06 雪歌と色
色の話をしましょう。
色にはイメージというものがあります。それにより、人は偏見や思い込みをします。
実際、色には効果もありますしね。まぁ、光の周波というものがあるわけですから、当然といえば当然なのかもしれませんが。
なんの話かというと、例えば、赤は熱をもたらすということです。
青いパンツと赤いパンツ、どちらを穿くほうが温かいのか? というようなことです。もちろん、赤のほうが温かく感じます。当然ながら、双方のパンツの温度を計っても、違いがあるわけではありませんけれど。
正確には、色が身体に働きかけて反応を引き出す、ということです。
そういった事もあるため、色にはイメージというものがあります。
ですが、この世界と地球とでは1色、いえ、2色ほどまったく違うものとなっています。
はい? なんで急にこんな話を始めたのかと?
えぇ、発端は昨晩のことです。ガチャの景品に関して、姉様と相談していたのです。
「ダンジョン開業記念ガチャはやるべきよ!」
またしても無駄にテンション高く、拳を握り締めつつ姉様がいいました。
ガチャ、といっていますが、実際のところは福引形式ですが。
あぁ、でも、各賞の本数が決まっているわけではないので、福引とはちょっと違いますね。
現状ではA賞からE賞までの賞を5つ用意しています。
A賞が2%ともっとも確率が低く、E賞が50%と、いわゆるスカ枠となっています。
話に聞くスマホゲーとやらのガチャに比べると、遥かに温いとのことです。私からすると、この確率も大概と思うのですが、そのゲームのガチャはどれだけ厳しいのですか?
いえ、それはさておいてこっちです。
で、記念ガチャの景品の最上位のA賞の景品として、幻獣の卵を6種類。正確には1種ですが、バージョン違いで6種類いれることになりました。
なんと申しますか、姉様がまた妙なことを云いだしまして。
「戦隊物的な幻獣を作るわよ!」
は?
「ちゃんと案は考えたわ」
ばんっ! っと、テーブルに叩きつけるようにデザイン画を姉様が広げました。
「クモにヘビ、トカゲ、タコに加えてカッパまでいるのに、アリンコがいないのは納得がいかないわ!」
あー……それですが、大牙砂蟻というのがいますから、マスターはあえて外したのだと思います。幻獣のネタを出すのに四苦八苦していたのに、アリをモチーフとしたものを加えることはしませんでしたから。
散々相手にしてきて、もう見たくもなかったのかもしれませんが。
「どういうことかしら?」
首を傾げる姉様に、以前のダンジョンの状況を話しました。
「え? 総数が10億以上って、よくそんなのを駆逐できたわね」
最低限の支配地を取り戻すことで全蟻コロニーを囲うことに成功。その後、ガスを用いて蟻コロニーに流し込んで殲滅しました。
「ガスって、また恐ろしい選択をしたわね、雷花ちゃん。なにを使って――二酸化炭素!?」
姉様が目をぱちくりとさせています。
「ま、まぁ、虫だって呼吸はしているし、酸素が無ければ死んじゃうわね。それに毒ガスと違って、後始末も換気だけで済むし」
どういうことでしょう?
「だってホスゲンとか洒落にならないわよ。あれって確か解毒剤が存在しなかったと思うし。ほかにも、ものによっては半減期が長かったりすると、事が済んでもちっとも安全にならないわよ。リシンとかはすぐに分解しちゃうらしいけど」
少々気になるので、ダンジョン・コアを介して詳細情報を確認しましょう。……うわぁ、色々と洒落にならない代物じゃないですか。というか、地球人はこんなものを兵器として使用しているのですか?
