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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#1 安達ヶ原
17/41

その6

 ぶいぶい、ぴろりん、と卓上のスマホが鳴った。オレのじゃなく黒塚さんのだった。彼女は失礼、とことわって着信の中身を確認した。

「メールです。オフ会の参加者から」

「マジっすか……」

 信じられなかった。こんな胡散臭いオフ会にさらに参加者がいたこともそうだが、遅れてきたその人が、あの公園の電話ボックスでメモを見つけたことがさらに!

「いま返信しますので、ちょっとお待ちください。ドーナツ食べます?」

「いや、けっこう」

 彼女の勧めをオレはことわった。だって、残りふたつのうち、ひとつを取ったら悪いからね!


 黒塚さんがメールを返信すると、すぐまた着信があった。今度は電話のようだ。

「もしもし……はい、なろうオフ会の」

 彼女はメールの返信で相手に電話番号を教えたらしい。

 要はこのミスドの場所を伝えればいいだけだが、メールだけよりも実際に通話したほうが相手も安心する。

 ほんと、さっきのドーナツの件もそうだが彼女は気が利く。ひとしきりやり取りが終わるまで、オレはタバコを吸って待っていた。


「あの、黒塚さん」

 彼女がスマホを置くのを見計らって、オレは切り出した。

「お待たせしました。どこまで話しましたっけ?」

「いや、そうじゃなくて。……つぎの参加者がいらしたら、オレはご挨拶だけしておいとましようかな、と」

「……そうですか。夜勤明けでお疲れですものね」

「ごめんなさい、なんか、興味本位で参加してしまって」

「ぜんぜん、かまいませんよ」

 彼女は笑って、こう付け足した。

「鬼婆に興味を持っていただいたのであれば」


 いや、だからそうじゃないんだが……。ま、いっか。そういうことに、しておこう。ちょっとメンドくさくなってきた。

 それから新参者ニュー・カマーが到着するまで、黒塚さんと引き続き「3枚のお札」について論じあった。

 というより、彼女の説明をオレが聞いていたといったほうが、ただしい。

 オレはすっかり忘れていたが、小僧は2枚目のお札で洪水を、3枚目で業火を引き起こしたらしい。

 洪水は鬼婆によって飲み干され、攻撃としては弱かったらしい。業火も、飲み干した水を鬼婆が吐き出して鎮火したため、効果はなかったらしい。

 そんなこんなで、小僧は和尚が待つ寺まで逃げ帰った。


「小僧を追ってきた鬼婆が和尚と対峙する、あの有名なシーンですね」

「ええ。でも、あれって、おかしくないですか」

「おかしいですね」オレは笑った。

「ですよね。和尚は鬼婆に術くらべを挑みます。まあ百歩ゆずって、鬼婆がそのオファーを受けたのは良しとしましょう」

「鬼婆にメリット、ないですからね」


「山のように大きくなれるか」

「なれるとも」

 そう言って鬼婆は巨大化しますが、はっきりいって彼女にメリットないです。まあ百歩も千歩もゆずって、それは良しとしましょう。問題はこのあと。

「今度は豆粒のように小さくなれるか」

 なれるとも……じゃないから! いやいやいや、おかしいでしょ。これって対決でしょ? つぎは和尚のターンじゃないですか。

 なにサラッと豆粒にして、お餅にはさんで食べようとか思ってんの。で、そのとおりにしちゃう鬼婆の悪ノリも、いかがなものかと。

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