01 かなり悪い状況?
第3章(第3話)の投稿を開始します。
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全7話+1話となります。
ダンジョン・コアに体を与えたわけだけれど、その結果、家の中をウロチョロしようとしたため、出禁にした。
床を傷だらけにするんじゃない! 畳が、畳がーっ!
まったく。ここがダンジョンじゃなかったら、修理するにも一苦労だし、もし床を踏み抜いて穴を開けようものなら、痕を残すことなく直すこともできないよ。
あの軽動甲冑、軽とついているけれど、普通の鎧よりもずっと重いからね。フル装備で……100キロくらいかな。プレートメイルがフル装備で3、40キロくらいだから、倍以上だよ。
さて、当面の配下として、スライム軍とリビングアーマー分隊を作ったわけだけれど、彼らの待機場所的なところを作らないといけないと気が付いた。
クアッドスライムがいうには、スライムたちにはそんな場所は不要といわれたので、彼らには普通にダンジョンでウロウロしてもらうことにしたよ。
なんだかクアッドスライムのコアそれぞれが、色々と配下のスライムに指示をだしているようだ。
そしてリビングアーマーだけれど、彼らには待機場所をきちんと作ったよ。装備品を置く場所とかも必要だからね。現状はガンアクスと普通の訓練用の大剣と斧だけだけれど、後々、盾とか、ロマン兵器としてパイルバンカーとか用意しようと思ってるし。
待機場所というよりは格納庫みたいになったけれど、リビングアーマーたちはその方が居心地がよさそうだ。
一応、彼らの構造には細かなギミックがあるため、定期的に整備をしなくてはならない。まぁ、普通のプレートメイルは毎日手入れをしないと錆びるから、それに比べれば頻度は少ないけれど。
そういや、黒色に拘って無理矢理変な合金を生み出した訳だけれど、考えたらチタン合金にすれば軽量で腐食や錆にも強かったんだよね。うん。第2分隊をつくるときには、銀色のリビングアーマー部隊にするとしよう。
リビングアーマーの格納庫はラスボス部屋に併設した。人数分の固定床、ロボットアニメなんかに出て来る、機体を寝かせておく専用の固定台って云えばわかるかな。あれを作ったよ。ただ、完全に寝かせはせず、直立から斜めに傾く程度のギミックしかないけど。
ラスボス部屋はいまは練兵所のような感じになっている。訓練用の案山子とか、射撃用の的を並べてある。案山子は一定ダメージでバラバラになるものの、一定時間で復活する仕様だ。一応、モンスターの一種、半自律型のリビングドールとして生み出した。
種族名:案山子教官
戦闘訓練の相手役をするのが役目のモンスターだ。剣と盾をもってはいるが、基本的に攻撃はせず、回避しまくる。その回避術も【新兵】から【異能生存体】まで段階があり、相手の技量に合わせて訓練難易度を変化させている。
おかげでリビングアーマーたちの戦闘技能がうなぎ上りだ。
いや、リビングアーマーって、戦い方は正統派の剣士みたいな戦い方をするんだけれどさ、なんか、昨日見たら手にした剣をぶんなげたり、蹴りをいれたりしてたからさ。もはや案山子教官相手になりふり構っていられないらしい。
きっと、プライドを粉々に粉砕されたんだろう。
案山子教官に現在の訓練での回避レベルを聞いたところ、【上等兵】だそうだ。……まだまだ先は長いね。
★ ☆ ★
「メイドちゃんや。ちょっと教えて欲しいことがあるんだけれど」
スライムたちを創ってから1週間が過ぎた頃、私はかねてからの疑問を解消すべく、メイドちゃんに声を掛けた。
「なんでしょう? マスター」
「なんで私、神様なんて大層なものになっちゃったの?」
これがずっと疑問に思っていたことだ。
いや、レベルUPなんてことがあったわけだから、その原因は分かるんだよ。わかるんだけれどさ、どうにも納得がいかないんだよ。
「それはゾンビ化した祖竜を討伐したことにより、その存在質量を奪ったからです」
あー、うん。予想した答えが返って来た。でも私が訊きたいのはね――
「討伐っていうけれど、私、なんにもしてないよ」
「いえ、マスターはしました。祖竜を殴りつけたではありませんか」
確かに殴ったけれどさ。あれ、いいとこ与ダメ1ってなものだよ。
「確かに、祖竜を最終的に破壊したのは惑星管理システムの所有する【神罰】です。それにより討伐した祖竜より取得した存在質量は、マスターとの等分となるわけですが、システムはその権利を放棄。もとより、システムはそれを得る権限をもちません。そうしなくては、地上にいる生物を適当に討伐して、リソースを回復するなどということができてしまいますからね」
あぁ、なるほど……?
