04 1ヵ月も寝てたのか、私は
1ヵ月……。
1ヵ月も寝てたのか、私は。
その間になんだかダンジョン関連が凄い整備されたというか、きちんと細かいところまでうまい具合にまわってるんだけれど。
「お姉ちゃんも頑張ったわよ!」
……お姉ちゃんが「ふふん♪」と、ない胸を張って得意気なんだけれど。
私はメイドちゃんを見た。
「設定していなかった細かな部分、また、問題となりそうな部分の修正は、姉様の提案によりほぼ全て完了しました。
こちらがダンジョン関連で変更となった部分です」
……手際いいね。
書類、といっても一枚だけれだけれど、それを受け取り目を通す。
【サンティの塔】のルールがひとつ追加されてるね。幻獣の召喚は2体までしかできないことになってる。
あぁ、確かに。ディートリントみたいに大量にだされたら、ダンジョンのコンセプトが崩れるものね。実際、2体までで想定して設計してあるし。それを明言化して、ダンジョン側で制限を掛けた感じか。
えーっと、あとは……あれ? 幻獣のカード化? どういうこと?
私はこのことについてメイドちゃんに問うた。でもメイドちゃんが答えるよりも先に――
「説明するわ! それはね、コレクター魂を満足させるためのものよ!」
お姉ちゃんが【ババン!】と、効果音を背負って天井を指差した。
って、なんだこれ!?
「……お姉ちゃん」
「なにかしら? 雷花ちゃん」
「生前も効果音を背負ってるような調子だったけれどさ、なにも神様になったからって、実際に効果音を視覚化することはないと思うの」
「……はい?」
あれ?
「待って、雷花ちゃん。雷花ちゃん待って」
しかめ面を浮かべて、お姉ちゃんが額に指を当てた。
「え? どういうこと?」
「え? 気がついていないの?」
「恐らくは、光の権能が誤発動しているものと思われます。特に害があるわけでもありませんし、権能の扱いに慣れれば暴発することもなくなると思われます」
お姉ちゃんがメイドちゃんの方を向いて、目をパチパチとさせた。
うん。混乱してるね。というか、理解できていないみたいだ。
「え、えっと、雷花ちゃん、私はどうなってるの?」
えーっと……こんな感じかな? お? あ、できた。
私は先ほどお姉ちゃんがやっていたことをやってみせた。……あれ? なんか妙にしっくりする感じで権能が扱えるな。ぶっ倒れる前までは微妙に違和感と云うか、ブレ、ズレを感じてたんだけれど。
あ、あれ? お姉ちゃんが頭を抱えてる。
「お……おぉぅ、これは酷い。メイドちゃん、私、こんなことになってたの!? なんで教えてくれなかったの!?」
「特に害があるわけでもありませんでしたので。それに、姉様の存在を知らしめるには丁度良かったこともありましたから。
神の一柱ですと紹介しても、それを信じる者はそうはいませんから」
お姉ちゃんは死んだ魚みたいな目でメイドちゃんを見た。
「……何回くらいやったのかしら?」
「私の把握している限りでは……人前では7回でしょうか。目撃したどなたも目の錯覚と思っていますから、問題はありません」
お姉ちゃんが小さく奇声を上げて再度頭を抱えた。
ま、まぁ、そっとしておこう。
「えーっと、コレクター魂って?」
「はい。幻獣が50種以上いるというのに、2種しか手元に置けないというのは、誰もが残念に思うだろうと姉様より苦言を呈され、相談の上仕様変更をしました。
現在は自身にインストールした場合と、カードの場合とで幻獣の仕様を差別化することで、コレクションできるようになっています」
あ、あー。そうか。そういうこと。そこは失念してたなぁ。私としてはペット的な感覚だったから。
普通は、ペットをコレクションしようとか思わないもんね。ペットショップにいって、端から端まで全部買う馬鹿なんて、まずいないし。
でも幻獣だと餌だのの問題もないし、集めるのもダンジョンで卵を拾ってくればいいだけだから、確かに蒐集しようって気にもなるか。
メイドちゃんが現物を数枚、私の前に並べた。
おー。なんかトレカみたいな感じだね。ただ、ちょっと厚みがあるけど。
……ちがうなこれ。もしかしてカードの縁とかがスライドするような機械的なギミックがあったりしない?
「さすがマスター。ひと目で看破しましたか」
「いや、看破っていうほどじゃないでしょ。ていうか、なんでこんな物々しい感じにしたの? いや、この方がなんか、価値があるような感じだけどさ」
「ロマンよ!」
あ、お姉ちゃんが立ち直った。――んだけれど。
「お姉ちゃん、効果音」
「あああああああああ」
お姉ちゃんは再び頭を抱えて蹲った。
「真面目な話、これならうっかりで捨てるようなことはないだろうと」
「まぁ、カードというより、板だしねぇ。なんか歯車が見えるし」
薄いのに妙にメカメカしいよ。
「魔力を通しますと、ギミックが起動します。といっても、縁の部分が外部に少しばかりスライドするだけですが。イメージ的には封印解除、という感じですね」
……フレーバーギミックとでもいえばいいの?
