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02 なんでそんなに多いの!?


 侵入してきたゴブリンたちは、まず正面の通路のスロープを降りることになる。


 本当なら、一団が通り過ぎたところでヴァルガ―(ダンゴムシ型自動人形)にローリングストーンをやってもらうんだけれど、いかんせん、ゴブリン共の数が多過ぎる。だからいままさに通過中に上からヴァルガ―が落っこちて来るようになってしまった。


 落ちた瞬間に圧殺されるゴブリン多数。その後、転がって来るヴァルガ―に轢殺されるゴブリン一杯。


 スロープが血肉と汚物で酷いことに。多分、匂いが大変なことになっているだろう。あ、コア、換気はガンガンやってね。


 それにしても、こいつら何匹来るんだよ。前回の侵入からしばらく経ったわけだけれど、その間にこんだけ増やしたの?


 正直、これだとウチのダンジョン攻略は無理だよ。ウチには食糧になる魔物が1匹もいないもん。お掃除スライムがうろうろしているくらいだし。しかもあれ、使い捨て型だから、栄養なんてものはない。というか、一定ダメージを与えたら消える。


 肉体持ちのスライム軍のみんなは、クアッドスライムが鍛えた結果、捕まるなんて間の抜けたことはしないしね。


 だから最奥部であるここに辿りつくまでに飢え死に必至ということだ。なにせ1フロア約5000平方キロメートルで、それが150階層あるからね。正直な話、1フロアだけでもダンジョンとしては異常な規模というものだ。


 さて、このスロープでは見事に挽肉……いや、轢き肉? になることを逃れたゴブリン共は、次なる試練のペンデュラムゾーンへと入る。


 こっから先はトリちゃんと遊んだ、対ゴブリンのタワーディフェンスゲームのトラップを模したものを、いくつか配置してある。まぁ、その大半はルートから外す羽目になったけれど。いや、この数相手だとさすがに不具合がおきるからさ。


 気を取り直して、まずはペンデュラムだ。


 ゲームと違って、さすがになにも考えずに突き進むことはないだろうと思っていたんだけれど……後ろから押されてトラップゾーンへと追いやられるんだね。


 ペンデュラムは、先の部分が半円状の刃物になっているタイプだ。


 これをみっつワンセットで通路に並べて、少し間をあけてまたワンセット。こんな感じで全部で10セット並べた。タイミングを見計らえば、十分に突破できる造りだ。あぁ、もちろん、そうした造りにしたのはワザとだ。


 いや、他の罠も確かめたいからね。それも踏まえて敢えて隙を作っておいたんだよ。おいたんだけれど――


 さっきも云ったけれど、後ろから押し込まれるもんだから、両断されて色々と飛び散って大変なことになってる。


 それこそ大惨事なグロ映像がモニターに映ってるんだけれど。まぁ、押しつぶされて大変なことになってるグロ映像よりは、両断とかのほうがマシだろう。


 ……いや、人によるか。


 その次は丸木橋。いや、木製じゃないんだけれどさ。円柱の中心をくりぬいて、そこに芯棒を通したものを橋にしたやつ。――って、説明で分かる?


 乗ると橋がくるくる回るギミックを持たせてあるんだ。トイレットペーパーのホルダーっていったほうが分かりやすい? ネズミ捕りトラップなんかに使われているあれだ。


 落下すると10メートル程下に仕掛けてある極細の鋼線で刻まれて、そのままさらに20メートルほど落下する仕掛けになっている。


 その高さなら落下死するから鋼線は不要? いや、下に死体が溜まったらクッションになって、助かる可能性があるじゃん。

 普通は現状のような状況になるなんてことはないだろうけどさ。


 うん。だから慌てて設置したんだよ。この鋼線。


 現状、このトラップを突破できているのはいないね。


 ひとりずつ渡っているのなら抜ける者もいたんだろうけれど、みんなで一気に渡っている状態だからね。誰かひとりでも足元の橋を回そうものなら、みんな落っこちる。


 で、事情により次の罠が最後で、例の二酸化炭素通路となっている。そういや私、勘違いしてたみたいなんだよ。二酸化炭素は濃度によってはあっという間に気絶するらしいね。高濃度だと1分掛からずに死亡するとか。怖っ!