「結果として、得られた存在質量のすべてがマスターへと分配されました。もともとあの祖竜はその存在期間を含め、能力は遠く及ばないものの、ほぼ神に並ぶ存在質量を有していたため、マスターは神に至ることとなりました」
「……棚ぼたで神様になっちゃったのね。いいの? これ」
「問題ありません。マスタ―があまりに神に不適格であったのなら、そもそも神へと至ってはいません。マスターの神化は“世界”によって承認された結果ですから。種族進化システムは“世界”の管轄になりますので」
……本当にいいのかなぁ。いまさらながらだけど、私、怖気づいているんだけど。
「まず、マスターは異常だったのです」
「は?」
「あの祖竜を前にして動ける、という時点でおかしいのです。いかな生物でも、ゾンビ化していたとはいえ、祖竜を前にして動けるハズが無いのです。絶対強者たる祖竜を見た者は例外なく畏怖し、行動不能に陥るものなのです。それが祖竜の持つ能力ですから。マスターはそれを打ち破るどころか、殴りつけました。恐らくは、その状況を監視していた管理システムも驚愕したに違いありません」
いや、最初はシステム? に拘束されてたんだよね? 確かにそれを引きちぎってあの竜を殴ったけれどさ。……あれ、ということは、もしかして私、二重の拘束を引きちぎってったって事? いや、なんで? 私、普通の町娘Aみたいなもんだよ?
そのことを云ってみたところ。
「さすがマスター。無自覚に不可能を可能としてらしたのですね。素晴らしいです!」
……いや、褒められんの? それ。
「いずれにしろ、現状の状態を変更することはできませんので、気にすることは無いのではないでしょうか? なんでしたら、運が良かった、の一言で済ませてしまえばよいかと。なにより、もし変更が可能であったとして、ただの人に戻れたとした場合、姉様を復活させることは不可能となってしまいますよ」
!!?
え、いや、それはダメだよ。こういっちゃなんだけど、お姉ちゃんを生き返らせるために今、いろいろ頑張ってるんだからね。
よし。もう思い悩むことはやめよう。棚ぼたでもなんでも構わん。こうなったら神様として一人前になってやるとも。その前にダンジョンマスターとして一人前にならないといけないけど。
「では、マスター。今後のことについてお話をします」
メイドちゃんが私の目の前にお茶を置く。
やっとメイドちゃんは素直に同じ席に躊躇わずつくようになってくれたよ。
本日のお茶菓子は、私のお気に入りの豆大福。ほのかな塩味が絶品の一品だ。
「当【はじまりのダンジョン】は、現在、問題を抱えています」
「うん。それらしいことはダンジョン・コアから聞いたよ。喫緊の問題はないっていってたからね」
喫緊なんて云ってたってことは、なにかしら問題事は起きているってことだ。即時対処しなくてはならない、というほどではないというだけで。
でもメイドちゃんは私の言葉に、顔をしかめていた。
「あー……喫緊もなにも、実際の所は大問題であるのですが」
「え!?」
「マスターがモンスターや設備関連を整えている間に、ダンジョン・コアより現状の確認を取りました。それに加え、クアッドスライムに状況の確認をお願いしてあります」
メイドちゃんの言葉に、私は口元を引き攣らせた。
「かなり悪い状況?」
「確かに喫緊の危機というわけではありませんが、現状のままでは私たちは地上に出ることができません。いえ、正確には、地上に出たが最後、戻ることができません」
は?