というかメイドちゃんや、ジャパニメーションとかに色々と毒されてないかな? いや、それが悪いこととは云わないけどさ。原因は私だし。
そのあと、このカードのホルダー兼バインダーとなる本を見せてもらった。見た感じ魔導書っぽい感じのデザインだ。
うん。如何にもな雰囲気だ。
というか、ホルダーもバインダーも似たような意味だな。ここでは、ホルダーは単に格納するためのもので、バインダーはカードを発動させるための触媒という意味で使っている。
デザインは統一してあるのかな? あ、希望に合わせて変更できるんだね。オリジナルでデザインも可と。
うん。まぁ、いいんじゃないかな。個人個人の魔術書みたいで。
「マスター、ひとつ報告があります」
「ん? なにかな?」
「大神様が少なくとも1年はここに滞在するとのことです」
へ?
「え? 大丈夫なの? そんなにお休みしてて」
「さぁ? ですが、なにか問題が起きて困るのは大神様です。知ったことではありません」
うん。あからさまに機嫌が悪くなったね。なにがあったのかは知らないけど、大神様の滞在の件に関しては、触れない方がようさそうだ。
「まぁ、気が済むまでいて貰えばいいよ。いるだけでDPが大量に入ってくるわけだし。コア、現状でどのくらいはいったのかな?」
《このひと月で、大神様1柱だけでおよそ30億DPほど生み出しています》
おぉ。ってことは、1日あたり1億DPも落としてるのか。
「量としてはかなり抑えられていますね。まぁ、人型の容れものに押し込め、かつ地上に影響を及ぼさない範囲にまでしているわけですから、然もありなんということですね」
……1日1億でも控えめなのか。素のままで顕現してたらどうなったんだろ? あ、そうなったらもうこの星は崩壊しちゃってるのか。そう考えると、神様ってとんでもない存在だな。
それはまぁ、いいとしてだ。
「メイドちゃんや」
「はい、なんでしょう、マスター」
「いまは何時かな?」
「午前4時27分です」
また随分早いな。
ベッドから起き上がる。というかいまさらだけどこのベッドはなんなの? なんで私は天蓋付きのベッドで寝てるのよ。
って、ここ、マナリヤの広場じゃん。
「この場所の方が回復が早いと思われましたので」
「あぁ、そういう……あ」
「どうされましたか?」
「地球の神は?」
「既に帰られました」
くっ。せめて1発くらいぶん殴りたかったのに。まぁ、1ヵ月も寝てたんだし、仕方ないか。
……あれ? 私、神界、神域だっけ? 行けるようになったんだよね。それならそこ経由で地球に行けたりする? もしそうなら彩に直接謝りたくもあるんだけど。
まぁ、それに関してはあとで大神様に聞いてみよう。とりあえずいまは――
体を捻りつつ、大きく伸びをする。
おぉう、そこかしこからバキボキ凄い音がするぞ。酷いなこれ。筋肉とかは落ちていないみたいだけど(さすが神様仕様)、コリというか、鈍り方が酷い。
私はベッドからでると、もう一度体を軽く動かす。うん。ダメだコレ。
「お姉ちゃん、ちょっと上に行ってくるね」
「上って、地上? どうしたの?」
「ちょっと体を動かして来る。さすがにひと月も寝たきりだと、身体が酷いことになってる」
「……なんかパキポキこっちまで聞こえるわね」
「うん。だからほぐして来るよ。町の外周を1周もすれば、いい感じにほぐれるでしょ」
そう答えると、お姉ちゃんは目をそばめて口をへの字に曲げた。
「町を1周?」
「うん」
「何キロあるかわかってる?」
「えっと……20キロまであともうちょっと……ってくらい?」
「そうね。ちょっと走って来るって距離じゃないわよ。ロードワークなんて、せいぜい10キロくらいなものでしょ? なんでハーフマラソンなんてするの」
「そこまでの距離はないよ」
「似たような物よ!」
また効果音が見える。これ、ちゃんと制御できるようになるのかな?
些か不安に思いながらも、私は云った。
「でも、生前も毎日同じような距離走ってたし」
「は?」
「毎日ジョギングしてたのは知ってるでしょ?」
なんで頭を抱えるのかな?
「あの、姉様? 地球人としては普通のことではないのですか?」
「さすがに日課がそれっていうのはオーバーワークだと思うわよ!」
オーバーワークかなぁ。アスリートの人たちのトレーニングに比べたら、かなりぬるいと思うけど。ただ走るだけだし。軍隊式の声だししながらとか、マスクをして走ってるわけじゃなし。
それじゃ、ちょっと走って来よう。日が昇りきってからじゃ暑いし、なにより目立ちそうだしね。
なんか、お姉ちゃんはメイドちゃんとあれこれ話しているし、とっとと走って来ちゃおうか。
私はパチンと指を鳴らすと、地上へと転移した。




