01 潜水艦を私は選ぶよ
第6章の投稿を開始します。
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全5話+閑話となっています。
よろしくお願いします。
その内……の予定だったんだけれど、急ぎで船を作ることになった。
外部との接触というか、直接的に情報収集をするのが目的……かな?
現状でも管理システムを通せば情報収集はある程度できるのだけれど、細かいところ、街の雰囲気だの治安だの、為政者の評判だのまではわからないからね。
それに加えて、今回、デラマイルによる拉致被害者を解放したわけだけれど、そこから私たちの情報も流れることになるわけだ。
絶対に変なことを考える輩が出てくると思うんだよ。
興味本位程度ならいいけれど、どこぞの権力者が欲に駆られてガチで殴り込みとかされると面倒だからね。
なので、とりあえずは近場の社会の情報を、今更ながらだけれど収集しようというわけだ。
まぁ、それだけなら急がなくてもよかったんだけれど、商人さんと幼女を送り届けないといけないからね。
それに鉄打姫も一度ドーベルク王国に戻さないといけない。こっちの方が切実だ。彼女自身はウチで修行することを決めているけれど、本来行く予定であったドワーフの隠れ里へは行くことを辞めたわけだ。となると、本国であるドーベルクでは行方不明扱いってことになると思うんだよ。
エルダードワーフが行方不明となると、多分、国を挙げてのえらいことになるに違いないからね。なにより、自身も無事を報せたいだろうしね。
あとついでに、そこらの国がどのくらい腐ってるかを確認しようと思ってるんだよ。ここは地球で云うところの中世ぐらいの文明レベル。ってことはだ、きっと役人連中はまともなのはいないと思うんだよね。警吏なんて立場を悪用してやりたい放題していたらしいしね。あ、地球での話ね。でもこっちでも似たようなものだろう。きっと。だからどの程度腐ってるかを調べようと思うよ。その為の餌にデラマイルの首を使う予定だ。
「それでマスター、船はどういったモノを造るのですか?」
「伊-400型潜水艦」
「……は?」
メイドちゃんが目をぱちくりとさせた。
「伊-400型潜水艦だよ。もちろん、中身は最新技術のものに入換えるから、まったくの別物になるけどね。水上機も搭載する気はないし」
「なぜ潜水艦を? それも旧日本軍のものを?」
「単純に外観の問題だよ。当時の潜水艦って普通に船の外観に近いでしょう? まぁ、それならUボートでもよかったんだけれどね」
「えぇ……帆船とはまるで違いますよ」
「そこは無視する」
メイドちゃんがじっとりとした視線を向けてきた。
「ま、潜水しちゃえば、余計な戦闘とかにはならないと思うんだよ。さっきもいったけれど、中身を一新するから、居住性もあげられるだろうしね。あ、動力はディーゼルエンジンにするよ。さすがに原子力は手に余るだろうからね」
「海洋モンスター対策は?」
「対策も何も、海上だろうと海中だろうと襲われるときは襲われるでしょう? ちゃんと雷装だのはつけるから何とかなるんじゃない? なんだったら、オートマタ化しちゃえば、乗員が慌てふためいても、きちんと対応できるだろうし」
なんで頭を抱えるのさ。
「なんでマスターはそんなおかしなことを思いつくんですか?」
「おかしなことかなぁ。そもそも帆船は造らないっていったじゃない。自重して蒸気船を作るくらいなら、隠密性に優れた潜水艦を私は選ぶよ」
実際、現代の地球での海洋主戦力はもう潜水艦だよ。戦艦から空母へと移り変わり、長距離ミサイルだの大陸弾道弾だのがでてきた結果、その空母も陳腐化しちゃっているからね。
ということで、まずは港を改修するよ。
いまは岩場を削りだしただけの、荒っぽい作りの港だからね。木製の桟橋が頼りなげに伸びている港は、とてもじゃないけど立派と云えない。
