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※人形の野望

感想、誤字報告、ありがとうございます。


 おはよう。


 今日もいいお天気ね。


 え? 地下深くにいるのに、いいお天気もなにもないだろうって?


 これだから無粋な輩は嫌いよ。


 お母様の家のある広間や、マナリヤの広間にいけば、お天気を確認することくらい簡単なのよ。


 砂漠だから、基本的にいつもいい天気だろうって?


 なんにでもケチを付ける輩は嫌いよ。


 今日も私はいつもの場所に座って、訓練場を眺めているわ。


 いつもの場所? 訓練場の隅っこよ。隅っこに置かれている木製の豪奢な椅子が私の場所。ここで騎士たちの訓練を眺めてつつ、相手をするのが私の仕事。


 リビングドールたちは数が多いから、お互いに工夫しつつ模擬戦や訓練をしているわね。


 もっとも、いまは誰ひとりいないけれど。


 任務の為にアリを駆除しにいっているのよ。


 私も最初はついて行っていたけれど、私の役割は不要であると分かったから、こうしてお留守番をしているわ。


 ん? 私? 私は案山子教官って呼ばれてるわ。お母様は先生って呼んでいるわね。


 え? 容姿が全然違う?


 まぁ、そうよね。お母様が云うには、私はなんとかドルフィーとかいうお人形をモデルとして創り出したそうだから。


 身の丈60センチくらいのお人形。ウェーブのかかったプラチナブロンドの長い髪に白い肌。深い藍色のドレープのたっぷりついたドレス。もちろんフリルもふんだんにあるわよ。

 でも中身は機械が詰まったオートマタでもあるわ。本来なら決められた判断基準でしか動けない自律機械であるオートマタだけれど、それをリビングドール化したものが私。


 それも、お母様が特殊個体として創りあげた特別製なのよ!


 だから私の種族名は――


 種族:リビングドール【パペッティア】


 となっているわ。


 そう、パペッティア。即ち人形使いよ。人形タイプのモンスターを従えることのできる最上位個体よ。もちろん、単なる人形も操ることが出来るわ。


 現状、私には12体の(しもべ)がいるわ。半自律型のリビングドール。いえ、どちらかというとゴーレムと云った方が近いわね。


 その姿は丸太を十字に組み合わせたものに、木材で腕をつけたもの。その腕の先には木剣と木盾。身体の部分には胸甲。そして頭として金属バケツが丸太に被せられているわね。なぜバケツに『消火』と記されているのかは不明だけれど。


 えぇ。見慣れていると思うけれど、案山子教官と呼ばれている子たちよ。


 そう、私はその子たちの指揮官役……というか、操者ね。


 半自律型だから、簡単な命令を与えておけばその通りに活動するんだけれど、それだとどうしても反応が遅れるのよね。

 だから、近接戦闘訓練の際には、私が彼らの行動を操っているわ。


 【黒】のみんなは、やっとレベル【軍曹】に入ったわね。【銀】のみんなはまだ【兵長】をクリアしたばかり。先は長いわね。


 お母様もなかなかに酷なことをしていると思うわ。【英雄】【剣聖】なんてレベルも大概だと思うのに、最高峰の【異能生存体】なんてレベルは絶対に攻略不可能なレベルよ。


 だって【異能生存体】って、いかな状況下でも生き残る存在でしょう? あるいみ理不尽が具現化したようなものよ。勝つことなんて不可能だもの。なんだってそんなモードまで実装したのかしらね。


 まぁ、デコイとしてはあの子たちはとても優秀なのだけれど。実質、無敵なのだし。


 そう、あの子たち、無敵なのよ。一定のダメージを……いえ、一定量の打撃を受けるとバラバラに分解するだけだから。今はリビルドまでの待機時間が1分に設定されているけれど、これを0分にすれば、分解した直後に元通りに組み上がるわ。


 そして各パーツは異常に硬いクセに柔軟だから、まず壊れない。


 さらに、ヘイトを集める特性がついているから、デコイとしてはもってこいよね。あの子たちと対峙した者は、殴りつけたいという気持ちに抗わない限り、先へと進むことはできないんだもの。


 ただ、回避と防護面に能力を振り切っているから、攻撃力は悲しいものがあるのだけれど。


 まぁ、本来は訓練相手として生み出された子たちだもの。そこは妥協するしかないわね。


 あ、お母様が見えたわ。


 今日も訓練をするのね。


 ふふ。こうしてお母様の訓練を見ることができるのは私だけ。


 お母様はこのところ、朝食を終えた後に訓練場で能力の確認を行っているの。リビングアーマーたちやリビングドールたちもみんな出払っているから、気兼ねなく訓練できるというものよ。


