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06 魔法って、最高だよね!


 現代人にとって、もっとも身近なエネルギーといえば電力だろう。長期の停電なんて起きた日には、それこそとんでもない額の損失がおきるし、海外だと一晩だけでも暴動が起こって、そこかしこで略奪がはじまるなんて有様だ。


 まぁ、なにか起きても警察機構に連絡が即時できないからね。やっちまったもん勝ちだ、ヒャッハー! なんて気分になるんだろう。もしかすると、そういった海外の人たちからすると、異常に規律正しい日本人はかなり異質に思えるのかもしれないね。


 まぁ、日本は日常的に災害が降りかかっているような国だからね。そんな暴動だーとか、略奪だーなんてしてたらあっという間に滅んじゃうのよ。人間の最大にして最優先の本能は生存と種の存続だからね。災害の国だからこそ、こんな国民性になったんじゃなかろうか。


 さて、現代文明を支える電力。私が自分の拠点として自宅を再現して作ったわけだけれど、この自宅も電力が必要なわけだ。電灯に各種家電製品を稼働させるには必須だからね。


 だからどうにかして電気を作らなくてはならない。


 ということで、必要なのは発電設備。そして発電設備といえば、原子力発電、地熱発電、火力発電、水力発電、風力発電、太陽光発電、波力発電なんてものがある。


 ……他になにかあったかな。あぁ、核融合発電があるね。まだ研究中だけど。他にもあるかもしれないけれど、メジャーなところはこの辺りだろう。


 これらを区分けすると、タービンを用いる、太陽電池を用いる、波力はよくわからん。


 とにかく、この中から選ぶことになるわけだ。


 まず波力は却下。地下でどうにかできるものじゃない。それ以前に、さっきも云ったけれどよくわからん。太陽光はできなくもないけれど、そもそも発電できるのが昼間だけだし、正直なところ、発電量はたかがしれてる。補助電力という立ち位置がいいところじゃなかろうか。私の自宅だけなら十分かもしれないけれど、どうせならダンジョン内にもいろいろと設備を整えたい。となると残すはタービンをぶん回す発電方法だ。


 とはいえ、原子力は手に余るだろうから、除外するけどね。


 私はメイドちゃんを連れて玄関に戻り、そして玄関正面の通路へと進む。……通路なんていってるけど、そんな距離はないんだけれどね。


 木製ビーズの暖簾をくぐる。左手には洗面台。正面のふたつの扉はトイレだ。男子トイレと洋式トイレ。


 そこを左の廊下へと進む。元の家だと廊下はかなり狭かったんだけれど、新しく作るにあたって、ここは少し広くした。土地の制約がないって最高!


 正面に一部屋あるけれど、目的地は手前左だ。


 本来なら左は収納になっていたんだけれど、現在は収納ではなく、転移魔法陣が並んでいる。現状、稼働しているのはひとつだけ。他にみっつ設置できるスペースがあるが、そこはまだ空いたままだ。


 転移魔法陣はダンジョンの初期機能のひとつだ。ほら、中ボスを倒した後は、簡単にダンジョンの入り口まで戻ったり出来るようになるアレだ。


 私は魔法陣の上に移動し、姿勢を整える。きっかり3秒で転移。もうちょっと待機時間があったほうがいいかな? 乗った瞬間に転移だと危ないから、3秒の待機時間を持ったんだけれど、まだ短いかもしれない。


 転移した先はちょっと薄暗い場所。なんていうの、イメージとしては夜の病院? そんな感じの雰囲気になっている。


 ちょっと騒音が酷いけど。


 八畳間程度のまったく装飾の無い部屋。あるのは中央に描かれた転移魔法陣だけだ。


 私が魔法陣からでると、ほどなくしてメイドちゃんが魔法陣から現れた。


「ここはどの辺りになるのでしょう?」

「ダンジョンからはちょっと隔離した場所だよ。繋がってはいるけど、連絡通路みたいなものは現状作っていないかな。そのうち作るよ」


 一応、ダンジョンのルールとして物理的に通路で繋がってなくてはいけない。この発電施設は、電線を通す穴でのみ繋がっている。その内、連絡通路を作るつもりだ。


 なんでこんなことになってるのかって? 失敗した時に埋め立てるのに使うDPを極力減らすためだよ。規模を考えると、転移魔法陣の敷設と撤去代のほうが安上がりだったからね。