コストはかなり掛かるけれど、まさに秘密基地みたいな感じにしよう。まぁ、天井とかは削りだしの岩みたいな現状のままでいいや。でもそこにライトを埋め込んで、しっかりと光源は確保しよう。
掘っ立て小屋みたいな木造小屋と、石造りの豆腐建築はすべて作り直し。まぁ、現代的な鉄筋建築も、豆腐建築っていえばそうなるけれどね。そもそも軍事施設とか、防諜を考えると、まったく同じ造りで一切の装飾どころか標識すらない建物となって、知らない者が入り込めば目的地へと辿り着く前に自身の現在地をあっというまに見失う造りになっているらしいしね。
そいつを目指そう。
……なぜメイドちゃんは頭を抱えているのかな? まぁ、いいや。
よし。完成。これまでは開きっぱなしだった出入り口にも隔壁をとりつけたよ。外から見ると単なる崖にしか見えないハズだ。
ふふふ、抜かりはないよ。これで、この場所の話を聞いた者が探しに来たとしても、見つけられないだろう。
それじゃ、メインとなる潜水艦を造ろう。
これに関しては、側はともかくも、中身をどうするかダンジョン・コアと相談しながら設計しよう。もちろん、参考にする潜水艦は“そうりゅう”とかだ。
なぜダンジョン・コアは格納庫を残すことにそこまで執着するのか。私にはさっぱりわからないよ。……空を飛びたいのかな? 結局、私が折れたよ。でも格納機数は本来の3機から1機に減らした。だから格納庫は小さくなっているよ。
……晴嵐を造らないといけなかったりする? いや、晴嵐に拘る必要もないのか。なにか良さげな機体を設計してもらおう。私は乗らないけど。
ということで、潜水艦をどどんと造っちゃうよ。
海面よりやや上に、微妙に船尾を下に傾いた形で想像する。ほら、進水式――っで、あってるのかな? 船の舳先でワイン瓶を叩き割って海に船を下ろす儀式があるじゃない。あれって斜めに船を滑らせて進水させるでしょ。そんな感じにしようと思ってね。
ちょっと流れちゃったけれど、問題なく進水できたよ。きちんと桟橋にまで戻って来たしね。
この側だけ伊号潜水艦だけれど、実はダンジョン化してあるんだよ。AI代わりにエーテル素子人口脳(オートマタの頭脳部)を搭載しようと思っていたんだけれど、ダンジョン・コアと相談した結果、代わりに子ダンジョン・コアを搭載したよ。
ウチのダンジョン・コアの子ダンジョン・コアとなっていることと、機能制限をしてあるから、叛乱を起こす心配も無しだ。
ちょっと得意になってこのことをメイドちゃんに云ったら――
「なんで普段からその周到さをださないんですか!」
嘆かれたよ。
メイドちゃん、それは違うよ。周到なんじゃなくて、単に思いつくかつかないかってだけだよ。
そんなわけで、この子は無人でも活動可能な潜水艦となったよ。まぁ、初仕事はドーベルクまで人を運ぶことだけれどね。
そういえば――
「メイドちゃんや。今回は何人進化したのかな?」
「今回の進化は5人です。幼女ひとり、少女ふたり、成人ふたりです。ひとりを除き戦闘特化となっています」
「なんでまた幼女が!? というか、どのくらいの年頃?」
「外見年齢は5歳前後です」
私は唖然とした。
「5歳って若すぎでしょ。なんでそんなことになったの!?」
「大物武器ををぶん回す幼女はロマンであると云っていました」
頭が痛いと云わんばかりに、メイドちゃんは額に人差指を当てる。
いや、それは私もだよ。頭を抱えたいよ。ロマンと云うか、そういった属性? 的なのはあるけどさ。ゲームでもウルトラグレートソードをぶん回す3歳女児とかいたけど。ぶん回す剣に自分もぶん回されるという、トリッキーな戦い方のキャラ(隠し)だったけれど。
とはいえ、私はさすがにそれはアカンだろと思ってるんだけれど。つか、外部に出すわけにはいかないじゃん。情報収集役にはだせないけど、ま、いいか。
内訳はどんな感じなんだろ?
