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目が覚めたら目の前にドラゴンがいたのでとりあえず殴りました。  作者: 和田好弘
第6章:新規ダンジョンの整備をしよう
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02 地下鉄をつくるんだよ!


「地下鉄をつくるんだよ!」


 メイドちゃんは、なんだかとてつもなく不味いものを食べたような表情を浮かべた。


 って、なんでよ!


 よっ子はすごいワクワクしたような目をしてるのに!


「なんでそんな無茶なことを……」

「無茶かなぁ。地上に鉄道を走らせるよりマシだと思うよ。地上を走らせるとしたら、SLを走らせることになるだろうし。そもそも砂漠に鉄道を通すことが無茶でしょ。確か、砂嵐とか起こしてるんでしょ? 線路が埋まるよ」

「確かにそうですが。……あの、マスター、地下鉄はここからどこまで敷く予定なんですか?」

「半島の根本あたりまでだけれど。その辺りになら町もあるんだよね? そこからそれなりにアクセスしやすいところに駅をつくろうと思ってるんだけれど」


 メイドちゃんの胡散臭げなものを見るような目が続いている。


「それなりというのは、どのくらいの距離を考えています?」

「馬車で2、3日くらいかな。あんまり近いと、面倒なことになりそうだしね」

「僅かではありますが、常識的な考えが残っていたようで安心しました」


 酷くないかな!?


「ところで、ここからマスターのいう場所まで、どのくらいの距離であるのかは、もちろん把握していますよね?」

「だいたい400キロくらいじゃない? この半島って、朝鮮半島くらいの大きさみたいだから、それで考えているんだけれど」


 この半島は丈の短いブーツみたいな形をしている。押しつぶしたイタリア半島みたいな感じなんだよ。


 正直、確かに東京←→名古屋、あるいは大阪間程の距離を地下鉄で繋ごうっていうのは、長距離すぎるとは思うけれど、地上を走らせるのは問題しかないから仕方ない。


 魔物以上に砂が厄介だからね。


 電力はどうとでもなるから、問題となるのは移動時間かな。さすがに高速鉄道みたいなことを地下鉄でやるのは怖い。というより、きっととてつもなくうるさいと思う。だからいいところ時速70キロ程度で走らせるつもりだけれど、そうすると片道で6時間くらい掛かりそうなんだよねぇ。

 それでも早いんだけれど、なにもせずに6時間を車内で過ごすことを考えると、トラブルが起きそうっていうのが心配かな。


 ……最悪、睡眠を促すガスなり魔法なりで、到着まで無理矢理寝かすか。


「マスター、なにか物騒なことを考えていませんか?」

「え、そんなこと考えてないよ。むしろ人死にがでないようにと対策をね」


 だからなんで、そんなじっとりとした目でみるのさ。


「ちなみに、どんな対策を?」

「ガスを流して強制睡眠」


 メイドちゃんは頭を抱え、よっ子は顔を引き攣らせた。


「なんでそんな方向に考えが行くんですか!」

「お母さん酷い」

「や、でも絶対にいると思うよ」

「なにがですか?」

「車両を破壊するヤツ」


 見たこともないものだからって、座席を引っぺがしたり、窓ガラスをぶちわったりとか。


「ぐぅっ。た、確かに、有り得そうですね……。いえ、やらかす輩がいますね」

「それに乗車時間も長くなると思うんだよ。そうなるともう、寝かしといたほうがいいんじゃないかと」

「……転移の魔法陣とかを使っては?」

「余計なトラブルを招きそうな気がするから却下。使うなら最上級ダンジョンに罠として組み込むくらいかな?」


 メイドちゃんの目が細まった。


「最上級? ということは、複数造るのですか?」

「そだよ。一番の売りにする初心者ダンジョンでしょ。で、初級、中級、上級、最上級、最後に全自動屠殺場、って感じにつくるつもりだよ」

「最後のはともかく、5つもダンジョンを造るのですか?」


 メイドちゃんが目を瞬いた。


「あとふたつダンジョンを潰すでしょ。そこを利用しようと思ってね。初級は港のダンジョンを使うよ。7階層をスタート地点にした全10階層の初心者向けダンジョン。死亡率は10%くらいで。中級と上級はこれから潰すダンジョンで、最上級がウチね。まぁ、仕切りをしっかりして、全50階層くらいの独立したものにするつもりだよ。あ、死亡率は30、50、80ね。もちろん屠殺場は100。屠殺場は仕置き場だから秘匿するけど、他は公表して、挑む者は自己責任」

