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すみません!
本日3話更新の予定でしたが、変なミスを犯して、話に矛盾が出てしまったので、最終話だけ書き直しております。
なので本日は2話だけ更新になります。
最終話は近日中に必ず!
【ライオット視点】
父に書類を届けに登城すると、いつもと違って、確認した書類を返してこない父に、
「どうかしましたか?」
「医者はなんと言っていた?」
「どこにも異常は見られず、健康そのものだと言われました。おとなしいのは本人の個性だろうと」
「そうか。良かった!だがやはり男の子にしてはおとなし過ぎるように思うのだが」
「その事で、少々エンデやリリー夫人に相談してみようかと思っています」
「ああ、だがそれで比べられて落ち込みはしないだろうか?」
「心配し過ぎですよ!母上も言っていたではないですか、心配のし過ぎも良くないって」
「ううむ。どうにも初孫と言うのは気になってな」
「大丈夫ですよ、健康なんですし」
「ああそうだな」
学園を出てすぐに、政略的な意味でも良縁となる婚約者ができ、1年後に結婚、その後3年程して子供ができ、酷い難産の末に生まれた子供は、少々他の子供よりも小さく生まれたようで、妻と乳母が付きっきりで何もかもを面倒みようとして、3歳になる今、ひどくおとなしい子供になった。
夫婦仲は悪くないと思うが、未だどこか遠慮やよそよそしさを感じてしまうこともある。
父は初孫の誕生に大いに喜び、抱く度に泣かれる事に困惑し、遠巻きに眺めては、何かと心配してすぐに医者を呼びつけるようになった。
「用件は終わりですか?」
「ああ」
「では失礼します」
宰相である父の執務室を出ると、真っ直ぐに図書館へ向かい、目当ての人物を探す。
「あ、ライオット様!リリーならさっき食堂へ行きましたよ!」
目当ての人物リリー嬢の同僚が声を掛けてくれたので、礼を言って食堂へ向かう。
本当にさっき出たばかりなのか、食堂へ行く途中で合流して挨拶をして、一緒に食事することに。
城内の食堂は、登城を許された者なら誰でも利用可能なので、私もたまに利用させてもらっている。
騎士が来ることもありボリュームもあり、お城の食事だけあって味も中々。
「お子さん達は元気ですか?」
「もう、元気の塊です!寝る瞬間まで暴れてますよ!」
学生時代と変わらぬ笑顔で、少し大人になったリリー嬢が笑う。
それが懐かしく、少し切ないのはお互い大人になったからだろうか。
「ライオット様は何かお悩みが?」
「顔に出ていましたか?」
「フフ、長い付き合いですもの、それくらい分かりますよ!」
「そうですね、隠し事は出来そうにありません」
「フフ、ライオット様は案外正直ですから!」
「これでも昔よりは上手に表情を隠せるようになったんですよ?」
「たぶんエンデやレイチェル様も気付きますよ!まあ親しい人には、といったところですね」
「まあそれなら仕方無いと諦めましょう。………それで、相談にのって欲しい事がありまして」
「私でお力になれる事なら」
「家の子の事で、なんと言えばいいか、ひどくおとなしい子なんです。他に子供が居ないから、大人びていると言うのとも違うように思えて」
「言葉が遅いとか、発育が遅いとかはありますか?」
「いえ、生まれた時は難産で、少々小さく生まれましたが、医者の話ではどこにも異常は見られないとの診断でした」
「それなら、おとなしいのはその子の個性なのでは?」
「私もそう思うのですが、妻や父が異常に心配しておりまして」
「う~ん、心配し過ぎて過保護になり過ぎてるんですかね?」
「ええ、それはあるかと思います。妻と乳母が、四六時中付いて回っていた時期もありますし」
「まだお会いしたこと無いですしね?」
「妻が外に出すのを酷く嫌がりまして」
「確か3歳におなりでしたよね?」
「はい、3月で3歳になりました」
「ライオット様は、今週末お暇ですか?」
「え?ええ。特に予定は有りませんが?」
「ならば1度奥様とお子様を連れて我が家に遊びに来られませんか?レイチェル様とチルルも子供連れで遊びに来ますので!他の子供と遊んでる内に、少しは刺激を受けるんじゃないですかね?」
「良いんですか?」
「ええ是非。家の料理人の作るお菓子は、子供達に大人気なんですよ!」
「ではお邪魔します。妻と息子を連れて」
「はい。レイチェル様もチルルも泊まりで遊びに来ますんで、週末どちらでもいらしてください!」
「相変わらず仲が良いんですね?」
「はい」
笑顔で答えたリリー嬢を見て、そう言えば暫く妻の笑った顔を見ていない事に気付いた。
帰りに花でも買っていったら、笑顔を見られるだろうか?
