08 参考資料はSFだ!
さて、ひとまず“歩兵”は確保できたといっていいだろう。
あ、スライムたちのことね。さすがに3万は多くて、この拠点に収まりきらないから創造次第上の階層に回って貰ったよ。一部はここに残っているけど。
そしてそのスライムたちのコマンダーとしている、スライムらしからぬコストのスライムは、目の前で人型になっているよ。
種族名:クアッドスライム
コアが4つだからね。そして通常の見た目は信玄餅。とはいえ流動体みたいなものだから、形状を制御できるような能力……機能? を持たせたところ、人型になってみせてくれてる状態だ。ちょっと前は狼だったよ。
見た目は、機械の体を求めて宇宙を列車でいくアニメに登場したウェイトレスさんみたいになってる。そこはかとなくエロい。頼むからそこまでリアルに変じないでくれ。乳首とか再現しなくていいから。というかよく見たら下もじゃないのさ。止め! 止めーっ!
……なんで女性のスタイルなんだろ? ちなみに、人型になっているのは3コア。恐らくはリーダーとなったのであろうコアは、普通の信玄餅……じゃない、直径10センチほどのスライムとして私の肩に乗っている。
リーダー1、サブリーダー3、サブリーダーそれぞれが1万の兵隊を管理する感じかな。さすがに1万まとめてはきついだろうから、大隊長とかつくると思うけれど。
あ、そうだ。ちょっとイレギュラーなことが起きたんだよ。この配下のスライム。普通に透明だったはずなのに、色がついた。緑、赤、黄の3色。……信号機かな?
(お館様、お館様、【風林火山】にござります!)
は? いや、なんの話よ。
話しかけてきた肩のクアッドスライムに。私は目を瞬いた。
すると3コアが指をパチンと鳴らした。
……スライムボディなのに、指、鳴るんだ。
その合図にあわせ、私の前に3体のスライムが並んだ。緑、赤、黄の順番に。
そして1コアが叫ぶ。
(徐かなること林の如く!)
シュキーン! と、効果音でも聞こえてきそうな感じで、緑色の信玄餅がふにょんと変形してポーズを取った。
(侵掠すること火の如く!)
今度は赤がふにょんと。
(動かざること山の如し!)
最後に黄が立方体になった。
私の目の前には変形した三色信玄餅(直径50センチ)が固まっている。
「……風は?」
私は問うた。
(こちらに。疾きこと風の如く!)
いきなり私の右隣に、数体の透明スライムが現れた。
え?
(姿を隠して、お館様を守護しておりました)
忍者か!!
……あれ? おかしいな。ステルス能力なんて付けた覚えないんだけれど。
ちょっと確認してみる。
目の前にコンソールを出して、クアッドスライムの情報を閲覧する。
クアッドスライム Ver.2.1.0
お前もか! って、なんで勝手バージョンアップしてるの!? いま創造したばっかりだよね!? 5時間と経ってないよ!? というか、どうして配下の普通のスライムまで変化してるの!?
というかさ、レベルUPじゃなくてバージョンUPってどういうことよ!?
私はメイドちゃんに目を向けた。
あ、メイドちゃん、頭を抱えてる。……あぁ、うん。これもやっぱりおかしな事態なんだね。
クアッドスライムは言葉を続ける。
(協議した結果、特化した能力を持つほうが良いとなりましたので、お館様より頂いた学識情報より【風林火山】を至言とし、軍の有り様を其に相応しき物とすべく姿を変じた次第にござります)
……なんでこんな物々しい喋りになったの? しかも可愛らしい声で。もの凄いギャップなんだけれど、ギャップがありすぎて……というか、ギャップの方向性のせいで、ギャップ萌えなんてところから大暴投してるんだけれど。
つか、そんな志の在り方だけでホイホイ進化(?)できるものなの? できないよね? え? どうなってんの?