「地上に出るだけなら簡単なのです。転移機能を使えば良いのですから。ですが、戻ることが困難です」
いや、どういうことよ。
《当ダンジョンは私の管理化にありますが、その80%が外部生物によって支配されています》
え? いや、どういうことよ。
ダンジョン・コアに詳しく聞いたところ、苦肉の策であったらしい。
前ダンジョンマスターにしてダンジョン・コア作成者であるあの祖竜は、ダンジョン・コアに最低限の権限しか与えていなかった。結果、ダンジョンを拡張する以外のことができなくなっていたわけだ。
ただ、それだと絶対的に侵入者を排除することはできない。そりゃそうだ。罠も無ければ、侵入者を撃退するモンスターもいないんだもの。時間さえかければ最奥部まで到達できる。
まぁ、到達したところで祖竜がいるから問題ないっちゃ問題ないんだろうけれど、そんなことになろうものなら祖竜が激怒するわけで。
ダンジョン・コアとしては祖竜に破壊されたくない一身で、いろいろと策を考えた結果、外部生物に侵入者を撃退させようと考えたわけだ。
それは至極うまくいったものの、結果として現状のような有様になったようだ。
そう、その辺の野良のモンスターに軒下を貸して、やってくる外敵を排除させていたところ、野良モンスターが母屋にも進出してきた、ということだ。
まさに“軒下貸して母屋取られる”な有様だ。
《この80%中の70%が、ホルスロー大牙蟻とホルスロー大牙砂蟻によって支配されています。残りの10%が、蛇人族や人頭蜘蛛他諸々です》
「で、私たちが残りの2割と」
なんという酷い有様。
単純にあまりにも深い場所だから、ここまで進出してきていなかっただけらしい。まぁ、餌とかもないだろうしね。ここ、相当深い場所みたいだし。
「このような状況ですので、ひとまず外敵を排除しなくてはなりません。まず、この最奥部にもっとも迫っているホルスロー大牙砂蟻のコロニーを征伐することからはじめましょう」
「うん。それは分かったけれど……今更なんだけれどさ、このダンジョンって、どのくらいの規模なの? 35万年なんて聞いているから、相当広いと思うんだけれど」
「マスターに分かりやすくいうのであれば、敷地面積……いえ、延床面積といったほうがいいですね。それがほぼ日本の2倍くらいです。当ダンジョンのほうが、やや広いですね」
……え?
「え、なに? そんなに広いの? ここ」
《がんばりました!》
「あ、あぁ、うん。そうだね」
そりゃ、そんだけ広ければ、ここまで辿り着ける者なんてそうはいないよ。それこそ大量の物資を抱えていないと無理だし、そもそもその大量の物資を持ち込むのが無茶ってものだよ。
え、その8割が外敵勢力に実効支配されてて、そいつをこれから取り返そうって云うの? いや、無理とは云わないけど、無茶苦茶時間が掛かるんじゃね?
「ですので、戦力を整えましょう」
「……その割にはDP使うことに頭を抱えていたよね?」
「マスターは特殊個体を作りすぎなんです! あれだけのリソースがあれば、町ひとつくらい更地にできる戦力を構築できましたよ!」
いまの戦力でも出来そうだけれど。
《まずは、大牙砂蟻の征伐からはじめましょう。コロニーは4万ほど。女王:200万。働きアリ:10億。兵隊アリ:1億の大群です》
お、おう。どうすんの、これ。
あ、いや、ファンタジーな世界で蟻なんて聞いたから、とんでもなくでっかいんだろなって思ったんだけれど、大きさはどのくらいなんだろ?
勝手に、某地球を守るけど市民は守らないゲームに登場した、全長10メートルのアリを思い浮かべてたけれど。確か、女王にいたっては500メートルを超えるんだっけ?
確認の為に聞いてみたよ。
《働きアリの大きさはこの通りです》
ダンジョン・コアが目の前に映像を出してくれた。ホログラムみたい。
えーっと大きさは、あれだ、でっかい犬。ニューファンドランド……だっけ? ガチで背に乗れるくらいのでっかい犬。それくらいの大きさだ。
一瞬、あれ、思ったより小さいと、ホッとしたけれど、冷静に考えるとアリでこのサイズは完全に化け物だよ。でっか! え、これを駆逐するの? 億単位で? さすがにうちの兵隊足りなくね?
これは取り急ぎ銀騎士をつくらないと。あ、銀騎士は、創ることを予定しているチタン合金製のリビングアーマーのことね。
あと、ファンタジーらしく魔法使い部隊も作った方がいいかな。……魔法生物で創れるかな。そういや、ラノベとかだと殺虫剤が異様に効いてたりしたよね。燻煙式の殺虫剤とかつかってみようか? いや、このサイズだと効き目が悪そうだよねぇ。
私はそんなことを考えながら、つたないファンタジー知識にあるモンスターを順繰りに思い浮かべはじめたのだ。




