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目が覚めたら目の前にドラゴンがいたのでとりあえず殴りました。  作者: 和田好弘
第4章:侵略を受けていますが概ね平和です
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04 私の家族がまたひとり増えたよ


《マスター。お客様がみえました》


 昼食中にダンジョン・コアからそんな報告を受け、私は目を瞬いた。


 ちなみに、本日のお昼はボロネーゼ……いや、ミートソース? どっちでもいいか。とにかくお肉たっぷりソースのスパゲッティだ。


「お客? ここに? というか、本当に客なの?」


《正確には北部通用路入り口で、当方に声を掛けています》


「……なんていってるの?」


《「ごめんくださーい」》


 ダンジョン・コアが、恐らくはそのお客のものと思われる声を私に届けてきた。『ごめくださーい』なんて云っていることからして、ここがダンジョンであることは分かっているのだろう。でなければ、洞窟の入り口でそんなことをしているわけがない。


 ……いや、おかしな人ならワンチャン。


《彼女はドリュアドです。なんらかの要因により、こちらに接触しようとしているのかと思われます。でなければ、出入り口の偽装を突破できるとは思いません》


「あぁ、そういや、勝手に入って来られたりしないようにしたんだっけね」


 微妙に質量のある幻影で、ダンジョン入り口を偽装しているのだ。触った程度では普通の岩にしか感じないが、そこに体当たりをぶちかます勢いで突撃すれば、ダンジョン内に入ることができる。


 あれだ、某魔法小僧映画に登場する駅みたいなものだ。


《管理システムより我が主神に進言します。彼女の願いを叶えることを推奨します》


 私とメイドちゃんは顔を見合わせた。


 管理システムが直接こういうことに介入してくるということは大事だ。


 管理システムというのは、惑星の気候やらなんやらをある程度制御している存在だ。

 そう、ある程度。だから、大規模環境破壊などしてしまったら、さすがにそのリカバリーまではできない。


 それと、管理システムは『神』が造ったものではなく、『世界』が造ったものだ。そう、『神』を造った存在? がね。箱庭を造るために神がテラフォーミングをすると、そこに自動的に付加されるそうだ。


「どういうことなの?」

「そういうこととしか云えませんが」


 ……なんだろう、世界は神様が神様を生み出すことを支援しているのかな?


 まぁ、そんな雲の上の事なんかわからないからいいか。予想もつかないことをあれこれ考えても時間の無駄というものだ。


 話を戻し。


 そんな世界の回し者とでも云えなくもない管理システムからのお願いだ。無下にするわけにもいかない。


「それじゃ、迎えにいこうか」

「マスターはこちらに。危険はないと思いますが、念のため、私が迎えにまいります」


 メイドちゃんが拳を握り締めて云った。


「カラッパに乗って!」

「いや、乗りたいだけでしょ」


 メイドちゃんの乗機はカラッパになった。基本的によっ子のカラッパと同じだ。ただ、内部機構を見直してできるだけ最適化したので、コクピットを若干広くすることに成功した。おかげで、170センチの背丈の私でも乗れるようになった。


 あ、乗り方はカラッパのお腹の部分が開いて、そこに半ば腹ばいで、バイクに乗る感じ。人によっては、長時間乗っているとストレスが溜まるかもしれないね。


 カラーリングは宝石っぽく。透明感のある翡翠カラーだ。いや、塗装だけで透明感をだすことってできるんだね。予想以上の綺麗な仕上がりでびっくりしたよ。


 右手のハサミには[C-02]、左手のハサミには[М4-00]とペイントしてある。


「カラッパ2号機は分かるけど、左手のはなに?」

「第4世代МIR型プロトタイプということです」


 あぁ、メイドちゃんの名前と云うか、型番からか。というか、プロトタイプだったの?


