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目が覚めたら目の前にドラゴンがいたのでとりあえず殴りました。  作者: 和田好弘
第12章:望んでもいないのにトラブルがやって来る
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04 望んでもいないのにトラブルがやって来る ②


 この町に移り住んで、6ヵ月余りが過ぎた。


 本当にここは素晴らしい場所だ。


 マギーの持ってきたあの刀剣に惚れこんで、後先考えずに着いていくことにしたことは間違いじゃなかった。


 ……まぁ、その後、レキナにさんざん怒られたがな。


 引継ぎやらなんやらを全て事後承諾みたいにしちまったからな。いや、だがしょうがないだろ。あんな未知の剣なんざ見せられちまったら。


 そしてこっちに来てからというもの、驚きの連続だ。


 おかげで国にいた時よりも充実した毎日だ。あとは隠居してのんびりと好きなもんだけ打とうとか考えていたんだが……ははっ! まったく若返った気分だ。


 そんなこんなでこの6ヵ月、なんの問題もなく過ごしていたんだが――



「ここにいるのは分かっているんだ! 出てきやがれ!!」



 ……うちの前で怒鳴り散らかしてるヤツはなんなんだ?


 まぁ、放っぽっときゃ、そのうちいなくなるだろ。でなくとも、あれだけ騒いでりゃ警邏隊に取っ捕まってぎゅうぎゅうに絞られるはずだ。


 そんなことを思いながら、儂はマギーと、新しい炉の設計にあーでもないこーでもないと頭を悩ませていた。


「うるせぇっ! 商売の邪魔だ! とっとと失せやがれ!!」


 怒鳴る声が増えた。


 ありゃジモンの声だな。ったく、もうちっと堪え性を持てってんだ。馬鹿の頭を殴って大事な手を痛める方が馬鹿だってのによ。


 しょうがねぇ、止めに行ってくる――


「……マギー、なんでハンマーを素振りしてるんだ?」

「不埒者を殴りつけようと思いまして。素手で殴ると手首を痛めそうですから。なぐ様から教えて頂いたのですよ。殴り方を知らずに殴ると、手首を痛めると。ですので、そのためのハンマーです」

「いやいやいや、そんなもんで殴ったら相手が死ぬぞ」

「大丈夫です。これは女神様より賜った、護身用のウォーハンマー【不殺の鉄槌】です。この武器は、例えどんなに相手を殴ろうとも絶対に相手を死に至らしめることができないのです」


 いや待てマギー。いまなんて云った? 絶対に相手を殺せない武器? おいおいおいおい、ってことは、それは単に痛めつけることを目的とした武器ってこったな? いや、ダメだろ! 死ぬより痛い思いをするとか、相手の気が触れちまうぞ!


 儂はなんとかマギーを宥めた。しかし女神様もなんて代物をマギーに渡したんだ? いや、エルダードワーフであるマギーを思っての事だろうが、あまりにも不穏すぎる武器じゃねぇか。


 ……それはさておいて、あとでマギーに頼んで見分させてもらおう。






 店先にでると、ジモンと棒っ切れを杖代わりにしたドワーフが怒鳴り合っていた。


 この問題を引き起こしたドワーフは明らかに異常だった。


 ぼさぼさの赤茶色の髪に髭。それらは色が抜けたようにくすんでいる。そしてすっかりやつれ切った顔。とてもじゃないが、同じドワーフとは思えんぞ。すっかり隈の浮いた目はとても正気には見えん。


 ドワーフってのは、基本的に恰幅の良い体格をしているもんだ。ちっとばかり痩せたからって、ここまで酷いことになることたぁねぇ。病人か?