「本当にエンターテインメントに走るんですね」

「そうだね。感覚的には登山みたいな感じかな。登山も命の危険はアリアリだからね。遭難はもとより、熊と遭遇とかあるわけだし。そもそも、生きていくために稼ぐっていうんなら、初心者ダンジョンを繰り返し登ればいいんだよ。絶対死なないわけだし、頑張れば頑張るだけ絶対稼げるようにするんだから」

「……慈善事業みたいですね」

「いてくれるだけでDPを落としてくれるんだから、それくらいしてもいいでしょ」


 得られるDPと与える物品との差し引きがプラスとなれば問題なしってものだよ。


「というか、のんびり準備するつもりだったんだけれど、今回の件でかなり前倒しというか、急いで初心者ダンジョンの設定をしないと。目玉となる配置モンスターを設計しないといけないね。なんだか急に忙しくなった?」

「自業自得です。とりあえず、塔のほうをどうにかしましょう」


 メイドちゃんに云われ、私は、疲れ果てたようにため息をついた。



 ★ ☆ ★



 伊号潜水艦で商人さんたちと貴族幼女、それと鉄打姫と砂エルフっ子をはじめ、彼女たちの護衛兼情報収集役を送り出した。あ、それといっ子も。いや、私が貴族幼女を押し付けたところ、私といっ子から離れなくなったんだよね。よっ子ともそれなりに仲良しになっているけれど、頼るとなると私かいっ子ということみたいだ。さん子にも懐いてはいたみたいだけれど、いっ子>さん子というようだ。


 さて、彼らは短いながらも海の旅に出たわけだけれど、外が見えるわけじゃないから、潜水しているって分からないんじゃないかな。


 ドーベルクへと行くわけだけれど、海岸沿いの町から目的地である王都へと、幼女のお父さん(今回の件で故人)が治めている領を通って向かって、そこで情報収取予定。

 早くても2、3ヵ月くらい掛かるかな。ついでにダンジョンで遊んでおいでとも云ったし。


 さて、こっちはというと、みんなを見送ってから地下鉄のトンネルを造ったよ。一応複線だよ。で。走らせるのは懸垂式のモノレールだ。運航はひとまず深夜のみにしたよ。深夜バスならぬ深夜モノレールだ。

 いや、乗車時間が長いでしょ。なら移動中は寝てもらいましょうということでね。……さすがにガスや魔法で強制的に眠らせるのは最終手段にしないと不味いしね。あぁ、もちろん、トイレは完備してあるよ。


 で、残る問題は、寝込みを狙った犯罪が起こるんじゃないかってことで、これの対処も考えたよ。


 だいたいこんな感じだ。



 ★ ☆ ★



 冒険者。ダンジョン探索(魔物の間引き)を主としながらも、傭兵他もろもろの依頼を受ける者の総称。要はチンピラ(定職に就かずにフラフラとその日暮らしのようなことをしているならず者)みたいな連中だ。


 とはいえ、そういった連中の中にも人格者じみた者はいる。ダンジョンを修行場と云い切るような脳き――求道者のような者もいる。そういった者たちからしてみれば、素行不良の冒険者というのは害悪でしかない。


 であるからだろうか。一部のまともな者が集まり、冒険者組合などという、彼らを管理する組織を起ち上げた。


 主に、自分たちが活動しやすくするために、信用を得る手段として組織を作り出した訳だ。それから長い時を経て、いまでは組合所属の冒険者は、それなりに信用を得るまでになった。


 だがどんなに厳格な規則を設けようとも、それを誰もが守るものではない。


 人などピンからキリまでいろいろ居るのだ。


 さて、ここに冒険者であるスカムなる三十路男がいる。無精髭に適当にナイフで切っただけの髪。藪にらみの目。その容姿はお世辞にも清潔にはみえず、どうみても落ちぶれたろくでなしだ。そしてそれは間違いではなく、彼はピンではなくキリに属する冒険者だ。即ち最底辺。


 いつでも街道のいずこかに隠れ潜み、野盗と化する準備が万端になっている男だ。どんな職についても長続きせず、ならば腕っぷしをいかしてダンジョンで魔物を狩ろうと意気込んだところ、臆病風に吹かれて森で草を毟って採取依頼をこなす毎日のおっさんだ。もちろん、その採取依頼も万全に熟せていないという体たらくである。


