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(改題)黒塚:she is ONI-BBA  作者: 大原英一
最終話「黒塚」#1 安達ヶ原
16/41

その5

 なぜオフ会に参加したか。なぜ……。それは根本的な問題だったけれど、オレにとって簡単な質問ではなかった。

 本当に、なぜだろう。

 正直にいえば興味があったからだ。

 たまたま、なろうのユーザページで「鬼婆になろう」という面妖なサイトへのリンクを見つけた。そのサイトで告知されていたのが今日のオフ会で、しかもリンクはすぐに消されてしまっていた。


 ゆうたら、番組終了後30分以内限定……みたいなプレミアへの期待感だ。まちがっても鬼婆への興味なんかじゃない。

 だが目のまえの黒塚さんはどうだ。彼女は鬼婆研究家だ。きっと、めちゃめちゃ鬼婆に興味があるにちがいない。

 彼女の動機は純粋だ。オレのは純粋じゃない。それがオレの口を鈍らせた。


「う……」

 言葉が出てこない。まるでヘビに睨まれたカエルだ。目のまえのヘビは余裕の表情で、もふもふとドーナツを齧っている。

 ひとつめを平らげると、黒塚さんは口をひらいた。

「蛍田さん、鬼婆をご存じですか」

「……あ、はい」

 自分でもびっくりするくらい、すりん、と声が出た。

「どのくらい、ご存じですか」

「どのくらいと言われましても……」


 あきらかに誘導尋問だった。それは、わかっている。だがオレの思考は雪崩なだれのように、あたらしい質問へと向かって行った。

 誰でも困難から逃げたがるものだ。答えづらい質問よりか、鬼婆のほうがずっとマシだった。

「昔話でしっているくらいですね」

「どんな話ですか」

「ええと……あれです、『3枚のおふだ』」

 オレがそう答えると、黒塚さんは一瞬口角を上げた。え? ……なにそのドヤ顔。腹立つわー。


「あれも、なんかヘンなお話ですよね」

「そうですか? オレはわりと好きですけど」

「へー、どこらへんが?」

「小僧が3枚の手札カードをアイテム的に駆使しながら鬼婆から逃げるスリル。それと、最後に和尚が頓智で鬼婆を退治するカタルシス」

 先ほどとは打って変わってオレの舌は回りはじめた。オレだって物書きの端くれだ。レトリックなら負けないよ?


「でも、小僧のカードの使い方が刹那的というか、ある意味ぜいたくですよね」

「……どういうことです?」

 オレは聞いた。彼女の言っていることが、よくわからなかった。

「1枚目のカードはただの身代わりです。便所のなかで小僧の代わりに返事をする、テープレコーダ的な役割しかありません」

「いいじゃないですか。そのテレコのおかげで時間が稼げて、小僧は逃げられるわけだから」

「カードはたった3枚ですよ? なぜ1枚目から鬼婆への攻撃に使わないんです」


 オレは目が点になった。その発想はなかったわ。

「お札で攻撃できるとは、小僧も思ってなかったんじゃ……」

「いいえ」

 黒塚さんは食いぎみに否定した。

「小僧は2枚目のカードで洪水を、3枚目で業火を起こします。便所の計略がバレて自分を追ってきた鬼婆を、それらで迎撃します」

 彼女は熱弁をふるった。妙齢の女子が「便所」って言いすぎ。

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