 まぁ、これを設置してあるから問題ないんだけれど、これ、死体の処分が……。後から後からゴブリンのおかわりがくるから、すぐに詰まるというか、埋まるよね。となると即時処分しないと大変なことになるよ。


 あ、そうか。二酸化炭素通路を動く歩道(オートウォーク)にすればいいんだ。いや、動く歩道というより、ベルトコンベヤー? これで運んで、処理施設へと落とし通路で落っことせばいいや。


 あ、処理施設っていうのは、生体処理用のスライムを溜め込んだプールの事ね。生物の死骸のみを処理してくれる優れもの。これが有機物を処理となると、革鎧とかも溶かしちゃうからね。


 よし。これでいいかな。


 あ、そうそう。この通路の両端には、半透過シールドが設置してある。これは魔法で作った一種の力場だ。特定の物質は透過し、それ以外は通さないという代物だ。これによって、この通路内の二酸化炭素濃度は絶対的に保たれている。


 いやぁ、さすがに大規模な進軍に対応できるトラップはなくてね。慌てて二酸化炭素トラップを作ったんだよ。本当はつくる予定は無かったんだけれどね。


 小人数パーティ用のトラップは幾らか考えておいたんだけれどなぁ。結構、えげつないの。竹槍(パンジ・スティック)を敷いた落とし穴とかあぶり焼き(スコーチャー)トラップとか色々。


 そもそもゲリラ戦用のブービートラップとかはえげつないのがたくさんあるしね。狩猟用のトラップは単体用が殆どだし。……某映画の拷問トラップは論外だけど。


 さてと、とりあえずひっきりなしに進軍して来るゴブリン共の相手はこれでいいとして、どうやってこっちから進軍しましょうかね。


 向こうのゴブリンが品切れになるのを待つしかないかなぁ。


(お館様、敵、第2ダンジョン構造の掌握がほぼ完了しました)


 お、ナイスタイミング、といいたいところだけど――


「今回は随分と時間が掛かったね? そんなに広いの?」


(現在、ゴブリンを送り込んできている方のダンジョンは全20階層と、さした広さではありません)


 ふむ。中規模まであと一歩ってところなのかな?


(配置モンスターはすべてゴブリン種。その数は各種合わせて現状約10万です)


 ぶふっ!


 は? 10万!?


「え? ちょっ、なんでそんなに多いの!? って、まずい、処理施設の許容量を完全に超える!」


《処理施設を一時的に拡張します》


 コア、任せた!


「と、とりあえずは大丈夫かな? で、どうやって短期間でそんなイカレタ数を揃えられたのか分かる?」


(どうやら魔力溜まりを掘り当てたようです)


「……竜脈、じゃなくて竜穴っていう奴かな? 人間でいえば、ツボみたいなやつ?」


 簡単にいうと、龍脈の交差点みたいなやつっていったほうが分かりやすいか。


(いえ。魔力の吹き溜まり的なものです。雨水が溜まってできた巨大な水溜まりみたいなものとお考え下さい。稀にできるイレギュラー的なものです)


 ふむふむ。


(敵ダンジョンマスターは、それを用いゴブリンを大量に生産しているようです。それはいまも続いており、その数が減る気配が見えません)


「数の暴力を正しく理解しているって感じだね。コストが安くて、それなりに使えるゴブリンは最適だよ。でも維持は考えてないみたいだね。肉体持ちを完全に使い捨てにしてるのか。まぁ、あぶく銭の正しい使い方ってとこかなぁ」


 分かりやすくいうと、チンパンジーの大群を送り込まれているようなものだ。チンパンジーの体格って、まさにゴブリンと同じようなものだからね。ゴブリンのほうがちょっと大きいかな。


 チンパンジーは怖いぞ。片手で人間の大人を振り回す程の力があるんだ。


 ゴブリンはチンパンジーほどの力、膂力、腕力、握力はないけれど、それでも力は十二分に強いし、更にはチンパンジー以上に道具を扱い熟す。種(?)によっては、魔法も扱えもする。


 正直、厄介なことこの上ないよ。


「そういや、ダンジョンマスターは確認できた?」


(ゴブリンダンジョンのダンジョンマスターはリザードマンと確認しました。しかしながら、現状ではもうひとつのダンジョンの支配下にあるようです)


「あれ? 同盟じゃなかったの?」


(完全に配下となっているようです。そのもうひとつのダンジョンのダンジョンマスターは人間です)


「うわぁお。もしかして悪知恵とか働きそうな感じかな?」


(それは不明ですが、どちらも()()()()ダンジョンマスターです)


 なるほど。ダンジョン・コアに支配されているってわけね。ということは、さして精神が強いわけじゃないか。


 まぁ、だからといって侮る気はないけれどね。舐めプはしているけど、向こうのダンジョン構造はほぼ把握しているしね。……ちょっと目を離している隙に、こんなにゴブリンを大量に生み出しているとは思わなかったけれど。


 そういえば、もう一個のほうの主だったモンスターの報告がないな。


(もうひとつのダンジョンにおける主モンスターは特殊ゴーレムです)


 特殊?


