表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/141

06 森林ダンジョン攻略


 ダンジョン・コアからDPを吸い上げて破壊。あとはウチのダンジョン・コアにこのダンジョンを掌握して貰えば、ここの制圧は完全に終了だ。


 と、DPを抜く前に、ダンジョン内のゴーレムをすべて停止させよう。……よしっと。ほいじゃDPを吸い上げてっと。……やっぱりあんまり回復した気がしないなぁ。


 よし、それじゃキミは用済みだ。死にたまえ。


 うん。港のダンジョン・コア同様、死にたくないと騒ぎながら自壊した。なんでわざわざ自我をもたせたんだろう? 暴走したら厄介極まりないと思うんだけど。


 あのボスゴーレムみたいなのを外に出して侵略行為なんてされたら、普通にそこらの国が滅んじゃうよ。


 さてと。そんな“たられば”な考えはどうでもいいとして、残すは森林のダンジョンのみ。


 あそこはここの子ダンジョンではあるが、親ダンジョンのダンジョン・コアを支配下においたところで、自動的にその支配権が移るなんてことはなかった。


 意外にも、親ダンジョン・コアが攻略された時点で独立するようだ。


 ……となると、あっちのダンジョンマスターはいまどうなっているんだろう?


 慌ててるんじゃないかな? 独立できたのは願ったりだろうけど、ウチの子たちが突撃しているし、不本意な形でウチに侵略しちゃってるような状態だからね。


 ほら、向こうのダンジョンマスターも調べたわけだけれど、普通に真面目な人となりなんだよね、あのリザードマン。彼のいた集落も平和的な感じだったし、平穏に暮らしたいだけなんじゃないかな?


 交渉してみようか。


 転移ゲートを開けて、半身だけ拠点に戻す。


 そこではメイドちゃんが仏頂面で私を待っていた。


 うん。ご機嫌斜めだね。まぁ、私が止めるのを無視して勝手をしたからねぇ。


「メイドちゃんや」

「なんですか、マスター」


 ぶすぅってしてるなぁ。


「向こうのダンマスと交渉してくんないかな。こっちが潰されたのが分かっているだろうから、もう向こうは自由なんだよ。多分、戦争続行を望んではいないと思うんだよね。ということで、降伏勧告をお願い」

「了解しました。そちらのダンジョンマスターはいかがなさいますので?」

「あれ? あれかぁ……。一応生きてるんだよねぇ」


 どうしようか……そうだ!


「故郷に放り出すことにしよう。領主の娘を強殺してんだから、そこでしっかり罪を償ってもらいましょ。7、8年前のことみたいだけれど、いまでも領主様は健在でしょ。『この者、領主令嬢を強姦し殺害した者也』と記した札を首から下げて、ふん縛った上で領主邸の庭にでも放り出すよ」

