天に抗う (歴史・ヒューマンドラマ/★★)
最近、いろいろなところで、地震復興支援のための募金がされているの、こーらくんは気づいたかな?
国内外を問わず起こる、地球の災害の中でも、突発的なものだろう。
たとえ、一生をかけて作ったものでも、壊れる時は一瞬だ。それが人の命となれば……いたたまれなさを感じるね。運命を呪って、人に当たり散らすのも仕方ないかも知れない。
僕が大きくなったら、天災を止めてやる?
はは、頼もしいな、こーらくんは。今まで、多くの人が望み、達成ができなかった悲願。君が成してくれるというのかい?
いやいや、笑ってごめんよ。こーらくんのその願いは、とても尊いものだ。願いを乗せた命のバトンをつなげば、やがて天にも届くかもね。
だが、天まで届いた時。いや、天まで届こうとした時、何が起こるのか。こーらくんはすでに知っているんじゃないかな。
先生から注意の意味を込めて、この話を贈ろうか。
昔から「地震、雷、火事、おやじ」という言葉があるように、天災は人々の生活をおおいに脅かすものだった。
指折り数えても、トップにやってくる地震。その理由は、先ほども言ったように、兆しがほとんど見られないから、というのが理由の一つとして挙げられている。
そして、防ぎようのない威力。されるがままの人たちにとっては、まさに天命。自分たちは激流に浮かぶ、わらのように思えたことだろう。気まぐれ一つで、またたくまに水中に没してしまうような。
そして、こーらくんのように、天命に逆らおうとした人も、またたくさんいたんだよ。
だいぶ昔のこと。
戦は個人の武を競うものから、集団の運用へと形式を変えていった。
バラバラの集団は論外だが、一枚岩となった者たちを一人かつ力づくで抜くことは難しい。人々の知恵はフル回転されたのさ。
そして、各軍の裏では、天気を自在に操る術が研究されていた。
晴天か雨天か。それだけでも軍の命運が左右される事態は珍しくない。はかりごとを巡らせるにしても、自然の息吹を計算に組み込むことができれば、敵勢を圧倒したり、窮地からの逆転することも、十分にあり得た。
研究に研究が重ねられ――とうとう一定の成功をおさめた領地が現れたんだよ。
その領地は、とある殿様が治める領地の中でも、末端にある小城。他国から見ても、戦略的にうま味が薄い場所であり、長年、戦とは無縁の場所だったらしい。
そのため、差し迫った脅威は天災であり、その研究に労力を割くことができたんだね。
色々と試した結果、昔ながらの巫力、祈祷に頼るのが一番だということが分かったんだね。
ただ、天災を防ぐとなると、並大抵のことでは済まない。
例えば、断食。かの二宮金次郎が、感応を得るまでには三週間がかかった。
その領地で行われた断食は、三十日間を城の地下で過ごす。許可されるのは水とかゆのみ。
しかも、これをローテーションかつ百人規模で繰り返すんだ。その苦しみたるや、今でいう罰ゲームどころではなかっただろうね。
だが、実際にその領地では、儀式を執り行われてからの十数年の間、地震は一切起こらなかった。これまでは三年に一度は、人々がまっすぐ立つことができず、傷んだ家を崩すほどの大きな地震がやってきていたというのに。
地面の下で行われる、粛々とした断食の上で、人々は実り豊かな日々を過ごす。断食の辛さを分かつことによって、地上は穏やかに過ごせる。
それが断食をする人にとっての誇りであり、苦行を遂げる、心のよりどころとなっていたのは、確かなのだけど。
ある年。河川の堤防が決壊し、領地の田畑を荒らしたことがあった。
人々はもう一度、開墾をし直し、切れた堤を直し始めたのだけど、一部の人たちが、こう漏らしたんだ。
もっと断食する人を増やさないから、こんな目に遭うんだ。もっと人を増やせば、こんな目に遭うこともなかったんだ。これは怠慢だろう、とね。
声を荒げたのは、被害を受けた田畑の持ち主たちだった。彼らとしては、自分たちの生活がかかっているんだ。たとえ不可抗力といえども、何かに当たらなくては、やっていけなかったんだろう。
そして、なまじ成果を出しているだけに、これらの声を殿様は無視できなかった。
洪水を止めるために、更に多くの人が断食を強いられる。またそれが、結果を出してしまったんだ。
そうなると、もう止まらなかった。
やれ、日照りを防げ。やれ、寒波を止めろ。
民たちからの要求は留まることを知らなかった。それに応じて、断食する者の数も青天井だ。
ついに働く者より、断食に「従事」する人の方が多い、なんていう馬鹿らしい結果になってしまったらしい。
そして、運命の時が来た。
成果を出し続けたことで、増長した宗教勢力が反乱を起こし、殿様の城に押し寄せたんだ。その頃には、すでに兵の一部まで断食要員に回していた城は、苦戦を強いられた。
断食していた者たちを動員しようとするが、ろくに栄養も摂っていない人に、これ以上、何をやらせようというのか。
誰もが動こうとせず、遠くから火薬の臭いが漂ってくる中で、呼びかけに来た兵士が一人、そばにいた断食者を急かそうと、その背中を弓で打ち据えた。
彼としては、加減したつもりだったのだろう。だけど、栄養の足りない身体は衝撃に耐えられず、骨が折れる音と共に、断食者はそのまま倒れ込んで、二度と起きなかった。
それが暴走の始まり。騒動の終わりだった。残った断食者が兵士たちに襲い掛かったんだ。城の内外に敵を抱えた殿様の軍は、たちまち大混乱に陥った。
そして、この戦いは誰にも勝利を与えなかったんだ。
この時、過去最大の地震が領内を襲った。矢倉はおろか、城さえも倒壊させるほどの大地震は争いに加わっていた者たちを押しつぶし、火薬庫からの失火は、かろうじて生き残ったものを焼き尽くし、吹き飛ばした。
生者の声が絶えてしまった城の中を、強風が吹きすさび、がれきを巻き散らして、城下にも大きな被害を出す。
そして、がれきの一部は修繕した堤をすっかり破壊し、領内の暮らしは文字通り、水泡に帰してしまったという話だよ。