 そんな彼は誰でも(頑張れば)安全に稼げるというダンジョンの噂を聞き付け、こうして馬車に揺られホルスロー大砂海の端までやってきた。馬車には自分と同じ目的であろう、新人冒険者の一団と行商人が乗っている。


 砂漠の端にぽつんと建っている祠にはいり、地下へと続く階段を降りる。


 縦に細長く開けた空間。右側の壁には等間隔に入り口が開いている。


 彼らはその入口へと足を踏み入れる。


 中も外と同様の細長い部屋。両端にふたり掛けの椅子が等間隔でならんでいる。


 各々が思い思いの席へとつく。スカムは中ほどの席。商人はスカムの前方、新人達は後方の席に腰を落ち着けた。


 座り、待つこと暫し、何処からともなく声が聞こえてきた。


『定刻となりました。1番線のドアが閉まります。ご注意ください』


 プシューという聞き慣れない音がし、スライドしてきたドアが閉まる。そして部屋そのものが動き始めた。


 どうやらこの大きな部屋は、馬車のようなモノであるようだ。だが、馬車に比べ、驚くほどに揺れが少ない。一応、窓があるが、窓の外は真っ暗だ。


『――着は明朝夜明け過ぎとなっています』


 内部の観察に夢中になっていたのか、いつの間にか流れていたアナウンスにスカムは気が付いた。


 夜間の移動。その間、就寝するように声は勧めている。なるほど、夜間も動いている駅馬車のようなものかと、スカムは理解した。そして――


 連中が寝ちまえば、チャンスかもしれねぇな。


 スカムは窃盗の常習者であった。特に、大部屋での雑魚寝が基本の木賃宿ではしょっちゅう同業の冒険者たちから金品を掠め取っていた。


 新人らしき冒険者は、金などロクに持っていないだろう。だが商人は違う。ある程度の金と、販売用の細かな宝飾品をいくつか持っているだろう。行商人というものは、ことのついでに売れるような小物をいくつも持っているものだ。なにせ、荷物に隙間があることが許せないような連中であるのだから。


 やたらと明るかった部屋が薄暗くなる。


 しばらく待てば、連中も眠りにつくだろう。それから頃合いを見計らって、いろいろと頂戴することとしよう。


 それから1時間程も過ぎただろうか。前からも、後ろからも規則正しい呼吸音が聞こえてくる。どうやらスカム以外の者は皆、寝入ったようだ。


 スカムは微かに揺れる中、そっと立ち上がり、商人たちの元へと向かった。


 商人も護衛も、無防備に眠っている。


 スカムは口元に笑みを浮かべながら、商人の荷物に手を伸ばし――唐突に意識を失った。


 ……。

 ……。

 ……。


 ビクッ! と、体を震わせてスカムは意識を取り戻した。


 薄暗いオレンジ色がかった明かりの下、スカムは深く椅子に腰かけたままだ。


 チッ、寝ちまったのか。


 いましがたの光景が夢であると思い、スカムは顔をしかめた。どれほど時間が過ぎたのか分からないが、商人と新人共が寝入っているのは、夢にみたのと同じだ。


 気を取り直し、スカムは立ち上がろうとした。だが――


 な、なんだ? 身体が動かねぇ。どういうこった?


 自身の異変に混乱し、狼狽えているとアナウンスが聞こえてきた。


『次は~モツ抜き~。モツ抜き~』


 結構な音量だが、商人も新人共の目を覚ます気配はない。そのことにホッとするも、動かない身体はどうにもならない。


 なんとか動こうともがいていると、正面の扉が開いた。


 扉から現れたのはワゴンを押した3人組。子供ほどの体格で、頭の先から足先まで、オールインワンの真っ白な服を着ている。そしてなによりも目立つのは、顔を覆っている黒い仮面。大きな丸い目に、口の部分は円筒形になっている。なんとも不気味な仮面だ。

 3人はゴロゴロとワゴンを押し、商人の護衛の座る席のとなりで止まった。そしてワゴンからハサミや包丁、ノコギリを取り出すと、護衛を解体し始めた。


 つんざくような悲鳴が上がる。


 たちまち血臭があたりに漂い始めた。


 だが、商人も、後ろにいるだろう新人達も起きる気配がない。


 白い子供は切り裂いた護衛の腹から臓物を取り出し、ワゴンの上に放り投げていく。そしてノコギリで切り取った胸骨だけなぜか丁寧に、そっとワゴン乗せ、再度、臓物を取り出し始めた。


