹いている部品にバシャッとぶっかけた。
それでなんとか出火することなく収まってくれた。バケツに水を貯めるよりこっちのほうが格段に速い。ナイス判断、オレ。
水の量が少なかったので、ノートPCを置いていたミニ本棚および床が水浸しになる難を逃れた。
オガと坂本さんが呆然とするなか、オレは乾いた雑巾と空バケツで水害の後処理に奔走した。なんかスミマセン、本当に。