◆◆◆◆◆◆◆
なんとか妻と乳母を説得して、週末にエンデとリリー嬢のお宅にお邪魔した。
「いらっしゃいませ、ライオット様。奥様とお坊っちゃまは初めまして!リリー・グラナダスと申します。今日は楽しんでいって下さいませ!」
「初めてお目にかかります。ライオットの妻、シレーヌと申します。こちらは息子のレンリオットです。本日はお招きありがとうございます」
「よう、いらっしゃいライオット!今日は大変だぞ!」
「ああエンデ、邪魔をする。大変とは?何かあるのか?」
「あはは、うちのガキどもに玩具にされるぞ!」
「暴れん坊らしいな?」
「ああ!もう手がつけられない暴れん坊さ!」
少し妻の顔色が悪くなったが、リリー嬢に促されるままに屋敷内に入っていく。
開け放たれたリビングは陽光が入り、ゆるく風が吹き込んで暖かな雰囲気に整えられている。
外からは元気に転がり回る子供達の姿が見え、腕に抱いた息子も興味が有るのか、庭の方を覗き込んでいる。
リビングにはレイチェル様とチルル様が居て、それぞれに挨拶を交わし、少し緊張気味の妻も一緒にお茶会が始まる。
膝に乗せた息子は、ずっと庭を眺めてソワソワしており、その姿を見たリリー嬢が庭に向かって、
「ソレイユーー、ちょっと来て!」
声を掛けると、庭で先頭を走っていた子供が駆け寄ってきて、
「なに~、かあさま?」
「ライオット様良いですか?」
「あ、ああ」
「レンリオット君、皆と遊んでみない?」
「あ、うう、」
モジモジしながら見上げてくる息子に、
「他の子と遊ぶのは初めてだろう?行っておいで」
「はい!とおさま!」
思ったよりも元気に答える息子に、妻も驚いている様子。
「ソレイユ、この子はレンリオット君。ルナティアと同じ歳だから、ちゃんと面倒見てね!」
「うん!わかった!レンリオット君行こう!」
「う、うん」
ソレイユ君に手を差し出され、素直に付いていく息子を、妻が呼び止めようとするのを制する。
ソレイユ君はレンリオットの速度に合わせてゆっくりと歩いてくれて、子供達に紹介してくれている。
同じ年頃の子供達にすんなり馴染めた事にも驚いたが、もう少し躊躇したり拒否したりするかと思っていた。
「そんな驚くことか?ガキなんて名前を知ったらもう友達だろ?」
「お前は昔から単純過ぎる!」
「お前は難しく考えすぎて、機を逃す!」
「フフフ、大丈夫ですよ。この頃はソレイユも加減を覚えましたし、ちゃんと別に確りとした侍従を付けていますので、怪我などはさせませんから!」
「あ、ちなみに擦り傷や小さな切り傷は怪我の内に入らないからな!」
その言葉に妻が立ち上がろうとしたのを手を握って止める。
「大丈夫ですよ。女の子も交ざって遊んでますから、怪我をするような遊びは今日は控えるように言い聞かせてますから」
「怪我をするような遊びとは?」
「木登りとか、騎士ごっこと称して棒を振り回したり、服のまま池に飛び込んで泳いでみたり?」
エンデの言葉にもはや妻の顔が青ざめ、今にも悲鳴をあげそうになっている。
「フフフ、あれは面白かったわね!子供達が泥だらけで池から上がってきて、そのまま走り回るものだから、エンデ様が追いかけ回して!」
「あいつら逃げ足が速いのなんの!全然捕まりゃしねぇ!」
「フッフフフ、最後にはエンデまで泥だらけになって!」
「そうそう!庭で水掛祭りが始まって!せっかく綺麗に咲いていた花壇の花が台無しになって、リリーに凄い剣幕で怒られてたね!」