人の業というものを垣間見た気がしますね。
いえ、いまはそれはどうでもよいことです。
姉様の話を聞くとしましょう。
「え? あ、そうね、話を戻すわよ。
それでね、特撮戦隊物っていったけれど、バージョン違いのある幻獣を景品で出そうってことなのよ。似たようなものは実装されているけれど、それよりも手軽な感じの幻獣ね。進化もなし。でも小隊で使用すると強いみたいな感じ」
似たようなもの、というと、6階から出現する各エレメントを人型にしたあの4種のことですね。アクア、イグニス、トニトルス、ラピスの人型幻獣4種。追加で2種、ルーメンとノックスが上層に実装されています。
これらは2段階の進化します。最終的には港のダンジョンのボスをしていた砂竜亜種ぐらいとなら、単体で殴り合えるくらいには強くなります。
ですが、集団戦に長けた幻獣はいませんから、面白いと思います。いずれはソロ専の召喚師なんて方もでてくるでしょうしね。
では、姉様の描いた幻獣のデザインとその仕様を見てみましょう。
【アントマン】。アリをモチーフとした幻獣。二足歩行で腕が4本という形式。頭身は3頭身と、見た目的にはかなり可愛らしい感じです。
はい? 7頭身のいかにもな感じのデザインもあるのですか? 拝見します。……うわぁ。妙にリアルで怖いのですが。……あぁ、姉様も自身で描いておきながらそう感じて、こちらのデフォルメしたようなデザインに変更したと。
日本の特撮モノにはバッタを模したものがありますが、それのアリバージョンとでもいいましょうか。ただ、頭部はアリ寄りですので、丸くはなく、やや平たい感じになっています。
カラーは6色。赤、青、黄、緑、黒、白となっています。
……えぇ、ここで先にも云いました問題がでてきます。
色のイメージです。
エレメント的には、赤=火、青=水、黄=土、緑=風です。このあたりは問題ありません。
ですが、黒と白は地球のイメージと大分変わります。原因は宗教です。
えぇ、だいたい【白教】のせいです。
まず黒ですが、黒=闇というのはそのままですが、同時に“生”と“死”というイメージがあります。これは【黒教】によるものです。
すべての色を混ぜると黒となる、などといいますが、この世界ではそのことから、全ての色は“黒”から生まれたとされています。
ですから、黒色に対して悪いイメージというものを持つ人はこの世界にはいません。
“宗教は【黒教】にはじまり【黒教】に終わる”などと云われているくらいですからね。
問題は白です。【白教】が絶対正義を掲げてそこかしこでやらかしまくった結果――
白=横行闊歩。傍若無人。梁冀跋扈。
……ロクなものではありません。本来なら“清純”とか“無垢”とかなのでしょうに。でてくるものがほとんど暴力です。
いえ、六教ができる以前、およそ5000年前であるならば、地球と同様、清純等のイメージだったでしょうに。
本当に白竜はロクなことをしていません。
もし連中の掲げる正義が一元化されていたならば、この世界は【白教】一色に染まっていたでしょう。
ですが、各々の正義感、殊にさして重要でもない細かなところでの違いから互いに殺し合いをしたりしている有様のため、世界はまだまともなのでしょう。
まぁ、“正義は我にあり! 戦いで決着を付けよう!”という、思考を放棄した脳筋共が支配している宗教(国家)ですからね。
さらに詳しくいうならば、【目玉焼き戦争】の決着の為にガチの殺し合いをする阿呆共です。いえ、実際にそこまでのことはしていませんが、似たような程度のことで決闘をしている事案は少なくありません。
そんなわけで。この世界での“白”に対するイメージはロクなものではありません。
それを姉様に伝えました。
「……えぇ」
さすがの姉様も顔を引き攣らせています。ドン引きです。
「えっと……そうなると私はどう思われるのかしら?」
「さすがに見てくれが白いからといって、敬遠されたりなどはしないと思います」
「楽観的すぎない?」
「化粧で白くしているというのならばともかく、生まれつきのものですから。さすがにそこまで狭量な人ばかりではありませんよ」
私は答えましたが、姉様は懐疑的なようです。
「……まぁ、私は他所へ行こうとは思わないから問題ないわね」
「引き籠りますか?」
「そうね……。お外にでると焦げるし」
焦げるって……。まぁ、お日様が大敵であるのは事実ですが。
「とりあえず、それはどうでもいいわ。最悪、私が白のイメージを変えてやるわよ! 1000年くらいかけて!
それはさておいて、白のアントマンは再考した方がいいわね。……面倒だから銀色にしましょう」
また適当ですね。なんでしょう、このあたりはマスターを彷彿とさせますから、まさに姉妹といったところなのでしょうか?
「問題は能力ね。もともと白が回復系のつもりだったのよ。でも回復系は黒に持たせた方がよさそう。そうすると白……じゃない、銀はどうしようかしら?」
物理――斬撃特化でいいんじゃないですか? 銀色で武器というと、誰もが刃物を思い浮かべますし。
「物理特化は赤のつもりだったのよね。とすると、赤はリーダー、青は技、黄は力自慢、緑は速さ。で、黒が回復と。……銀は特化ではなく、器用貧乏でいいわ」
また投げやりな。
「だって思いつかないもの。まぁ、戦隊ものだとお助けキャラ的な立場だから、何でもできるけど特化型程じゃないっていうのが無難よ。
ダークヒーロー枠がいなくなったのが辛いわね。ま、いっか」
云いながら、姉様はデザイン画に記されている説明書きを変更しています。
かくして、半ばなし崩し的に記念ガチャを行うことになりました。
これは正式開業後、30日間行う予定です。
パメラさんあたりが狂喜しそうですが、まぁ、問題はないでしょう。




