※ 楽しい武器開発
「メイドちゃんや、メイドちゃんや」
私はそれをメイドちゃんに見せびらかしつつ、こう訊いた。
「これを見ておくれ、どう思う?」
メイドちゃんはいつもの残念なものを見るような目をすると、こう答えた。
「すごく……卑猥です」
「ちょっと!?」
さすがにそれは心外な感想だよ! これのどこが卑猥だっていうのさ。
普通の短杖だよ! 見た目は!!
「どこが卑猥なのよ!」
「太さと、長さと、そしてなにより艶です!」
「ちょっ!?」
メイドちゃんは表情を一切変えずに答えた。
「そもそもその凹凸はなんなのです? ……はっ!」
「な、なに?」
「ま、マスター? その、私でしたらいつでも……」
……なんでもじもじしながら顔を赤らめるのかな? というか、なんでそっちにさっきから誤解してるのかな?
え、揶揄ってるんだよね? マジな反応じゃないよね?
なんだろう。取り返しのつかない事態になりそうな気がする。
「メイドちゃんや。これは武器だよ。【銀】の何人かから褒賞で渡す武器の希望を聞いてね。それで創ったのさ。
正確には、希望したものを事情があって却下したから、その代替品のひとつとして試作したものだよ」
メイドちゃんが眉根をよせた。
「武器、ですか? 短杖にしても、短すぎる気がしますが。暗器としては大きすぎますし。そもそも、それはどう武器として使うのでしょう?」
「それはね、こんな感じだよ」
手の金属製の筒を起動する。
すると微妙に電子音っぽい音とともに、筒から光が現れる。
それは地球において、世界的に有名なSF映画登場する光剣そのもの。
軽く振るだけでも、ぶぉんぶぉん、と、独特の風切り音(?)が響いた。
ふふふ、我ながらいい出来だよ。
「……えぇ」
「ちょっと、その反応はないんじゃないかな!?」
「マスター、なにを創っているんですか。完全にオーバーテクノロジーじゃないですか。いったい、どれだけのDPを無駄使いしたんです?」
じっとりとした視線が私に向けられる。
「使ったDPは全部で1024DPだよ」
「……は?」
「1024」
「……桁がみっつくらい抜けていませんか?」
「間違ってないよ。4桁。この無駄な装飾と、出力調整用のリミッターをつけなければ、ぴったり1000だったんだけどね」
なんで自分のほっぺを抓っているのかな?
「マスター、大変です」
「なにかな?」
「目が覚めません!」
「現実だよ!!」
さすがに酷くないかな? なんでこんなに信用されていないのさ。
★ ☆ ★
「申し訳ありません。取り乱しました」
「いや、まぁいいけどさ。メイドちゃんの私に対する認識とか評価とかがわかったし」
ぬぅ、露骨に目を逸らしおって。この期に及んで、まだ私を揶揄うか。
「それで、なんでそんなトンデモ兵器を創ったのです? オーバーテクノロジーどころではないかと思うのですが」
「あ、これだけど、科学的な代物じゃなくて、魔術的な代物だよ」
「はい?」
メイドちゃんが首を傾げた。
うん。私が提供した地球の娯楽に大分染まった弊害かな?
「この光剣の部分だけど、これ、待機状態の【マジックミサイル】。この状態で固定して、炸裂しないようにしてあるんだよ。で、【マジックミサイル】は物理魔法だから、待機状態のこれで殴ってもダメージをだせるのさ。出力を上げれば、それこそ映画の光剣みたいにスパスパなんでも斬れる代物になるけど、そんなことすると、一瞬で使い手が魔力切れを起こす欠陥品になるけどね。だからリミッターをくっつけて、そんな事態にならないようにしてあるよ」
メイドちゃんが唖然とした顔をしている。
「実は光剣の登場する話はあの映画以外にもあるんだよ。映画の光剣は科学なんだか魔術なんだか邪術なんだかしらないけど、あるSFラノベだと気合と根性をエネルギーにして光剣にしてたね」
「気合と根性って、なんですかそれ……」
「これも似たようなもんだよ。個人の保持魔力なんて精神力みたいなものだし、精神力は気合と根性である程度増減するしね」
私はこないだ制圧した海賊共から押収した鋳つぶす予定の長剣を取り出し、ぽんと放り上げた。そしてそれを手の光剣で一閃する。
長剣は綺麗に真っ二つになった。レーザーソードなどではないから、切り口が焼けるなんてこともない。
うんうん。満足な出来だよ。まぁ、これはリミッターをちょっと緩くしてかなり出力が上げているから、ここまでできるんだけどね。魔力の減衰も、攻撃を当てない限りはほぼ起きないから、燃費もかなり良い。出力を無制限に上げて、それこそなんでもかんでも斬れるようにすると、展開するだけでぶっ倒れるだろうけど。
そうそう、剣の扱いに関して私は素人みたいなもんだから、普通ならこんなことはできないよ。だからこの切れ味は光剣の性能そのものだ。
「なかなかの斬れ味でしょう。あとこれ、スペツナズナイフみたいに、光剣部分を飛ばせるよ。【マジックミサイル】だからね。そして当然、射出した直後に再度光剣を展開することもできる。魔力を使うけど」
「前衛が持ったらとんでもない戦力UPになりそうですね」
「ウチの子たちの標準装備にしようと思ってるんだけど。魔法使いはじっ子だけだから、ほかのみんなは魔力を持て余してるわけだし」
メイドちゃんはあんぐりと口を開けたままだ。
「メイドちゃんや?」