 扉もつけていない部屋を出、真っすぐな通路を歩く。突き当りは丁字路となっており、左右に通路は続く。でも目的のものはその突き当りから十分に見える。


 突き当りの壁にはハメ殺しの窓ガラス。この窓ガラスはダンジョン仕様で絶対に壊れない代物だそうだ。そしてその窓から見えるモノは――


「マスター、この巨大なサーキュレーターみたいなものはなんですか?」

「風力発電機」

「は?」


 メイドちゃんは目をパチクリとさせると、窓枠に手を掛け、背伸びをして発電機をしっかりと見つめた。


 それにしても結構な騒音がでるなぁ。どうにかなんないかな、これ。まぁ、こうなることも予想して隔離したんだけど。


「本当にサーキュレーターではないのですか? ダンジョンの換気用に作り上げたとか?」

「ついでだから換気にも利用してるよ」


 メイドちゃんは再度背伸びをして発電施設を眺めた。


「風力発電と云うことは、この向こうは風が吹き荒れているということですよね」

「そうだよ」

「サーキュレーターで風を起こして発電機を回しているわけではないですよね?」

「いや、なんでそんな馬鹿なことをしないといけないのよ」


 思わず苦笑する。これはあれだ、完全に科学のくくりだけで現状を把握しようとしているとみた。


「……メイドちゃん」

「なんでしょう?」

「魔法って、最高だよね!」

「はい?」


 首を傾げるメイドちゃんに、この風力発電のからくりを説明した。


 まず、発電機本体。こちらはよくみる巨大なプロペラや、なんだか四角い感じのものとはまるで違う形状だ。見た目でいうとジェットエンジンみたいな感じかな?


 風を送り込んでタービンをガン回して電気を作っている。まぁ、普通の風力発電機だ。


 じゃあ、その肝心の風はどうやって確保しているのかというと、気圧を利用している。うん。気圧差で風を生み出しているんだよ。この発電機を置いてある部屋の端には【転移ゲート】が設置してある。そのゲートを繋いである先は、ここの遥か上空だ。


 このダンジョンの真上。成層圏の手前辺りと繋がっている。


 【転移ゲート】といえば、日本の国民的児童漫画となっているあの青狸式猫型ロボットの持つピンクの扉型のものが思い浮かぶのではないだろうか。


 そう、扉をくぐれば望んだ遠隔地へと移動できるあれ。それをダンジョン内限定且つ場所固定だけれど、実現できるのだ。それを利用して、この地下施設と上空とを繋いだのである。ダンジョンの上空もダンジョンの範囲としたからこそできたことだけどね。


 結果として、気圧差から空気の流動が起こって無限に風が吹き続ける部屋が出来上がった。そこへ発電機を置けば、ほら、風力発電施設の出来上がり。ね、簡単でしょ。


 一応、安全対策として、米粒以上の大きさのものは転移不可としてある。だからバードストライクなんてことも起こらないようになっている。まぁ、成層圏間際を飛ぶ鳥がいるのかどうかは知らんけど。そもそも強烈な向かい風に立ち向かえるのかな?


 ちなみに。これを水でやろうともしたんだよ。でもDPがこの風力発電より掛かることからひとまず見送りにしている。もしかしたら、将来的には水力発電のほうも作るかもしれない。


 それを説明したところ、ものすごい呆れたというか、疲れ果てたというか、なんとも説明しがたい表情をされたよ。


 いや、なんでよ。


「なんでそんな無茶なことを……」

「無茶かなぁ。雨の影響もない上空だし、鳥とかの対策もしてあるし、問題ないと思うけれど。ゲートを通過できるのはほぼ空気のみにしてあるし」


 いや、なんで頭を抱えるのよ。


 そうそう、風力発電機は、さらに奥にもう一基置いてある。幾らダンジョン内設備であると云っても、メンテナンスは必要だからね。メンテナンスの際には稼働する発電機を切り替えて行うようにしている。デュアルシステムっていうんだっけ? まぁ、メンテと云っても、新品同様にダンジョン・コアが修復するだけだけどね。


「……マスターが規格外であるということを、あらためて確認しました」

「規格外て……」

「そして地球の神がマスターを推薦した理由もよくわかりました」


 そういったところで、急にメイドちゃんはニヤリとした笑みを浮かべた。


「なるほど、地球の神はある程度この事態を見越していたのかもしれません。いえ、あの馬鹿神のところへは行くことはないだろうと。とはいえ、かなりの博打ではありますが……あの御仁はどこまで読んで手を回していたのでしょうか?」


 なんだかよくわからないことをメイドちゃんが云いだした。


 なんの話?


