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01 ドーベルク王国にて:いっ子

第7章の投稿を開始します。

本日より毎日0時更新。

全7話+閑話となっています。

よろしくお願いします。


「では、ここから私たちは別行動となります。ルーティ、そちらのまとめ役は頼みますよ」

「了解です」


 ダンジョンを出てから10日が経過しました。旅は非常に快適です。


 唯一の問題は排泄関連ですが、それは……まぁ、なんとかしています。レプリカントへと進化した結果の不便と、そこは諦めましょう。


 ですが食事や衣服(洗濯)関連はお母様のおかげで、ダンジョン外であっても充実しています。なにをどうされたのかは不明なのですが、ダンジョンのストレージをダンジョン外であっても使えるのです。そのストレージ内にお母様が私たちの食事を用意してくださるのです。更にストレージに洗濯ものを放り込んでおけば、翌日にはしっかりと洗濯された衣服が戻ってくるという、至れり尽くせりな状況なのです。


 あぁ、もちろん、調理はにっ子もしているでしょうから、帰ったらきちんと礼を云っておきましょう。


 さて、私たちはドーベルク東岸にある港町にほど近い場所に上陸。その港町、フェルムスから王都タイタナイトへと向かっています。


 タイタナイトといえば鉱石の名称ですが……それはお母様の故郷である地球での名称でしたね。とはいえ、ドワーフ達が中心となって起ち上げた工業国家であるドーベルクの王都の名前としては、なかなか洒落ていると思います。


 フェルムスにおいては、同行しているボナート商会の若旦那、ラウル殿の厚意により馬車を借り受けることができました。その数2台。おかげで移動速度が捗ります。


 ……まぁ、私たちだけであれば、走った方が早いのですが。


 私たちはチームをひとまず3つに分けています。


 まず、私。いっ子とドワーフの大将さん。そしていまだ幼名が不明の子爵令嬢。5歳前後の幼女です。エーデルマン子爵家の令嬢であることは、彼女の父親の遺品から判明しましたが、彼女の幼名までは分かりませんでした。そして困ったことに、今回の事件の後遺症か、彼女は失語症に陥ってしまっています。


 お母様がいうには、精神的なことであるので、勝手に治るのを待つしかないとのこと。


 エーデルマン一行の者(エーデルマン子爵、メイド、護衛)は彼女を除き悉くデラマイル一味によって殺害されています。それに加え、このことも遺族に伝えなくてはなりません。


 厄介ごとが巻き起こりそうな気もしますが、まぁ、さした問題はないでしょう。


 問題があるとすれば、私がエプロンドレス姿であるということくらいでしょう。旅をするに相応しい格好ではありませんが、些細な事です。


 2チーム目は砂エルフの娘とルーティのふたり。砂エルフの娘のつきそいとして、ルーティがついていきます。彼女のお仲間への説明役を兼ねています。砂エルフの娘は当ダンジョンに属することを宣言していますが、はてさて、残りのふたりはどうでしょう? お母様はダンジョンの受付業務に従事してもらおうと考えているようですが。

 彼女たちも問題ないでしょう。3チーム目と王都までは一緒ですから。


 そして最後の3チーム目。エルダードワーフ、アーシン、そしてドワーフの3人の護衛として王都に向かうチーム。ボナート商会のふたりの護衛も兼ねています。

 きゅー子、じっ子、なぐ、の3人です。この3人は少々不安ではありますが。一番頼れるであろうじっ子が無口であるのが問題です。まともに交渉できるのか不安です。かといってきゅー子となぐは論外です。あの子たちは技量系の脳筋ですからね。


 “忍ばない暗殺こそ至高”のアメリカ忍者なきゅー子に“考えるな殴れ”のなぐ。なぐに至っては“殴る”から仮名として“なぐ”と付けられた有様です。そんな子たちに交渉なんて無理です。