 他に誰かいると絶対に訓練をしないもの。お母様は。


 ほぼ中央に立ち、訓練をはじめるお母様。つぎつぎと確認するように繰り出される権能。


 私もこの隅っこから見ていたけれど……どれも桁外れだったわ。


 権能が放たれる度に、思わず座ったままぴょこんと跳ねたわ。


 お母様が使っているということは、あれの全てが神罰と同等ということだもの。桁外れなのも当然よ。


「うーん……テキトーにやってこれかぁ。制限を掛けないと大変なことになるね、これ。どうしたものかな……」


 お母様のボソリとした呟きが怖いわ。


 ちょっとおせんべいを摘まむような感覚でやったことが、どうみても大破壊を引き起こすレベルの権能だったのだもの。それがテキトーって……。


「プラズマって、結構簡単に発生するんだね……」


 あの、お母様? 遠い目をしながら呑気に云わないで欲しいわ。それが私に当たったなら、きっと私は焦げ跡を遺して消えてしまうわ。


 その後、顎に手を当ててなにごとかブツブツと云ってらしたけれど、すぐにポンと手を叩いて、眼前で指先をスッ、スッと動かしていたわ。


 私の目には見えなかったけれど、お母様には視認できる方法で情報を収集しているのよ。なにを調べているのかしら?


「まともに制御できずに飛び散るなら、間接的に攻撃できるようにすればいいのよ!」


 そういって右手を横に伸ばし、なにかを創造しはじめたわ。


 ややあって空間が歪み、そこから現れ出でしもの。


 あ、あの、お母様? その黒くて、太くて、長くて、やたらと大きなものは何なの!?


 ものすごく不穏なものにしか見えないわ。


 私がオロオロとしていると、お母様は訓練を再開。直後、世界が文字通り震えたわ。


 その衝撃で私が椅子から転げ落ちるほどよ。


 なにが起きたのかさっぱりわからないまま身を起こし、お母様のほうをみると、なにやら困っているような様子。


「あちゃー。こういう防壁の展開の仕方だとダメかぁ。壁を吹っ飛ばすことはなかったけれど、まさか着弾の衝撃波をこんなに撒き散らすとは思わなかったよ。

 これ、あとでメイドちゃんに怒られそうだなぁ。

 でもまぁ、威力は十分かな」


 な、なんでそんなに呑気なの?


 あ、あの、お母様。お母様はいったい何と戦うつもりなの? どうみてもいまの魔法? の威力は止められるものではないわよ?


 椅子の座面に手をついて呆然としていると、お母様が私のほうを振り向きました。


「あ、ご、ごめんね。もしかして吹き飛ばしちゃった!?」


 お母様は手にしていたそれを異空間にしまい込むと、私のところへと駆けてきました。




 ふふふ。これぞ役得という物よ。


 ……いえ、役得というのとはちょっと違うわね。私は座ってただけだし。まぁ、いいわ。いまの状況を鑑みれば、そんなことなど些細な事よ。


 私はいまお母様の膝に抱かれて、髪を梳かれているわ。ふふふ。まさに至福。


 私の髪を梳き終えると、転げ落ちた拍子に落としてしまった帽子を被せられ、私はそのままお母様に抱えられてお母様の自宅へと、いつものように向かう。


 ふふふ。私はお母様のお気に入りなのよ!


 う、自惚れなんかじゃないわよ。勘違いなんかでもないわ! だって、そうじゃなかったら、こうして毎日、私を抱っこしてお散歩なんてしないわ!


 訓練場を抜けて長い階段を降りると、そこは竹林。


 あら、妹のひとりが筍を掘っているわね。


 お母様が用があると、筍を掘り終えたら来るように云っているわね。今日はこのままお散歩に行くわけじゃないみたい。




 お母様の自宅で待つこと暫し、妹たちがやってきた。なぜ3人とも、メイド様と同じ恰好をすることにしたのかは謎だけれど、気に入っているのならいいのかしらね。


「それじゃ、さっそくだけれど、集まって貰った理由を話すわね」


 座卓を挟んで座る妹たちに、お母様が話し始めたわ。私はもちろん、お母様のお膝の上よ。そしてメイド様がとなりに控えているわ。


 3人はいっ子、にっ子、さん子と呼ばれているわ。もちろん仮名。まだお母様が本調子ではないから、名付けをすることができないのよ。


 ……あれ? それじゃ不調の状態であの破壊力を片手間でだせるの? お母様?


 それはさておいて、妹たち3人よ。


 いっ子。一番最初にレプリカントに進化したリビングドール。ブルネットボブの生真面目な子。外見は15、6歳の人間に見える。なんでもそつなく熟すんだけれど、どういうわけだか何かしらひとつ抜けるのよ。掃除と洗濯に並々ならぬ情熱を傾けている子よ。


 にっ子。金髪癖ッ毛の子よ。いっ子と同じく、15、6に見える。陽気な性格で、ちょっと騒がしいくらいね。彼女は料理に興味をしめして、お母様からいろいろと学んでいるわ。みていると凄くいい加減な子のようにみえるけれど、かなり神経質に物事を熟す子よ。


 さん子。赤毛のロングヘアの子。といっても、見た目は22、3に見えるわね。もの凄くのんびり、おっとりした子よ。果物に異様な興味を示して、この拠点の各果樹はもとより、畑の管理を行っているわ。ひとりじゃ手が回り切らないから、仲間が欲しいみたいね。あぁ、この子はもの凄く優しい子だけれど、3人の中で一番厳しくもあるわ。もし彼女と敵対したら、その相手は本当に哀れだと思うわね。


 お母様は一呼吸間をおいて3人をみつめると、こう云ったのよ。


「地上に新しくダンジョンを造るんだけれど、だれかダンジョンマスターをやらない?」


 ……はい?


