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02 ドーベルク王国にて:じっ子


 ……いったい姉さんはなにをやってきたんだろ?


 大将さん、ぐったりしてるんだけど。事情は聞けないかな?


 エーデルマン領の領都(名前は知らない)で別れたのに、その翌日の早朝(つまり今現在)には合流してた。

 予定だと、王都かロージアンでの合流だったハズだけど。


 私が見張り番として起きていた時に、姉さんと大将さんは戻ってきた。なんだか見たこともない魔物に大将さんが乗ってたのには驚いた。


 ついでになんだか馬に乗った戦士の一団みたいなのが襲撃してきた。姉さんがほとんどひとりで蹴散らしてたけれど。


 私は【マジックミサイル】をちょろっと撃っただけで終わった。みんなを起こさないように防音結界を張ったりしてたから、ちょっと遅れたんだよね。


 ……で、いまは戦闘が終わって後片付けをしているところなんだけれど、姉さん、それはいいの? ストレージにポイポイ放り込んでいるけれど。まだそれ生きてるよね? 生きたまま放り込むと気が狂うってお母さん云ってたよ? 馬は? あ、私たちで使うんだね。


 あ、お母さんからだ……。


 えぇ……あの人たちを暇つぶしに使うって……お母さん、なんに使うの? 試用? というか、なんでこっちの状況を分かって……あぁ、姉さんが連絡したんだね。


 いや、本当、姉さん何をして来たの? あの子を送って来ただけだよね? ちょっと、馬たちをリンゴで懐柔していないで教えてよ。


 ……。

 ……。

 ……。


 事情を聞いた。大将さんは絞ったタオルで目元を冷やしながら寝込んでいる。あの鳥みたいな竜は、姉さんがぱちんと指を鳴らすと消えてしまった。

 お母さんから使い勝手の確認の為に、姉さんに渡された疑似召喚型の幻獣だそうだ。ちょっと羨ましい。


 姉さんの事情はなんだったのか? 要約すると、口封じの為にエーデルマン家が殺しに来ているんだそうだ。子爵死亡はともかく、令嬢の拉致をなかったことにしたいようだ。


 ……なんだろう。お母さんが云った通りの展開になっているんだけれど。というか、下級貴族でそれをやるのか。いや、下級貴族だからこそ? 王侯貴族だともっと別の方策を取る気がする。


 無理なんだけどね。私たちだけじゃなく、多分、もう他の拉致被害者たちがフェルムスに到着しているだろうしね。彼らを全員、しかも探索の巫女を殺すとか、【赤教】を敵に回す行為だもの。


 それで、エーデルマン家の方はどうするの? 放置はありえないよね? あ、スライムさんたちを送り込むんだね。内情を確認してから、敵対者を皆殺し。それならいいや。ステルスさんたちが調べて、コローションさんたちが暗殺するらしい。


 コローションスライム。お母さんから聞いた殺人バクテリアの話を参考に変化したんだよね。分体が鼻、もしくは目から侵入して、神経を伝って脳に至り、それを食い荒らして殺すっていうんだから、かなりえげつないスライムさんたちだ。


 普段は普通に覆いこんで消化しているみたいだけど。


 それで、送って行ったあの子は?