 一番重要な任務を与えられているのですが大丈夫でしょうか? 心配でなりません。


 さて、王都へと向かう途中、エーデルマン領の領都へと立ち寄ってもらい、私たちを降ろしてもらったわけですが……田舎ですね。実に牧歌的です。


 領都ではありますが、ちょっと大きめの村といったところでしょうか。とはいえ、地面はしっかりと石畳の舗装がされています。


「予想以上にこぢんまりとしていますね」

「田舎の小領主となれば、こんなもんだろ。地面が舗装されてるだけ、領主は頑張ってると思うぞ」


 大将さんが答えてくれました。


 なるほど。確かに。ダンジョンではありませんからね。簡単に道の整備などできるわけがありません。整備をするとなると、お金が掛かるのです。人件費に石の輸送代はもとより、その石だって結構なお値段がすることでしょう。石を敷く前には、道路とするところを平らに整地しなくてはならないでしょうしね。


 それを領の税収から捻出するわけです。ほかにもいろいろとやることはあるのでしょうから、それを考えると、確かに領主は頑張っているのでしょう。


 フェルムスでは、馬車の通る主道路以外は、ふつうに地面を踏み固めただけの道で、凸凹でしたからね。


 さて、領主邸はどこでしょうか?



 ★ ☆ ★



 はぁ。ロクなものではありませんでしたね。どこまで無礼なんでしょうかね。会話するに値しません。

 お母様の先見に驚愕しただけの時間でした。


「この辺までくれば、まぁ問題無かろう」

「暗殺にでも来てくれれば面白いのですが」

「物騒なことを云うなよ、嬢ちゃん」

「これは失礼を。どうにもまだ頭に血が昇っているようです」

「まぁ、それも仕方ねぇわな。ありゃねぇわ」


 大将さんが呆れたように笑い声をあげています。所謂、乾いた笑いという奴です。


 なにがあったのかというと、賊にされました。


 あ、それに関してはもう、誤解は解けましたよ。いえ、恐らくは誤解ではなかったのでしょうが。

 まぁ、とにかく不愉快でしたし対話も不能でしたので、子爵の遺品もろもろと、お母様がそれらの事情を記した手紙(正確には子爵が殺害されるに至るまでの状況報告書)を置いて帰ってきました。


 令嬢を連れて領邸にいったところ、門衛が執事を呼んで来たのです。そして私たちを見た途端に、賊だと騒ぎ立てて兵をけし掛けたのです。

 門衛と領兵(恐らくは数少ない常備兵)が襲い掛かってきましたが、もちろん全て撃退しましたとも。さすがに殺害や後遺症の残るような怪我をさせるわけにはいきませんので、両肩の骨を外すだけにしてさしあげました。


 皆さん、ピーピーと騒ぐほどに喜んでくださいましたよ。きっといい訓練になったことでしょう。


 私を捕らえることを指示した執事は、少女、即ち子爵令嬢にぽかぽかと殴られていました。


 まぁ、ここまでの仕打ちをされて尚、まともに会話をしようとは思いません。大将さんに背負ってもらっていた、子爵とその部下の遺品を詰めた大きめの行李を門の前に置き、さらに手紙をその上においてさっさと立ち去りました。


 一応、口頭で簡潔に来訪した理由を延べ、少女に別れの挨拶はしてきましたが。


 その結果、少女が私を追いかけようとしましたが、それをすれば執事がまた酷いことをすると思ったのでしょう。私に手を振ったあと、再度ぽかぽかと執事を叩くことをはじめていました。良い子です。




 とまぁ、こんなことがありまして。私と大将さんはとっとと領都を出たのです。町……村を護る壁もないので、出てくるのは簡単でした。

 そうそう、走って村を出たのですが、思った以上に大将さんの足が速かったです。


「子爵夫人に会わなかったが、いいのか?」

「問題ありません。母より受けていた、最悪の場合を想定した指示通りですから」


 お母様は云っていたのです。誘拐犯であると騒ぐ可能性があると。それも、領主邸で堂々と誘拐しようとしたと。


 つまり、子爵令嬢が行方不明になっていたというような事実はなかった、ということにする為に。確かに、令嬢にとって行方不明(誘拐)の事実は、後のことを考えれば致命的ですからね。輿入れに問題がでてきます。


