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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#1 安達ヶ原
23/41

その12

 普段は汚い部屋だが、めずらしく客人がくるというので急きょ掃除をした。とりあえず坂本さんとオガに座ってもらい、オレは彼らにお茶を出した。

「蛍田さんは特定の宗教をお持ちですか?」

 おっと。いきなり、いきなりな問いが坂本さんから発せられた。

「いいえ」

 とオレは答えた。無宗教のオレがいまこうして、神様だか仏様だかにすがってお祓いをしてもらおうというのである。

 しかも5千円で。


「そうですか。それじゃあ、」

 彼女は柔和な笑顔をくずさずに、つづけた。

「スタンダード・タイプで行きましょう」

「スタンダード、ですか」

「ええ。と言っても、べつに大したことじゃないんです。多くの日本人は日々、いろんな宗教的行事を行ないますよね?」

「冠婚葬祭とか、お盆とか、クリスマスとかのことですか」

 ええ、そうですと坂本さんはうなずいた。


「キリスト教徒じゃなくてもクリスマスをお祝いして、いいんです。ご先祖さまのお墓に手を合わせることは、とても尊いことです。そういった最低限の宗教的素養があればオッケーです」

 彼女は親指と人さし指で輪っかをつくってみせた。

「オッケーというのは……」

「その素養がないとのろいは効きません。呪いが効かないかたをお祓いすることは、できませんから」


 なんだか、話があべこべのような……。呪われているからこそ、こうしてお祓いをお願いしたんですけど。

 あ、呪われているのはオレじゃなかった。オレのPCだった。

「むふっ」

 と坂本さんは吹き出した。オレみたいな反応をしめすお客には慣れているのだろう。まさに標準的対応スタンダードだ。

「いえね、たまに、宗教的なものを全否定するお客さんがいらっしゃって……。神とは何ぞやみたいなことを、ふっかけてくるんです。そんなこと、私がしるわけないじゃないですか」

 彼女はさも可笑しそうに言った。オレはただ、はあと返事するしかなかった。


「お茶、いただきますね」

 そうことわってから坂本さんは湯飲みを持った。茶をひと口すすり、あ、美味しいとつぶやいた。

「前置きが長くなりましたが、ここからが本題です」

 彼女はゆっくりと湯飲みをテーブルに置いて言った。

「今回蛍田さんは、ご自宅のパソコンに『問題』をお感じになったと伺いました。おまちがい、ありませんか」


「……ええ、まあパソコンというか、ネット関連も含めてなんですが」

 言いながらオレは、自分が滑稽に思えてならなかった。まるでPCレスキューかヘルプデスクの人と話しているみたいだ。

「パソコンに呪いがかかるなんて、と半信半疑なんですね。心得ています。みなさん最初はそうなんです」

 なんか坂本さんの調子がアガってきた。店頭実演販売みたいだ。

「人だけじゃなく、モノも呪いを受けます。とくに現代人にとってパソコンやケータイ、スマホなどは生活必需品で触れる機会も多いです。だから今回のような案件が増えています」


「原因は、なんですか」

 ずばりオレは聞いた。それがまず、しりたかった。

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