色付きスライムを確認する。
緑:トラッパースライム。
赤:コローションスライム。
黄:グランドスライム。
なんか聞いたこともないのに変態してるんだけれど。
トラッパーは罠師ってことでしょ。伏兵的な感じかな? グランドは大地ってことだよね。山ってことだから、防御特化だろう。コローションってなんだ? 火だから攻撃特化ってことだろうけど。
透:ステルススライム
これはもうそのまんまか。斥候とかそういった感じみたいだ。
《クアッドスライムより相談を受けましたので、幾らか助言をしました》
おまえが原因か! いや、いくら助言したからって、普通は変わらないよね?
……もういいや。考えても分からんことは放置だ。なにか問題があるわけでもなし、構わないだろう。
《マスター、お願いがございます》
「なに?」
《私にも身体をください》
「却下」
私は即答した。そうしたところ、ダンジョン・コアは酷くショックを受けたようにあれこれ云いだしたから、却下した理由を説明した。
ダンジョン・コアはダンジョンの要だ。最奥にどっしりと構えて置いてもらいたい。破壊されたらこのダンジョンが終わるからね。
そう説明したというのに、やたらと諦めが悪い。
寝ても覚めてもブツブツと云われるのも非常にうざいから、妥協案をだしたよ。くそぅ。まぁ、予定していたもう一種のモンスターの練習になるからいいか。
《端末、ですか?》
「そう。あんたの目の代わりになるコアをつくって、それが制御できる体に乗っけて――って形なら、了承するよ。要は、本体が危険になるようなことにならないならいいよ。できる?」
《……》
あれ? 黙りこくったぞ。
《――問題ありません。可能となりました。つきましては、端末の作成許可を頂けますか?》
……なんだろう、このそこはかとない不安は。
確認してみる。
Ver.6.7.0
こいつ、また自己改良しやがった。冗談じゃなしに、そのうち主従逆転しそうで怖いんだけれど。
ということで、端末コアを生成。
それじゃ、体の設計をはじめよう。
次に創るモンスターはリビングアーマーだ。しばらくは基本的に魔法生物タイプのモンスターを創る予定だ。食糧の問題があるからね。
魔法生物型は魔素さえあれば問題ないらしいから、食事要らずなんだよ。とはいえ、余りに創り過ぎると、今度は魔素不足になるから、魔素の供給源も創らないといけないんだけれど。……うん。リビングアーマーを創ったらそっちをやろう。
まずは鎧のデザインだ。はっきりいおう、中世的なプレートアーマーとかは創らない。参考資料はSFだ!
SFにおいて登場する鎧となると、いわゆるパワードスーツだ。“着る”というよりは、“乗る”という感じのもの。
日本のサブカルチャーでは、その手のものはいくらでも溢れているし、フィクションでなくともロボット関連の技術はある。
それに数は少ないものの、普通の鎧同様に着るタイプのパワードスーツもある。いわゆるパワーアシスト付きのプロテクターというやつだ。パワーアシスト付き外骨格だっけ? 介護用のアイテムとして実用化されてたよね、確か。外部装甲とかなくて、フレームが丸出しだったと思うけれど。
その辺りを参考にデザインし、内部構造とかを作り上げていく。あくまでも創るのはリビングアーマーで、オートマタではないから、ちゃんと人が着ようと思えば着れるように調整する。端末コアを搭載するやつは、胸部を改造してそこに中枢ユニットとして取りつけるけれど。
そうやってデザインをしていく。
……いや、私のデザイン力なんてたかが知れているから、アニメや映画を元に魔改造したものになるんだけれど。
地獄の番犬の名を冠した部隊に採用されているパワードプロテクタを参考に創って行こう。あのデザイン、好きなんだよ。
まず頭部。ドイツ軍を彷彿とさせるヘルメットにガスマスクのような面。……ガスマスクはあれだな。失くしてシンプルな面にしてみようか。