《確認したところ、デッサン人形のような造りの彫像をゴーレム化したものの様です。通常のゴーレムと違い、生物と同様の敏捷性をもったゴーレムとなっています》


 お、コアからの解説が入った。なるほど、私と同じようなことを考えたわけね。


 普通のゴーレムは関節部を魔法で随時変形させながら動くから、魔力を多く消費する上に動きが鈍いんだよね。それだけに頑丈で、関節部が弱点になることもないんだけれど。


 でも私はその動きの遅さが嫌だったから、自動人形をベースにしたリビングドールを創ったわけだし。


 リビングドールって疑似魂をぶちこんだゴーレムみたいなものだからね。だから自律しているんだよ。その結果、レプリカントなんてものに進化もしたんだろうけど。


 まぁ、相手にするのはゴーレムだから、お(つむ)に関しては危険視する必要もないだろう。


 命令されたことを愚直に実行するだけだし。


 とはいえ……そうか、そんなものが主戦力となると、ちゃんとした装備でいかないといけないな。


「タイプは人型だけかな?」


(現状確認できているものは人型のみです。最奥部への侵入ができませんでしたので、他の形状の個体がいるかは不明です。申し訳ございません)


 ステルススライムでも侵入が厳しいとか、セキュリティがしっかりしているのかな? 面倒臭くなったら暗殺でもしようと思っていたけれど、厳しそうだ。


 でもダンジョンマスターが何者か確認できているってことは、最奥部からでてくることもあるみたいだね。まぁ、それを期待するべきじゃないか。


「普通に制圧戦をすればいいか。リザードマンの方をリビングドールに任せて、もう一方は【黒】と【銀】を送り込もう。レプリカント……って、戦闘に行きそうなのはよっ子とやっ子くらいか。寄りにもよって幼女コンビか。まぁ、あの子たちは好きにさせよう。と、マリアもいるか。うん、彼女は装備からしてゴブリンダンジョンにいってもらうか」


(双方のダンジョンの正規の入り口の場所が判明しています)


「お、そうなの? それじゃそこから突入しようか。入り口はどの辺りかな?」


(ひとつは西方森林帯南端に。もうひとつはホルスロー半島南方にある孤島です)


「コア、モニターにマップ出して!」


《畏まりました》


 肉片になっていくゴブリンの映像が、ホルスロー半島を中心とした地図に変わる。


「えーっと、位置的に西のがゴブリンを送り込んで来てるほうよね。で、穴を開けてすぐ塞いだのが南の島と。……ふたつあるけど、どっち?」


(左――西側の島です。尚、リザードマンのダンジョンは、西方森林帯最南端に存在しています)


 ふむ。こっちの丸い形の方ね。青ヶ島くらいの大きさかな?


 東京都青ヶ島。結構前にネット上で話題になり、私も画像で島の写真を見たことがある。緑の豊かな島で。そのちょっと変わった地形が印象に残っている。あれって火山なんだっけ? なんか塞がった火口っぽい所まで木が生えていたけど。


 で、この島。名前はついていないみたいだけれど、まさに青ヶ島っぽい島だ。とはいえ、地形はとくに目立った特徴は見当たらない。


 で、この島と、東の……これも湾っていっていのかな? それを隔てた先の陸の森林帯に、海底を通ってつながっていると。


 直線距離でも数百キロはあるけど。え、マジ?


「そのふたつのダンジョンって、繋がってるのよね?」


(はい。海底を通って繋がっています)


 海底トンネルか。ダンジョン化してあるんだから、崩落の心配はないけれど、ここを通っての進軍とかはないね。いい的にしかならないよ。


 うん。やっぱり正規の入り口から正しく攻略する方がよさそうだ。


「入り口は、この中央の丘の麓かな? 北側に洞窟があるのがみえるけど」


(はい。そこになります)


「よし。それじゃ、さっきもいったけれど、ここから突入して、正攻法でダンジョンを攻略しよう。こっちのダンジョンはどのくらいの広さ?」


(階層は12層しかありません。おそらく、トンネルを作ることに精力を傾けていたのだと思われます)


 ……あぁ。こんな孤島じゃ、ダンジョンとしてまともに営業(?)できないもんねぇ。


 ん? ってことは、ダンジョンマスターはどっから来たんだ? 人間だよね? 遭難者? まぁ、いいか。


「よし。それじゃ、双方とも正規の入り口から攻略しようか。どっちもこっちに開けられた穴からは入れそうにないから。

 入り口側に“扉”を開くから、移動は問題ないしね。

 コア。部隊のみんなを練兵所に集めて」


(かしこ)まりました》


 さて、第2次ダンジョンウォーをはじめるとしようか。


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