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目が覚めたら目の前にドラゴンがいたのでとりあえず殴りました。  作者: 和田好弘
第6章:新規ダンジョンの整備をしよう
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※ 疑問に思っていたこと


 私はこの世界に来てからというもの、疑問に思っていたことがひとつあった。


 いや、疑問とはちょっと違うか。


 メイドちゃんに訊いておきたいことがひとつあったんだ。まぁ、知ったところで意味のない、どうでもいいことではあるのだけれど。

 それに、それを思っていた時には、メイドちゃんは以前の仕事の引継ぎとやらで、私の所から離れていたからね。


 そのせいで時折は思い出してはいたんだけれど、ま、いっか、とか思って放置していたんだよ。


 でも丁度この竜の到着待ちの時間はなにもすることもないし、ただまったりとお茶を飲んでいるのもなんだ。


 ということで、訊いてみることにした。


 ……うん。いま思い出したってだけでもあるんだけれどね。


「メイドちゃんや」

「なんですか? マスター」

「私が本来もらえるギフトってなんだったのかな?」


 メイドちゃんがフォークを取り落とした。


 ちなみに、お茶菓子はきんつばだ。


「わ、私になにか不満なところがおありでしょうか?」

「いや、純粋に興味だよ。正直メイドちゃんはあまりに過分じゃないのかなと思うくらいだし」


 とてつもなく優秀な抱き枕だし。


「あ、ありがとうございます。すこし取り乱しました」


 そう答えつつ、メイドちゃんは緑茶を口にした。


 ちょっと震えてる? さすがに訊くのがいきなりすぎたかな。あとでなんとかしよう。


「アル・アジフですね」


 一息付けた後に、メイドちゃんが答えた。


 うん。さっぱりわからんな。誰かの名前?


「……なにそれ?」

「書物です。実際にはアル・アジフという書物は実在しませんが、ギフトという形で無理矢理生み出されたものです。その内容も、恐らくは本来のものとかけ離れていたと思われます。……いえ、偽人格を付与されたものですから、まったくの別物でしょう」


 私は目を瞬いた。


「なにそれ? いわゆるインテリジェンス・ソードの本版ってこと?」

「そうなりますね」

「で、その、架空の本はなんなの?」

「所謂『死者の書』として有名となった書物ですね」


 私は目をそばめた。


 ネクロノミコン?


 ふむ……。


「それが事故でデータが破損して、修復に時間が掛かるってことで、メイドちゃんが来ることになった訳だよね?」

「少々違いますね。来ることになったわけではなく、無理矢理来ました」


 ……あぁ、そういやそんなこと云ってたね。なんか、立場上、あれこれ面倒事が増えすぎたって。


「まぁ、マスターの元へ是が非でもというわけではなかったのですが。システムの用意した代替ギフトが格下のものとなりましたので。さすがにそれを容認するわけには参りません。私の仕事の汚点になります」


 ……。メイドちゃんってそこまで完璧主義って感じはしないけれど。


「最後の仕事ぐらい、完璧にしたいじゃないですか」

「あぁ、まぁ、その気持はわかるかな。それで、代替に用意されたギフトってなんなの?」

「ネクロノミコンです」


 うわぁ……マジ?


「えーっと、なんでまたそんな大層な代物が。なに? 私って死体を弄ぶ系の者にされるはずだったの?」

「生前の行いなどからですね。あと、マスターの性格なども加味された結果です」


 ……。


「もしかして殺人が選定の理由?」

「それに加えて殺人に対し呵責がまったくなかったことからでしょう」

「あぁ、それは……まぁ、ね。人としてはどうかと思うけれど。我ながら」


 うん。自分のことながら笑えねー。その辺りの倫理観とかぶっ壊れてるからなぁ、私。


 基本的に私は、自分の家族以外はどうでもいいと思ってるし。


「それならなんでメイドちゃんはそれを蹴っ飛ばしたの?」

「当然でしょう! ネクロノミコンですよ。アル・アジフの翻訳写本ですが、ニュアンスの違いによる誤訳がそこかしこにある出来損ないを、なぜ認めなくてはならないのですか!」


 はい?