……だめだ。ガスマスク的なデザインじゃないと、すごいコレジャナイ感が。一応、ガスマスクとしての機能を持たせたままで、このままいこう。
胸部は普通にブレストアーマー的な感じ。元ネタの方は左胸によくわからないコンソールがついていたりしたけれど、それは排除。
背部。ここにはバッテリーほか、継戦能力をあげるための消耗品を入れるバックパックをつける。……よく考えたらリビングアーマーだから、持たせるのはせいぜいバッテリーくらいか。火器を持たせる予定はないし。
肩は右肩はシンプルに。左肩はショルダーアタックをかますことを前提に突起をつける。先は尖がっていないよ。電極をつけて、いわゆるコレダー(コライダー)というやつにしてみようか。
二の腕はショルダー部で半ば防護してあるけれど、きちんと金属で覆っておく。とはいえ、可動範囲は出来る限り阻害しないように。
腕の関節部分はチェインメイル。本当なら布地……防刃か防弾生地なんだろうけれど。
腕と手。ここは普通にガントレット的な感じだけれど、肘に薄型のモーターを仕込んである。このモーターでワイヤーを引っ張たり緩めたりするようにしてある。ん? なんのギミックかって? このワイヤーを使って、握力のパワーアシストをするんだよ。
あと、左腕には外部装甲をくっつける。要は小型の盾だ。腕に合わせたかたちだから、円形ではなく長方形をしている。
腹部は蛇腹状の装甲を三枚。可動範囲をとるために、脇腹部分が無防備になるけれど、ここはチェインメイルでどうにかする。たいした隙間ではないし、こんなところ攻撃されることは余程の事じゃない限りないだろう。短剣使い相手ならあるだろうけれど、そのくらいならチェインメイルで止められるはずだ。何だったら、防刃生地で覆ってもいいしね。
腰部。おそらくここが一番守りが薄くなる部分だ。前部は前垂れでどうにかする。横は蛇腹状に装甲を連ならせてどうにか。
大腿部。ここは股の部分の動きを阻害させないようにしっかり開けておく。腰部の前垂れで守られるから大丈夫だろう。正面と外側さえしっかりと装甲をつけて置けば問題なし。
膝と脛は普通のプレートアーマーを参考に、問題が無いように魔改造していく。二―パッド部分は細心の注意をはらって設計しよう。膝の可動範囲が狭まるのはなんとしても避けたい。しゃがめないとかないからね。
脚部がちょっとぶっとい感じだけれど、アシスト機構のフレームを内装しているから仕方ないね。
そんなこんなで【わたしの、かんがえた、さいこうの、ぱわーどぷろてくた】の設計が終わった。そう、最高であって最強でないところがポイントだ。
あ、武器も折角だから趣味に走ったよ。レーザーライフルと、ガンブレイドならぬガンアクス。
ガンアクスだけれど、ガンブレイドとはコンセプトはまるで違うよ。ガンブレイドは銃撃で振動がどうたらって武器だけれど、ガンアクスは斧頭に弾丸状の火薬を仕込んでおいて、相手に斧を叩き込んだところで炸裂させて打撃力をあげる、もしくは追い打ち的に打撃を追加するという武器だ。
元ネタがあってね。元ネタはハサミ状の武器で、竜の角を挟んで、火薬を炸裂させた威力で挟んだ角を断ち切るというトンでも武器だ。
形状は剣でも良かったんだけれど、ギミックを仕込む関係上、斧が一番都合がよかったんだよね。
レーザーライフル? これは半ば冗談で装備させたようなものだよ。バッテリーの関係上、いいところ10数秒くらいしか照射時間はないけれどね。
あ、最後に、フレームとかはアルミ合金をメインに使っているんだけれど、外部装甲はオリジナルの合金だ。いや、黒色にしたかったからさ。黒といったらタングステンカーバイド鋼しか思いつかなかったんだけれど、それだとクッソ重くなるでしょ。だからこれまたロマンあふれるミスリル銀(これも加工次第で色を変えられるんだって)と合わせて合金化したものを使用したよ。
ということで出来上がった軽動甲冑。お値段は――あっははは。1,000万DPを突破しちゃったよ。すげぇ!
