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目が覚めたら目の前にドラゴンがいたのでとりあえず殴りました。  作者: 和田好弘
第6章:新規ダンジョンの整備をしよう
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05 祖竜飛来


 祖竜飛来。


 鈍い音が響く。家鳴りのようにも思える音だ。結構な音ではあったけれど、塔がグラグラと揺れるようなことはない。


 この辺りはダンジョン化してあるからだろう。どういう理屈からなのかはさっぱりだけれど、ダンジョン化するとまず破壊は不可能なレベルで頑丈になるからね。


 ……前にちょっとやらかして、壁に穴を空けたことがあるけれど。云い換えれば、そのレベルの衝撃、打撃でなくてはダメージを与えられないってことだ。


 見上げていた顔を下ろすと、メイドちゃんも天井を見上げていた。


「来たね。崩れるとか思わなかったのかな?」

「そこは劣化コピーとはいえ祖竜ですから。この塔がダンジョンであることは知覚しているでしょう」


 そういうことも分かるのね。なるほど。さすがはこの世界における現最強種6体のうちの1体ってわけだ。


「折角の来訪だし、出迎えは必要だよね」

「面倒なことにならなければいいですけれどね」


 メイドちゃんはため息をつきつつ、肩を竦めた。


 パチンと指を鳴らし、屋上へと転移する。本当ならこんなジェスチャーはいらないんだけれど、なんというか、タイミング的なものをとるために行っている。


 屋上へとでると、びゅうびゅうと風が吹いている中、ほぼ中央辺りに巨大な竜が佇んでいた。あの時、私がはじめてこの世界に放り出された時に目の前にいた、あの黒にちかい紫色の竜とぼぼ同じ大きさかな? でっかい。


 端っこに転移した私たちは、ほぼ中央に降りている黄竜に向かって歩き始めた。


「話は私が致しますので、マスターは黙っていてください」

「はいよー」


 私たちはてくてくと、警戒心もなにも持たずに竜の前にまでやってきた。竜のほうもちょっと戸惑ったのだろう。なにせ、普通に歩いてきたからね。


「ようこそ、黄竜(おうりゅう)殿。我らが“はじまりのダンジョン”へ。本日の用向きはどのようなものでしょう? 見ての通り、まだ当ダンジョンは運営準備をしている最中です」

「先ずは突然の来訪を謝罪する、神よ」


 そう云って黄竜はその頭を下げた。


 うん。どうやら敵対するつもりはないようだ。まぁ、そのつもりなら、テクテク歩いて近づいている間に、ブレスのひとつでも吐くよね。


 メイドちゃんと話しているけれど……メイドちゃん、相変わらず一発で神と誤認されるんだね。


 私? 私は鬼っ子に見抜かれたりしてから、いろいろと訓練して、そのあたりの存在感を消すことができるようになったよ。

 そこまで難しくはなかったよ。学校でも似たようなことをしてたからね。煩わしいのは嫌だから、空気に溶け込むようにしていたからね。


 ん? これからもう一体竜が来るとな。


 黄竜が飛んできた方向に目を向けると、遠くに竜の姿が見える。なんでも背に人を乗せているために、速度を出せず遅れたのだそうな。


 というか、この黄竜が先触れの役割をしていたみたいだ。


 ずしん、と、黒竜が黄竜のとなりに降り立った。そしてすかさず身を伏せると、背にいたふたりを下ろす。


 えーっと、人間の女性……かな? ひとりは黒髪。分かりやすくいえば、よくあるイメージのクレオパトラみたいな感じの女性だ。恰好は豪華なシスター服だけど。もうひとりは赤茶色のクセのある髪で、シスター服だと思うんだけれど、なんというか、改造されまくって動きやすくしたシスター服みたいな恰好をしている。