アハハハ!とチルル様の笑い声が響く。レイチェル様も声を抑えず笑っている。
公爵夫人と聖女様が声を抑えず笑っている事が不思議なのか、妻が驚いている。
「あら、ごめんなさいね、淑女としては、はしたないのだけど、この家に来ると、つい学生時代に気持ちが戻ってしまって、シレーヌ様ももう少し肩の力を抜いて、リラックスなさって!」
「あ、あの、よろしいでしょうか?」
「ええ、勿論」
「あの、皆様は子供が心配ではないのですか?いくらお庭だと言っても、全く危険が無いわけではないですし、もし見えない所で怪我でもしたらと思うと、わたくしは!」
話している内に更に心配が勝ったのか、立ち上がろうとする妻を、リリー嬢が宥める様に肩に触れる。
「シレーヌ様、親が子を心配するのは当たり前の事ですわ。ですが、その親の心配のせいで、子供の可能性を潰してはいけないとも思われませんか?」
「子供の、可能性?」
「ええ、可能性です!ソレイユは最近まで大きくなったら最強のカブト、いえ甲虫になるんだと木登りをしては落ちてを繰り返していました。弟のガイアはダチョ、走り鳥になるのだと庭を走り回っては盛大に転んでました。どちらも叶う筈もない目標ですが、お陰で木に登れるようになりましたし、同じ歳の子供には負けない速さで走れるようになりました」
「ですがそれで怪我をしてしまったら、可哀想ではないですか!」
「あまりに危険な行為をしようとした時は止めますが、少しくらいの怪我や傷があっても、彼等は笑って挑戦し続けていましたよ」
「ですが、出来れば危険な行為等して欲しくありません!」
「それでは臆病で外に一歩も出られない子供になってしまいますね?」
「それは………」
「シレーヌ様、子供って、大人が思うよりもずっと逞しくて頑丈なんですよ!それに、親は子供の人生を全て見守る事は出来ないんです。子供が大人になった時、何も出来ない大人になって欲しいですか?」
「いいえ!そんなことはありません!」
「勿論そうでしょう。木登りが出来ても、大人になって役に立つ事は少ないですが、出来ないよりは出来た方が、一つ他の人より可能性が増える、と言うことです。勉強やマナーはこれから嫌でも覚えなければいけませんが、今はまだ幼い子供です。危険な事があっても親である私達が、手を伸ばせば届くところに居ます。他の子供と遊ぶ事で力加減を覚え、喧嘩して痛みを覚えます。それはとても大事な事だと思われませんか?」
「そう、なのでしょうか?」
「痛みを知らない子供は、相手を平気で踏みつけても、それの何がいけないのかを理解しないのです。そして加減を知らないので、相手に大怪我を負わせる事にもなるかもしれません。高位貴族の令息が、思うままに他者を傷付けるのは、恐ろしい行為と思いませんか?」
「それは、はい。とても恐ろしい事です」
「レンリオット君をそんな子にはしたくないでしょう?」
「勿論です!」
「既に加減を知っている大人相手では、学べない事は多く有ります。どうか、見守って、怪我をして泣いていたら慰めてあげてください、そしてもう一度立ち上がれるように背中を押してあげてください」
妻は俯いて考え込んでしまい返事をしなかった。
だが外からのキャーーーと言う笑い声に庭に目を向けると、我が家では見たこともない程、満面の笑みで笑い転げる我が子が。
転んでも即座に起き上がり、走り出し、また転んで起き上がる。
その間、誰かに手を借りて起こされ、誰かが転べば手を差し出す、そんな普通の光景、何処にでもある日常の光景。
