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その電話に相手して (ホラー/★★)

 あ、先輩、まだそのホワイトボード、消さないでください。議事録書く時に参照しますんで、写メらせてもらいます。

 はい、オッケーです。僕、自分の書いたノートが、汚くてしょうがなくって。自分で自分が何書いたか分からない、なんてしょっちゅうなんです。きれいな字が書ける人がうらやましいですよ。

 それにしても携帯電話も、よくここまで進化したと思いませんか? 僕なんて、写メを撮る時以外、電話とメールしかしないし、正直持て余し気味なんです。僕が進化できてないってことなんでしょうね。ははは。

 でも、機能を分散させるよりも、一点集中した方が、パワーがありそうな気がしません? ほら、勉強とかでもあれこれ問題集に手を出すよりも、一冊の問題集を徹底的にやり込んだ方が、成果が出るとか聞きますよ。う〜ん、ちょっと違いますかね。

 なんで、そんな考え方をするのか? ああ、僕の学生時代の経験からです。

 興味がおありなら、お話します。


 ちょうど僕が中学校卒業する前後から、僕たち学生の間で携帯電話を持つ子が、ちらほらと増えたんです。当時の携帯は、僕が先ほど話したような、電話とメールの機能がついているだけでした。

 今どきは、写メを撮る以外にもネットができて、ゲームができて、もう電話機能の付いたコンパクトなパソコンですよね。

 先輩、コンパクトになったパソコンをテーマに小説を書きません? 

 すでにネタはあがっているから、オリジナリティを加えないときついぞ?

 うう〜ん、同じ人間。考えることも、やっぱりダブりますか。先輩はそれに付加価値をつけようと四苦八苦しているんですよね? 仕事でも趣味でも、開発は一筋縄にはいきませんね。

 僕の話は携帯電話が、まだ「電話」という枠組みからさほど外れていない時期の話、ということになります。


 かつて僕たちの高校は、休み時間に携帯電話を使うことが許可されていました。ですから、休み時間になると、電話で話す生徒たちの声が、校内に響くんです。

 僕の住んでいた地元って、交通網がデリケートで、ちょっと風が強く吹いただけでも、電車が止まっちゃうんです。なので、授業に遅れる人が出るんですよ。

 うちの学校は事前に連絡を入れることが義務付けられていまして、遅延証明書をもらうにしても、連絡を入れないと無断欠席と同じようなペナルティーが課せられるんです。時間というものに関しては、厳しいかも知れませんね。

 駅前の電話ボックスも混雑して、連絡が間に合わない生徒が出てくるから、携帯電話使用を許可しているのかな、と僕たちは想像していたんです。


 ただ、一度許されると、どうしても調子こいちゃうのが、人なのかもしれません。

 授業中にトイレに行く、といって、電話をする生徒。机の下などでこっそりメールを打つ生徒。摘発されちゃったんです。

 見逃すわけにはいかない、ということで、携帯電話に禁止令が出ちゃいました。携帯電話を持っている生徒は、毎朝、校門前で出迎えをしてくれる先生方に預けること。

 やむを得ない事情がある人以外、校内で携帯電話を持ち歩くことができなくなりました。


 僕のクラスにも、この禁止令のトリガーになっちゃった子がいまして、授業中に携帯電話をいじっていて、禁止されちゃいました。その子、メールにどっぷりはまっていて、アドレス帳に入っている友達がすごくたくさんいました。

 この子、男の子です。空いている時間を見つけては、電話やメールをしていましたよ。自分のことを伝えたくてしょうがないと言っていました。ブログ大好き人間の、はしりかも知れませんね。


 そんな彼が目の敵にしていた女の子が、別のクラスにいました。彼と同じく、休み時間中携帯電話を手放さない子で、学校内を歩き回りながら、しきりに誰かと話を続けていました。

 先生のいう、やむを得ない事情があるらしくて、禁止令が出た後でも、彼女は携帯電話を握っています。以前に比べて、人目をはばかるようになりましたが。


 なんで自分がダメで、彼女はいいのか。そんな自分勝手な思いが、彼の中で日に日に大きくなっていったそうです。原因は全部、自分の行いにあるというのに。

 そして、ある日。体育館裏でひっそりと電話をしていた彼女を見かけた彼は、ちょっといたずらをしてやろうと思ったのです。


「ねえ、今日も元気?」


 彼女が電話に向かって呼びかけます。それに対して、


「ああ、今日もすげー元気だぜ!」


 と答えたのです。彼女は驚いて、彼の顔を見ました。

 電話の声を聞こえなくしてやろうと、彼は目論んだのです。楽しげな会話をぶち壊してやろう、という悪魔的思考でした。

 彼女は電話の向こうの相手に再度呼びかけますが、彼はことごとく大声で答えて邪魔をします。

 携帯電話を耳に当てている彼女の顔が、少しずつ青ざめていくのを見て、いい気味だと、にやにやしていたそうです。

 やがて、電話を切った彼女は、血相を変えて彼に叫んだそうです。


「逃げて! 危ない!」


 彼は何を言われたか、わかりませんでした。

 ですが、頭上で何かがメリッという音がします。

 見上げた彼が、気を失う前に見たもの。それは自分に向かって落ちてくる、体育館の柱から剥がれた、大きなコンクリート片だったのです。


 幸いにも彼は一命をとりとめましたが、検査入院が続き、しばらくはベットの上で横たわっていました。

 後で先生に聞いた話によると、あの体育館以外にも、彼女の進言で修理をしたところが多かったそうです。

「もしかすると、あいつは俺たちの及びもつかない何かと、話をしているのかなあ」と彼は漏らしていましたよ。

 



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