「挨拶もなしにこんなことを云うのはなんなんだけれど――」


 黄竜とちがって、なんだか随分と気安い話し方だ。


「おトイレを貸してもらえないかしら。彼女たちが――」


 私は指を鳴らした。


 すかさず一階へと転移して、ついさっき創って整備したトイレに彼女たちを案内する。


「使い方は個室の扉に張ってありますから」


 そういってトイレに押し込んだ。


 ちなみに、トイレは普通の洋式トイレだ。ラノベなんかで猛威を振るっているお尻を洗浄してくれる奴なんかは搭載していない、普通の洋式トイレ。


 そもそもこっちの文明レベルだと、水洗トイレってだけでも驚愕ものらしいから、余計なものをつけることもないからね。


 ……私にとっては無用の施設になっちゃったから、ぞんざいな感じになっているわけだけれど。


 私がトイレの前で待っていると、上から降りて来たのだろう、メイドちゃんがふたりを案内するように塔の入り口からはいってきた。


 ひとりは金ピカの甲冑姿。もうひとりは微妙に着くずした豪奢な黒い法衣の女性。


 あぁ、うん。竜って、人に化けられるんだね。……重量とかどうなってんだろ? 見たところ、本来の姿の時のままの体重ってわけじゃなさそうだし。


「マスター、お二方は見ての通り人化できるとのことでしたので、こちらに案内しました。屋上の風の吹きすさぶ中で話をするのもなんでしたので」

「うん。問題ないよー。で、話は済んだの?」

「神の存在の確認に来たとのことです。それと、祖竜の最期についてですね」

「あー」

「マスターが殴って浄化したと説明しておきました」

「待って。違うよね。確かに殴ったけど、私にはアンデッドを浄化するような力は、あの時は無かったよ。というか、浄化なんていまもできないよ!」

「でも、アンデッドの始末もできますよね?」

「できるけど、それは浄化じゃなくて命(?)を刈り取るだけだよ」


 私の権能である“生命”で、対象が生きていようが死んでいようが、亡ぼすことはできるんだよ。正直、これだけで世界を終わらせることもできるから、あまりにも過ぎた力というものだ。だからこれの訓練はほとんどしていない。


 というか、この力はいったいどこの神様だよ。


 ……私が神様だよ! なんなんだろ、この悔しさにも似た感覚は。そもそも神だなんて自覚、いまもってまったくないよ。


 ……なんだろう、竜のふたりが顔を強張らせているんだけど。


 私が首を傾げていると、トイレからふたりが出てきた。そして私をみて、口を開こうとしたところ、途端に黒竜のお姉さんに殴り倒された。


 もの凄い勢いで私の脇をすり抜けて、頭に拳骨を落としてたよ。なんか凄い音がしていたけれど、大丈夫なのかな? というか、なにごと?


「あんたたち、いったい何を云おうとしたの!」


 黒竜のお姉さんが怒鳴った。


「き、教皇猊下、いったいなにを――」

「私たちはただ――」

「黙りなさい! どうせいつものように、下っ端共を相手にするような口調で偉そうに労うつもりだったんでしょう!」


 ふたりは黒竜のお姉さんの剣幕の理由が分からず、混乱したような顔で殴られた頭を抑えている。


「こちらにおわす御方こそ、我らがさがしもとめた女神様にあらせられるのよ! 身の程を知りなさい!」


 おぉう、私が神ってバレテーラ。


「メイドちゃんや、云ったの?」

「いえ。私が神であるかの確認はされましたが。なにせ準神ですから、神としてはかなり微妙に思われるのですよ」

「で、そこから推測されて私が神と?」

「はい。私が“マスター”と呼んでいたことからも推測されたようです」


 あー。そりゃそうか。神様が自分より格上でもない者を“マスター”なんて呼ぶわけないもんね。


「ときにマスター。その“格”を隠蔽する技術は?」

「私が向こうで学生してた時に身に着けた……処世術?」


 いや、処世術とは違うか。


「今度教えてください。こうも正体が簡単に露見するのは問題です」

「いいけど……感覚的なものだからなぁ。まぁ、なんとかやってみるよ」

「お願いします。

 それでですが、その隠蔽を一度解いてもらえませんか?」

「ん? なんで?」

「その方が話がはやく済みそうです」


 そういってメイドちゃんがいまだ揉めている3人を指差した。


 うーん……解くっていってもなぁ。感覚的にやってるだけだから、うまくいくかな? えーっと……こう? いや、違うな。こんな感じ?