「余計な機能を付け過ぎたと、大神様が嘆いていますね」

「なるほど、やりすぎてフランケンシュタインシンドロームが起きてるんだね」

「……なんですか? それは」


 フランケンシュタインシンドローム……っていうのかどうかは、実際の所は記憶違いかもしれないけれど、要は、創造物が創造主を殺すってことだ。


「マスター、私はそんな大それたことなどしませんよ。せいぜい、揚げ足をとるだけです」

「それはそれで立場を考えるとダメなんじゃないかな?」

「問題ありません。他の目の無いときにしかしませんから」


 ……大神様、もしかして結構苦労されてたんじゃ? まぁ、いいか。


「それじゃ、迎えに行ってきてもらえるかな?」

「はい。お任せを」

「ちゃんと転移をつかってよ?」

「わ、わかっていますとも。行ってきます!」


 メイドちゃんがぱたぱたと走って行った。


 まぁ、楽しめることができてよかったよ。日々の娯楽は必要だからね。




 3時間程してからメイドちゃんが戻ってきた。地味に長かったのは、最下層の離れたところに転移して、そこからカラッパで戻って来たからだ。


 ドリュアドはカラッパのハサミの上に乗せられていたけれど。


 最下層は全フロアしっかりと舗装……というか、タイル張りの床になっているから、カラッパが走行するには安定しているだろうけど。多分、残しておいた祖竜の通れるサイズの大通路を走って戻って来たのだろう。


 訓練場……練兵場? 適当に呼んでいるからいまだにこの場所の正式名称が決まっていないんだよね。まぁ、決めなくてもいいか。ボス部屋って呼ぶこともあるし。


 あー、そういや、ここのほぼ中央のポイントって、私のリスポンポイントなんだよね。さすがにこの状態なのはあれだな。今度あたらしく訓練場をつくって、私のリスポンポイントにはなにか建物を造っておこう。


 なにせ全裸でリスポンするわけだし。みんなの訓練中、そのど真ん中に全裸で出現とかさすがに嫌だよ。




 そんなことを考えながらダンジョン・コアと待っていると、翡翠カラーのカラッパが帰って来た。


 うん。あのカニにしては薄べったくないずんぐりした姿は可愛い。その上であのカラーリングでやたらとゴージャスに見える。我ながらいい仕事をしたと思うよ。


 訓練場を半ばまできたところでカラッパは止まり、ドリュアドを抱えていたハサミを器用にくるりと回しながらドリュアドを地面へと降ろした。


 うん。イメージ通り感じの女性だ。うっすらと緑色がかった肌。といっても、ぱっと見は普通の肌に見えるけれど。そして茜色の髪。紅葉か楓かって感じの髪色だ。ただ、なんていうの、静電気がひどくてバサッ! としたような感じだけれど。いや、逆立ったりはしていないけれどさ。瞳の色は翠色。


 服装はゆったりとした感じの薄手のワンピース。なんだけれど、裾がボロボロだね。全体的に薄汚れているよ。どこからウチまで来たのか知らないけれど、結構、苦労してやってきたようだ。


 全体的な雰囲気はさん子に似ているかな?


 彼女はほんわかとした笑みを浮かべながら私たちの方へと歩いてきた。ここには私とコア以外はいない。いや、隅っこに先生が座ってるか。他にはいない。【黒】や【銀】がずらりといたりしたら、威圧感しかないからね。ドールたちも同様だ。


 彼女はのんびりと歩いてきたが、突如として顔をこわばらせて足を止めた。


 あれ?


 かと思ったら、いきなり走って来るや跪き手を組んだ。


「期せずしてこうして拝謁できたこと、恐悦至極に存じます。女神様!」


 ちょっと!?


 目を伏せ、祈りだしたドリュアドのお姉さんに驚いて、私は思わず傍らにいるダンジョン・コア(端末)に声を掛けた。


「コア!?」


《マスターの正体を理解しているようです。管理システムが保護をするように進言していることからも、ドリュアドの特殊個体であるのでしょう。もしかすると、巫女の資質をもっているのかもしれません》


「巫女?」


《管理システムの降す神託を受けることの出来る者というのは限られています。いえ、限っています。そういった才能を持った者が巫女として、各宗教組織では重用されています》


