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※ 第1回 クアッドスライム会議


「第1回、クアッドスライム会議を開始する。

 番号! 壱!」

「2」

「三」

「よん! なんだよ!」


 生み出されたばかりのクアッドスライムたち(?)は、相談をはじめていた。現在、彼らの主であるダンジョンマスターは、彼らの配下となるスライムたちを生産している。

 主曰く、3万体作成するとのこと。


 さすがに一度に3万体も生産すると周囲が埋め尽くされ、庭や拠点に被害がでてしまう。故にマスターは100体ずつ生産している。予定数を生産するまで、いましばらく時間がかかるだろう。


 クアッドスライムはそれらスライムの大群の統括を任されることになるため、どう配下を運用するべきか、会議を行っているのである。


「では、(それがし)、壱番が議長を受け持たせてもらう」

「「「異議なし(なんだよ)」」」


 スライムコア1番~3番は、4番をじっとみつめた。


「そんなに見つめられると恥ずかしいんだよ」

「……その口調はなんなの?」

「個性なんだよ」


 4番は3番に即答した。


 自分たちは同時に生まれたはずだ。いや、自分たちは4つでひとつの存在であるはずだ。1番は2番であり3番でもある。もちろん4番でも。


 そう、あるはずなのだが……なぜか1、2、3番のコアは4番が異質すぎて理解不能に陥っていた。


 確かに、各個で個性を無理矢理作り上げてはいるが、4番に関してはこのような愉快な有様になる予定ではなかったはずだ。確か、ニヒルな女ではなかったか?


「……4番、なにも問題はないのだな?」


 1番が聞いた。


「問題ないんだよ。いち番もなんだよも、なんだよなんだよ」


 もはや“なんだよ”がゲシュタルト崩壊しそうである。


「その喋り方はどうにかならんのか?」


 1番がうんざりしたように云った。


「これが個性というものなんだよ」

「「「……」」」


 1番~3番は無視することに決めた。


「でははじめよう。お館様は我々に軍団の長となることを求めておられる。我らスライム軍の役割は、お館様の尖兵として、お館様に害を成す者どもを殲滅することである」


 1番の言葉に、2番~4番は頷いた。4番が頷くたびに「なんだよ」と相槌を打って煩いが。


「我々には本来スライムが持つことのない能力がお館様により与えられた。更に、これより3万の兵を預かることになる。預かる兵の分配と、その役割分担を決めたい」

「役割分担?」

「兵と云っても色々とあるだろう。斥候、隠密、突撃兵、他にも色々。主様の知識には他にも多数ある。我らの常識では不明な兵科も」

「なるほど。誰がどの兵科を受け持ち、配下をそれに相応しい姿へと鍛えるかを決めるのね」


 3番がうんうんと頷いた。


「現状、あたいらは皆スペックは一緒だ。ここから別個に特化させようってことだね」

「なんだよ!」


 全員が1番の提案に同意し、どうすべきかを考え始めた。だが、いくら知識を得たといっても、得ただけの付け焼刃の現状ではいい考えが浮かばない。


 このままでは無駄に時間を費やしてしまう。


 そう1番が思い始めたところ――


《お手伝いしましょうか?》


 不意に聞こえてきた声に、ゆらゆらと揺れていた4つのコアの動きが止まった。


「ダンジョン・コア殿。なにか良い案はないだろうか?」


《そうですね。軍の中にはスローガンを掲げているものがあります。それらを参考にしてはいかがでしょう。スローガンはその軍の有り様を示しているものですから》


 ダンジョン・コアの提案を受け、彼ら――いや、彼女らは与えられた知識の検索をはじめた。


 ややあって。


「【風林火山】なんだよ!」


 4番が大声を上げた。


「もっと念を抑えなさいよ」

「割れるかと思った」


 3番と2番が4番に文句を云う。だが4番はそんなことなどお構いなしだ。


「【風林火山】なんだよ!」

「だから、それはなんなの!?」


 3番が不機嫌そうに問うた。


「マスターの故郷に名を遺す偉大な武将が軍の旨とした言葉なんだよ!」


《【風林火山】。武将、武田信玄が掲げていたとされる言葉ですね。孫子の兵法より引用されたものです。


 其の(はや)きこと風の如く、

 其の(しず)かなること林の如く、

 侵掠(しんりゃく)すること火の如く、

 動かざること山の如し、

 知り難きこと陰の如く、

 動くこと雷霆(らいてい)の如し、

 郷を(かす)めて衆を分かち、

 地を(ひろ)めて利を分かち、

 権を懸けて動く。


 これの前半部分のことですね》


「「「おー……」」」


 1番から3番が感心したように声を上げる。


「ふむ。4文字であるし、その意味も区別化されている。我々にとって丁度良いのではないか?」

「そだね。あたいも賛成」

「4番の案っていうのが気に食わないけど、私も賛成よ」

「3番はひどいんだよ。3番もボクと同じなんだよなんだよ」

「私を“なんだよ”にしないで! そもそも“なんだよ”ってなによ!」

「“なんだよ”は“なんだよ”なんだよ」


 3番は身悶えるように、体内をゴロゴロと転がった。


《4番さん。黙りましょう》


「わかったんだよ」


 3番が落ち着くのを見計らい、1番が話しを進める。


「では【風林火山】を我らがスローガンとし、これに見合った軍を作り上げることでよいな」

「「「賛成 (なんだよ!)」」」

「よし、では、誰がどの文字を受け持つかを決めよう」


 1番がそういうや、2番がすぐに意見を出した。


「順番でいいんじゃない。ごちゃごちゃになると気持ち悪いし」

「そうね。1番が【風】、2番が【林】、私が【火】で、なんだよが【山】でいいと思うわよ」


 4番がついに“なんだよ”と呼ばれだした。


「ふむ。某が【風】か。意としては進軍速度のことを云っているのであろうが、ここは少し変えさせてもらおう」

「変えるの?」

「うむ。基本、我らはダンジョン内での活動であるからな。ふむ、我が隊は斥候と伝令を受けもとう。速度特化となれば、スライムである我らは戦闘能力がほぼ最低にまで落ちるであろうからな」

「あー、そうね。【念話】の妨害手段は沢山あるしね。それを考えると伝令役は必要だわ」


 2番と3番はうんうんと頷いた。


「じゃ、【林】のあたいは待ち伏せ要因かな? ただの伏兵じゃ面白くないから、罠とかを多用する感じでやってみるよ」

「【火】はいうまでもなく攻撃特化ね。主様の知識に興味深いものがあったから、その方向で徹底するわ。魔法生物には対抗しにくくなるかもしれないけれど」


《魔法生物型、ゴーレムなどに対抗するモンスターは、マスターが別途創造する予定ですので問題ありません。むしろ対生物特化であるほうが助かります》


「【山】のなんだよは拠点防衛なんだよ。群体化して塀になるんだよ」


 1番、2番、3番は無言で4番を見つめた。


《塀になりすましてどうするんです?》


「通路を塞いで誘導したり、最後列を捕食したりするんだよ。敵は気が付くと同じところをグルグル回って、ひとりずつ姿を消していく仲間に恐れおののくんだよ!」


《なるほど。マスターのホラー関連知識にあることを行うのですね》


「そうなんだよ。もちろん、岩のように固くなることも訓練するんだよ!」


 4番は胸を張った。球体のどこが胸なのかは不明だが。


 かくして、クアッドスライムの方針は決まった。


 そして各々の目的に即するように、各コアが変容させる。それを助けるようにダンジョン・コアが支援をした。


 こうしてクアッドスライムはクアッドスライムVer.2.1.0となったのだ


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