 いきなりやいのやいのやっていた3人がビクンと震えた。震え、ふたりがその場でへたり込むようにして倒れた。


「……え?」

「あー。気絶しましたね。さすがに普通の人間は神気をまともに受けると耐えられないようです」

「黒竜のお姉さんも平伏(ひれふ)してるんだけれど」

「自身を簡単に殺せるような相手を前にすれば、それも当然かと。これが畏怖というものですよ」


 振り向くと、黄竜のお姉さんも片膝をついて、まるで騎士の礼のような恰好をしている。


 ……これじゃ話にならないな。戻そう。


「本当に綺麗に神気が消えますね。これは是非とも身につけねば」


 なんだかメイドちゃんがやる気だ。






 慌てて応接室的な部屋をつくり、話し合い(?)をはじめた。


 彼女たちの当初の目的は、既にメイドちゃんとの会話で済んでいるわけだけれど、せっかくだから他にも色々と話そうということだ。


 ついてきたふたり、人間の女性は【黒教】の巫女さんとのことだ。神託の巫女と神楽の神子。


 なるほど。神楽。即ち神に舞を奉納する役目の巫女さんってことだね。だからそんな動きやすそうな改造シスター服なのか。踊り子の衣装とも違うし、なかなか考えてつくられているみたいだ。


 で、神託の巫女だけれど、彼女は【黒教】の実務面でのトップだそうな。なんでも教皇はトップであるけれど、ほぼ完全なお飾りであるそうだ。


 まぁ、死なない存在がトップであれこれしてると、組織は腐る一方だからね。これが解決法だったんだろう。……多分に私の偏見がはいっているけど。


 でも教会のトップがふたりともここにいて大丈夫なのかな? 神楽の巫女は立場的には――ナンバー2? いや、本当に大丈夫なの? 重鎮がみんなこっちに来ちゃって。


「問題ありません。それくらいで瓦解するような組織であるなら、存在しているだけ無駄です」


 羊羹を口に放り込みながら、黒竜のお姉さんが答えた。となりでは兜を外した……消した黄竜のお姉さんが苦笑いをしている。


 黒竜のお姉さんの容姿は、黒髪長髪の紫の瞳。雰囲気的には、いわゆるゆるふわ系のお姉さんだ。黄竜のお姉さんは凛々しいたたずまいの金髪のお姉さんなんだけれど、なんだろう、苦労人臭がすごい滲み出ている。


 ……姉上が礼儀を、とかいう言葉が聞こえたけれど、聞こえなかったことにしたほうがいいかな?


 あ、巫女のふたりは部屋の端っこにおいた長椅子の上で寝込んだままだ。


 で、話の内容だけれど、神殿においで願えないか、というお誘い。要は、神殿で神様やって、っていうことのようだ。


 うん。丁重にお断りしたよ。床の間にちょこんと座って過ごす毎日なんてまっぴら御免だ。


 黄竜のお姉さんが云うには、【黒教】と同様に、他の宗教も神様を捜しまわっているそうだ。そういや、デラマイルにとっつかまった中に、【赤教】の人がいたね。神様捜索隊とかいってたかな? 案内人の人がお尻を掘られて新しい扉を開いちゃったらしく、なんか病んでたのを覚えているよ。


 そういやあの時も、メイドちゃんが神様と誤認されてたっけね。となると、そのうち【赤教】からのアプローチがくるかな?


「システム神のお告げにより、各教が捜索隊を複数出しています。正直なところ、まっとうな信仰から捜索隊を出したのは、【黒教】と【赤教】のみ。他はあまりよい動機とはいえません」

「どういうことです?」


 メイドちゃんが黄竜のお姉さんに問うた。


「まず【青教】ですが、神が未知の知識を持っているだろうと考え、それを搾取するために探しています。【緑教】は森ハイエルフ原理主義者共が復権のために神を利用する気です。もちろん、双方とも、純粋に信仰から探している派閥もあるようですが、少数派ですね。

 最後に【白教】ですが、こちらは教皇派と神託の巫女派とで完全に二分し、教会内で闘争を繰り返しています。神託の巫女派は純粋な信仰心から、神への恭順をと考えていますが、教皇派……【白】の愚か者は神を亡き者にし、自身が神に至ろうと目論んでいるようです」