「なんか良いように利用されてそう」


《それを行った場合、管理システムはそれを主導した者をはじめ関わった者すべてに神罰を落としています。それ以外のことには無頓着のようですが》


「なるほど。神託をゆがめたり、虚偽神託はさせないようにしてるんだね。で、このドリュアドさんもその巫女の才能のある者であると」


《だと思われます。でなければ、管理システムが目を掛けるとは思えません》


 まぁ、管理システムからしたら、虫けらもドラゴンも、おんなじ生き物って括りだろうしね。


「あのー、お姉さん?」

「はっ!? お姉さんなどと畏れ多いことです。私めのことは雑草とお呼びください」

「いや、雑草って……」

「ドリュアドさん、落ち着いてください。マスターはそのようなへりくだった態度を望んではいません」


 カラッパから降りてきたメイドちゃんがドリュアドのお姉さんに云った。


 カラッパは……あ、よっ子が乗り込んで移動させるみたいだ。格納庫に持って行って整備するのだろう。あとでなにかしらお菓子でも差し入れておこう。


「ここで話すのもなんだから、場所を変えよう」


 そういって私は自宅へと向けて歩き始めた。本来ならこんな簡単に自宅にご案内なんてしないんだけれど、今回は管理システムのお墨付きだから特別だ。


 ドリュアドのお姉さんはまず竹林に感嘆の声をあげ、門をくぐった先に適当に植えてある果樹をはじめとした樹々に狂喜してた。


 特に満開のハナミズキに興味があるみたいだ。白とピンクの花が咲いていて綺麗だからね。というか、うちの庭はもう季節を無視した状態だから、ちょっとカオスではあるんだけれど。


 自宅へと入り、居間へと案内する。床の間にダンジョン・コアの本体があるけど、それはからくり扉をつかって壁の向こう側、隣の部屋へと移動している。


 一応、応接間もキッチンの隣にあるんだけれど、そっちは今はほとんど使っていない。今度から来客はそっちにしたほうがいいかな。洋室だし。


 腰を落ち着けたところ、にっ子がお茶とお茶菓子を運んできた。


 いつもの緑茶と今日のお茶菓子は二層になった羊羹だ。


 ……いや、これ、私の失敗作なんだけれど。餡子と寒天がなんか分離して上下に分かれちゃったやつなんだけれど。いや、ちゃんと上部の寒天の部分も甘くなってはいるし、味的には問題なくて綺麗なんだけれどさ。


 なんでにっ子はこれをだしたの!?


 いやいや、なんでダンジョン・コアはお茶菓子としてこれを生成したの!?


 そんな私の気持ちも他所に、お姉さんは目を輝かせてるんだけれど。


 ……あれ? ドリュアドって食事関連はどうなの? 樹の化身みたいなものだよね? こういったものを食べても平気なのかな?


《ドリュアドは基本的になんでも食べます。特に菓子の類には目がありません》


「そうなんだ。……なんでも?」


《はい。肉も食べます。ドリュアドに纏わる悪い噂は真実です》


 あー。人を誑かして殺すってやつか。


「それはごく一部のはぐれものがやることですよ。里でそんなことをすると、樹との繋がりを断ち切られて追放されてしまいますから。もっとも、追放されたドリュアドは適当な樹に取り憑いて同じことを繰り返すようですけど」


 お姉さんがワクワクしたような目で私を見ている。


「そちらのフォークで切り分けて食べてください」

「えっと、フォークってこれですか?」


 竹を削って造られたフォークを手に、羊羹をひとくち。たちまちお姉さんが幸せそうな笑みを浮かべた。


「おいしいですぅ」


 頬に手を当て、もはや心ここにあらずという感じだ。


 ややって、落ち着いてから彼女がここに来た目的を訊いた。


「私なんですが、ドリュアドの双子の片割れです」

「双子……」


《マスター、ドリュアドに双子が生まれるというのは、非常に稀です。そして双子として生まれたとしても、対となる樹はひとつであるため、基本的にどちらかが樹との繋がりを断ち、新たなパートナーとなる樹をもとめることになります》