 で、捕らえ、子爵に関する情報を吐かせるだけ吐かせて始末するという流れでしょう。貴族に取って平民など掃いて捨てるほどいる獣畜と一緒ですからね。


 このようなことをお母様は云っていたのです。


 また考え過ぎなのではと思っていましたが、まさかその通りになるとは思ってもいませんでした。


 子爵令嬢は良い子でしたが……。


 はぁ……。


 さて、人気のないところまで来ましたが、このままのんびりと進むつもりもありません。


 恐らくあの様子であれば、私たちを殺しに来るでしょう。


 丁度良いですから、お母様から試用を頼まれていた幻獣を使ってみましょう。移動速度をあげたいですからね。


「ん? どうした」


 私が足を止めると、大将さんが怪訝そうに私を見上げました。


「追手がかかるでしょうから、移動速度をあげようと思いまして」


 そういって私は幻獣を召喚します。正確には、魔力を固めて魔物を生み出します。


 ダンジョンにおける使い捨ての魔物とほぼ同じ原理のものです。


 目の前に現れたのは、巨鳥のような魔物。全高は2メートル近いでしょうか。


 古代の鳥、ディアトリマのように見えますが、この幻獣は爬虫類。蜥蜴です。お母様はディアトリマを捩り、ディノトリス(仮)と呼んでいました。


 ベースとしたモデルはヴェロキラプトルという恐竜。ただし、そのサイズは見ての通りヴェロキラプトルの2倍以上。そしてその姿も大分違います。


 全身は馬のような短い体毛に覆われ、その頭部は鳥のような大きな嘴があります。この毛並みは……青鹿毛というんでしたっけ?


「最初は鳥にしようと思ったんだけれど、どうしても騎乗するとなると羽が邪魔になりそうだからさ、ベースをラプトルにしたよ。嘴? 恐竜は鳥の祖先ともいわれてるし、嘴があってもいいでしょ。問題ない問題ない」


 と、お母様は云っていました。


 尚、この幻獣は初心者ダンジョンのモンスターとして配置するそうです。


「じ、嬢ちゃん、こいつは……」

「大将さんにはこの子に乗ってもらいます。騎乗用の魔物ですよ。大丈夫です。今から馬具……馬ではないので馬具はおかしいですね。騎乗用の装具を付けますから、そうしたら騎乗してください」

「……えぇ」

「ご心配なく。私の走力は馬と大差ありませんから」


 ストレージから、お母様があらかじめ用意して置いてくださった装具を取り出し、ディノトリスに装備していきます。


「い、いや、そういうことじゃなくてな」


 ……どこぞのゲームか、アニメに登場した騎乗用の巨鳥みたいになりましたね。違いは、羽ではなく手と尻尾という点ですが。


 よし。さぁ、大将さん、乗ってください!


「いや、嬢ちゃん、待ってくれ。さすがに――」

「恐らく追っ手がくるでしょうから、急いでください」


 私は大将さんの両脇に手を差し込むと、無理矢理ディノトリスに乗せました。と、鐙の位置を調整しないといけませんね。


 ……これでよしと。


 では、行きますよ。ついてきてください。


 ディノトリスはクルルルと喉を鳴らすように私に応えました。


 この子の最高速度は時速50キロくらいとのこと。地球の馬より大分遅いですが、こちらの馬は地球のサラブレッドのように速度特化のブリードがされているわけではありませんから、十分に速いといえるでしょう。


 私も靴をランニングシューズに履き替えます。


「それじゃ、行きますよ」

「クルルルルル!」

「いや、ちょっ、待ってくれ。俺は――」


 よーい、ドン!


 実のところ、進化してから全力で走ったことはありません。ドールの時には何度かありましたが、確か、最高速度は時速80キロ程とダンジョン・コアが云っていました。


 レプリカントとなった今でも、同様の速度は出せるようです。ディノトリスがついて来れませんね。


 速度を落とし、ディノトリスと並走します。


 この分なら、明日には皆と合流できることでしょう。


 ……大将さんが青い顔をしていますね? まぁ、暴れてもいませんし、手綱もしっかりと握っています、大丈夫でしょう。




 なにせ、楽しそうに叫んでいますしね。


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