「お母様。なぜ新たにダンジョンを拵えるの?」


 疑問に思った私は訊いたわ。


「いくつか理由はあるけど、一番の理由は面白そうだから」


 ……。


「あの、お母様? いまなんと?」


 いっ子はさすがに戸惑っているようね。にっ子は……理解しているのかしら? さん子は楽し気ね。


「面白そうだからだよ」


 お母様は淀みなく答えたわ。


 私は絶句したわ。絶句って、本当にするのね。びっくりだわ。


 さすがに妹たち3人も目をまんまるくしていたわ。


 思わずメイド様に目を向けると、メイド様は苦笑いを浮かべながら

こう云うの。


「私とダンジョン・コアは、先に聞いておりましたから」


 ……。なるほど。おふたりも絶句したのね。


「とりあえず、詳しいことは後でね。ただ、こことは役割がまったく違うダンジョンにするよ。

 それで、そっちのダンジョンもここのコアに任せようかとも思ったんだけれど、いろいろと管理が紛らわしいことになりそうだから、別のコアを使って造ることにしたんだよ。廉価ダンジョン・コアが――」


《マスター。検討した結果、廉価コアではスペックが足りない可能性があります。また、砂蟲などの管理を現状行っているため、それらをリセットすることは好ましくありません》


「あー、そっか。じゃあ、廉価コアは現状維持がいいのか。でもダンジョンマスターは据えておいた方がいいよね?」


《廉価コアは私の管理下に組み込み、ダンジョンマスター不要とします。新規ダンジョン用のコアは、子ダンジョン・コアを新たに生成しましょう》


「DPはどのくらい掛かりそう?」


《500億DPもあれは最低限のスペックは満たせます》


「スペックギリギリとかは嫌だなぁ。以前に作った子ダンジョン・コアはどのくらいのDPで作ったの? 5千年前くらいだったんだよね? それならもう結構な量のDPが貯まってたんでしょう?」


《それぞれ1千億DPを使用して生成しました》


「おー、締めて6千億も使ったのか。まぁ、兆を軽く越えて京単位で貯め込んでたろうし、ちょっとした買い物程度だよね。

 いまもまだ知らない桁のまんまだし、同程度で――いや、2倍で生成しよう」


《かしこまりました。生成を開始します》


 お、お母様? なんだかとんでもない額のコストでの生成を命じてない?


 あ、メイド様が頭を抱えているわ。


「マスター! いくら現状DPに余裕があるとしても、すでに収入がなくなっている状況でそれだけの支出をするのは――」

「またそのうち大神様がみえるでしょ? その時は限界まで引き留めよう!」

「マスター!?」


 あ、あの、お母様、メイド様がいまにも泣きそうよ?


《神より放出される余剰存在質量は莫大です。ひと月も滞在いただければ、支出分を十分に補えます》


「お姉ちゃんを復活させるときには、おいでいただけるわけだから、その時に歓待してしばらく滞在してもらう方向で」

「わ、わかりました」


 メイド様が不本意そうだわ。きっといろいろとあるのね。


「ということで、誰かダンジョンマスターをやらない?」


 お母様が再度問うた。


 すかさず私は手を挙げた。


「はい! お母様。私にお任せを!」

「えっ!?」


 勢いよく手を挙げた私に、お母様が驚いて目をパチクリとさせているわ。


「ダンジョンマスターともなれば、命を狙う不埒者もでてくるもの。私なら人形を身代わりにできるわ!」


 私がダンジョンマスターとなる利点を述べる。この大役は是が非でも手に入れなくては。


 だって、そうでもしないと私は進化できないのよ! ダンジョンマスターとなれば、DPを貯め込むのにあわせて、経験値を得ることができるわ。存在質量さえ満たせば、私もレプリカントになれるはずなのよ!


 そうすれば、私もお母様の手料理を食べるチャンスを得られるというもの!


 動機が不純? なんとでもいうがいいわ。


 例え動機が不純でも、すべき責務を過不足なく務めていればなにも問題はないわ!


「えーっと……」


《問題ありません。むしろ、影武者を簡単に据えることが出来る分、もっとも適していると思われます》


 ダンジョン・コア様、すばらしいわ! もっと推して!


「3人はそれでいい?」

「私は問題ありません」

「あたしも!」

「お姉様が幸せならそれが一番ですぅ」


 よく云ったわ、妹たち! ……いまやってる仕事ができなくなるのが嫌なだけの気もするけど、そんな細かいことは気にしないわ。私はお姉ちゃんだもの!


「それじゃ、先生にダンジョンマスターをお願いするわね。あとで一緒にダンジョンマスターに据える影武者人形のデザインを考えようか」

「はい。お母様!」


 こうして、私はダンジョンマスターになることになったのよ!


 ふふ、これで近いうちに、私も進化できるに違いないわ!


 そして私もお母様の手料理を食べるのよ!


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