「殺しませんよ。場合によっては、あの子は私たちの方へ引き込みます」

「そうなの?」

「ダンジョンに属させるつもりはありませんよ。町の方で暮らしてもらうことになるでしょう」

「あの年齢だと、ひとりで暮らすのは無理だと、思う」

「【赤教】か【黒教】に預けますから問題ありません」


 姉さんはマグカップの熱々のお茶を啜るように飲むと、ほっと息を吐いた。


「【赤教】は接触があったから分か、る。でも【黒教】、は?」

「先日、黒竜が直々に来訪して、教会支部を置く許可をお母様に求めたそうですよ」

「そうなんだ。それなら大丈、夫?」

「問題ないでしょう。さて、つぎは貴女の番ですよ。ここからだと、王都につくのは6日後くらいですか」

「……姉さんに任せちゃ、ダメ?」

「ダメです。私としても非常に不安ですが、お母様の指示ですからね。魔法使いであることが条件なのですから」

「……これは、コスプレ」

「じっ子、あなたは魔法特化でしょう」


 うぅ……。やっぱり交渉は私がやらなきゃダメみたいだ。


「ボナート商会の若旦那にサポートをお願いしてありますから、大丈夫です。しっかりやりなさい」

「わかった」


 ボナート商会。ドーベルクでは有数の商会とのことだ。王侯貴族の御用商人にもなっているらしく、商会の規模だけでなく、その信用と影響力もかなりものであるようだ。


 簡単に云えば、金で司法を殴り倒せるだけの力は持っているということだ。


 当然、限度はあるだろうけれど。


 頼りにしちゃダメなんだろうけれど、保険となってくれるように祈ろう。



 ★ ☆ ★



 氷漬けとなっているデラマイルの首。【氷棺(アスコフィン)】の魔法によるものだから、溶けることもない。


 赤毛に褐色の肌。欠けた左耳に、なによりもっとも目立つ特徴のオッドアイ。茶とヘイゼルの瞳もばっちりと見えている。


 これをデラマイルの首と云わずになんとする。というところ。


 私はそれを出した。求められるままに。


 だというのに――


「どういうことです?」


 ボナート商会の若旦那さん。えっと……ラウルさん、だっけ? が、目の前にいるちょっと偉そうな兵士に食って掛かっている。ラウルさんの左斜め後ろでは、アマデオさんが怖い顔。


 兵士はというと、面倒な、という感情を隠そうともせずに、不愉快そうにラウルさんを睨んでいた。


 なにが起こっているのか。


 簡単だ。この王都に入都するにあたり、私がデラマイル討伐の件を入都管理をしている兵士に申告したところ、近くの別の建物へと連れていかれた。


 証人という形で、ラウルさんとアマデオさんも一緒に。


 首を出した後、その鑑定だのなんだのと小一時間くらい待たされた


 で、この目の前の偉そうな兵士がでてきていうには。


「これはデラマイルの首ではない」


 なるほど。想定通り。


「手配の特徴と一致。間違いは、ない」


 私は云った。一応。


 でも返ってくる言葉は同じ。そこでラウルさんが証人として言葉を挟むものの、そのまま言い争いに。


「確認、したい」


 このまま平行線の舌戦をしていても無駄だ。予定通りに行動しよう。


「なんだ?」

「これがデラマイルの首云々以前に賊であること、は問題ない?」


 偉そうな兵士が眉をひそめた。


「証人はボナート商会。にも拘らずこれを一般人とするなら、私は殺人、犯」


 デラマイルの首を指差しつつ私は云う。


「そのうえ王国を騙そうとしたペテン、師。死罪は免れ、ない」

「……そうなるな?」


 私は口元に笑みを浮かべた。


「私たちは賊を始末、した。犯罪は犯して、ない。でもあなたが犯罪者というならそうなのだ、ろう。

 私は犯罪を犯していないのに犯罪者とされ、る。それは不本、意。ならば納得できる形で捕縛され処刑される、を望む」


 その場にいる者、ラウルさん、アマデオさん、偉そうな兵士、下っ端兵士ふたりが、おかしな者を見るような目を向けてきた。


「だから私はここであなたを殺、す。その上でそっちのふたりが私を拘束すれ、ばいい。そうすれば私もあなたも納得のできる形に、なる。

 私は殺人犯、となりあなたは殺人犯を捕らえ、る。お互に納得でき、る」


 天井を指差すように、右手の指を顔のすぐわきで立てる。


 私の頭上の周囲に、光の球が12個ほど現れた。


 お母さん直伝の、特別性の【マジックミサイル】。使い方も教わったから、その威力は砂蟲を貫けるほどになっている。普通の【マジックミサイル】の数十倍の威力? もちろんそんな威力のものをまともに人間が受けたら、簡単に貫通して綺麗な穴が空く。