「ちょっと、そんなこと聞いていないわよ!? なに? あの娘、そんな馬鹿になったの!?」

「姉上にそのまま云ったら、無計画に殴り込みにいくだろう」

「当たり前でしょう。あの馬鹿のとばっちりで死にたくはないのよ!」


 ……えーっと、これは私がブチ切れて、世界を亡ぼすとか思われているのかな? さすがにそんなことはしないよ。世界が敵にでもならない限り。


「いえ、管理システムが神罰を落とすのかと。世界獣の劣化コピーなど、管理システムからしてみればイレギュラーでしかありませんから」

「そういえば、あの祖竜ゾンビも神罰で亡んでたね」

「なにかしらの利用価値があるようで、その死骸は回収したようですが。もしかすると、いずれリセットして再配置されるのかもしれません」


《告:管理システムより準神へ。世界獣の回収は、その遺骸がもたらす問題を失くすためのものです。再配置はありえません。それは劣化世界獣である6体も同様です》


 なんか管理システムから説明が来た。世界獣に関してやたらとナーバスになってないかな?


「なるほど。死骸とはいえ、利用、研究されるのは問題ということですね」

「まぁ、神話とかだと、竜の血を浴びて不死身になったなんていうのもあるしね」


 たまたま背中に張り付いていた葉っぱのせいで、そこが弱点になって殺されたんだっけ?


「くっ。今日の所は勘弁しておいてあげるわ」

「そもそも食っちゃ寝していた姉上では、返り討ちに遭うのが落ちだろう」

「ぐぅ……」


 黒竜のお姉さんは悔しそうに、目の前の羊羹をぽいぽいと口に放り込みはじめた。


 いや、竜だし、沢山食べるってことだからさ、一口サイズの羊羹をピラミッドみたいに積んだのを出したんだよ。

 黒竜のお姉さんは目を輝かせてたけれど、黄竜のお姉さんは苦笑いしてたね。


「情報、ありがとうございます。【青】【緑】【白】に対しては、なにかしらアプローチがあり次第、対処することにします」

「【赤】に関してはどうなのです?」

「既に探索の巫女と接触しています。もちろん、ドーベルク王国へと行くことは断りました。代わりにですが、ここに支部を置くことを打診されましたね」

「そういや、神殿をつくらないといけないのか」

「……マスターの神殿ですよ?」

「……なんだろう、それを自分でつくるのって、凄い間抜けな気がする。いや、自意識過剰の阿呆になった気分になりそうだよ」


 なにが悲しくて、自分の祀られる場所をつくらねばならんのか。


「女神様!」

「うわぁっ!?」


 いきなり黒竜のお姉さんに手を握られた。


「どうか、我が【黒教】にも神殿を置く許可を!」


 あぁ、まぁ、そうなるよね。


「それは構いませんよ。そうですね……塔をひとつ差し上げます。外壁に塔が12ありますから、そこのひとつを中心に神殿を建てればよいかと。というか、設計を見せてもらえればこちらで建築します。町の端になりますけど、離着陸するには塔の天辺は丁度いいでしょう?」

「町中に神殿が乱立するよりは、そのほうが良さそうですね。神殿が並んだりすると、無用のトラブルが起きそうな気がしますし。【赤教】の神殿も、塔を中心に建てていただきましょう。そうだ、黄竜殿。黄龍殿もいかがです?」


 メイドちゃんが黄竜のお姉さんに訊ねた。


「いや、私は宗教など開いていないのだが……」

「拠点を持つことも悪いことではないでしょう。なにより“はじまりのダンジョン”は我々が引き継ぎました。もはや黄竜殿が人除けに奔走する必要もないのでは?」

「というか、この分だと他もやって来るだろうから、調停役をやってくださいよ」


 私がそういうと納得したのか、苦笑いを浮かべながらも了承して貰えた。


 よっしゃ。これで竜関連のトラブルはぶん投げられる。まぁ、私を殺す気満々という白竜は、私が直接殺さないとダメそうだけど。


 さてと、それじゃ、もう少し町づくりを頑張るとしよう。


感想ありがとうございます。


第6章はこれにて終了です。

少しばかり半端な感じがしますが。

明日より閑話を投稿します。


第7章は暫しお待ちください。

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