おとなしい子供だと思っていた。
おとなし過ぎて、何かの病気を疑い医者に何度も見せた程。
だが、我が子は普通の健康な子供で、あんな風に笑い転げる事の出来る子供だった。
その事に思わず涙が込み上げる。
隣では妻が声もなく涙を流している。
「シレーヌ様、まだこれからですよ!これからどんどん活発になって手がつけられなくなります!泣いてる暇は有りませんよ!」
「そうですわよ!ちょっと目を離すと、大人の登れない位置の枝で泣き叫んでいたり、小川で流されて柵に引っ掛かっていたり」
「そうそう、敷地から脱走しようとして塀から降りられなくなったり、自分で掘った落とし穴にはまって出られなくなったり!」
次々と語られるエピソードに、心配すれば良いのか笑えば良いのか、妻と2人微妙な顔になっていると、
「お2人とも、このくらいは笑って済ませる話ですよ!これ以上はシレーヌ様の心臓に負担が掛かりそうですから話しませんが、男の子の活発さと無謀さは覚悟が必要ですからね!あと、乳母ではなく、歳の近い侍従は早めに備えておいた方が良いですよ!」
リリー嬢の笑いながらのアドバイスに神妙な顔で頷く妻。
その間中庭からは子供達の笑い声が響いていた。
◆◆◆◆◆◆◆
揺れる馬車の中、熟睡する我が子を抱きながら、
「滅多にお昼寝などしないのに、今日は沢山暴れたからグッスリね。…………楽しかったですね」
「ああ。私はクタクタになったけどね!」
「フフフ、あなたがあんなに走り回る所を初めて見たわ」
「実際、あんなに走ったのは久しぶりだからね」
「フ、フフフ。本当に楽しかった。あんなに笑ったのは子供の頃以来かしら?レンリオットもずっと笑っていたし」
「ああ、そうだな。あんなに活発に動ける子供とは知らなかった」
「…………そうね。わたくし達は、レンリオットの安全の為と言って、色々なものから遠ざけてしまっていたのね」
「リリー嬢も言っていたように、これからさ。レンリオットも刺激を受けて、これからは活発になるかもしれないだろう?」
「フフフ、不安なような、楽しみなような。レンリオットはどんな大人になるかしら?」
「そうだな。今日のように、皆に囲まれて笑って過ごせると良いな」
「そうですわね。多くの人と関わって、笑って過ごせるのなら素晴らしい事だわ」
「また近い内にお邪魔する約束もしてきたし、彼等を見習って、もう少し楽な気持ちで見守っていこう」
「ええ、楽しみな約束も出来ましたし、レンリオットには目標も出来ましたしね」
「目標?」
「今まであまり走り回った事の無いレンリオットは、最後まで皆さんに付いて行けなかったでしょう?それが悔しかったらしく、家に帰ったら走る練習をするんだと言ってましたわ」
「ククク、それを見たら父上は腰を抜かすかもな?」
「フフフ、乳母のマーサもですわ!ちょっと楽しみね!」
「ああ、密かに2人で観察してやろう!」
「フフ、フフフ、あなたったら、悪い子の顔になってましてよ!」
「子供達と遊ぶには、少しくらい悪どい戦法も必要だと思い知ったからね!」
「フフッ、フフフもう、笑いすぎてお腹が痛くなるなんて、初めての体験ですわ!」
揺れる馬車の中、妻の小さな笑い声が続く。
こんなにも楽しそうに笑わせているのが、自分では無いことが少し悔しいが、とても嬉しいと感じる。
これからもこの笑顔と共に生きていく為に、まずは密かに体力作りを決意したのだった。