 護衛の悲鳴が消えた。


 作業を終えた子供たちがワゴンを押して扉の向こうへと消えた。


『次は~抉りだし~。抉りだし~』


 アナウンスが響いた。


 スカムはびくりと震えた。


 再度、子供たちが扉から入って来た。血塗れていない、まっしろな服装。今しがたワゴンを押して行った子供とは別人なのだろうか。


 子供たちは、今度は商人の所へといく。そしてひとりがワゴンからスプーンのような機具を取り出す。他のふたりは商人を押さえつけた。


 あがる商人の悲鳴。


 子供はスプーンで商人の目玉を抉り始めた。


 あまりのことにスカムは吐き気を催しえずいた。


 目玉を抉りだし終え、子供たちが帰っていく。


 スカムは顔を強張らせた。


 順番でいけば、次は自分だ。


『次は~釘打ち~。釘打ち~』


 アナウンスが響く。


 ワゴンを押した子供たちが入って来る。そのワゴンの上には、ボウルに山盛りに盛られた釘がみえた。


 気味の悪い仮面の子供たちがスカムの脇で止まった。


 子供たちはワゴンから金槌を取り出した。


 さぁ、釘打ちの時間だ。


 ……。

 ……。

 ……。


 びくりと震えて、スカムは目が覚めた。


 全身に釘を打ち込まれたハズだ。あの激痛はしっかりと覚えている。だが、自身の身体には釘どころか、傷ひとつない。


 夢……?


 スカムは大きく息を吐き出した。


 なんて夢だ。


 周囲を見やる。


 商人も新人も熟睡しているようだ。


 夢見は悪かったが、この状況は好機以外の何ものでもない。


 スカムが席を立ち上がろうとしたとき、アナウンスが入った。


『次は~モツ抜き~。モツ抜き~』


 スカムは顔を引き攣らせた。


 直後、扉が開き、白づくめに不気味な黒い仮面をつけた子供たちが、ゴロゴロとワゴンを押して入って来た。



 ★ ☆ ★



 ってな感じだ。


 そう。都市伝説……怪談だっけ? の【猿夢】――の改変だ。本来の【猿夢】は、自身が殺される直前に目覚めるからね。


 いやぁ、電車系となると、これと【きさらぎ駅】くらいしか思い出せなくてさ。【霧島駅】とかもあったね。でも駅系は駅に降りた降りないって方向性だから、車内云々系だと【猿夢】が一番怖いかな。


 で、キミたち。なんでそんなドン引きしてるのかな?


「あの、マスター?」

「なにかな? メイドちゃん」

「なんでこんなおかしなことを思いつくんですか。普通に拘束すればいいじゃないですか。そして無駄に話が上手いです」

「それだと被害が出てからの対処になるじゃないのさ。その前にやるとなると、夢オチにするしかないんだよ! あと話が上手いっていうのは、元ネタがあるからだよ。私に怪談を作る才能なんてないよ」


 いや、だからなんで呆れたような顔をしながら頭を抱えるのさ。また器用な。


 ピンポイントで失神させる方法があったからこその対処法だよ、これ。


「あの、お母さん。でもこれだと『なんだ、夢じゃねぇか』って思われて、反省なんてしないんじゃないかなぁ」

「あ、それは考えてあるよ」


 私はよっ子に答えた。


「この夢はループさせるわけだけれど、2周目以降は夢の中で自由に動けるんだよ。そういうふうに調整しているから。

 で、動けるとなると、対象の取る行動は、恐らく次のみっつ。


 ひとつ。その場で待機し殺される。まぁ、多分ないと思うけど。

 ふたつ。白装束の者たちに立ち向かう。でも無駄なあがきで殺される。

 みっつ。逃走。この場合は落とし穴に嵌って落ちてもらう」

「落とし穴?」

「そう。で、トンネル内に取り残されて、そこでより怖い目に遭って死んでもらうよ。まだ内容は考えていないけれどね。なんか適当に怪談から見繕うよ。ま、実際に落とされたら、普通に死ぬし、よくて大怪我なんだけれど、そこは夢ってことでね」


 やっぱり、白い貫頭衣の女の幽霊っていうのが定番かな?


「でも、それじゃ、結局、夢でなんにも変わらないよね」


 よっ子が首を傾げる。


「そだね。だからね、そいつが降りるときに、降車時の常套句を囁くように云ってあげるんだよ」

「なんて云うの?」

「『お足元にお気を付けください』ってね」


 そういうと、よっ子は顔を引き攣らせていた。


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