「は、はい? あ。え、えぇ、問題ないといいますか、いいと思います。DPも問題ありませんし。
ところで、【銀】の3名より要望されていた褒賞用の剣はどうするのです? これを標準装備とするなら、ほかに考えなくてはなりませんが。一応、要望はあったのですよね?」
問われ、私はため息をついた。
正直、うまくいっていないんだよ。どうにもいい感じに面白いものができなくってさ。
「高周波ソードを希望されたんだけれどねぇ。あれは却下したんだよ。似たようなものは地球でも実用化されて、医療で使われてるみたいだけれど。実際、試用してみたんだけれど、肉を斬るのならともかく、硬いものを斬るとなると、結構簡単に折れるんだよ。あと、もし高周波ソード同士を打ち合わせたら鼓膜が死ぬ」
「あー……。剣の素材の方に問題がでるのですね。音も……確かに想像がつきますね」
「そういうこと。結局のところ、あの子達が求めてるのは切断力でしょ。だからフェイドンウェポン擬きを創ったよ。ただ、剣としてはじゃじゃ馬過ぎる代物だから、納める鞘の方が高くついたよ。正直、危な過ぎてお蔵入りにしないとダメだね。というか作っちゃダメな代物だった、これ」
メイドちゃんの口元が引き攣れた。
「あ、あの、どの程度のDPを消費したので?」
「鞘を含めて、一本あたり800位かな。もちろん、コストの大半が鞘」
「安くありませんか!? そもそもフェイドンウェポンってなんです?」
あー、知らないか。まぁ、超どマイナーなSFトンデモ武器(剣)だしね。
実際、SFといっても、有り得ない代物だから。
フェイドンウェポン。名称は若干うろ覚えだけれど、あっている筈だ。で、こいつはなんぞやというと、単一原子武器の総称だ。或いは単一分子武器?
……うん。この時点でおかしいよね。原子が単一でなんで剣の形をしてるんだよ! って話だからね。
まぁ、当然のことながらそんなモノを創り出すことはできないので、剣の刃の部分の幅を、それこそ原子ひとつ分レベルにまで研ぎ澄ました剣を創ってみたんだよ。
うん。斬れすぎて厄介な代物になった。
ときどき漫画なんかでとてつもなく斬れる包丁なんてでるじゃない。食材どころかまな板をも当然切り裂いてシンクまで台無しにする包丁。まさにそれができたよ。
斬りたくもないものもスパスパ斬る剣は、却って使えない代物だからね。下手に置いておくのも危ないから、特製の鞘を創ったよ。力場で何にも触れることの出来ないようにして、中に収めることのできる鞘。普通の鞘だと、斬れてすぐに使い物にならなくなるからね。
こういったことをメイドちゃんに説明したよ。
「制御できない武器はただの危険物ですよ!?」
「うん。だからお蔵入りなんだよ」
私は答えた。メイドちゃんはため息をついた。
「それで、褒賞用の剣はどうするのです?」
「ガンブレードでも本気で作ろうか? でもあれ、実際の所産廃だからなぁ。だから私はガンアクスにしたんだし」
冗談じゃなしに、ガンブレードは見てくれだけで、実用性皆無の産廃なんだよ。使いようによって馬鹿げた威力を出すなんてこともできないから、ロマン武器ですらないという、まごうことなき産廃だ。
一応、設定上では高周波ソードに分類されるんだよね、あれ。銃撃の瞬間だけ高周波ブレードにするっていうことらしいし。いや、ねぇよ。なんだよそれ。
実のところ、ファンタジー系の刀剣であれば、トンデモ武器がもうひとつ思い当たるものある。私の知識だとこれでネタ切れかな? あとは神剣の類になるから。
これは実際には武器ではなく、武器に付けるオプションというか……幽霊? なんだけれど。
どういうものかというと、武器に幽霊を取り憑かせた武器だ。ひとたび切り付ければ相手の弱点を看破し、二度目に切り付けるときにはその弱点を突く属性に変化させ、その斬撃を致命の一撃とするというものだ。
要は、二撃必殺の武器だ。
武器に幽霊の取り憑いた宝珠をくっつけることで、トンデモ武器となる仕様となっていた。幽霊と会話もできるから、インテリジェンスウェポンになるのかな。
これを作ろうと思えば出来なくもないんだよ。機能を削ぎ落して、そういったことだけが出来るダンジョン・コアを作ればいいんだから。それを剣の柄にでもくっつければ、その剣はダンジョン化して、先に云ったような効果をもった剣となる。
あぁ、やろうと思えば、一撃目で相手の固有振動数を求め、二撃目でそれに合わせた高周波ソード化もできるのか。それならアリかな? ダンジョン化した武器だからまず折れない。
実際、似たようなことはもうやっている。潜水艦がそうだ。あれ、ダンジョンだし。
ただそうすると別の問題がでてくる。
褒賞品とするには破格過ぎる。
メイドちゃんに思いついた武器の仕様を説明してみた。
あからさまに顔を引き攣らせていた。その上で、絶対に創るなと云われたよ。
まぁ、そうだよねぇ。武器としては異常な代物になるもの。
「とにかく、【銀】に渡す剣は別に考えましょう。普通に【氷の剣】とか【炎の剣】とかで良いと思います」
「【天叢雲剣】とか【嵐の担い手】とかは?」
「絶対に止めてください!」
メイドちゃんに本気で止められた。
うん。真面目にほどほどな剣を考えるとしよう。
誤字報告、感想、ありがとうございます。