「え、アル・アジフってネクロノミコンの原書なの?」

「と、いうことになっていますね。双方とも架空の書物ですが」

「それは知ってるけど……ということは、アルハザード? 魔導士アヴドゥル・アルハザードの死後、いろんな魔導士の手を渡って、その度に新たな知識を書き加えられた最強の魔導書!?」

「……なんでそんな更にマイナーな都市伝説的な話を知ってるんですか」


 メイドちゃんが呆れたようにきんつばを口に運んだ。


「お姉ちゃんがその手のオカルト話が好きでね。ネクロノミコンは焚書にされて、最後に残った5冊の内4冊が行方不明で、残りの1冊がバチカンのどこぞの教会の壁に塗りこめられる形で封印されてる話を聞いたことがあるよ」

「……なんですか、その出所のわからない話は」

「私もどこで聞いたのかは覚えてないんだよね。これもお姉ちゃんが出所だったっけかな? でもお姉ちゃんはオカルト好きでも、広く浅くって感じだったからなぁ。深く調べたりすると、自殺したくなりそう、とか云ってたっけ」


 なんで顔を強張らせているのかな? メイドちゃん。


「その、姉様(あねさま)もいろいろと抱えているようですね?」

「そりゃ子供の頃から命を付け狙われ続けてればねぇ。精神もおかしくなるってものだよ」


 それに合わせて私もおかしくなってるみたいだし。


「いったい何が巻き起こってたんですか」

「一言で云うと、信仰だの宗教だのは嫌いだよってことだよ」


 私はフォークを容赦なくきんつばに突き刺した。


「そういえば、メイドちゃんの……名前と云うか、型番? あれ、なんで英語っぽいの? なんか地球の製品の型番みたいだけど」

「あー。私たちを生み出す技術を作ったのが、旧地球の神だったんですよ」


 旧地球? どういうこと?


「実はこの世界、宇宙は一度、一定期間の巻き戻しが行われています。かつて神々は大失敗という成功をしてしまったのですよ」


 はい?


「神々の目的は、自身を生み出した神の証明というか、そこへと至る道、あるいはコンタクトをとることです。そのために、そのとっかかりとするために神を生み出す方法を模索することを、ひとつの方法として行っています」


 うん。それは聞いたね。


「実のところ、これは一度成功し、神を生み出すことができました。が、その神がなんというか、唯一絶対の存在という形で生み出されたため、大神様たちとの大戦となりました。その厄介な神の討伐はなんとかできたのですが、多数の神々が(たお)れた上、宇宙も半壊したそうです。

 そのため、宇宙もその存続が危うくなっていたところ――」

「“世界”が、その神が生まれる前にまで時間を巻き戻したってこと?」

「そうです。正確には、斃れた神の管理する惑星の中でも、最古の惑星が生まれた時点までですね。ただ、神は再生不能であるため、“世界”が新たに生み出した訳ですが。

 で、私たち準神ですが、旧世界の地球の神によって生み出されました。なので、型番は地球風です。最初の一体は、偶然たまたまどういうわけだか出来た、というような有様だったらしく、“奇蹟”とう言葉から名を付けられました。正直、私的には最悪です。まぁ、私は4世代目なので、文句も何もいえないんですけど。前モデルがそこかしこで働いていましたし」


 あー。MIRって、ミラクルから来てるのね。


 つまり“МIR40GKfe”っていうのは、『奇蹟シリーズ・第4世代試作型――』……GKfeってなに? あぁ、『ゲートキーパー・女性型』ってことね。ゲートキーパーっていうのは、転生事業のオペレーター用に生み出されたからと。


 なるほど。


「残念ですが、その地球の神も大戦で斃れてしまったので、現地球の神は2代目となります」

「……旧地球の神が生きていたら、メイドちゃんは殴り倒しに行きそうだね」

「そんなことはしませんよ。ただ、懇切丁寧に、型番の名称変更を願うだけです。――変更されるまでいつまでも何度でも」


 ……。


 うん。メイドちゃんの機嫌は損ねないようにしよう。


 寝ているところを枕元で延々とそんなことをされたら、精神が崩壊するよ。


 もきゅもぎゅときんつばを食べる。


 うん、きんつば美味しい。


 竜の到着までまだ2時間くらいあるな。


 さすがにずっとお茶の時間じゃ潰せないし。お仕事をするとしよう。


「メイドちゃんや。初心者ダンジョン用のモンスターを考えたいと思うんだけど」

「畏まりました。お手伝いいたします」


 作る数は新種を50。 幾つかはつくってあるから、残りは40余り。よーし、がんばるぞー。


 こうして私とメイドちゃんは、竜の到着までの暇つぶしをはじめたのである。


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