メイドちゃんがじっとりとした目で私をみている。
「あの、マスター。これを本当に創造されるのですか?」
「創るよ。もちろん。でもレーザーライフルはこれ一本だけだけどね」
なにせ、一番DPを喰ってるのはレーザーライフルだからね。さすがに現代でも携帯兵器としてはまだ実用化されていない代物だけあって、えらい高額だ。
レーザーライフルだけで800万とかいってるからね。あ、半ば実用化されている大型のもののDPとほぼ一緒だった。それでもかなり安いと思うよ。
いや、だって、多分これガチでヤバいレベルの高出力レーザーだから。例え大気中で威力がガンガン減衰するとしても、200メートルくらい先にいる普通に鎧着た人間程度、容易く両断できるからね。
ということで、武器ありきで創っちゃうよ。せーの、ぽちっとな!
よーし、出来上がったよ。特製の黒い軽動甲冑。ふふふカッコいい。軽と云いつつも重量がかなり恐ろしいことになってるけど、装甲の関係上。パワーアシストがなかったら、完全に置物になりそう。
……あ、着ると云っても、この状態だと着るの無理だ。重すぎて。
ということで、急遽……えーっと、ハンガーって云えばいいのかな? 動甲冑用のハンガーをつくって。一度双方をストレージにいれる。動甲冑の肩、首の両脇あたりにフックを増設し、ハンガーに装着した状態で再度だす。
よし。これで装備できるぞ。
……メイドちゃんや、そんな生暖かい目で見ないでおくれ。辛い。
四苦八苦しつつ、メイドちゃんにも手伝ってもらって装備完了。動いてみると、鎧を装備しているとは思えないくらいに軽快に動ける。
屈んだり伏せたりしても問題なし。動きに制限はほとんどない。さすがに柔軟運動じみた可動範囲はないけれどね。戦闘行動には問題ないだろう。
試しに適当に石をだして、それを思いっきり握ってみた。石が簡単に砕けた。
肘の所のモーターがキュィィィィって回る音がしたかと思うと、あっさりバキって砕いたよ。これ、人の頭とか掴んだら、スイカを割るみたいに砕きそうだ。
ハンガーに軽動甲冑を接続して脱いだ。
うん。これは良いものを作れたと思うよ。
試作一号機のこれはこのまま残しておこう。一応、私の鎧として。
これをベースに、端末コアを組み入れた形のものを作成する。胸部にコアを設置する場所をつくり。頭部にカメラを仕込んでコアと接続。このあたりの調整は、ダンジョン・コアに任せた。
そうこうして2体目が完成。尚、2体目は着脱の必要がない為、ハンガーはなし。1号機に装備してあったレーザーライフルは、コア専用のこの機体に持たせる。あ、この状態だと、中の人がいないために動かないから、端末コアをコアとしてリビングアーマー化する。これで本当に完成だ。
この後にリビングアーマー用として、レーザライフルとコレダーをオミットした機体を12機作成。それと、バッテリーの充電設備も作って、締めて……4億くらい使ったかな。結構いったな。そして、現状ただの軽動甲冑である12体もリビングアーマー化する。
数は少ないけれど、精鋭部隊ができたよ。
で、メイドちゃんや、なぜ打ちひしがれているのかな?
「使い過ぎです!」
「なにいってんのさ。消耗品だったらともかくも、この子たちは末永く付き合っていくんだよ」
「確かにそうですけど。そうなんですけどっ!」
なに頭を掻き毟ってるのさ。禿げるよ。
かくして私は、整然と並ぶ12体のリビングアーマーを前に、ひとり悦に入っていたのだ。