 偉そうな兵士は顔を引き攣らせた。


「ま、待て、なにもお前を殺人犯とはいっていない。それにそんなことをしたらどうなるか――」


 言葉を切った。云っていて、私の目的が殺人犯と名実ともになることだと宣言したことを、その上で処刑されようと云ったっことをいまさらながらに理解したのだろう。


 随分と鈍い頭なことだ。


「お、落ち着け、その魔法を消せ。ボナート商会の証言があるんだ。こいつはデラマイルではないが、賊であることは確かだ。お前に咎を求めることはない」


 日和った。


 うん。ちょっと強引だったけれど、上手くいった、かな? 多分、付け狙われることはないだろうけど、しばらくは注意しよう。犯罪をでっちあげられても困るから、しばらくはラウルさんたちに厄介になるしかないけれど。


 展開した【マジックミサイル】を消す。


 それに、魔法に関してはド素人でロクな知識もないことがわかった。


 展開した魔法は、普通、消すなんてできないんだ。


 これならきっと、こっちの予想通りに動いてくれることだろう。


「そう? それじゃその首は――」

「いや、こんなものを持ち歩かれては困る。こちらで処分する」


 ふふ。お仕事完了。すべて想定通り。お母さん、褒めてくれるかな? 姉さんは……どうだろう?


 私は不満気な表情を装いながら、詰め所(?)を後にした。






「すいません。力になれませんでした」


 南門広場で待っているだろう姉さんたちのところへと戻る途中、ラウルさんが申し訳なさそうに云ってきた。


 大商会の若旦那だけれど、こんなに腰が低くていいのかな? いくら私が命の恩人のひとりだとしても。


「ううん。十分。すくなくとも犯罪者にはされな、かった」


 私は尖がり帽子の鍔を摘まんで位置を直しつつ、項垂れるラウルさんに云った。ほどよくくたびれたように見えるこの黒い尖がり帽子は、私のお気に入りだ。特に鍔の端にいくつか通してあるリングなんて最高だし、反対側から垂れ下がっているふたつのポンポンは実に素敵だ。尖がり部分の元に巻いてあるリボン? 云うまでもない。


「これは半ば予定通り。きっとあの人たちは大変なことに、なる」


 ふふふ、と笑っていると、怪訝そうな顔でラウルさんが私を見つめている。


「おか……マスターはこの事態を予見、してた。あの人たちが首を持って行くこと、も。だからこそあの人たちは困ったことに、なる」

「どういうことです?」

「あの氷。溶けない」


 ラウルさんが目をぱちくりとさせた。


「溶けない」

「マジすか」


 あまりに驚いたのだろう。ラウルさんの言葉遣いがおかしくなった。


 【氷結(フリーズ)】という【氷棺】と似たような効果の魔法はある。でも、そっちは時間経過で溶ける魔法だ。難易度はそこそこ高いが、珍しい魔法じゃない。そもそも発現の仕方も違う。【氷結】は表面的に凍結させるだけ。【氷棺】は特殊な氷の塊に封じるもの。


 それに【氷棺】の魔法を使える者は私たち以外にいない。現状、自在に使える者となると、お母さんとダンジョン・コア、それと私だけ。一応、いっ子姉さんも使えるけれど、使えるだけ。術式の解析をまともにしていないって云っていたから、通り一遍の形での発動しかできないハズだ。だから【氷棺】の氷を解凍することはできない。……姉さんは掛けても解く気なんてないんだろうけど。


 さて、デラマイルは推定でもこの10年で1万人近くを拉致したとされている。当然ながら、国家レベルでの賞金首となっていて、国そのものが賞金を懸けている。うん。大悪党だ。


 そんな大悪党討伐の証となる首が持ち込まれたとなれば、王の元へと届けられるだろう。もちろん、討伐をした者とともに。まさに英雄だ。


 さてさて、そこでその氷漬けの首を見た者はどう思うだろう? 王宮であれば、宮廷魔法師というのは付きものだ。当然、それを見、そして視るはずだ。


 オーバーレベルの魔法の産物。そんなものを見せつけられれば、それを成した魔法使いに興味が向くに違いない。いや、向かないハズがない。敵と成れば危険極まりない存在であることは明白だもの。なんとしても手元に起きたいはずだ。だが、そんな者はこの世界にいない。お母さんと私以外には。あいつらは国に求められても、それができる魔法使いを用意できない。


 連中は金欲しさに首を奪った。そしてこれから国を相手にペテンを掛けるのだろう。


 ふふ。連中の未来は明るいのかな? まぁ、精々、夢を見ると良いよ。


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