「場所は分かりますので?」

「世界樹で調べた時に確認してるよ。トラスコン王国東端のステルッカっていう港町だよ。それじゃ、そっちはよろしくねー」


 そういって私はゲートから体を引き抜いた。


 そいじゃ、看板を用意してと。


 木板に文字を焼きつけた代物を、首輪と鎖でつないで、ロープでグルグル巻きにして……っと。


 よし、これでいいかな? 念のため、こいつの状態を確認しとくか。


 ……うん。問題なし。電撃での後遺症はないね。私が極めて投げたことで、肩を痛めてる程度だ。よしよし。


「管理システム、ステルッカの映像をだせる?」


《こちらを》


 目の前に航空写真みたいな感じで港町の映像が現れた。


「えーっと、領主邸はどこだろ?」


《こちらになります》


 町全体を映していた画像がズームして、町のほぼ中央にある大きな屋敷をだけとなった。門の所に門衛が立っているが……。


 あくびしてるね。まぁ、ただ突っ立ってるだけじゃ退屈だろうしねぇ。


 それじゃ、眠気覚ましのお仕事を差し上げましょ。あそこへ転移ゲートをつないでと。ゲートは床に開こうか。穴みたいに。


 畳半畳くらいの広さのゲートを開くと、いまだ気絶しているダンジョンマスターを、幼女スライムたちがそこへと放り込んだ。


 映像を見ると、いきなり背後に落っこちてきた男に、門衛のふたりが慌てている。


 あとはお任せだね。おっと、ゲートを閉じないと。よし、これで完了っと。


 ちょっと見物しようか。


 あ、首の札に気が付いたね。まぁ、かなり大きいからね。おー、ひとりが慌てて屋敷に走って行ったよ。


 ややあって、身なりの良い妙にガタイのいいおじ様がでてきた。領主さんかな? なんか、イメージしていた領主と違う。どこのグラディエーターだって感じだけれど。


 あ、ダンマスの襟首つかんで、片手でブンブン揺すってる。


 ま、これで断罪されるだろう。きっと拷問官とかいるだろうし。


「管理システム、ありがとう。もう消していいよ」


《了解しました。またなにかありましたらお呼びください》


「うん。その時はお願いねー」


 さてと、それじゃ、こっちは後始末に入るかな。あっちのダンジョンはどうなったろ? まぁ、メイドちゃんが上手くやってくれるだろう。



 ★ ☆ ★



 私たちは困った状況にあります。


 敵はゴブリンの大群。10万以上の数というのですから、まさに大群です。


 とはいえ、そのゴブリンのすべてが我らがダンジョンに向けて進軍しています。そのルートはこのダンジョンから延びる海底トンネル。その距離は約200キロ。その距離をゴブリン共は徒歩で突き進んでいます。


 いえ、ウチのダンジョンの手前あたりに、待機所のような場所をつくり、そこに集めている。もしくはそこで生産しているのかもしれません。


 ですから、このダンジョン内にはさほど数は残っていないと思われたのですが……。


 我々が森林ダンジョン内に突入し、ある程度まで進軍したところで突如としてゴブリンが襲撃してきました。


 察するに、我々の突入に対し、急遽ゴブリンを大量生産したのでしょう。


 現在、私たちは分断され、ダンジョン内に取り残されたような状態です。


 ドールズの大半が溢れるゴブリンのためにダンジョンから押し出され、いまダンジョン内に残っているのは私とマリア。そしてドールズの分隊数チームというところでしょう。


「なな子姉さん」

「どうしました?」

「魔力が尽きそうです」


 さすがに限界が来ましたか。それも当然のことでしょう。すでにマリアはひとりで大量のゴブリンを屠っています。ほぼ魔力を使用せず、【マジックバレット】を延々と撃ち続けることのできる銃とはいえ、さすがに連続射撃で無限とはいかなかったようです。じりじりと弾薬……【マジックバレット】として使用される魔力は自然回復量を上回り、ついにはほぼ使い切ったのでしょう。


 もっとも、その仕様であるとはいえ、マリアはひとりで恐らく万を超えるゴブリンを仕留めています。武器としてあまりにもおかしな代物であるとしか思えません。そしてそれを成し得たお母様に感服するばかりです。


 そして私はと云うと、陣取ったこの直線路でグランドスライムに簡易の壁となってもらい、それを台にして狙撃をし続けているという有様です。尚、私が仕留めた数は、いいところ1000といったところです。


 死体は山積みになることもなく消えていくことから、こちらにむけては使い捨てのゴブリンを生み出し送り込んでいるのでしょう。


 確か、ゴブリンはDPコストが5のはずです。……いえ、それは肉体ありきのゴブリンですね。使い捨てのゴブリンであれば、さらに安価なはずです。2ぐらいでしたでしょうか?


 確か、お母様が1DP100円くらいかな、などと云っていましたね。


 閉所で運用し敵を数の暴力で押し切るには最適とまではいきませんが、よい選択の魔物といえます。最良はDP1で100匹以上用意できる、小型のネズミなり昆虫なりで作り上げた大群でしょう。


 いまは前方でお姉様の操る案山子教官が半ば足止めをしてくださっているので、こちらに一気に押し込まれることもなく、狙撃するだけで問題なく始末できています。


「マリア、実弾に切り替えなさい。弾薬はどれほど持ってきていますか?」

「5000」


 ……この子も大概おかしいですね。みんなと同様に、何かしらの偏執症をわずらっているのではないでしょうか? いえ、銃に並々ならぬ執着があるのは分かっていますが。


 マリアが両手のリボルバーを腰のホルスターに戻すと、両腕を一定角度に固定し、軽く肘を動かす……突っ張る? ような動作をしました。すると両の袖口からオートマティック拳銃がスライドして現れました。


 ……本当に変なこだわりをもっているものです。レプリカントに進化するきっかけになった映画についてお母様と話した後、いまの隠し銃の元ネタの映画を視、ダンジョン・コアと相談してこうして実用化しましたからね。


 その私はと云うと、スナイパーライフルで狙撃をし続けています。特に狙いをつけずとも、正面に向けて撃てば当たる状況ですが。


 もっとも、案山子教官がいつもの木剣と木盾ではなく、金属製の円盾と、片手で扱えるように小型化したランスを手にゴブリンどもの足止めをしている関係上、本当に狙いを付けずに撃とうものなら、誤射(フレンドリーファイア)をし兼ねないのでやりませんが。


