その5
なぜオフ会に参加したか。なぜ……。それは根本的な問題だったけれど、オレにとって簡単な質問ではなかった。
本当に、なぜだろう。
正直にいえば興味があったからだ。
たまたま、なろうのユーザページで「鬼婆になろう」という面妖なサイトへのリンクを見つけた。そのサイトで告知されていたのが今日のオフ会で、しかもリンクはすぐに消されてしまっていた。
ゆうたら、番組終了後30分以内限定……みたいなプレミアへの期待感だ。まちがっても鬼婆への興味なんかじゃない。
だが目のまえの黒塚さんはどうだ。彼女は鬼婆研究家だ。きっと、めちゃめちゃ鬼婆に興味があるにちがいない。
彼女の動機は純粋だ。オレのは純粋じゃない。それがオレの口を鈍らせた。
「う……」
言葉が出てこない。まるでヘビに睨まれたカエルだ。目のまえのヘビは余裕の表情で、もふもふとドーナツを齧っている。
ひとつめを平らげると、黒塚さんは口をひらいた。
「蛍田さん、鬼婆をご存じですか」
「……あ、はい」
自分でもびっくりするくらい、すりん、と声が出た。
「どのくらい、ご存じですか」
「どのくらいと言われましても……」
あきらかに誘導尋問だった。それは、わかっている。だがオレの思考は雪崩のように、あたらしい質問へと向かって行った。
誰でも困難から逃げたがるものだ。答えづらい質問よりか、鬼婆のほうがずっとマシだった。
「昔話でしっているくらいですね」
「どんな話ですか」
「ええと……あれです、『3枚のお札』」
オレがそう答えると、黒塚さんは一瞬口角を上げた。え? ……なにそのドヤ顔。腹立つわー。
「あれも、なんかヘンなお話ですよね」
「そうですか? オレはわりと好きですけど」
「へー、どこらへんが?」
「小僧が3枚の手札をアイテム的に駆使しながら鬼婆から逃げるスリル。それと、最後に和尚が頓智で鬼婆を退治するカタルシス」
先ほどとは打って変わってオレの舌は回りはじめた。オレだって物書きの端くれだ。レトリックなら負けないよ?
「でも、小僧のカードの使い方が刹那的というか、ある意味ぜいたくですよね」
「……どういうことです?」
オレは聞いた。彼女の言っていることが、よくわからなかった。
「1枚目のカードはただの身代わりです。便所のなかで小僧の代わりに返事をする、テープレコーダ的な役割しかありません」
「いいじゃないですか。そのテレコのおかげで時間が稼げて、小僧は逃げられるわけだから」
「カードはたった3枚ですよ? なぜ1枚目から鬼婆への攻撃に使わないんです」
オレは目が点になった。その発想はなかったわ。
「お札で攻撃できるとは、小僧も思ってなかったんじゃ……」
「いいえ」
黒塚さんは食いぎみに否定した。
「小僧は2枚目のカードで洪水を、3枚目で業火を起こします。便所の計略がバレて自分を追ってきた鬼婆を、それらで迎撃します」
彼女は熱弁をふるった。妙齢の女子が「便所」って言いすぎ。