「まず、外見年齢5歳の幼女が戦士です。獲物は大型鈍器を希望しています」
「待って。ひとり目が幼女なの!? え? ってことは総隊長が幼女になったわけ?」
いや、確かに物騒な演説かましてたけれどさ。でも方向性が違うでしょ!?
「いえ、総隊長は最後に進化しました。部下の進化開始を確認してから進化にはいったようです」
あぁ、よかった。なんだか安心したよ。
……ってことはだ。やっぱり責任感とかも進化に関係するのかな? どうみてもこの幼女は、後先考えずに趣味に突っ走った感じだし。
「続けます。ふたり目は外見年齢15歳前後。NINJA……いえ、女性ですからKUNOICHIですね」
「……なんで片言っぽい発音なの?」
「くノ一ではなく、KUNOICHIだからです」
んんっ? あ、まさか――
「ステレオタイプのアメリカ忍者?」
「その通りです。ですが、まともな間諜としての活動も問題なく行えるようです」
「目立ちたがりとかじゃないのね? ちゃんと隠密なり間諜なりできるならなら問題ない……かな?」
大丈夫だよね。
「3人目が15歳前後。魔法使い、魔女です。彼女はΔ小隊の隊長ですね。戦闘においての不満から魔法使い系に進化したようです」
「不満?」
「近接で多数を倒すのは時間がかかる。雑魚相手に弾薬がもったいない。魔法なら魔力を消費しても時間経過で回復するからお得と」
「家庭の主婦か! 私じゃあるまいし」
「……だからじゃないかと」
え? 私が原因? いや、両親を亡くしてからは家計は私がやりくりしてたけどさ。……税金関係以外は。
渡された生活費をいかにやりくりして、且つ、毎日満足のいくごはんを作るかっていうのをやるのは楽しかったんだよ。
「4人目、外見年齢20歳前後。近接戦闘、軽戦士です。リーチの短い武器と素手がメインです。ゲームでいうところの武道家でしょうか。砂竜の頭にパイルバンカーを打ち込んだ彼女です。」
「あぁ、だからそんな近接系になったわけね」
「……武器は壊れるから、と云っていました」
「ウチの子たちはぶきっちょな子が多いの? さっきの幼女が鈍器を選んだのもそれが理由でしょ!」
「そのようです。何も考えずに殴る武器が好みの者が多いようです。そして最後の5人目、総隊長ですが、進化前とほぼ変わりありません。指揮官……というよりは、まとめ役、調停役といったような、いわゆる苦労人ポジのような感じになりました。……マネージャー、でしょうか?」
……。
「責任感が強すぎない?」
「心配性な性分から、このようなことになったようです」
「レプリカント寮の寮母でもやってもらおうか。雑用係みたいになるだろうけど」「それがいいでしょう。その前に、砂エルフの娘と共にドーベルクに向かわせます」
「あー。彼女のお仲間ふたりへの説明役?」
「はい。彼女も、仲間のふたりをこちらへ連れてきたいと」
ほほぅ。
「来てくれるとありがたいね。いわゆるギルドの受付嬢的なことをする人員がいないからね」
最悪、先生に人形を操ってもらうつもりだったんだよね。でもそうすると、さすがに先生の負担が大きくなりすぎるからなぁ。ダンマスをやってもらうことにもなってるしね。
「ところでマスター。ここまで港を整備したということは、地上ダンジョンへの外部からのアクセスは、この港を利用するのですか?」
メイドちゃんが問うてきた。
「いや、ちがうよ。もしそうなら、偽装した隔壁なんて造って、こんな秘密基地じみた改修なんかしないよ」
「では、当初の予定通りに砂走船を? とすると、流砂を新しく作ることになりますが」
「そんな無駄なことしないよ。そんなことをしたら、馬鹿みたいにDPを使うだろうし。そうじゃなくて、地下鉄をつくるよ」
「……は?」
メイドちゃんは目をぱちくりとさせた。
まさか地下鉄なんてものを作ると云いだすとは思わなかったのだろう。
私はにんまりとした笑みを浮かべて、もう一度云った。
「地下鉄をつくるんだよ!」