 もしやったのなら最後、後にお姉様からお仕置きされてしまいますからね。


 しかし、一向に数が減りませんね。完全な消耗戦となっているわけですが、それだけ敵ダンジョンマスターも必死ということでしょうか? どうにも愚策に思えるのですが。


 ……いえ、この規模で行われている以上、その愚策が良策として機能しているといえるでしょう。馬鹿にならない損耗がでていることを無視するのであれば。


「それにしても、どうしましょう? 進む算段がつきませんね」

「強行突破しますか?」

「ボス部屋に到達したとしても、結局は物量に押し潰されますよ」

「その前にボスを始末して、ダンジョンマスターを確保すればいいと思いますが」

「無茶が過ぎます」


 いまひとつ表情の読めない飄々とした雰囲気の妹ですが、意外に脳筋なようです。ですが、いまいったことを平気で実行達成できそうな実力もあるので、始末に負えません。


「確実に達成できるということでもないのでしょう?」


 案山子教官があえて通したゴブリンの頭を狙撃し、吹き飛ばします。肉体を持っているわけでもないというのに、なぜ血肉を撒き散らして死ぬのでしょう? 後には魔石くらいしか残りませんし。


「ボス部屋に入った後、グランドスライムに出入り口を封鎖して貰えれば十分に可能です」


 マリアが淡々と宣います。


 本当に成功しそうで怖いですね。どうしましょう? 確かここのボスは単体ではなく、ゴブリンの上位種を頭とした一部隊です。さすがに無茶が過ぎます。


 本当に突撃し兼ねない妹をどうやって宥めましょう?


「お疲れ様です。伝令です」


 急に背後に現れた気配に声を掛けられました。


 そこにいたのは幼女姿に化けたステルススライム。最近はことあるごとにこうして人の姿を模すことが増えてきました。元締めであるクアッドスライムが会議などの際に人型になっていることを真似ているとのことです。


 クアッドスライムが人型で会議にでるのは、椅子の上だと見えず、かといってテーブルの上に上がるのも問題だろうということから、人型に化けることになったと聞いています。


 それにしても、中途半端に取り残されたような状態の私たちに伝令とは。なにごとでしょう?


 ……お叱りの言葉でなければよいのですが。


「孤島ダンジョンの制圧が完了しました。現在、後始末中です。それにより、こちらのダンジョンは孤島ダンジョンの支配から解放されています。現在、お館様の命により、メイド様が降伏勧告をおこなっています」

「こちらのダンジョンマスターの行動予測はどうなっています?」

「お館様は、この戦争状態は本意ではないと推測しておられます。恐らくは、ほどなく――」


 ステルススライムが話し終えるよりも前に、ゴブリンたちの進軍が止まり、そして消えました。


「降伏勧告が通ったようです」

「肉体持ちのゴブリンはどうなりました?」


 マリアが尋ねました。


「そちらは待機場に留めておき、後程始末するとのことです。ここを支配下に置くわけですが、ゴブリンは不要ですからね」


 なるほど。しかし――


「気が重いですね。孤島ダンジョン制圧組は任務を達成できたというのに」


 ため息しか出ませんね。


「なな子姉さん。あの数が相手では仕方ありません」

「そうはいいますが……」

「孤島ダンジョンを制圧したのはお館様です」


 はい?


 私とマリアは目を瞬いた。


「孤島ダンジョンのボスモンスターを討伐不能と判断し、ボスを無視し、お館様が直接敵ダンジョンマスターを倒しました」

「お母様!?」

「投げて2度蹴飛ばして終了したとのことです」


 私とマリアは顔を見合わせた。


「それで、ダンジョンマスターは?」


 マリアが訊ねた。


「ダンジョンマスターとなる前に犯罪を犯していたとのことで、その事件のあった町へ拘束した上でほうりだしたそうです」

「お母様にしては、随分と甘い処理をしましたね」

「領主の娘を強姦、殺害したとのことで、その領主の元にその旨を記した看板を首から下げた状態で放り出したそうです。甘くはないかと」


 それは……もう末路がどうなるか聞くまでもありませんね。


「死体の処分をしなくて済むと、お館様は仰っておりました」


 あぁ、お母様らしい。


「それで、ここのダンジョンマスターの処遇は予定通りですか?」

「はい。相手方が了承すれば、ダンジョン職員として地上部で生活してもらうことになるでしょう。現状、人手がまったく足りませんからね」


 そう淡々と話すステルススライムに、私とマリアは顔を見合わせた後、同じように首を傾げました。


 いったい、元ダンジョンマスターになにをやらせようというのでしょう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