「となると、その樹をもとめてここに?」

「はい。お告げを受けて、ここまで旅をしてきました。力尽きる前に辿り着けてよかったです」

「ん? どういうこと?」


《基本的にドリュアドは対となった樹と一生を共にします。樹との繋がりを絶たれたドリュアドは、大抵の場合1年と絶たずに死亡します》


「あれ? それじゃさっきの追放されたドリュアドは?」

「そういった輩は樹を大切に思うような者ではありませんから、樹を幾本も殺しながら渡り歩く魔物に成り果てます」

「それはまた厄介だね。それで、お姉さんは双子だったから、追放とかとは関係なく、里をでてきたと」

「はい。いずれにしろ妹と折り合いが悪かったですし、近く里から出されて野垂れ死ぬのだろうなと覚悟していたのですが、システム神様よりお告げを頂きまして、ここまで旅をして来たしだいです」


《我が主神の創り出した彼の樹の世話役として、これほどの適任の者はいないと判断し、勝手ながらここまで誘導しました》


 管理システムが口を挟んできた。


「私の創った樹か。システムが介入する程となると、マナリヤか裏庭のアレだよねぇ」

「えぇ、そうだと思われます」

「それじゃ、お茶菓子を食べ終わったら行ってみようか」

「お願いします」




 ということで、まずはマナリヤの広間へと来たよ。うん。マナリヤの大樹は外れ。となると、やっぱり本命は世界樹(2本目)だろう。

 この世界樹。いうなればバックアップとなっているようだ。なんでも世界樹は星の記憶のデータベース。いわゆるアカシックレコードの媒体なんだとか。生命の存在するどこの星にもあるそうなんだけれど、大抵は切り倒されてしまっているそうな。


 この星の世界樹はまだ人跡未踏の地にあるから無事だけれど、いずれ切られると管理システムは考えているのだろう。でなければ、私が興味本位で創った世界樹にここまで入れ込むとは思わないもの。まさかドリュアドを連れてくるなんてねぇ。


 ドリュアドのお姉さんは暫くマナリヤの樹に抱き着いていたけれど、微妙に失望したような顔をしていた。ありていにいえば、振られたと嘆いていたよ。


 ……マナリヤの樹も、自分じゃなくて世界樹の方へ行けと云っているんだろうなぁ。


 トボトボと歩くお姉さんを連れて、今度は裏庭へと回る。こじんまりとした畑の先、そこに世界樹が植えてある。いや、自分たちの消費分だけだったら、大規模な畑なんて不要だからね。自宅裏手の土地は大分余っているんだよ。その開いた場所の真ん中に世界樹を創ったんだ。そのせいでポツンと一本だけ生えてる状態だけれど。


 自宅脇を回り、裏手へとはいる。野菜を収穫しているさん子とごっ子を尻目に、世界樹へと向かう。そして世界樹に近づくにつれ、目に見えてお姉さんの消沈していた顔が明るくなっていく。


 やがて彼女は私たちを置いて駆け出して行った。もちろん目指すのは正面に見える世界樹。


 マナリヤに比べると遥かに小さく、その幹も真っすぐではなく、微妙に傾いている木だ。いや、傾いているけれど、そこからちゃんと上に伸びてはいるよ。私の地元のシンボルの木みたいに、真横に伸びるなんてことにはなっていない。

 なんていったらいいんだろ、腰をクイっとやってる感じ?


 お姉さんはと云うと、またさっきみたいに樹の幹に抱き着いている。


 ややあって世界樹から離れたお姉さんは、私の所へ駆け寄ってくると、またしても跪いて手を組んだ。


 いや、それ、止めて欲しいんだけれど……。


「お願いします、私をこの子のパートナーにさせてください!」

「こちらこそ、その子のお世話をお願いするよ」


 祈るのを止めてもらうようにいうのは、ひとまず後にしよう。

 そして彼女は世界樹と絆を結んだ。


 そういや、世界樹は不老不死の木だから、これで彼女も不老不死となったわけだ。命を共有することになったから。




 こうして私の家族がまたひとり増えたよ。


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