「いったいなんの用だ? ギャーギャー騒ぎやがって」


 そいつを睨みつけながら、儂はジモンの隣に立った。


「誰だてめぇは!? おめぇじゃねぇっ! レザーの奴を出せってんだよ!」

「フラフラのクセに声だけはでけぇな」

「うるせぇっ! そんなこと云うくらいなら食い物よこせやっ!」


 儂とマギーは顔をしかめた。ジモンは怒りのあまりブルブルと震えている。だが手を出さない当たり、まだ理性を保っているようだ。


「なんなんでしょうね? 人のところで勝手に怒鳴りつけてわけのわからないことを喚いて、挙句に食事を出せとか。

 何様のつもりなんでしょう?」


 マギーの声が冷ややかに響いた。するとヤツは気味の悪い速さで首を巡らし、マギーを睨みつけた。


 あー、アホだな。ドワーフがエルダードワーフに殺意を向けるとか。下位種が上位種にたてつくなんざ、基本無理なことだ。それこそ本能に刷り込まれているようなもんだ。


 意見したり諫めたりするこたぁできるが、殺意はいけねぇ。


 さっきまで威勢よく怒鳴り散らかしてたのが、尻込みしてシオシオになってんじゃねぇか。


 儂はため息をついた。


 あぁ、面倒臭ぇ。


「ジモン、警邏隊の詰め所へ行って、こっちに来てもらえ」

「あ、はい。行ってきます」


 ヤツのあまりの変わりように拍子抜けをしていたのか、すっかり怒りを収めていたジモンに指示を出した。


 さてと、こいつは適当にふん縛っておくか。


「こんちはー。なんだか揉めてんねー。もう終わったみたいだけど」

「……なんか、見たことあるようなのがいるな」


 やってきたのはよっ子様と大将だ。


 手に下げられた鞄からは、本とスクロールがはみ出している。


「よっ子様、大将さん、おはようござい――」

「てめぇっ! レザー! 遂に見つけたぞ! 里に呪いなんて掛けやがって!!」


 ぜぇぜぇと肩で息をしていたヤツが、突如として手の棒っ切れを振り回して喚きだした。


 どうやら、大将と知り合いのようだが……。


 大将はというと、目を丸くして、このボロボロに薄汚れたドワーフを見ていたが、やがてそれが誰であるか分かったようだ。


「誰か知ってる?」

「あー……えらいやつれてんが、ドワーフの里の長だな」

「あぁ、こいつが前に云っていた例の馬鹿長か!」

「そうだ。自分の親を殺した愚図だよ」


 大将がそういうと、ヤツは驚いたように目を見開いた。


「なんだ? 知らないとでも思ったのか? どこの馬鹿が自分のハンマーで自分の脳天を砕くんだよ。おめぇが殴り殺したんだろ。里の連中はみんな知ってるぞ。それとな、俺が呪いなんて掛けられる分けねぇだろ。ただの革職人だぞ」


 なにかを喚こうとしているようだが、口をパクパクさせるばかりで、震える腕を大将に向けて弱弱しく振っている。


 だがそれ以上はできないようだ。隣でマギーが殺気立って睨んでるからな。ついでに【不殺の鉄槌】を手に持ってポンポンとしているしな。


 マギー、怖いからそれをやめような?


「そんなんでよく長なんてやってられたな」

「こいつとその取り巻きが里を支配してたようなもんだからな。反抗しようもんなら、廃坑に開いた深~い縦穴に突き落とされて終わりだ」

「おー……聞きしに勝るクズだね。」


 よっ子様があからさまに不快そうな表情を浮かべた。


「誰がクズだクソガキが!」

「え、あんただよ。それくらい分かるでしょ。馬鹿なの? だからクズなんだよ」


 なんの感情も含まない平坦な声で云い返され、クズはたちどころにたじろいだ。


 こっからじゃ分からんかったか、多分、よっ子様は殺気をぶつけたんだろう。


 そうこうしている内にジモンが警邏隊と戻り、親殺しのクズは取り押さえられた。それでもヤツはもがいていたが、弱った力じゃ警邏隊の連中を振り払うなんてできようもねぇ。


 仕舞にはガツンと頭に拳骨を落とされ、気を失った。


 はぁ~……まったく騒がせやがって。


「しかしこの変わり様は酷いな。里はどうなったんだ?」


 大将が首を傾げている。


 確かに、このやつれ様はただ事じゃねぇな。


「気になる? ちょっと調べてみるね。あ、それを連れていくのもちょっと待ってね」


 よっ子様が額に指を当て俯く。


「あー。ドワーフの里の現状が分かったよ。ひっどいよ」

「よっ子様、里はどうなってんです?」

「みんな栄養失調。食事はきちんと食べてるみたいだけど、その内容が偏りまくっているせいで、みんな病気になってるね。コックさんを追い出すからだよ。盆暗ね。


 で、坑道が落盤を起こして重症者多数、死亡者も多数。カーブさんを追い出したもんだから、落盤防止のための梁をきちんと組めなかったのが原因。馬鹿ね。


 おまけに怪我人もきちんと治療できずに、助かる人も助からなかったり、手なり足なりを失う人もでたね。ドクさんとギムさんを追い出すからまともな治療もできないんだよ。先の事を考えられないとか、哀れね。