 それについて質問したところ、まずは自宅へ戻ってからとなった。


 まぁ、ここはちょっと煩いからね。




 自宅へと戻り、居間でお茶をしながらメイドちゃんの話を聞いた。お茶請けは山盛りとなっているあられだ。


 話し終えたメイドちゃんは疲れ果てたようにため息をついていた。


 その原因は、私の送られるはずだった惑星の管理神。曰く馬鹿神だ。


 うん。馬鹿神だね。そんなところに放り込まれなくてよかったよ。で、そんなところとトレードを地球の神は受けたけれど、妨害されることを見越していたんじゃないか、とメイドちゃんは思っているらしい。


 なんだろう。聞いていると、我らが地球の神様はインテリ眼鏡の超クールなイメージが浮かぶんだけれど。


「地球の神の、現在の顕現する際の姿ですか?」

「そう」

「……お聞きになりたいので?」

「その間はなに? なんか怖いんだけれど」


 メイドちゃんが教えてくれた。困ったような顔をして。


 えーっと、筋肉だるまの中年角刈り男性(女性的)。


 いわゆるオネェ。


 ……えぇ。


「以前は有閑マダムのような姿をしておられましたが、最近は今云った姿がお気に入りのようです」


 あぁ、気分で色々変えているのね。そういや、基本的に暇っていってたね、メイドちゃん。“やめとけ”の世界は頻繁に手を出せないせいで。


 それで自分の姿をそんなふうに色々と替えて遊んでいると。


 ……大丈夫なの? 精神的になにかしらの問題を引き起こしてない? というかさ、その姿で人の前に降臨とかしてたりするの?


「難易度“やめとけ”では、神が人前に姿を顕すことはまずありませんから」


 ……なるほど、本当に暇を持て余した末の趣味なんだ。


 さて、ちょっと話を戻して、その馬鹿神だけれど、地球の神とのトラブルとまでなったため、大神様が出張る案件にまで発展。


 そこへ満を持したようにメイドちゃんが馬鹿神の暴言記録集を大神様に提出。


 結果――


「ほほぅ。儂はふんぞり返っているだけの無能な愚物か」

「い、いえ、決してそんなことは――」

「ふむ。本当に無能であるか試してみよう」


 といって、馬鹿神を強引に受肉させた。芋虫に。しかも権能をすべて封印して。

 結果として、馬鹿神は不老不死にして不死身の芋虫(成長しない)となった。


「では、お主の世界をしっかり見分して来るといい」


 といって、大神様はその馬鹿神(芋虫)をその世界の適当な森に放り込んだそうな。現在、馬鹿神は毎日鳥に食われて、糞としてひりだされるだけの生活をしているのだそうな。


 糞になって地べたにべちゃっとなってから、元の芋虫に復活しているんだって。


 大神様怖っ! でもって素敵! 私はそういうのが大好きだ。


 尚、馬鹿神の世界は“簡単”から“やめとけ”に難易度を引き上げられてしまったため、代行管理することになった神でも馬鹿神をサルベージすることは出来なくなっているそうだ。そんなことの為に限られた手数を使えるか! ってことらしい。


「ところでマスター、今後の予定はどうなさるのでしょうか?」

「今後? 今後はモンスターを作る練習かな」


 もうダンジョンの拡張とか設備の作成は十分できるようになったと思うのよ。となれば、次はモンスターを作る事。テンプレートから簡単に生み出すこともできるけれど、どうせなら自分でデザインとかもしてみたいじゃない。


 でもまぁ、今日はメイドちゃんの案内をしよう。あと、メイドちゃんの部屋も決めないとね。


 そんなことを考えつつ、私はお茶請けのあられを口に放り込んだ。


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