 あぁ、ギムさんといえば、里を便利にしていた絡繰りものの整備ができなくなったから、凄い不便になってるよ。自分でどうにかできないなら、後先考えずに追放するものじゃないよ。思い上がりも甚だしいわ。愚図ね。


 他にも衣服に問題が出たり、じつは稼ぎ頭だったガラス製品や陶器の生産がなくなったせいで売り上げは右肩下がり。それに加えて大将さんを追い出したもんだから、刀剣や鎧に使う革の品質が落ちて、酷いことになってるね。特に鎧は耐久性がガタ落ちしてる。無能ね。


 さらには手を抜いた生産なんてするから、刀剣も残念なことになってるね。なんで刀剣を鋳造品にしたのさ。折れずにひん曲がる刀剣って、なにを目指してんのさ。詐欺師にでもなんの?」


 よ、容赦ねぇな、よっ子様。


 まぁ、この愚図は気ぃ失ってっから、まるっきり聞いていねぇが。


 しっかし、聞いた内容からするに、まるっきり擁護も何もできんな。儂だったら逆に殴り倒して教育しなおすか、処置無しとして絶縁するところだ。


 そんなことを考えていると、よっ子様が警邏隊に愚図を塔の医療施設へと運ぶように指示していた。


 どうやら助けてやるらしい。


 よっ子様引き摺られて連行される愚図を見送った後、儂らに向き直った。


「あのおっちゃんの病気は脚気と壊血症。どっちも最終的に死ぬ病気。杖なんかついてまともに歩けてないみたいだし、出血して口ん中真っ赤だったし。病気の証拠だよ。

 ここのみんなもそんな病気になられると困るからって、マスターがビタミン補給用に道路沿いに果物の低木樹を植えたんだよ。適当に実を引きちぎって食べてれば、壊血症を防げるから。脚気の方は、ほら、みんなのところに漬物が配られてるでしょ。あれを毎日適度に食べてれば防げるからね」


 儂は驚き目を向いた。


 あの黄色い実のなる木は、そのために植わっていたのか! 美味いもんだから、毎日1個、必ず食べてるんだ。レキナもあれでジャムを作っていたしな。女神様にあらためて感謝せねば。


「アレの処遇は?」


 大将が顔をしかめつつよっ子様に訊ねた。


 あの表情からして、あの愚図をアレと呼ぶことさえも嫌なのだろう。


「あれ? 里に返すよ。ついでに病気の対策を記した紙と、食糧も必要量支援するよ。そうすれば、いままで通りに粗悪品を作ってくれるだろうからね」


 唖然として儂はよっ子様をみつめた。


 なぜそんなことを?


「理由はねー、剣の納品先がベレシュだからさ。どうせ近いうちに、ここに喧嘩を売ってくるのがわかってるからね。なまくらな武器を抱えて来てもらおうってことだよ。少しくらいは、勝てる! っていう希望を夢見させようってことみたい」


 儂と大将は唖然として顔を見合わせた。


 おい、マギー、お前はなんで肩を震わせてんだ? 笑うなら普通に笑やいいだろうに。


 しかしだ。思ってたよりもマギーは武闘派だな。技術交換の修行に出す前はこうじゃなかったと思うが……。


 あぁ、蛇頭共に捕まったりしたからな。いろいろと思うところがあったんだろう。さっきも、なぐ様から戦い方を教わっているようなことを云っていたしな。


 しかし、ベレシュとの戦争を女神様は見越しておられるのか。


 まぁ、連中からしたら、領土を増やせる程度にしか思わんだろうが。だがここまでどうやって来る気だ? 砂漠の真ん中だぞ。当然だが、女神様はモノレールで運んでやるなんてことはしないだろう。


 ま、知ったこっちゃないか。


 さてと、よっ子様と大将がもってきた書物の類は、儂らがお願いした、新型の炉を設計するのに必要な資料だろう。


 あの愚図のことなど忘れて、仕事を再開することとしよう。


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― 新着の感想 ―
[一言] ····流石に「ひん曲がる剣」は携えて来んでしょ···来無ェよな? ···ソコまでバカじゃ無ェよな!?
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